あらすじ
第1巻
25歳の橘 三久の実家は「薬屋久兵衛」という漢方薬局。二代目当主である三久の祖父・久蔵が営んでいる。地元を離れていた三久だったが、2か月前、三代目薬屋久兵衛となるために戻った。目下、久蔵の元で実践を積み修行中だ。今日も久蔵は喉が痛いと駆け込んできた女性客を相手に完璧な問診とアドバイスを行っていた。様子をうかがっていた三久は女性客が中学時代の同級生らいむだと気づいて声をかける。再会を喜び合う二人。らいむは街はずれにある自分のバーで催す同窓会パーティに三久を誘うのだった。パーティに参加した三久は昔馴染みのらいむや川合と思い出話で盛り上がる。そして密かに初恋の人アキトの姿を探すが彼の姿はなかった。その帰り道、三久はみんなが話していた悩みを解決してくれる噂の魔女が棲む森へ向かう。しかし、見かけたのは魔女ではなく一人の青年だった。青年は三久に気づくや否や逃げるように去っていった。
ある日、三久は久蔵の遣いで、久蔵の学友である貝桜大学の薬学部教授・猶原を訪ねた。そこには猶原の陰に隠れて森にいた青年・青柳 叶の姿があった。猶原は三久と言葉を交わし、彼女が祖母である久蔵の元妻・菊乃がとうに亡くなったと信じていることに驚くのだった。猶原は後に運転手として叶を連れて久蔵の元に向かい、久蔵に三久の話について問いただす。猶原を見送る際、叶と再び会った三久は魔女の手がかりを教えて欲しいと叶に接近する。そして三久は叶から死んだはずの祖母は生きていて、彼女こそが森の魔女本人なのだと聞かされるのだった。
第2巻
橘 三久は中学時代の友人らいむが営むバーで、同じく川合と共におしゃべりをしていた。三久は二人に実は一度結婚をして離婚し、この町に戻ってきたのだと話す。三久が家に戻ると森の魔女として元気に暮らす祖母・菊乃が店に来ていた。菊乃は三久と叶の距離を縮めようと無邪気に画策し、自宅に遊びに来るよう三久を誘うのだった。
こうして菊乃に見守られ、らいむや川合と共に賑やかな日常を楽しんでいる三久だったが、心の中では離婚のトラウマに縛られていた。中学時代の初恋の人アキトと結婚の約束こそが本当の運命だったのだ。そのため結婚が破綻したのだと思い込んでいた。そして自分の中に芽生えつつある青柳 叶に対する気持ちをも見て見ぬふりをしていくのだった。三久はリヤカーでプリンやサンドイッチを売り歩くかつての同級生佐田にたのんでアキトの連絡先を手に入れたが、電話をかける勇気を持てずにいた。また、三久の同級生らいむや川合もそれぞれの恋の行方に思い悩んでいたのだった。一方、叶の方はといえば、自分の中にある不可思議な気持ちが、三久に対する恋心であると自覚し始めていた。彼は不器用ながらも自分の思いをまっすぐに三久にぶつけるのだった。
第3巻
衝動的に青柳 叶にキスした橘 三久は、叶から拒絶されてしまう。どんなに初恋の人アキトを運命の人と思い込み、取り繕っても、手に入れたアキトの連絡先に電話もできない三久。自分の本当の声に耳を傾けた三久が辿り着いたのは叶が好きだという気持ちだったのだ。
ある時、バーを営むらいむが町のお祭りに出店を出すことになる。店の新しい薬膳メニューの開発を手伝っていた三久も手伝いで参加することになった。三久はキスをして以来、ぎくしゃくして会うことができない叶に出店の案内を郵送し、彼を待つのだった。
アキトは地元のホストクラブで働いていた。ホストクラブを偶然訪れた三久の祖母・菊乃もそれを知るのだった。店の常連客である女・けーちゃんと連れ立ってお祭りに来たアキトは出店にいる三久を見かける。出店で叶の来店を待つ三久の前に、叶より先に現れたのは、けーちゃんと別れて立ち寄ったアキトだった。
それ以来、アキトは三久がいる薬屋久兵衛にもちょくちょく顔を出すようになる。叶への気持ちとの狭間で動揺する三久だったが、アキトは昔三久と交わした結婚の約束などすっかり忘れてしまっていた。それを知り、三久は初恋を吹っ切り心置きなく叶に向かえると、新たな恋に走り出すのだった。地元で何かとうまくいかないことが多いアキトは、そんな三久が自分以外の男性に目を向ける姿に苛立ちを覚え、ちょっかいを出して三久の恋路を邪魔し始める。
第4巻
橘 三久は青柳 叶とお互いの気持ちを確かめ合った。極度の人見知りである叶はバイト帰りに三久の薬局を訪ねるが、照れて中に入ることもできない。じれったい二人を見かねた久蔵は叶を強引な誘いで家に招き入れ、三人で食事を共にするのだった。三久と叶は連絡先を交わし合い、少しずつ親しさを増していく。三久は植物の話をする叶に惹かれていった。そして、もっと互いに解り合いたいと、三久は意を決して自分の離婚歴について叶に打ち明けた。しかし過去の三久のことは全然気にしないと言う叶の言葉に距離を感じ複雑な気持ちを抱く。同時に、三久と叶の話を偶然居合わせたアキトが耳にする。アキトは三久の過去の結婚歴を知って驚き、中学の頃の三久との結婚の約束は今でも覚えていると言う。さらに、その約束のためにこの町に戻って来たとまで言い出す始末だ。三久は叶への恋に心を燃やしながらも、調子のいいことばかりいうアキトの態度にふり回されてしまう。一方、川合のプードル専門のペットショップには、アキトの店の常連客であるけーちゃんが愛犬ココアを連れて訪ねてきた。けーちゃんはホストと客という関係を超えてアキトに思いを寄せていた。けーちゃんが外出している間にココアが店から姿を消す。川合やらいむ、三久は皆それぞれに力を尽くしてココアを探し始めた。ココアは無事見つかるが、集まった面々によりアキトの傷ついた過去の出来事が明らかになる。
第5巻
過去の恋愛で心身共に傷ついていたアキトは、深夜の電話で会いたいと橘 三久に泣き付いた。三久は心身共に弱っている彼を放っておくことができなかった。しかし、甘えてくるアキトに三久はあくまでも友達として接するのだった。そして翌日から薬屋久兵衛にアキトを呼び、彼の傷ついた心と身体を癒すため薬膳でのフォローを始めた。アキトを思うお店の客けーちゃんは、このことを知り三久のもとを訪れて問い詰める。偶然顔を出した三久の祖母・菊乃は揉める二人に助言をする。そして二人を連れてアキトが勤めるホストクラブへと向かった。開店前のホストクラブでトイレ掃除をしていたアキトは今までお客であるけーちゃんに見せてしまった情けない自分の姿を恥じる。しかし、けーちゃんはアキトへの気持ちを伝え、傷ついたアキトを優しく包むのだった。
一方、久蔵と菊乃は早く自分たちの後を継ぐよう三久を急かし始める。三久は今後について考え始め、大好きな青柳 叶と一緒にいたいと思う反面、結婚となると二の足を踏んでしまうのだった。叶と二人でお店をやっていく夢を語る三久に、叶は結婚しようかとストレートに訊く。しかし、前の結婚での苦い経験から、このままでもいいのではと思った三久は反射的に叶の言葉を拒絶してしまう。
久蔵と菊乃が三久に跡継ぎを急がせた理由が分かる。残り少ない人生、二人は再婚して世界一周旅行に旅立とうとしていたのだった。そして久蔵と菊乃の二度目の結婚式が始まった。
登場人物・キャラクター
橘 三久 (たちばな みく)
25歳の女性。祖父、久蔵が二代目を務める漢方薬局薬屋久兵衛を継ぐべく修行中。現状は漢方医でも薬剤師でもないため、店を経営するために必要な資格試験の勉強をしながら実務経験を積んでいる。とりあえず、小さい頃から大好きだったお店をつぶさないことを第一目標としている。大学生の時に知り合った恋人と、大学卒業を機に入籍したが、すれ違いが重なってすぐに離婚。 2か月前に地元に戻った。地元での生活を始めてから、中学時代の友人であるらいむや川合と再会し、交友関係を広げていく。ある夜、森で叶と出会って以降、気になる存在になる。離婚経験からくるトラウマで、極端に失敗を恐れるようになり、自分にとって正しい選択は中学生の時に付き合った初恋の人、アキトだけと思い込んでいる。 アキトとは、14歳の頃、転校で別れる際に結婚の約束をして以来一度も会っていないが、今でも待っていてくれていると期待している。祖母、菊乃は自分が幼い頃に亡くなった、と祖父から聞かされていたため、ずっと信じて疑わなかった。健在であるとわかってからは、同じ女性として、なにかと頼ることの多い大切な存在となった。
叶 (かなえ)
貝桜大学で薬用植物学研究をしている男子大学院生。苗字は「青柳」。優しい性格だが、極度の人見知りでシャイなため、人嫌い。植物が大好きなので、植物のスケッチが趣味。血に極端に弱く、血を見ると倒れてしまう。携帯電話を持っていないため、楢原教授経由で、教授の知り合いの手伝いをして生活費を稼いでいる。橘美久と知り合い、惹かれていくが、自分の気持ちが理解できず、それが恋であると認められるまでには時間がかかった。 しかし、自分の気持ちを認めてからは、ストレートに気持ちを表現し始める。基本的に人に見られることに嫌悪感を持っているため、親しい相手であってもコミュニケーションを取るのが苦手。薬剤師免許を持っている。
久蔵 (きゅうぞう)
漢方薬局薬屋久兵衛の二代目当主を務める男性。橘美久の祖父。昼間から店内で患者を相手に麻雀に興じ、チャランポランに見えるが、漢方医としての腕は一流。問診を重視し、その人の生命力を信じて、むやみやたらと薬位を処方しない。パンダグッズを収集している。楢原とは学生時代からの友人で、菊乃を奪い合った仲。まだ美久が小さい頃、自分の浮気が原因で、妻である菊乃が出て行ってしまった。 それをごまかすために、美久には菊乃が死んだことにして以来、真実を言わないままとなっていた。
らいむ
風邪を治したいと薬屋久兵衛を訪れた25歳の女性。町はずれでバー「ピンクライム」を経営している。橘美久の中学時代の友人で、クラスは違ったが、時々一緒に帰ったりする程度の仲だった。「人生無駄遣いしてるヒマない」が口癖。お店でアルバイトをしてくれている奈美が、自分に好意を持ってくれているのはわかっているが、「恋」自体に興味をもてずにいる。 異性関係は盛んに見られがちだが、実は一度もきちんと男性と交際したことがない。奈美からアプローチを受けるのは嫌ではないが、自分が奈美に感じている感情が何なのかわからない。
川合 (かわい)
オシャレなプードルのような外見の25歳の女性。プードル専門のトリマーとして「POODLEカワイ」を経営している。橘美久、らいむとは中学時代の友人であり、らいむの店で行われた同窓会で再会した。長引いた風邪がようやく治ったが、その後、咳だけが残っており、仕事もままならない状態で薬屋久兵衛に相談に訪れた。咳が止まらないので、彼氏、りゅーもベッドでいっしょに寝てくれなくなった。 結局体調が回復したあとも、離れてしまった彼の気持ちは戻らず、別れてしまう。しかし、彼を失って傷ついた心も時間によって癒え、自分にとって大切なものを取り戻せたため、充実した日々を送り始める。彼氏からは「めーこ」と呼ばれている。
楢原 (このはら)
貝桜大学で薬用植物学研究の教授を務める老齢な男性。久蔵の大学時代からの友人。学生の頃、橘美久の祖母、菊乃に想いを寄せていた。菊乃との付き合いは現在も続いており、お茶をする仲でもある。ところが、菊乃は、美久が幼い頃に亡くなったという話を美久から聞いて驚く。しかし、美久に事実を知られないようにと、なんとか体裁を取り繕った。 叶をかわいがっており、温和で優しい。
菊乃 (きくの)
橘美久の祖母で、久蔵の妻。美久がまだ幼かった頃、久蔵の浮気が発覚し、家を出て行った。命がけの恋に破れ、死んだも同然であるとして、美久には死んだことにしてあった。しかし、叶の言葉から、生きていることが美久に知られてしまい、再び交流が始まる。また、美久が中学時代、森に棲むヒーラー、「魔女」という都市伝説が流行した。 森で魔女に会ったという人は、けがを治してもらったり、両想いになる薬をもらったりしたという噂が絶えなかった。その正体が自分であるとは、ずっと知られていなかったが、叶によって美久に知られてしまう。薬屋久兵衛の今後のためにも、薬剤師免許を持つ叶と美久がいっしょになってくれたらと思っており、何かとお節介を焼く。 オシャレが大好きなイケメン好きで、意外とミーハー。魔女のごとく占いもできる。
アキト
25歳の男性。橘美久とは14歳の頃付き合っていたが、転校するため、将来結婚することを約束して別れた。当時は人気者で、何かと人の輪の中心にいた。町はずれに新しくできたホストクラブで働き始めたことがきっかけで地元に戻り、美久を始めとする中学時代の友人達とも再会を果たした。今ではたくさんの女性達とベッドを共にするチャラ男で、基本的に調子がいい。 自分以外の男性に気がある様子の美久にちょっかいを出し、邪魔しようとする。地元の町に戻って来る直前、女性から二股をかけられたうえ、借金を背負わされた経験があり、人をまっすぐに信用できなくなった。
奈美 (なみ)
らいむが経営するバー「ピンクライム」でアルバイトを務める男性。以前スイーツ専門のカフェで働いていたため、お菓子作りが得意。お店がバーだけでなくカフェとして営業する方針を決めたため、橘美久に相談し、自作の薬膳菓子を出したいと意気込んでいる。らいむに想いを寄せており、積極的にアプローチしているが、相手にされていない。
佐田 (さた)
25歳の男性。夏の間はかき氷を、秋分の日からはプリンを、またある時はサンドウィッチと、シーズンによってさまざまな物を屋台で売り歩いている。このほかにも有料で探し物を探す手伝いをしており、中学時代クラスメイトだった橘美久からの依頼でアキトの携帯番号を調査し、1000円で売った。ショートパンツの燕尾服を着用し、ちょっと変わった雰囲気を漂わせている。 中学生の頃も、制服のズボンをショート丈に切ってしまうなど、変わり者だった。
りゅー
薬屋久兵衛を訪れ、記憶を消す薬を欲しがった男性。川合と付き合っていたが、いつしかすれ違いが多くなり、気持ちが離れて一方的に別れを言い放ち、川合から離れた。しかし、別れてからというもの、彼女のことが頭から離れなくなり、夜は眠れず、眠ってもうなされてしまうようになった。一刻も早く彼女を忘れて元の生活を取り戻したいと、久兵衛を訪れた。 不安が消える漢方を処方され、様子を見ながら久兵衛に通っている。
けーちゃん
アキトが勤めているホストクラブの女性客。アキトが好きで、アキトの彼女を気取っているが、自分が客以上に見られていないことに気づいている。アキトの元カノである橘美久が気になって仕方がなく、嫉妬心に心を痛めている。前の彼氏と一緒に飼っていたトイプードルの「ココア」を、今でも大事にしている。
女性 (じょせい)
奈美が飲みに行った先で、友人を通して知り合った女性。奈美に一目惚れし、意気投合。そのまま一夜を共にした。一見、遊んでいる大人っぽい雰囲気を漂わせているが、実はまだ学生。後日、休講だからと奈美の勤める「ピンクライム」を訪れた。これがきっかけとなり、らいむの奈美に対する気持ちに火をつける結果になる。
場所
薬屋久兵衛 (くすりやきゅうべえ)
漢方の薬局。久蔵が営んでおり、地元民に信頼され、慕われる場となっている。現状は孫である橘美久が跡を継ぐために勉強中ではあるものの、特に資格も免許も持っていない。久蔵は、訪れた客の問診を特に重要視しており、話を聞いたあと、脈をとる。左右の手の指6本で両腕の脈をとり、臓器の様子を探って、その人の体が本当に必要としているものを処方する。