あらすじ
藍名と卯月の契約結婚
田中藍名は間もなく、2年間交際した戸部嗣智と結婚式を挙げることになっていた。しかし、結婚式の直前で嗣智を後輩の初瀬美優に略奪され、一方的に婚約を破棄されてしまう。自暴自棄になって泥酔した藍名は、通りすがりの狩野小路卯月に介抱され、そのまま自宅まで送り届けられる。次の日、卯月は2年後に性格の不一致を理由に離婚することを前提とした、期間限定の契約結婚をしないかと、藍名に持ち掛ける。そして卯月は、自分は小説家であるものの創作意欲が湧かず、強引に執筆させようとする担当編集者の八幡任から逃げてきたと事情を打ち明ける。「狩野小路卯月」の名前が目立ち過ぎることもあり、日本では一般的な「田中」の苗字となって、2年間だけでも穏やかな生活を送ってみたいと語る卯月に対し、藍名もこのままみじめな女では終わりたくないと、契約結婚を受け入れることにする。こうして藍名と卯月は、藍名の両親にもあいさつを済ませ、実際に入籍をして新婚生活をスタートさせる。あくまで契約結婚のため、同居するだけだと考えていた藍名だったが、卯月は体の関係を求めてくるようになる。そんな卯月をなし崩し的に受け入れるうちに、藍名は卯月を愛おしいと感じるようになる。
八幡の登場と卯月に興味を抱く美優
狩野小路卯月は生活費をまとめて田中藍名に渡そうと考え、銀行に向かっていた。そこで卯月はついでに名義を変更することにし、印税の振込先の口座名義が変わったことを伝えるため、付き合いのある出版社の経理に連絡を入れる。すると卯月の担当編集者である八幡任に、タイミング悪く卯月の現住所が伝わってしまい、八幡は二人が住むマンションにさっそく乗り込む。そして八幡は、藍名を前にして金目当てで世間知らずの年下男をだました悪女だと罵ると、それを聞いた卯月は初めて怒りを爆発させて八幡に強い言葉で言い返し、マンションから追い出してしまう。こうして藍名と卯月は契約結婚をしている夫婦とはいえ、より一層絆を深めていく。そんな中、卯月は社会勉強の一環として、近所のカフェで働くようになる。そんな卯月の姿を偶然見かけた藍名の後輩の初瀬美優は、今度は藍名から卯月を略奪しようと動き出す。
卯月に惹かれていく藍名と美優の失脚
社会経験に乏しい狩野小路卯月は、日常生活で田中藍名を困惑させることはあるものの、二人は良好な夫婦関係を築いていた。そんな中、藍名はますます卯月に心惹かれていくが、2年後に性格の不一致で離婚するという契約結婚のため、これ以上深くかかわっていいものかと思い悩んでいた。一方、卯月に目をつけた初瀬美優は、卯月が働いている近所のカフェの常連となり、彼に近づこうと画策していた。そんな美優の行動のせいで、卯月が有名小説家であることが周囲にバレてしまい、これ以上騒ぎになって店に迷惑を掛けられないと、卯月は気に入っていたカフェの仕事を辞めざるを得なくなる。さらに美優は会社内で藍名のデマの悪評を流したり、社員の私物を窃盗したりと、悪事を繰り返すようになっていた。そんな美優の言動に我慢できなくなった藍名は、戸部嗣智を呼び出し、彼女との関係に決着をつけようとしていた。
子供を意識する藍名
最近、田中藍名は体調が優れず、さらに生理も予定日よりも遅れていた。周囲から子供はまだかと聞かれる機会も多くなり、藍名は妊娠を意識するようになっていた。そんなある日、編集者の八幡任は別れた前妻とのあいだに生まれた娘の北沢夏乃と会っていると、突然急用が入ってしまう。今日に限って前妻も遠方にいたため、八幡は藍名に夏乃の面倒を見てほしいと依頼する。藍名は困惑しながらも、狩野小路卯月のサポートを受けて夏乃と一日楽しく過ごす。かわいらしい夏乃を見ているうちに、藍名の中で自分の子供が欲しいという気持ちが高まっていく。
藍名の祖母と卯月
2年後に性格の不一致を理由に離婚することを前提とした、期間限定の契約結婚をしている田中藍名は、幼い頃から愛のある厳しさで自分に接してくれた藍名の祖母には、今回の結婚に対して罪悪感を覚えており、狩野小路卯月を会わせられずにいた。そんな藍名にしびれを切らした藍名の祖母は、突然二人の住む家にやって来る。急な訪問で藍名はスケジュールの変更がどうしてもできず、仕事から抜けられない彼女は、卯月に藍名の祖母を託す。最初は若い卯月に不信感を抱いていた藍名の祖母だったが、次第に心を開いていく。
藍名の妊娠疑惑
会社でも上層部からの信頼が厚い田中藍名は、周囲が次々と病欠になる事態に見舞われ、多忙を極めていた。そんな中、自分を優しく見守ってくれる狩野小路卯月に対して、藍名はこれまで以上の安らぎを覚えるようになっていた。藍名は卯月を求める気持ちが高まり、勢いで避妊せずに体を許してしまう。そして次の日、卯月はトイレ掃除の最中に妊娠検査薬を発見する。性の知識に乏しい卯月は、昨日のセックスで藍名が妊娠したとカンちがいし、藍名と話し合いを行う。そこで藍名と卯月のあいだに、あくまで契約結婚のために自分たちの子供までは望んでいないという見解の相違があり、これまで良好だった関係がギクシャクしてしまう。さらに二人のすれ違いは続き、ついに別居することとなる。
登場人物・キャラクター
田中 藍名 (たなか あいな)
とある一般企業の秘書課に勤務している女性で、年齢は29歳。御曹司の戸部嗣智と婚約し、結婚式を間近に控えたある日、後輩の初瀬美優に嗣智を略奪され、一方的に婚約を破談にされてしまう。自暴自棄になって泥酔していた際に狩野小路卯月に介抱され、2年後に性格の不一致を理由に離婚することを前提とした、期間限定の契約結婚をスタートさせた。卯月が有名小説家であることしか知らなかったが、新婚生活を通して人柄を知り、次第に心惹かれていく。生まれる前に母親の田中悠美と藍名の父が離婚しているが、悠美が再婚した義理の父親からも非常にかわいがられ、円満な家庭に育つ。素直な性格で責任感が強く、自他共に認める仕切り屋タイプ。幼い頃から周囲には「しっかり者の田中藍名は、なんでもできて当たり前」という扱いを受けてきたため、卯月から褒められることに無常の喜びを感じている。
狩野小路 卯月 (かのうこうじ うづき)
田中藍名と結婚した男性で、年齢は19歳。結婚式を間近に控えた御曹司の戸部嗣智との結婚が破談となり、自暴自棄に陥って酔いつぶれていた藍名を介抱したことで彼女と知り合う。藍名を自宅まで送っていった際、表札に書かれていた「田中」という名字を見て、衝動的にふつうの名前になりたいという思いから、出会った次の日に結婚を申し込んだ。ただし、この結婚は2年後に性格の不一致によって離婚することを前提にした期間限定の契約結婚だった。その結婚理由は、有名小説家として本名で活動し、多忙な生活に疲れ果てて行方をくらましている最中にあった狩野小路卯月が、日本では目立たない苗字の「田中」になって、2年間だけでも穏やかな暮らしを送りたかったというものだった。イケメンのかわいらしい顔立ちで、中性的な雰囲気を漂わせており、高校生にまちがわれることも多い。優しい性格で誠実ではあるものの、世間知らずで一般常識に欠けるなど、少々頼りないところがある。現在は無職ではあるものの、過去に出版した小説の印税が入ってくることから、生活に困ることはない。両親は行方知らずで、4月(卯月)に「狩野小路」という地名の場所に捨てられていたことから、施設のスタッフによって「狩野小路卯月」と名づけられた。婿入りしたため、現在の名前は「田中卯月」。
八幡 任 (やはた ただし)
出版社に勤務している編集者の男性で、年齢は34歳。狩野小路卯月が仕事から逃げ出して行方不明になったが、執念で田中藍名と結婚していることをつき止め、二人が暮らすマンションに乗り込んできた。当初は藍名を金目当てで、世間知らずの年下男をだます悪女扱いしていたが、藍名がしっかりと自立した女性だと知ってからは、友好的な態度で接するようになる。また、藍名自身には言ってはいないものの、彼女のことをいい女と認めている。性格は藍名と似ているところが多く、真っすぐで責任感が強い。また、戸部嗣智を略奪した藍名の後輩である初瀬美優の計算高く腹黒い本性を即座に見抜くなど、すぐれた観察力を持つ。卯月との出会いは、彼が八幡任自身が勤務している出版社にライトノベルを投稿してきたことで、いち早く彼の才能を評価し、一流小説家まで育て上げた。そのため卯月の才能を誰よりも認めており、安易に引退してほしくない思いから、厳しく接している。過去に一度結婚に失敗しており、前妻とのあいだに一人娘の北沢夏乃がいる。
初瀬 美優 (はつせ みゆ)
田中藍名と同じ会社に勤務している女性で、年齢は23歳。藍名と結婚間近だった戸部嗣智を略奪して付き合っている。藍名に対しては、婚約者を略奪されたみじめな女だと内心見下していたが、すぐに有名小説家の狩野小路卯月と結婚したこともあり、うらやましさから嫉妬心を募らせている。かわいらしい見た目で、初瀬美優自身もルックスのよさを自覚し、これまで生きてきた中で大きな武器としている。非常に計算高い狡猾な性格で、他人が自分よりも満たされた人生を送ることが許せない。また手癖も悪く、一度欲しいと思った男性は他人の彼氏でも躊躇なく盗もうとする。嗣智と婚約しているが入籍するつもりはなく、今は世間的にも知名度の高い卯月を狙っている。嗣智からは「みゅう」と呼ばれ、その本性を知られることなく溺愛されている。
戸部 嗣智 (とべ つぐとも)
田中藍名の元婚約者の男性で、藍名と同じ会社に勤務している。年齢は33歳。藍名とは2年間交際し、結婚式の日取りまで決まっていたが、藍名の後輩の初瀬美優に心を奪われてしまい、一方的に婚約を破棄した。美優が腹黒く計算高い狡猾な性格であることに気づいておらず、彼女のいい面しか見えていない。そのため、美優の立場が少しでも悪くなると、藍名に責任を押し付けて攻撃することも多い。官僚や政治家を輩出した一族の御曹司でもあり、非常に裕福な家庭に育つ。美優からは「つぐりん」と呼ばれている。
春日野 (かすがの)
田中藍名と同じ会社に勤務している中年の女性で、常務を務めている。秘書として完璧な業務をこなす藍名のことを信頼している。藍名の会社では女性初の取締役で、産後も女性が働きやすい環境に改革するなど、心地よく働ける会社づくりを目指している。優しく穏やかな性格で、藍名からもあこがれられている。かつて初瀬美優と仕事をしたこともあり、彼女の腹黒さや計算高さもすぐに見抜いている。
田中 悠美 (たなか ゆみ)
田中藍名の母親で、現在は夫と共に北海道で暮らしている。藍名の父と別れてから再婚し、現在の夫と共に藍名を育て上げた。藍名をしっかりした自慢の娘だと思っており、誰よりも幸せになってほしいと願っている。生粋のお嬢様育ちで、海外旅行先で現地のツアーコンダクターを務めていた藍名の父と出会い、すぐに恋に落ちた。しかし、世間知らずだったために結婚生活はうまくいかず、すぐに離婚した過去を持つ。離婚した際には、藍名を妊娠していることには気づいていなかった。
藍名の父 (あいなのちち)
田中藍名の父親で、前妻の田中悠美とは藍名が生まれる前に離婚している。離婚する際に、悠美が藍名の父自身の子を妊娠していることは知らなかった。離婚してから生まれた子ではあるものの、藍名のことは娘としてかわいがり、現在も友好的な関係を築いている。明るく軽いノリの性格ながら、藍名には誰よりも幸せになってほしいと願っており、狩野小路卯月にはあえて厳しい言葉を掛けることも多い。現在はハワイに住んでおり、現地で出会った外国人の女性と再婚している。
藍名の祖母 (あいなのそぼ)
田中藍名の祖母で、田中悠美の母親。大切に育てた娘の悠美が藍名の父と駆け落ち同然で結婚し、妊娠にも気づかずにすぐ離婚したことを恥じている。孫の藍名はしっかり者だと信じていたが、突然戸部嗣智との婚約が破談になっただけでなく、10歳年下の狩野小路卯月と結婚したことで藍名にも不信感を抱くようになる。頑固で融通のきかないところもあるが、心優しい性格の持ち主。北海道で老舗旅館「山藍(やまあい)」を経営しており、現役の女将として働いている。
北沢 夏乃 (きたざわ なつの)
八幡任の娘で、年齢は4歳。両親が離婚したため、現在は母親のもとで暮らしている。月に一回は八幡と会っているが、彼が多忙なため、なかなか長時間会えずに寂しい思いをしている。八幡が諸事情から田中藍名と狩野小路卯月に北沢夏乃を預けたことで、二人と親しくなる。かわいらしい容姿で、しっかりとした性格をしている。幼いながらも八幡の仕事が忙しいことを理解しており、大人の都合で振り回されることも多いが不満を言うことはない。
香野 雛子 (こうの ひなこ)
小説家を生業としている女性。狩野小路卯月と同じ出版社から著書を出していることもあり、卯月とは顔見知り。急性アルコール中毒で病院に運ばれて入院した際、田中藍名と卯月がお見舞いに来たことをきっかけに、藍名とも顔見知りになる。わがままな性格で子供っぽく、何かと担当編集者を困らせることが多い。以前は八幡任が担当を務めていたが、現在は別の担当に変わったことで機嫌を損ねている。前担当者である八幡にも未だにわがままを言うことが多いが、それは彼に異性としての魅力を感じているからで、希望を叶えてもらうことに喜びを感じている。一方で、八幡の一番のお気に入りが卯月だということも知っており、卯月のことを一方的にライバル視している。そのため、卯月に対して悪態をつくことも多いが、同時に同業者として彼の才能を大いに認めてもいる。
クレジット
- 原作
-
伊吹 芹