あらすじ
第1巻
人類は突如現れた異形の化け物、バーテックスによって蹂躙され、存亡の危機に陥っていた。都市や町は次々と廃墟と化したが、四国に神々の力を宿す「神樹」が出現する事でかろうじて一部の人間は死滅する事を逃れた。それから3年後、人々はバーテックスに対抗するため大社を組織して反抗の機会をうかがい、乃木若葉も神樹の力を借りて戦う「勇者」として、同じ役目を持つ仲間達と共に戦闘訓練に励んでいた。そしてある日、若葉達はついに四国に攻め入って来たバーテックスとの戦いに身を投じる事となる。それぞれに足りない部分を互いに補い、助け合う事で、勇者達はバーテックスとの戦いを乗り越えていくが、ある時、神樹より巫女の上里ひなたのもとに、「不和による危機」という神託が下されてしまう。
第2巻
四国勇者のリーダーとして奮戦する乃木若葉だったが、責任感の強さが災いし、バーテックスとの戦いで孤立してしまう。高嶋友奈の助けにより若葉は九死に一生を得るものの、その代償は大きく、友奈は意識不明の重症。さらにほかの多くの勇者達もケガを負ってしまう。これにより仲間達を危険に晒した事を深く後悔する若葉は、戦う事に迷いを抱くようになる。しかし仲間達の励ましの言葉と、自分を応援してくれる市民の姿を見た若葉は自らの過ちを受け入れ、復讐のためではなく、今を生きる人々を守るために戦う事を新たに誓う。
時を同じくして、上里ひなたのもとに「バーテックスの総攻撃が来る」という神託が下る。勇者達は激戦の予感に不安を感じつつも、希望を信じて無数のバーテックスに立ち向かう。仲間を信じて戦う若葉は本当のリーダーとして成長し、みんなの力を合わせる事でバーテックスの巨大な進化体を倒す事に成功。こうしてバーテックスの総攻撃を乗り切った勇者達は、四国以外の場所に生存者がいる可能性を信じ、各地を巡る事となった。
第3巻
生存者を発見できず、各地に残る凄惨な状況を目にしながら、勇者達一行は長野県の諏訪へと到着する。諏訪は四国と同じく結界によってバーテックスから守られた地で、最近まで連絡を取り合う事ができていたのだ。乃木若葉も友人である白鳥歌野がどうなったのか気になっていたが、諏訪でも生存者は発見できなかった。しかし歌野が残した作物の種と手紙を見つけた若葉は、彼女の遺志を継いで戦う事を決心する。
生存者を探索している一行であったが、「四国に再びバーテックスが来襲する」という神託を受ける。勇者として戦いを繰り返す内に少しずつ負担を溜め込んでいたため、一行は力を温存して戦おうとするが、強化されていく敵に対抗するために切り札を切ってしまう。結果、土居球子と伊予島杏はバーテックスの刃によって刺し貫かれて戦死。また仲間の死を目の当たりにした高嶋友奈も、限界以上の力を酷使した事で敵と相打ちになり、瀕死の重傷を負ってしまう。そして仲間を失った一行は、次の戦いで遂に敗退する事となる。若葉への嫉妬、仲間の死、友奈の入院、家族の不和、そして市民達から憎悪を向けられた郡千景は、精神的に追い詰められ、守るべき市民に刃を向けてしまう。
第4巻
すべてを失った郡千景は、その憎しみの矛先を乃木若葉へと向ける。バーテックスとの戦いの最中に千景は若葉を殺そうとするが、その行為を反逆と見た「神樹」によって千景は勇者の力を奪われてしまう。生身の姿でバーテックスの目の前に放り出された自分を必死に守る若葉の姿に、本当に大切な物を思い出した千景は、若葉をかばって命を落とす。これにより、残る勇者は若葉と高嶋友奈のみになってしまう。そんな2人のもとに、大社から最後の戦いの知らせが届く。次のバーテックスの総攻撃さえ凌げば、結界を強化して人類は平和な時間を得る事ができる。それを知った若葉と友奈は、未来へバトンをつなげるべく、2人で最後の戦いへと赴く。
登場人物・キャラクター
乃木 若葉 (のぎ わかば)
14歳の女子中学生。四国勇者達のリーダーを務める。「何事にも報いを」を座右の銘にし、幼い頃からまじめに生きてきた優等生である。3年前に修学旅行中にバーテックスに遭遇し、友人達を失った経験があるため、バーテックスに強い憎悪を抱き、報いを与えるため戦っている。生真面目すぎる性格が災いしてやる気が空回りしたり、仲間達から煙たがられたりする事もある。 しかし、自分の行動の過ちに気づいて反省する柔軟性も持っているため、仲間達との交流の中で名実共に真のリーダーとして成長していく。巫女である上里ひなたとは幼なじみの間柄で、最大の理解者であるひなたの前では普段のまじめさが消え、弱音を吐いたり、甘えたりする事もある。うどんが好物で、諏訪の勇者である白鳥歌野とは通信機を通して、うどんとそばのどっちが優れているのかよく勝負をしていた。 戦いでは神器「生太刀」を使った接近戦を得意とし、高い機動力と攻撃力で敵を殲滅する。切り札の精霊は「源義経」で、八艘飛びのような高速移動を行い、敵に高速の斬撃を行う事ができる。最終決戦ではひなたとの特訓によって新たな精霊「大天狗」を宿す事に成功し、多くの巨大バーテックスと戦った。
上里 ひなた (うえさと ひなた)
神託という形で「神樹」の意思を受け取り、それを勇者伝える役目を持つ巫女。幼なじみである乃木若葉の事を溺愛しており、色々な姿を撮影して「若葉ちゃん秘蔵画像コレクション」として集めている。また勇者のリーダーとしての役目に押しつぶされそうな若葉の心情を理解しており、仲間には強がりを言ってしまう若葉も、上里ひなたにだけは自分の弱い部分をさらけ出す。 巫女としての役割上、勇者と共に戦う事はできないが、自分にできる限りの事をして勇者達を支え、導いた。
高嶋 友奈 (たかしま ゆうな)
14歳の女子中学生。四国勇者の1人。つねに明るく無邪気な振る舞いをする少女で、四国勇者達のムードメーカー的な存在。内向的な性格をしている郡千景も、高嶋友奈には真っ先に心を許していた。戦闘では籠手を装備して格闘戦で戦い、周囲をフォローするような戦いを行う。切り札の「一目連」は速度に特化した精霊で、変身後はラッシュ攻撃で敵を圧倒する。 仲間思いな性格で、積極的に切り札を使ったり、仲間の危機に無理をしたりと自己犠牲の面が目立つ。そのためケガをする事が多い勇者達の中でも、特に病院に入院する事が多い。また入院中に仲間だけに戦わせているのに耐えられず、病院から黙って抜け出し、戦いに参加した事もあった。土居球子と伊予島杏が犠牲になった際には、我を忘れて禁じられた精霊「酒呑童子」を解放する。 桁違いな力で進化体バーテックスを倒すが、「酒呑童子」の力は使用者の肉体限界を超えた力を発揮するものであったため、反動で大ダメージを負ってしまう。郡千景死亡後は、彼女達の分も戦って生きる覚悟を決め、今まで周囲に気をつかって隠していた自分の本心を初めて語り、乃木若葉達と絆を深め合った。 最終決戦では「酒呑童子」の力を使い、自らの命と引き換えにして人類の未来を守った。
郡 千景 (こおり ちかげ)
14歳の女子中学生。四国勇者の1人。おとなしい性格をしたインドアの少女で、ゲームが趣味な事から携帯ゲーム機をよくいじっている。そんな性格なため、ほかの勇者達になかなか馴染めずにいたが、明るく屈託のない高嶋友奈の存在もあり、仲間達と絆を深めていく。友奈には苗字の読みを間違われて「ぐんちゃん」と呼ばれており、間違いを訂正したあとも、友人という事でそう呼んでほしいとお願いしている。 家庭環境は複雑で、母親は不倫の果てに天空恐怖症候群を発症し、父親は家庭を顧みない自己中心的な性格をしている。学校でも、家庭環境からいじめられて居場所がないため、つねに孤独な時間を過ごしていた。しかし、勇者となって周囲から評価された事で居場所ができたため、それを何としても守りたいと思っている。 戦闘では大鎌の神器を使い、接近戦を行う。切り札の精霊は「七人御先」で、切り札を発動すると7人の分身を生み出す。この分身は全部が実体で攻撃する事ができ、また7人全員を一度に倒さなければ、例え敵の攻撃を受けて消滅しても、すぐに復活する事ができる。そのため非常に汎用性が高く、郡千景は「七人御先」で敵を翻弄する変幻自在の戦闘を得意とした。 しかし切り札を多用した結果、精霊の副作用によって負の感情面を増幅し、精神的なバランスを大きく崩してしまう。家庭内の不和や仲間の死などで鬱屈した負の感情は、乃木若葉への嫉妬という形で噴き出し、バーテックスの進行の最中に若葉に襲い掛かる。そのため千景は、戦いの最中に勇者の資格を神樹に剝奪され、勇者の力を失ってしまう。 その後、力を失って無力な自分を守って戦う若葉の姿に、千景は自分の忘れた大切な物を思い出し、バーテックスから若葉をかばって死亡した。末期に千景は、若葉に嫉妬とあこがれという2つの感情を持っていた事を素直に告げ、この世を去った。
土居 球子 (どい たまこ)
14歳の女子中学生。四国勇者の1人。幼少期からガサツで気が強く、女の子らしくない性格で、本人も自分が女の子らしくなるのは無理だと思っている。伊予島杏は、自分とは丸っきり正反対の存在で、守ってあげなければならないと思ってつねに行動を共にし、私生活でもお互いの部屋に入り浸っている。杏からは「タマっち先輩」と呼ばれて慕われており、その様は実の姉妹のようで、周囲からも微笑ましく思われていた。 勇者の役割に納得はしているが、年頃の少女のように遊びたいという思いもあるため、イベントなどは率先して楽しんでいる。戦闘では円盾型の神器を使って防御主体の戦いを行う。この神器にはワイヤーがついているため、投擲具として投げる事も可能で、攻防隙のない戦闘スタイルとなっている。 また遠距離主体の杏とは戦闘面の相性もよく、バーテックスとの戦いでは息の合ったコンビネーションを披露する。切り札の精霊は「輪入道」で神器を巨大化し、炎をまとって敵に投げ込んで攻撃する。また巨大化した神器に仲間を乗せて運ぶ事もでき、切り札を発動する事で、さらに攻防隙のない存在となっている。 攻撃がまったく通じない巨大なパーテックスとの戦いで負傷し、身動き取れない状況で、杏とお互いを守り合いながら抗ったが、バーテックスに神器が砕かれて杏と共に刺し貫かれ、致命傷を負ってしまう。最期は杏と「本当の姉妹」に生まれ変われるように祈って死亡した。
伊予島 杏 (いよじま あんず)
14歳の女子中学生。四国勇者の1人。幼少期は虚弱体質で、周囲から「気づかい」と称した疎外感を与えられて育ったため、自分とは正反対の土居球子にはあこがれにも似た感情を抱いて懐いている。球子とは私生活も行動を共にするほど仲がよく、姉妹のような存在としてお互いを認めている。気弱だが読書家で、幅広い知識を身につけているため、戦闘では臨機応変に作戦を立案し、バーテックスとの戦いに大きく貢献した。 また意外にしたたかなところがあり、勇者全員の模擬戦「勇者王決定戦」では欺瞞情報を流し、漁夫の利を得る事で優勝を搔っ攫っている。そんな察しのよさから精霊の副作用にもいち早く気づいており、勇者達に警鐘を鳴らしていた。戦闘ではクロスボウ型の神器を使った遠距離攻撃を主に行う。 防御主体の球子とは相性がよく、戦闘では見事な連携攻撃を披露した。切り札の精霊「雪女郎」は、吹雪を巻き起こす事で視界と行動を封じ、敵を氷漬けにする事ができ、バーテックスの「星屑」の大群をたった1人で壊滅させるほどの威力がある。しかし巨大な進化体バーテックスには通用せず、負傷して身動きが取れない状況で、球子とお互いを守り合いながら抗ったが、バーテックスに球子と共に刺し貫かれ、致命傷を負ってしまう。 最期は球子と「本当の姉妹」に生まれ変われるように祈って死亡した。そして伊予島杏の精霊の副作用への警鐘は、彼女の死後に的中する事となる。
白鳥 歌野 (しらとり うたの)
長野県諏訪の勇者。四国勇者と違い、たった1人でバーテックスと戦い、3年のあいだ諏訪を守っていた。定期的に乃木若葉とは連絡を取っており、事務的な連絡以外でも、うどんとそばについて論争を繰り広げるなどして仲を深めていた。定期的に連絡を取っていたが、若葉に後事を託す連絡を最後に途絶えてしまう。 のちに若葉達が諏訪に訪れた際には、自分の遺志を記した手紙と「ソバの種」、そして畑を耕すための鍬を残しており、未来につながるためのバトンとしてそれらを若葉に託した。
集団・組織
大社 (たいしゃ)
人類を襲うバーテックスに対抗するため作られた機関。「神樹」を崇めて勇者システムを作り、その運用を行っている。絶大な権力を持ち、市民に余計な混乱を起こさせないために、たびたびマスメディアに対して情報操作を行っていた。「神樹」と人類の存続が目的で、そのためなら犠牲は恐れないが、最終決戦で結局バーテックスを打倒する事ができなかったため、名を「敗れ赦された者」という意味を込め、「大赦」と改める。 そして天の神を欺きつつ、人類再興のため力を蓄える事を誓った。
その他キーワード
バーテックス
突如世界中に現れて人類に敵対した異形の化け物。「星屑」と呼ばれる最も小さい個体でも、人の身を大きく超える大きさを持ち、必要に応じて集合・合体する事でさらに強力な個体へと進化する。一定の知性が存在するため、戦いの中で学習しており、人の体を模した走るバーテックスや、戦術面を理解して集団戦を効率的に行うバーテックスなどの新しいタイプが次々と出現している。 その正体は天の神が人類を根絶するために生み出した尖兵。人類社会を世界ごと消滅させるのが目的で、四国以外の地域はほぼ壊滅させた状態にある。
神樹 (しんじゅ)
バーテックスの出現に合わせて、四国に突如として出現した大樹。バーテックスを作り出した天の神に反逆した土地神の集合体で、根の壁によって瀬戸内海を取り囲んで結界を作り、バーテックスの進入を防いで人類を守っている。霊力を恵みとして人類に分け与えており、それによって四国の人々は一定の安寧を手にしている。勇者達には力を分け与えるだけではなく、巫女を通じてたびたび神託という形で意思を伝えており、勇者が「神樹」の意思を無視する場合は、「反逆」と見なして力を取り上げる事もある。
勇者 (ゆうしゃ)
「神樹」をはじめとした土地神の力を借り受けて戦う少女達に与えられた役割。四国に5人、長野県の諏訪に1人存在する。正式名称は「勇者システム」で、「神樹」の力を大社が科学的に取り入れ、システムとして構築して運用している。戦いの際にはスマートフォンを使って戦装束に変身し、超人的な身体能力とそれぞれ固有の能力をあやつって戦う。 ただし神の力を使う関係上、システムには作った大社自体にも把握できていない部分があり、特に切り札の精霊に関しては、反動も含めて未知数な部分がある。勇者の意見も取り入れて随時改良されており、郡千景の死後は戦闘中に変身が強制解除されないようになった。
精霊 (せいれい)
勇者システムの切り札。神樹に蓄積された無数の概念記憶から自分に合った能力を抽出し、身に宿す勇者の強化形態。それぞれ固有の能力を持ち、バーテックスとの戦いでは大きな力になるものの反動も大きい。中には「酒呑童子」のように大きなリスクを持つ物もあるため、使用には慎重さが求められている。精霊はその存在のイメージを的確につかむ事でより強力な精霊を宿しやすくなるため、乃木若葉は文献を調べる事でイメージを強固なものにし、最終決戦では「大天狗」という新たな精霊を宿す事に成功した。 また精霊には大社にすら把握できていない副作用があり、使用を重ねていくと精神にダメージを蓄積し、自分でも気づかない内に自制心の低下や攻撃性の増加といった症状を引き起こす。 郡千景は精霊の副作用と周囲の環境の悪化が重なった結果、大きく精神のバランスを崩し、凶行を引き起こしてしまった。
樹海化 (じゅかいか)
神樹がバーテックスから人類を守る、最終防衛網ともいうべき結界。樹海化された空間では時が止まり、あらゆるものが植物に覆われて守られる。非常に強固な結界だが、損傷が激しくなると現実世界にもフィードバックが訪れるうえに、長時間の発動は神樹の霊力を枯渇させ、さまざまなリスクを巻き起こすため、神樹にとって正真正銘最後の手段ともいえる諸刃の剣である。 巨大な進化体バーテックスの進行によって土居球子と伊予島杏が死亡した際には、樹海化が破られて竜巻といった形で現実世界に破壊が反映され、一般人にも死亡者が出てしまった。
天空恐怖症候群 (てんくうきょうふしょうこうぐん)
バーテックスの所業を目にし、トラウマを植えつけられた人々が発症した精神病。一般市民のあいだでは「天恐」の略称で呼ばれる事も多い。数年経っても快癒に向かわずに、病状が進行する一方という事も珍しくなく、最終的には自我崩壊や記憶混濁などの症状を引き起こし、廃人同然となってしまう。郡千景は寝たきりで、1人では生活もままならない状態となっている。