人形の国

時は遙か未来。直径12万キロメートルの人工天体「アポシムズ」の地底で人々は暮らしていた。そんな中、一部の人間が地表に出て暮らすようになり、「地底人」と「地表人」に分かれる。そして50世紀前に地底人との戦争に敗れた地表人は、アポシムズでの正当な移住権を失って極寒の地表に取り残されてしまう。地表人は蔓延する人形病や、遺跡層に頻出する自動機械に悩まされながらも、残った施設を活用して逞しく生きていた。本作は弐瓶勉の代表作であるSFアクション『シドニアの騎士』とつながりこそ明言されていないが、同じ用語や設定が登場するため、両作品を知っていればさらに楽しめる構成となっている。

地表人たちが作った国家の一つである「リベドア帝国」は、精強な軍隊によって周辺国家を次々と侵略して支配下に収める。仲間たちと白菱の梁で暮らしていたエスローは、ある日リベドア兵に追われていた少女を助ける。「タイターニア」と名乗る少女は、実は地底人によって作られた折りたたみ式の自動機械で、リベドア帝国の皇帝･スオウニチコは地底の遺産を奪い、世界を滅ぼそうとしているとエスローに伝える。エスローはタイターニアを白菱の梁に連れ帰り、仲間たちと共に帝国軍から逃げようとするが、時すでに遅く、白菱の梁は帝国軍に捕捉されており、仲間たちは皆殺しにされてしまう。たった一人生き残ったエスローは、タイターニアに「正規人形」になる力を与えられ、帝国への復讐を誓うのだった。

人工天体「アポシムズ」の地表では、人間を機械に作り換える「人形病」と呼ばれる奇病が蔓延していた。人形病の初期症状はほとんど人間と変わらないが、徐々に体が機械に置き換わって最終的には自我を失い、ただ徘徊するだけの存在となる。末期症状の人形病患者は感染源となるため、人形病患者は初期症状が出ただけで差別の対象となる。人形病の大本は「コード」と呼ばれる人間を機械に作り換える機械の副産物として生まれたもので、コードを使って機械人間と化した者は「正規人形」と呼ばれ、絶大な戦闘能力と人間を遙かに超える生命力を得る。ただし、正規人形になれる人間は適合率が高くなければならず、適合率が低い人間がコードを使えば人形病を発症し、最悪死に至る。しかしそれでも人々は危険を顧みずにコードを求めるため、犠牲者は絶えない。