若者たちが織りなす青春群像劇
本作は、若者たちの「秘密」「違い」「変化」をテーマに、少し変わった趣味を持つ地味系女子の絵美と、つねに目立つ陽キャ女子の優希が主人公を務める。一見対照的な二人だが、実はそれぞれに悩みや不満を抱えているという共通点がある。物語では、二人の視点を交互に描きながら、埼玉の県立高校での日常を通じて、他人以上、友情未満の関係を築き、互いにさまざまな変化をもたらしていく様子がコミカルに展開される。
地味系女子と陽キャ女子の友情物語
昆虫や爬虫類が大好きな絵美は、その趣味を隠しながら放課後を一人で過ごすことが多かった。そんなある日、放課後に虫と戯れている最中に、クラスの中心的存在である優希と出会う。これまでまったく接点のなかった二人は、性格や環境が対照的だったが、自由奔放に見える優希も実は厳しい家庭環境に悩んでいた。優希は絵美に興味を持ち、遊びに誘ったり積極的に話しかけたりして、交流を深めようとする。一方、絵美はオタク女子の前川亜美をはじめとする美術部員たちとも交流を持つようになる。しかし、「本当は男の子として生きたい」という誰にも言えない秘密を抱える絵美は、自身のアイデンティティに悩み、オタクにも陽キャにも馴染めずに苦しむ日々を送っていた。それでも、学校行事を通じて以前より多くの友人と交流するようになった絵美は、学校や勉強は苦手ながらも、日常の中に小さな楽しみを見出していく。
予期せぬ出会いが変える日常
夏休み前、担任の教師から成績について注意を受けた絵美は、塾の夏期講習に通うことになった。そこで出会ったのは、「死神」と呼ばれる変わり者の浪人生、小野田健介だった。健介は絵美が何かしらの闇を抱えていると主張し、絵美はなぜか彼に惹かれ、プライベートでも遊ぶうちに自然と親しくなっていく。しかし、明るく振る舞う健介もまた、家族関係に関して誰にも言えない秘密を抱えていた。一方、陽キャで派手な優希は、夏休みを謳歌しながら恋人を作ろうと奮闘するものの、結局恋人を作れず、夏休みの終盤に絵美と再会するが、何気ない一言が彼女の心を深く傷つけてしまう。物語が進むにつれて、BL趣味を持つ前川亜美や健介をはじめとする周囲の人物の視点も加わり、青春群像劇らしいエピソードが増えていく。個性的な友人たちとの交流を通じて繊細に描かれる絵美の心理描写や、彼らの奇妙な交友関係が見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
佐々田 絵美 (ささだ えみ)
茶畑高校に通う2年生の女子。優希のクラスメイト。年齢は16歳。無造作に跳ねた茶髪をショートヘアにしている。ふだんは内気な性格だが、時おりマイペースな一面を見せることもある。両親は帰りが遅く、放任主義的なため、弁当や夕食は絵美自身が作ることが多く、料理を得意としている。カナヘビやカマキリが大好きで、心の底では男の子として生きたいと願っている。また、性自認や将来の目標について悩んでいるが、誰にも相談できずにいる。人付き合いや勉強が苦手なため、昔から学校が嫌いで、放課後は誰ともつるまず、一人の時間を大切にしている。そんな中、陽キャの優希や健介に興味を持たれ、絡むうちに少しずつ絵美の日常が変化していく。
高橋 優希 (たかはし ゆうき)
茶畑高校に通う2年生の女子。絵美のクラスメイト。年齢は16歳。つねに楽しいことを考え、その場の雰囲気に合わせて明るく快活に生きている。放課後に偶然絵美と出会ったことをきっかけに、彼女を遊びに誘ったり、積極的に話しかけたりしている。良い意味でも悪い意味でも、誰に対しても分け隔てなく接し、他者との距離感が非常に近い。絵美に避けられたり微妙な態度を取られることも多いが、まったく気にしていない。しかし、決して無神経という訳ではなく、他人を容姿や趣味で差別しない寛容さと、相手を思いやる優しさを持ち合わせている。学校が大好きだが、厳格な親や姉との関係はあまり良好ではなく、時おり家に帰るのを嫌がることもある。メイクや服装について教師から注意を受けることは多いものの、勉強には真剣に取り組んでおり、成績は学年上位を維持している。
書誌情報
佐々田は友達 3巻 文藝春秋
第1巻
(2023-11-24発行、978-4160901551)
第2巻
(2024-06-20発行、978-4160901766)
第3巻
(2025-01-23発行、978-4160901940)







