概要・あらすじ
明治時代、近代化を進める日本政府に“お雇い外国人”として招き入れられたアイルランド出身の男性・ラフカディオ・ハーンは、日本に帰化し、日本名を小泉八雲と名乗っている。彼は帝国大学で教鞭をとりながら日本に伝わる民話や伝承、特にゴーストストーリーを収集していた。ある時、八雲は祭りを見るたびに訪れた農村で、甲賀三郎と名乗る男に出会う。
彼は日本の近代化のために「かくり世」へつながる門を閉じる仕事をしていると言った。彼の連れているキクリという市松人形に気に入られた八雲は、以降、甲賀三郎と行動を共にし、様々な怪異に出会う。
登場人物・キャラクター
小泉 八雲 (こいずみ やくも)
アイルランド出身の男性。明治時代、近代化・西欧化を進める日本政府に“お雇い外国人”として招き入れられた西洋人の一人。帝国大学の講師として教鞭をとっており、英文学と詩を教える傍ら、地方をめぐって民話や伝承、特にゴーストストーリーを収集している。「小泉八雲」は日本に帰化する時につけた名前で、本名は「パトリック・ラフカディオ・ハーン」。 パトリックは父の出身地であるアイルランドの守護聖人パトリックから、ラフカディオは母の生地、レフカディオ島にちなむ。日本人女性と結婚し、妻子と共に東京市本郷区に住まう。左目は幼い頃の怪我で失明しているが、かわりに「見えないもの」が見えるようになった。そのため、妖精や妖怪などを見ることができる。 日本が好きで、好奇心旺盛な性格。イギリスでは妖精など「見えないもの」の居場所がなくなっていることを嘆いている。過去、本国で新聞記者をやっていたことがある。
甲賀 三郎 (こうが さぶろう)
内閣法制局の嘱託を受け、松岡の私設調査員として各地を回っている男。日本の西欧化、近代化のため、各地に残る「かくり世」への門を封じる仕事を行っている。肌も目も陽の光に弱いため、日中外に出るときは布で目を覆っている。目を隠してはいるものの、周囲の様子は見えている様子で行動に支障はない。スーツを着用し、鞄を持ち歩いている。 鞄の中にはキクリが入れられている。任務でとある農村に向かった際、その村で行われる祭りに訪れていた小泉八雲と知り合う。キクリが八雲を気に入ったことから、その後もしばしば力を借りるため八雲宅を訪れる。
会津 八一 (あいづ やいち)
東京専門学校に通う明るい性格の青年。小泉八雲の大ファンで、帝国大学に何度も英語の講義を聞きに行ったという。旅先で八雲と出会い、腹痛を起こしたガイドの代わりをする。その際、甲賀三郎とも知り合っている。東京へ戻ってからも八雲の弟子を自称し、何かと行動を共にする。八雲につきまとうため、八雲の妻であるママさんから疎まれることも。 通常は隠しているが、額に大きな目のある三つ目。
キクリ
甲賀三郎が鞄に入れてもち歩いている市松人形。意識があり、人語を喋る。「かくり世」への門を自由に開閉でき、この世と常世(とこよ)を好きに行き来できる力を持つ。また、鈴のついたリボンのような頭飾りを解くことで、縄筋と呼ばれる魔物の道を使用できる能力を持つ。そのため、甲賀三郎に請われ、彼の仕事を手伝っている。性格はわがままで高飛車。 小泉八雲のことが気に入り、甲賀三郎にも無断で八雲の家に出入りするようになる。鞄に入れられているが、本来は家に憑くものだという。
ママさん
小泉八雲の妻。八雲との間に子供をもうけている。時に不思議なことを話す八雲を自然に受け入れ、女主として家を切り盛りしている。八雲の話では、夢見と呼ばれる夢占いがよく当たるという。また、八雲の夢に入ったと言うなど、不思議な力を持っている様子。旅のお守りになる夢を見たと言い、八雲に同行し旅に出ようとする会津八一に箒を持たせた。
松岡 (まつおか)
内閣法制局で参事官を務める男性。口ひげを生やしている。甲賀三郎の雇い主。元々は詩人として活躍しており、森林太郎に認められるほどの才能があったが、現在は日本の西欧化・近代化のため、各地に存在する「かくり世」の門を閉じるよう指示を出している。ヤマトの神とその他の神は分けておくべきだと考えている。民俗学にも造詣が深い。
森林太郎
東京第一師団軍医部長を務める男性。口ひげを生やしている。ドイツ留学より帰国後、軍医を務めながら文筆活動を開始。ドイツ女性との恋愛を描いた『舞姫』を発表した。松岡と面識があり、彼の詩人としての才能を惜しんでいる。ドイツ留学時代に恋人だったエリーゼを口寄せしたことから怪奇に遭遇。松岡に相談をする。
エリーゼ
ドイツ人の若い女性。青い目をしている。ドイツ留学中の森林太郎と恋に落ち、結婚の約束をする。森林太郎を追いかけ来日したものの、森家から結婚の許しが得られず破局。失意のうちに帰国の途についたが、その途中、船から落ちて死んだとされている。事故か自殺かは不明。
アンネッタ
小泉八雲が書いたゴーストストーリーを手紙として送る女性。八雲は彼女を「親愛なる異端者(ペーガン)」と呼ぶ。
土玉 (どたま)
東京医学校で講師を務める男性。眼鏡をかけている。医学校内では奇人として有名。老人と化した若者を調べるため、森林太郎の紹介を受けた甲賀三郎が尋ねた。賑やかに現れ、患者のもとに甲賀三郎を連れて行くと、「好きにして」と告げて去っていった。
百々目鬼 (とどめき)
両腕に多数の目を持つ妖怪。「かくり世」への扉を開く門番の橋姫であったが、土地の名前が変わり、人々がその名を忘れるに従って自分の正体を忘れてしまっている。
儀来婆 (ぎらいばあ)
海の近くに現れるという妖怪。甲賀三郎は海で神隠しにあった女の成れの果てだという。
その他キーワード
門 (もん)
「かくり世」に通じる亀裂のような場所。日本中に散在しているという。門は何らかの条件で開閉するが、開いた際にはそこから「この世ならざるもの」妖怪や神が顕現することがある。甲賀三郎は日本の近代化、西欧化のため、松岡の命を受け、この門を閉じる仕事をしている。
縄筋 (なわすじ)
キクリが鈴のついたリボンのような頭の飾りの紐を解き、伸ばすことで作られる道。行きたい場所へ瞬時に到着することができるが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が使用する魔物の道のため、紐から振り落とされた人間は、元の世界に戻ることができないという。
クレジット
- 原作
書誌情報
八雲百怪 全5巻 KADOKAWA
第1巻
(2009-02-03発行、 978-4048542746)
第2巻
(2009-03-02発行、 978-4048542821)
第3巻
(2017-11-04発行、 978-4041058893)
第4巻
(2017-12-04発行、 978-4041058909)
第5巻
(2021-10-04発行、 978-4041115749)