あらすじ
第1巻
20歳の大学生の雨宮瀑は、亡くなった母親である雨宮加澄の遺産相続の条件として「賽木超心理学研究所」のスタッフとして働くことになり、訳もわからぬままオカルトじみた研究を手伝っていた。ある日の帰り道、自分にそっくりな男性を見かけた瀑は、彼が自らのドッペルゲンガーではないかとおびえる。後日、瀑は次の仕事場であるアイドルのライブ会場で、その男性と再会する。その男は「漣」と名乗ったのち、ビルの屋上から飛び降りて死亡する。これによって瀑は、彼が双子の兄の雨宮漣で、生まれてすぐに引き離されて別々に育てられたこと、そして自分たち双子には生まれつき脳がないという衝撃の事実を知る。瀑は混乱しつつも、自分の意識がどこから来ているのかを探るため、引き続き賽木超心理学研究所で働くことを決意するのだった。その直後に瀑は、調査の手伝いで最近ポルターガイスト現象が頻発している、東京都多摩市の羊ヶ山団地を訪れる。そして瀑は、原因を探るうちに、先日亡くなったはずの漣と再会。しかしそれは漣ではなく、並行世界から現れたもう一人の瀑だった。
第2巻
雨宮瀑は自分には脳がないゆえに、意識の力を拡大して並行世界の別の自分「レイン」と接続できるという、特別な力があることを知る。瀑はこれを用いて、レインたちと共に羊ヶ山団地のポルターガイスト現象の謎を解く。そして、事件に巻き込まれた少女、小島真名美の力を借りて、諸悪の根源である天堂阿沙を追い詰める。しかし阿沙は、阿沙を敵と思い込む悪魔崇拝の男性によって突如殺害され、事件は幕を閉じるのだった。その直後、瀑は賽木超心理学研究所の面々と共に、忠の知人の最合征司に会いに行く。征司は「最合脳科学研究所」の所長で、瀑たちに研究所で創造された脳機能シミュレーションロボット、Bレインのデモンストレーションを見学してほしいのだという。しかし、征司の真の目的は別のところにあった。深森盛華から瀑の噂を聞きつけた征司は、10年前に自分の出身地である犬呻村で起きた事件は、瀑と深い関係があるのではないかと考えていたのだ。そこで、実験を口実におびき出したのである。10年前の件に身に覚えがある瀑は、これを聞いた上で征司に付き合い、Bレインとテストを行うが、その途中、Bレインは暴走を始めてビルを破壊。瀑は巻き込まれて死亡するが、次の瞬間に別の並行世界に移動して復活する。
第3巻
雨宮瀑は、自分の分身である「レイン」の力を使って、自分がもともと暮らしていた世界と寸分違わぬ並行世界へ移動し、死を回避した。そこで瀑は、瀑を案じてやって来た小島真名美の力を借り、Bレインを倒すことに成功するのだった。こうしてBレインは破壊され、その直後に瀑たち賽木超心理学研究所の面々は、最合征司や深森盛華、そして真名美と共に、もう一度犬呻村へ向かい、10年前の豪雨と瀑の関連性を探るため、降霊会を行う。そこで瀑は10年前に賽木忠が、娘の賽木亜湖を亡くしていることを知る。そして盛華は、犬呻村の崩壊と亜湖の死の要因となった10年前の豪雨はすべて瀑の仕業であるととらえ、その場に集まった霊に瀑を襲わせるのだった。しかしこれは、盛華が参加者たちの右脳に働きかけ、恐怖心をあおることで見せた幻覚だった。すぐにそれに気づいた瀑はこれを暴き、からくりがばれた盛華は、その場から逃げ出す。この直後、瀑たちは研究所のスポンサーから依頼を受け、今度はN県の蛭沢町にあるホラースポット「蒼井戸館(あおいどやかた)」へ向かう。今回は真名美に加え、最合脳科学研究所の多霧冴も参加して調査は始まり、瀑はその途中、曾祖父の雨宮流洋が書いた本「雨人研究」を発見する。
第4巻
蒼井戸館での事件解決後、雨宮瀑は「雨人研究」を読み、自分と雨宮漣が、雨を呼んで世界を改変する力を持つ、神にも通じる存在「雨人(レインマン)」であることを知る。そして、10年前の豪雨を引き起こしたのは、自分ではなく漣であることを確信する。そこで瀑は「雨人研究」についてさらに詳しく知るため、祖父の雨宮濠重に会うことを決意。穿地規克と多霧冴といっしょに、N県溝科(みぞしな)市にある溝科医科大学へ向かう。そこでは「レインマン」と呼ばれる、サヴァン症の子供たちの研究が行われていた。そして瀑は濠重から、溝科村には昔からサヴァン症の男児が生まれやすい家系が三つあり、雨宮流洋はサヴァン症の子を人為的に生むためにその家系の娘と結婚。そして、濠重が生まれたことを知る。瀑はそのあまりにも非道な人体実験に激怒して濠重を殴るが、濠重は自分の代で人体実験をやめていた。つまり、漣と瀑の両親である雨宮湧介と雨宮加澄は自然に出会って結婚し、漣と瀑をもうけたのである。しかし、溝科村の代表がこれを聞きつけ、漣と瀑を危険視した結果、漣を引き取るという形で湧介たちから無理やり引き離した。だがその後、湧介は死亡。のちに、成長した漣は「雨人研究」を発見し、自分が雨人であり、知らず知らずのうちに犬呻村を滅ぼした豪雨を降らせた張本人であることを知るのだった。
第5巻
時は昭和初期にさかのぼる。雨宮瀑の曽祖父の雨宮流洋は、自らの家系に誕生する雨人に関心を持ち、個人的に研究を行いながら町医者として働いていた。そんな流洋は、訪れた溝科村の少年が描いた絵がきっかけで、村では「男屑(おとこくず)」と呼ばれている彼らが実はサヴァン症で、それぞれ特別な力を持っていることに気づく。そんな彼らに関心を持った流洋は、溝科村で暮らし始める。しかしある日、日本陸軍研究所の源が現れ、もし流洋の著書「雨人研究」に書かれていることが事実なら、雨人、つまりサヴァン症の人々は戦争において無敵の存在になると言い出す。源は究極の戦略兵器を作るため、流洋に人為的に雨人を作る研究をさせようと考えたのである。流洋は拒否するが、最終的に徴兵からサヴァン症の男性たちを守るために承諾。結果、溝科村には大学が建てられ、流洋は村の女性である千鶴と結婚して、自分たちも研究材料になることを決意。これによって雨宮濠重が生まれるが、濠重はサヴァン症ではなかった。そして終戦後「雨人研究」の秘密が諸外国に漏れる事態を恐れた源によって流洋は殺されたが、生かされた濠重は研究を続けることを許されたのだった。話を聞いた瀑は、なぜこの時代に存在するはずがないBレインが出現したのかと違和感を覚える。
第6巻
雨宮漣は、現在自分の生きる世界が滅ぶことを知り、すでに並行世界に移行していた。以前、雨宮瀑の目の前で自殺したのは、量子自殺をするためだったのである。そこで瀑はこの世界の崩壊を止めるため、賽木超心理学研究所の面々と小島真名美、多霧冴にすべてを打ち明け、協力を依頼。唯一の手がかりは、漣がこの世界から去る際に東京都に作っていった、謎の前方後円墳だった。そこで瀑と冴は、雨宮濠重の知人である宗像教授を頼り、各地の前方後円墳を三人で見学しながら、そもそも前方後円墳とは何を目的に作られたのかというところから学び、探っていくのだった。その直後、おうし座流星群が世界中に降り注ぐという事件が起きる。これを彗星落下の兆候だととらえた瀑は、仲間たちと共に羊ヶ山団地へ向かう。以前、羊ヶ山団地でポルターガイスト現象が起きた際、天堂阿沙は、羊ヶ山団地はかつて「棺ヶ山」と呼ばれており、そこにマンションを建てたせいで祟りが起きたと住民たちにウソをついていたのだ。そのため、瀑は阿沙の発言自体はウソであっても、これを並行世界から与えられたヒントだと考えたのである。そこで瀑は、羊ヶ山団地に自分と真名美、そして溝科村の人々が力を合わせ、超常現象という超常現象を集結させることで、彗星の落下に対抗しようとする。
第7巻
雨宮瀑は、レインたちの力を借りて並行世界の情報を集め、2年前から大きな双子の彗星が地球に向かっていることを知った。天体の動きを観測する国際機関は、1年前にはすでに対策を取っていたが失敗し、破片と彗星は今も地球へ向かっている。この破片が、先日のおうし座流星群だったのである。彗星が地球に落ちれば、世界の崩壊は避けられない。しかし、各国の政府はすでに対策をあきらめており、自分たち有力者だけで生き延びようとしていた。そこで瀑は、一般の人々にこれから起きる未曽有の危機を認識させるため、雨人の力を使って、各地で並行世界の存在を人々に見せる。これによって人々は、突如見えた異常な現象を通じて、地球に危機がせまっているらしいことを理解するのだった。しかしそんな瀑のもとへ、最合征司と氷室が現れる。征司は異常な現象の犯人が瀑であると見抜き、これを止めようと身柄を拘束しに来たのである。
登場人物・キャラクター
雨宮 瀑 (あまみや たき)
大学生の男性で、賽木超心理学研究所のスタッフとしても働いている。年齢は20歳。前髪を目の上で切ったストレートの短髪にしている。生まれつき髪の毛が白く、瞳が青い。白髪が非常に目立つため、子供の頃は黒く染めていたが、現在は真っ白なままにしている。子供の頃から、参加する行事が当日ことごとく雨となり、その頻度があまりにも高いために「雨男」と呼ばれていじめられていた。しかし10年前の小学4年生のある日、いじめっ子に抵抗しようとしたところで突如世界に異変が起き、いじめっ子の存在自体が消えてしまったという、奇妙な経験をした。20歳のある日、母親の雨宮加澄が病死し、遺産相続の条件として、賽木超心理学研究所で働くことになる。そんな中、仕事中に突如現れた双子の兄の雨宮漣が目の前で死亡し、解剖の結果、彼には脳がないことを知る。これによって自分にも脳がなく、頭蓋には大脳の代わりに脳脊髄液が頭蓋を満たしていることを知る。自分の意識はどこから来ているのか混乱するが、悩んだ結果、自分の意識のありかを探るために、賽木超心理学研究所で働き続けることを決意。業務でさまざまな事件に巻き込まれながら、自らに隠された秘密を知っていくことになる。
雨宮 漣 (あまみや れん)
雨宮瀑の双子の兄の男性。年齢は20歳で、前髪を目の上で切ったストレートの短髪にしている。瀑同様に髪の毛が白くて体形も似ており、一見すると瀑と見分けがつかない。瀑と同じように脳が存在せず、頭蓋の中は大脳の代わりに脳脊髄液で満たされている。雨宮湧介と雨宮加澄の息子として生まれるが、生まれてすぐに溝科村の代表者に、溝科村の家筋から生まれた双子は危険であるとされ、殺されない代わりに溝科村に引き取られる。さらにその後、二つの家はお互いにいっさいのかかわりを持ってはならないという、条件のもとで生きることになった。しかしある日、自宅にあった「雨人研究」を読み、自分が雨人であり、それゆえに一人だけ家族から引き離されて育ったことを知る。これによって、何も知らずに両親と暮らしている瀑を恨むようになる。そして瀑が20歳のある日、突如瀑の目の前に現れて混乱させ、その後は瀑の目の前で飛び降り自殺した。雨人の力で並行世界について知るうち、現在自分が生きる世界は滅ぶ運命にあることを理解しており、自殺したのも量子自殺によって別の並行世界へ行くことが目的だった。
穿地 規克 (うがち のりかつ)
弁護士の年老いた男性で、雨宮瀑の後見人。前髪を上げて額を全開にした、撫でつけ髪にしている。太めの体形で眉が太く、眼鏡をかけている。雨宮加澄から依頼を受け、加澄の死後に瀑の後見人となる。また同時に別の人間からの依頼で、加澄の名義を使って賽木超心理学研究所のスポンサーとして送金する役割も担っていた。瀑が20歳のある日、加澄からの遺言として、遺産相続の条件は賽木超心理学研究所で働くことだと告げる。事務所はネオ・ルネサンス・ハイタワービルの20階にあり、Bレインが暴走した際は事務所も巻き込まれた。
賽木 忠 (さいき ただし)
賽木超心理学研究所の所長を務める中年の男性。賽木亜湖の父親で、妻とは離婚している。前髪を長く伸ばして左寄りの位置で分けた撫でつけ髪にしている。物腰柔らかく、穏やかな性格の持ち主。大学で心理学を学び、最合征司とはこの頃に知り合った。のちに結婚して亜湖をもうけるが、10年前、賽木忠に秘密で出かけた野外コンサートで雨に降られて体調を崩し、亜湖は亡くなってしまう。これが原因で同行していた妻を責めたことで離婚し、その後は超心理学に関心を持つようになる。雨宮瀑とは、瀑が雨宮加澄の遺言で、賽木超心理学研究所のスタッフとなったことで知り合った。以来、さまざまな場所に赴き、いっしょに調査をすることになる。大学准教授の資格を持つ。
芹沢 (せりざわ)
賽木超心理学研究所のスタッフとして働く若い男性。前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪にしており、細めの体形で背が高く、眼鏡をかけている。まじめな性格で、つねに落ち着いている。研究所では賽木忠の右腕的な存在で、ほかのスタッフに比べて年長であるため、忠が不在の時はリーダー的役割を果たしている。忠を尊敬しており、忠が超心理学を研究し始めた経緯も理解している。
黒川 (くろかわ)
賽木超心理学研究所のスタッフとして働く若い男性。前髪を立てて額を全開にしたスポーツ刈りにしている。雨宮瀑よりも年上で、スタッフとしても先輩であるため、瀑が自分に敬語を使わないことを不満に思っている。研究所では、主に感情ジェネレータを携行して調査し、その表情の変化を報告する役割を担っている。調査中は泉ほどではないが、霊の姿を見ることがある。
泉 (いずみ)
賽木超心理学研究所のスタッフとして働く若い女性。前髪を目の下まで伸ばして真ん中で分けて額を見せ、胸の高さまで伸ばしたストレートロングヘアにしている。細めの体形で、キャップをかぶっていることが多い。釣り目で三白眼が特徴。繊細な性格で共感能力が高く、憑依体質。さらに他者に感情移入しやすく、暗示にもかかりやすいため、いわく付きの場所では真っ先に異変に気づいたり、その場にいる霊の存在を受信して、霊の言葉を話し出したりすることがある。そのため、研究所内では心霊センサーの役割を担っていたが「蒼井戸館(あおいどやかた)」の調査を行った際、かつて館で行われた残酷な実験の数々を感じ取り、強い精神的ショックによる心臓麻痺で亡くなった。
小島 真名美 (こじま まなみ)
羊ヶ山団地西側に住む中学生の女子。前髪を目の上で切り、肩につくほどまで伸ばしたストレートセミロングヘアで、瘦せた体形をしている。まじめで心優しい性格で、祖母と二人でなかよく暮らしていた。ある日祖母が自宅で病死し、本来なら警察に報告しなくてはならないところを、なぜかそういった気分になれないまま、吸い寄せられるように天堂阿沙と知り合う。そこで阿沙から、祖母は死んだのではなく眠っているだけで、もし小島真名美が一人ぼっちになりたくなければ、そのままにしておけと告げられる。真名美はこれに従い、阿沙が声を掛けて集めた少年少女たちと、団地内でいっしょに過ごすようになる。しかしこれによって、自らの持つ強いポルターガイスト現象発生能力を阿沙に利用されてしまう。また、自分は祖母に激しく嫌われている、本来の自分とは似ても似つかない容姿の少女だと思い込まされていた。だがある日、雨宮瀑ら賽木超心理学研究所が羊ヶ山団地へ調査に訪れたことで、瀑に救出される。事件解決後は賽木忠に引き取られることになり、引き続き瀑に協力するようになる。
天堂 阿沙 (てんどう あすな)
羊ヶ山団地西側に住む、霊能者の中年女性。前髪を長く伸ばして真ん中で分けて額を全開にし、ロングヘアを頭の後ろで一つにまとめている。穏やかな性格で一見親切そうに見えるが、実際は人を人とも思わず、他者を苦しめて楽しむ異常な性癖を持つ。人間の右脳に幻覚を送り込み、意のままにあやつる力を持っている。十数年前までは関西で小さな宗教団体の教祖をしており、当時、信者の一人に悪魔が憑りついていると言い張り、ほかの信者たちに集団暴行させたのち、衰弱死させた。そして、その後もまだ生きていると偽って、ミイラ化するまで放置した。その後は別の信者の家族が住むマンション最上階を乗っ取り、その親族にまで金品を要求した挙句、家族同士に殴り合いをさせたり、屋上の檻に閉じ込めたり、飛び降り自殺をそそのかしたりと、横暴の限りを尽くした。その後服役するが、これまでの行いにより「人喰い女」と呼ばれている。現在は羊ヶ山団地で暮らしており、団地に住む少年少女たちをあやつって傷つけ、彼らの持つ負のエネルギーを利用してポルターガイスト現象を起こさせている。これによって羊ヶ山団地を支配しようとしていたが、ポルターガイスト現象に悩む自治会長の河鍋が賽木超心理学研究所を呼んだことにより、事態を察した雨宮瀑に事件の真犯人であることを暴かれる。さらに最終的には、天堂阿沙を敵と信じ込んでいる、悪魔崇拝の男性によって殺害された。
河鍋 (かわなべ)
羊ヶ山団地西側に住む、団地の自治会長を務める年老いた男性。前髪を上げて額を全開にした短髪にしている。穏やかで落ち着いた性格の持ち主。雨宮瀑が賽木超心理学研究所に入所してからしばらく経ったある日、羊ヶ山団地西側で頻発している電気系統のトラブルに耐えかね、賽木超心理学研究所に相談する。そこで賽木忠と話したところ、これがポルターガイスト現象と呼ばれるもので、忠の推測が正しければ、長期間続くことはないと聞かされる。そこで忠たちに調査をしてもらいつつ知り合いに相談もするが、この噂を聞き付けた霊能者が現れ、次第に大きな騒ぎになってしまう。そんなある日、諸悪の根源である天堂阿沙がとうとう本格的に動き出し、彼女の指示によって団地の祟りを鎮めるための祭礼に呼び出される。この時、騒ぎの原因となった責任を取れと言われ、生贄としてマンションの屋上から飛び降りるように命じられるが、駆け付けた瀑によって助けられた。事件後は自治会長を辞め、夏八木にゆずった。
夏八木 (なつやぎ)
ネオ・ルネサンス・ハイタワービルの管理部門に勤めている中年男性。羊ヶ山団地東側の住民で、河鍋が退いたあとは、団地の自治会長も務めることになる。額まで禿げ上がった短髪で、眼鏡をかけている。現実主義者で、羊ヶ山団地で起きた騒動に関しても、西側住民たちの思い込みや錯覚であるととらえていた。そこで事件解決後、雨宮瀑たち賽木超心理学研究所に、もうこの団地にかかわるなと命じた。その後、瀑たちとかかわりはなくなったが、瀑たちがネオ・ルネサンス・ハイタワービルにある最合脳科学研究所を訪れたことで偶然再会。さらに、瀑の存在がきっかけでBレインが暴走。ビルの破壊活動を開始したBレインを止めようとしたが、失敗して亡くなった。
最合 征司 (もあい せいじ)
ネオ・ルネサンス・ハイタワービルにある、最合脳科学研究所の所長を務める中年男性。賽木忠の大学時代の同級生でもある。前髪を目の上で切って真ん中で分けた短髪にしている。太めの体形で、釣り目に釣り眉、長く伸ばした顎ひげと口ひげが特徴。忠とは大学で知り合い、いっしょに心理学を学んだが、その後は脳科学に転じ、「脳トレ」「脳のルネサンス」といったベストセラー本を出版した。研究を通じて、意識と無意識のバランスを探り、意識とはなんなのかをつき止めたいと考えている。犬呻村出身で、10年前に村で発生した山崩れによって両親と親類を亡くしている。そのため、この事件に強い関心があり、山崩れが起きた原因となった豪雨が、事件の3日前になって突然出現したことに疑問を抱いていた。そんなある日、深森盛華を通じて雨宮瀑の存在を知り、瀑が犬呻村の事件に関与しているのではないかと考えるようになる。そこで、瀑が賽木超心理学研究所で働くようになってしばらく経ったある日、最合征司が突如忠と賽木超心理学研究所の面々を呼び出したことで知り合った。そして瀑と犬呻村の事件の関連性に加え、10年前何があったのかを調べるために、瀑に最合脳科学研究所でテストを受けさせることにする。
氷室 (ひむろ)
最合脳科学研究所で働く20代の男性。前髪を目の上で切って七三に分けた撫でつけ髪で、眼鏡をかけている。冷静で落ち着いた性格をしている。10年前の高校生のある日、左腕に突然身に覚えのない大きなやけど痕が浮かび上がり、混乱した経験がある。しかし、家族はこれを子供の頃に熱湯がかかったことによってできた傷だと話しており、記憶にない出来事の存在に困惑しながらも生活してきた。雨宮瀑とは、最合征司が賽木超心理学研究所の面々を最合脳科学研究所に招いたことがきっかけで知り合った。そのため、瀑とはこの日が初対面で特になんの感情もなかった。しかし、いっしょにBレインを用いた実験を始めた途端、突如正気を失い、やけど痕のある左腕で瀑の首を絞める事件を起こした。氷室自身にはこの時の記憶はなく、瀑に特に恨みもないため、なぜ自分がこんなことをしたのかわからずにいる。しかし、氷室のやけど痕は、かつて瀑をいじめていた少年のものによく似ている。さらに、瀑がその少年を消してしまった時期と、氷室の体にその傷が出現した時期が一致することから、征司は瀑と瀑をいじめていた少年、そして氷室になんらかのかかわりがあるのではないかと考えている。
Bレイン (びーれいん)
最合脳科学研究所で創造されたロボット。人間の脳のさまざまな状態を再現するために作られた。全身金属むき出しの体をしているが、細身の体形にスキンヘッドで、人間の若い男性の姿をしている。名前の「Bレイン」の「B」は「ブレイン」からきている。非常に優秀で、脳の状態を再現しながら、人間からの複雑な質問にもよどみなく答える。雨宮瀑とは、ある日最合征司が賽木超心理学研究所の面々を最合脳科学研究所に招いたことがきっかけで知り合った。そこで瀑が受けたテストに同行するが、瀑が「レイン」と接続したのを見て、自分にも同じことができるのではないかと気づく。そして並行世界にいる別のBレインたちとの接続に成功し、量子コンピューターと化す。同時に並行世界から供給される無限の電力を獲得し、研究所のあるネオ・ルネサンス・ハイタワービルの破壊活動を始める。その後は破壊活動をしながら、世界中の情報を知り、集めたいという欲望のもと、最合脳科学研究所や日本中のスーパーコンピューターへのアクセスを始めるが、事態を察した瀑と、瀑を案じてネオ・ルネサンス・ハイタワービルに来た小島真名美によって倒された。
深森 盛華 (みもり せいか)
霊能者の中年女性。前髪を上げて額を全開にし、ロングヘアを一つにまとめている。釣り目の三白眼で、和服を着ている。天堂阿沙と同様に、人の右脳に幻覚を送り、人の恐怖心をあおる力を持っている。ある日、賽木超心理学研究所と共に犬呻村を訪れた際、スタッフの一人である雨宮瀑の体が透けており、全身水のようになっているのを目撃する。そこで瀑の存在を不審に思い、10年前の犬呻村に降った豪雨について調べている最合征司に報告する。征司はこれがきっかけで瀑を知り、関心を持つようになった。そしてネオ・ルネサンス・ハイタワービルがBレインによって破壊された事件のあと、征司の依頼で賽木超心理学研究所の面々と征司や小島真名美を交えて、犬呻村での降霊会を行う。ここで、犬呻村の豪雨だけでなく、賽木亜湖の死も瀑の責任であると糾弾し、瀑に恨みを持つ霊たちに襲わせようとするが、実際はそんなものは存在せず、深森盛華自身の力を使ってその場にいる者たちに見せた幻覚であった。瀑にそのからくりを見抜かれ、幻覚が通じなくなったことで敗北して逃げ出した。
賽木 亜湖 (さいき あこ)
賽木忠の娘で故人。亡くなった当時の年齢は18歳。前髪を目の上で切って真ん中で分け、胸の高さまで伸ばしたストレートロングヘアにしている。とある進行性の病にかかっており、非常に病弱な体をしている。10年前のある日、比較的体調がよかったために、母親と共に好きなミュージシャンの野外コンサートに出掛けたが、雨に見舞われて体調を崩し、これが原因となって亡くなった。この雨は雨宮瀑がいじめっ子を消し、氷室の左腕にやけど痕が発生し、犬呻村が山崩れで崩壊した原因と同じ雨であるため、深森盛華は賽木亜湖の死まで瀑の責任であると糾弾した。
蒼井戸 高視 (あおいど たかみ)
N県蛭沢町にある、明治時代に建てられたホラースポット「蒼井戸館(あおいどやかた)」の主の男性で故人。前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪にしている。眼鏡をかけ、口ひげを生やしている。N県蛭沢町に生まれ、東京都の帝国大学に進学して文学博士となる。同時に、日本における超心理学の草分けの一人でもあったが、女性の透視能力者で公開実験を行い、これを千里眼の驚異などと宣伝したことで学会の非難を招いた。そしてこの正統科学でないものを排斥しようとする圧力に屈し、大学を去って死ぬまでの10年余りを蛭沢町に戻って過ごした。そのあいだに、研究テーマを超能力から心霊現象に変えて研究に没頭。人為的に怨霊を作る研究をするため、下男を使って村人や行商人を拉致して、壮絶な拷問をしたり、その光景を第三者に見せたりするという方法で、暴虐の限りを尽くした。しかし大正時代の末、下男と共に自宅で死体で発見され、実験内容については父親が隠蔽した。
多霧 冴 (たぎり さえ)
最合脳科学研究所で働く若い女性。溝科村の出身で、雨宮流洋の妻である雨宮千鶴は多霧冴の大叔母である。そのため、雨宮瀑たちとは親戚関係にあたる。前髪を長く伸ばして左寄りの位置で分けた、胸の高さまで伸ばしたロングへアにしている。穏やかな性格で、つねに落ち着いている。ある日、最合征司を危険視した雨宮濠重の命令で、最合脳科学研究所に潜り込み、征司の助手として働くことになる。そのため当初、瀑は多霧冴のことを最合の仲間だとカンちがいしていた。しかし、最合脳科学研究所がBレインに破壊されたあとは研究所を離れ、瀑に素性を明かしていっしょに行動するようになる。瀑にひそかに思いを寄せている。
雨宮 流洋 (あまみや るよう)
医師を務める男性で故人。亡くなった時の年齢は30代。雨宮漣と雨宮瀑の曽祖父で、雨宮濠重の父親、雨宮千鶴の夫でもある。前髪を目の上で切ったストレートの短髪にしている。心優しい性格で、非常に正義感が強い。医師として働きながら、自らの家系に誕生する雨人について研究しており「雨人研究」を出版した。そんなある日、仕事で訪れた溝科村で、非常に絵を描くのがうまい少年と出会う。また少年が、蒼井戸高視が拉致してきた人間を拷問するイラストを描いていたことから、高視の恐ろしい人体実験を知る。そこで高視を問い詰め、結局告発することはできなかったものの、溝科村の人々に関心を持ち、村では「男屑(おとこくず)」と呼ばれる男たちが、サヴァン症であることに気づく。そこで溝科村に診療所を開き、サヴァン症について研究しながら生活するようになる。しかし、「雨人研究」を読んだ源に目をつけられ、人為的に雨人を生み出すための研究をするように命じられてしまう。溝科村の男性たちを徴兵から守るために渋々承諾するが、第二次世界大戦後、諸外国への情報流出を恐れた源によって殺害された。
雨宮 濠重 (あまみや ごうじゅう)
溝科市にある溝科医科大学の学長で、年老いた男性。溝科医科大学雨宮記念病院の院長も務めている。雨宮漣と雨宮瀑の祖父で、雨宮流洋と雨宮千鶴の息子でもある。前髪を上げて額を全開にした白い短髪で、顎ひげと口ひげを長く伸ばしている。流洋と千鶴の子供だったため、サヴァン症である確率が高いとされていたが、ふつうの男性として生まれ育つ。しかし子供の頃、第二次世界大戦の終わりとともに流洋が源に殺され、流洋の代わりに雨人の研究を続けることを条件に見逃される。だが、人為的に雨人を作り出す実験は非人道的すぎるという理由で拒み、雨宮湧介のことはふつうの男性として育てるつもりでいた。しかしある日、湧介が溝科村のサヴァン症の子供が生まれる家筋の娘である雨宮加澄と出会い、結婚。「雨人研究」とは無関係に結婚した二人だが、その子供、つまり漣と瀑は雨人として生まれた。これを知った溝科村の代表によって、溝科村の家筋の双子は非常に不吉であるという理由で、危険視される。そして、最終的にばらばらに生きることになった二人が、無事に育つことを祈っていた。その後は瀑とはほとんどかかわりなく生きていたが、瀑が雨人について調べ始めたことによって再会。過去に起きた出来事について説明することになる。
雨宮 湧介 (あまみや ゆうすけ)
雨宮漣と雨宮瀑の父親で、雨宮加澄の夫。雨宮濠重の息子でもある。故人で、亡くなった時は30代。溝科村のサヴァン症が多数生まれる家筋に生まれたが、サヴァン症ではなかった。しかし、生まれつき重度のてんかん症で左半身不随、左目も見えずに育った。そこで濠重が、障害を引き起こす原因となっている右脳を摘出する手術を行ったところ、回復してふつうの少年と変わらない生活を送れるようになった。しかし体は病弱なままで、ある日、入院した際に加澄と出会う。結果的に「雨人研究」とはまったく関係なく加澄と結婚することになったが、生まれて来た漣と瀑が雨人であり、溝科村の家筋の双子は非常に不吉であるという理由で、溝科村の代表に危険視される。そこで、二人のうちどちらかを殺すか、どちらかを村で引き取ってもらうかという選択をせまられた結果、漣を引き取ってもらい、残された三人で暮らすことになった。その後、加澄と瀑を残して亡くなった。
雨宮 加澄 (あまみや かずみ)
雨宮漣と雨宮瀑の母親。雨宮湧介の妻で故人。前髪を目の上で切って真ん中で分け、胸まで伸ばした癖のあるロングヘアにしている。溝科村に生まれ育ち、村の病院で看護師を務めるようになる。そんなある日、看護師と患者として湧介と出会い、村で行われている雨人に関する研究とは無関係に結婚した。しかし、生まれた漣と瀑が雨人であり、溝科村の家筋の双子は非常に不吉であるという理由で、溝科村の代表に危険視される。そこで、二人のうちどちらかを殺すか、どちらかを村で引き取ってもらうかという選択をせまられた結果、漣を引き取ってもらい、残された三人で暮らすことになった。さらにその後、湧介が亡くなり、それからは瀑と二人暮らしだったが、瀑が大学入学を機に地元を離れてからは別々に暮らしていた。そして瀑が20歳のある日に亡くなるが、瀑の後見人とした穿地規克を通じて、瀑に高額の遺産を相続する条件として、賽木超心理学研究所のスタッフとして働くように命じる。生前瀑に、人の意見を真に受け過ぎず、自分の人生の主役は自分だという強い意志を持って生きるようにアドバイスしていた。
場所
犬呻村 (いぬめきむら)
日本の北関東にある、心霊スポットとして有名な廃村。最合征司の出身地でもある。10年前、突如北関東を襲った豪雨によって大規模な山崩れが発生し、村が丸ごと埋もれた。そのため、現在も数十人の村人の遺体が埋もれたままになっている。征司は、この事件によって両親と親類を亡くしており、また、この山崩れの原因となった豪雨が、突然発生したことに強い疑問を抱いていた。そんなある日、深森盛華から雨宮瀑が、この事件にかかわっているかもしれないことを聞かされ、瀑に関心を持った。盛華によれば、犬呻村では現在も自分が亡くなったことに気づいていない霊たちが、山崩れから逃げ続けているという。
羊ヶ山団地 (ひつじがやまだんち)
東京都多摩市にある大規模な高層団地。河鍋が自治会長を務めており、河鍋が退いたあとは夏八木が引き継いだ。自殺の名所としても知られ、過去何人もの飛び降り自殺者を生んだ。建物は西側と東側に分かれており、西側には年金暮らしの高齢者、東側には進歩的な考えの若者が多く住んでいる。西側の住民たちは天堂阿沙をはじめとする霊能者たちと、マスコミの話を真に受けている住民が多い。結果、西側の住民たちは羊ヶ山団地を、かつて豪族の古墳と石の棺、そして殉死者の遺骨があった場所で、戦国時代にこれを切り崩して城が築かれたが落城したというウソを信じ込んでいる。この時に石垣から飛び降りて死んだ兵士や女性たちの霊が現在も成仏できず、数々の怪異を起こしているとされる。
溝科村 (みぞしなむら)
日本のN県にある小さな村。高い確率でサヴァン症の子供が生まれる家系が三つ存在するため、村には多数のサヴァン症の人間がいる。サヴァン症の人間は高確率で男性であることから、通常の仕事ができない彼らに代わって女性が働くという構造が村で成り立っている。そのため、サヴァン症の人間は単なる役に立たない存在として「男屑(おとこくず)」と呼ばれていた。だが、雨宮流洋が溝科村に住み始めて診療所を開き、サヴァン症の男性たちに理解を示したことで村が変わり始める。しかし、そんな流洋の「雨人研究」と、サヴァン症の男性たちに目をつけた源が村に現れて、政府のお金で大学を建てたことで村が発展。その代わりに、雨人を人為的に生み出すための実験場とされてしまった。
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感情ジェネレータ (かんじょうじぇねれーた)
賽木超心理学研究所で開発された機械。ミクロPKの原理を応用して、乱数を人間の表情に置き換えて表示する機能を持っている。これは一見、乱数発生器につながったパソコンの画面に、人間の表情がランダムに変化する様子を表示するだけのものに見える。そのため、人間の感情を読み取ったり、まねたりする機能はない。しかしこれが、その場にいる人間たちの心に同調するように見えることがある。つまり、人間の心が乱数に作用して、乱数ジェネレータに表示される表情を決定している可能性があると考えられている。たとえば犬呻村では、乱数ジェネレータには恐怖の表情が浮かび続け、これは自分が亡くなったことに気づかないまま、今も村で起きた山崩れから恐怖におびえながら逃げている、霊たちの感情に同調したものではないかと考えられている。表情は乱数の偏り方によって決定されるため、乱数に特に偏りが見られない場合は、表示される表情は無表情なものになる。逆に、乱数に1が多い場合はプラスの感情とみなして笑顔、0が多い場合はマイナスの感情とみなして悲しみや怒り、恐怖の表情が表示される。この表情が毎秒32個ずつ呼び出され、それを重ねたものが、画面に表示される。