千年狐 ~干宝「捜神記」より~

千年狐 ~干宝「捜神記」より~

干宝の志怪小説集『捜神記』をユーモラスにアレンジしたコミカライズ作品。千年以上生きている狐の姿をした妖眚の廣天が、人間と交わりながら自分の命の在り方や人間の生き方、動植物の命について思考を巡らせていく中で、自身の出生の秘密を知っていく。「月刊コミックフラッパー」2018年1月号から連載の作品で、張六郎のデビュー作にあたる。

正式名称
千年狐 ~干宝「捜神記」より~
ふりがな
せんねんぎつね かんぽうそうじんきより
作者
ジャンル
古代史
 
神話・伝承
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あらすじ

第1巻

千年以上生きている妖眚廣天は、ある日、人間と知恵比べをしてみたいと思いつく。旧知の仲である華表からは止められるが、廣天はその言葉も聞かずに博学で知られている張華の屋敷へ赴く。そこでお互い知識を披露し合い、張華を圧倒する廣天だったが、廣天が狐であることを知った張華の友人の孔章によって、華表の柱の一部が切り取られてしまう。(エピソード「張茂先、狐と会う事」。ほか、7エピソード収録)

第2巻

冥府の使者のは、冥府大帝阿紫廣天の命を狙ってなんらかの画策をしていることに気づくが、阿紫からこの件に関して詮索しないようにと言い渡される。さらに冥府大帝からリフレッシュ休暇を兼ねた出張を命じられた渾は、廣天が武術を習っているという寺へと行かされる。渾は廣天と合流しろということかと認識するものの、冥府大帝や阿紫の思惑が理解できず、ますます不安を抱くこととなる。(エピソード「渾沌、狐に問う事」。ほか、7エピソード収録)

登場人物・キャラクター

廣天 (こうてん)

春秋時代、炎と陽のあいだに産まれて千年以上生きている妖眚。一見すると七本の尻尾がある狐だが、人間の両親から産まれたため、人間でもある。狐の姿のときは毛並みが整っておらず、みすぼらしく見える。人の姿のときは冷たい印象の右目に泣きぼくろのある中性的な少女の見た目で、胸が非常に小さいために男性にまちがえられることも多く、いつもはもっぱら道士として活動している。なんらかの能力を持つとされており、そのために阿紫や冥府大帝から狙われている。親同然の華表を大切にしており、華表を燃やされて「炭片」となった部分しか守れなかったことを後悔している。これ以上華表を傷つけさせないために武術道場の門下生となったが、あまりに才能がないために破門になった。

華表 (かひょう)

戦国時代の燕の王、昭王の墓陵入り口に立っている柱。樹齢千年の神木としてある山を守っていたが、伐採されて柱にされてしまう。廣天が産まれて間もない頃は神木だったことから、当時は「神木」と呼ばれていた。意思があって人語を解し、話すこともでき、固定されている足元以外は自由に動かすことができる。帝(現代)の命令によって燃やされたあとは木炭となって生き延び、「炭片」と名乗っている。炭片となってからは廣天の荷物におさまる形で行動を共にしており、新芽も伸びている様子がある。

(こん)

冥府の使者であり、死神のような役割を担っている。人の姿のときには中性的な容姿で、前髪を左側に向かって斜めにカットしたアシンメトリーな髪型をしている。また、魂を奪う人間の名前が書かれた目録である、木片をつなげた巻物をつねに携行している。本来の姿も人間に似ているが、顔がある部分が桃、またはお尻のようになっており、さらにその一部が鳥の翼になっている。産まれたばかりの頃は妖怪や獣でもなく、雌雄も五感もない尻のオモチャのような姿をしていた。その頃に阿紫に拾われて人に化ける術を教えられ、冥府に務めるようになったため、非常に阿紫を慕っている。しかし理由も教えずに、廣天を追い詰めるような策を巡らせる阿紫に不信感も抱いており、ジレンマに悩まされている。

撇撇 (へいへい)

背中に鳥の翼が生えた、肥満体の狐の妖怪。本来は長身の成人男性よりも大きい巨体だが、ふだんは大人が両手で抱えられる程度の大きさに変化している。歩く際や変身を解く際など、「ずしん」「どしん」「ずごごご」などの擬音を口に出すクセがある。廣天が産まれて山に捨てられた頃から知っており、未だに廣天のことを小さな子供だと認識している。他者、特に人間を矮小だと侮っていたが、宋大賢と相撲勝負をして以降は認識を改め、何事にも真剣に挑むようになった。

阿紫 (あし)

巨大な狐の妖怪。遙か昔は人間の女性だったが、美しいうえに誰にでも優しく面倒見がよかったことから、周囲の男たちに奪い合われた結果、殺されてしまった。人に化ける際には膝裏まで届く、白メッシュの入った黒髪の女性になる。非常にクールな性格で、腹の内を読めない表情をしている。冥府大帝が「山の神」と呼ばれていた頃からの知り合いであり、その頃は喜怒哀楽もはっきりと表現していた。またその頃、炎の後宮に俔と共に潜入した際に陽と知り合い、非常に親しい友人となった。廣天の出産や、廣天が山に捨てられるまでの経緯も見届けている。現在は帝(現代)に取り入って、わざと廣天を追い詰めるように仕向けている。

冥府大帝 (めいふたいてい)

冥府を取り仕切っている神。渾よりも役職の高い上司にあたる。まだ冥府という概念すらなかった頃は、死者の魂が集まる山を守る「山の神」だった。体は人間だが、顔がないために仮面のようなもので覆っている。阿紫とは付き合いが古く、阿紫と共に何かを企てている様子がある。

鵞鳥 (がちょう)

琅邪王が、廣天が本当に霊を見ることができるのかを試すために殺害されたガチョウの霊。「ックションガァ」と、くしゃみをする。琅邪王が廣天をだますために話した美辞麗句を真剣に受け取っており、次は人間に生まれ変わりたいと考えている。死後は動物の霊が逝く華山と呼ばれる場所で鳥と共に仕事をしている。

(とり)

華表がまだ「神木」だった頃、よく話し相手になっていた鳥。廣天が山に捨てられた際に一番最初に見つけた。赤ん坊の頃の廣天が泣いたときには、よく岩や木の物まねをしてあやしていたが、結果的にそれがさらに廣天を泣かすことになっていた。ちなみに、鳥が死の間際に、「来世があるならまた会おう。この廣い天の下で」と告げたことが、廣天の名の由来となっている。死後は動物の霊が逝く華山と呼ばれるところで鵞鳥と共に仕事をしている。

(けん)

山の霊気によって長寿になったネズミで、人語を解し、話すこともできる。ところどころ毛皮が禿げたみすぼらしいネズミだが、若い頃の毛皮は極上の手触りだった。初対面の廣天を、母親の陽と見まちがった。かつて阿紫と共に炎の後宮に潜入していたため、陽のことや廣天の出生についても詳しく記憶している。

(うそ)

千年以上生きているカワウソの妖怪。本来はふつうのカワウソの姿をしているが、人に化けた際には一目見た男性が親切にしてしまうほどの美貌を持った、若い女性の姿になる。100年前は人間に化けることはできなかったが、阿紫に変化の術を教えられた。二本の足で走るのが好きになってしまい、人を襲うという名目で、逃げる人間との競争を楽しんでいる。

(げん)

過去のとある時代、南陽で病死した人間の幽霊。中性的な容姿をしており、性別は不明。冥府の使者となった周式から逃げて、道を歩いていたところを伯に発見された。伯のウソをまったく疑わずに信じ込む、素直な性格をしている。伯にそそのかされ、生前財産を奪っていった詐欺師に復讐を行った。

張華 (ちょうか)

晋の時代、博学で名を知られている男性。帝(現代)の側近が働く中書省に勤めており、長官に次ぐ地位である中書令を務めている。周囲からは「張茂先」とも呼ばれている。廣天の知恵比べの相手にと選ばれた。幼少期に孤児となって、非常に貧しい暮らしを送る中で必死に勉学に勤しんだ過去がある。廣天の訪問を受けてから、文献を調べ尽くして廣天の経歴をすべて理解している。

孔章 (こうしょう)

張華の友人。晋の時代に豊城で知事をしている男性で、口ひげを蓄えている。張華の屋敷を訪れた際、客人としてもてなされていた廣天の尻から尻尾が出ているのを見つけ、狐であることを見破った。

琅邪王 (ろうやおう)

三国時代、呉の初代皇帝である孫権の子として君臨した男性。本名は「孫休」。道術を信じておらず、道士として呼ばれた廣天の前に、女物の副葬品を備えたガチョウを埋めた墓を見せ、本当に霊を見ることができるのか試した。実在の人物、孫休がモデル。

周式 (しゅうしき)

漢の時代、漁師をしていた男性。まっすぐな瞳で交わした約束を、さらっと破る悪癖がある。渾が道に迷って困っているのを見かけ、助けようとする良心の持ち主ながら、さらに道に迷わせたり、渾の持っている魂を奪う人間の名前が書かれた目録を堂々と見るなど、問題行動が多い。もともと渾が魂を回収して死者になる予定だったところ、渾の温情で生き長らえるはずだった。しかし3年間家に籠もるという約束を破ったため、結局魂を回収され、死後は渾と共に冥府の使者として働いている。

宋大賢 (そうたいけん)

過去のとある時代において、豪傑として知られた屈強な男性。長い黒髪で横髪を残したポニーテールにしている。妖物が出ると噂の宿に宿泊し、撇撇と対決した。撇撇の見た目の愛らしさに骨抜きにされながらも相撲勝負に勝利し、撇撇に対して敗北の要因は他者を侮ったことだと諫めた。その後、泣き崩れて蹲る撇撇の愛らしい姿を見てインスピレーションを得て、「ばけものまんじゅう」という饅頭屋を始めた。

萬祥 (ばんしょう)

帝(過去)の男妾。中性的な外見の青年で、幼い頃に両親を亡くし、帝(過去)に引き取られて親子同然に育てられた。妊娠の兆候が出たため、秘密裏に診察に赴き、男児を妊娠したと帝(過去)に告白した。道士に扮した廣天からは一刻も早く宮廷から逃げろと勧められたが、妊娠した子が妖眚であることや出産すれば命も狙われることを承知のうえで、出産までとどまった。

帝(過去) (みかど)

過去のとある時代の帝で、初老の男性。萬祥の両親が亡くなったのをきっかけに、親子同然に育て上げた。萬祥の見識の広さや聡明さに惚れ込み、男妾として寵愛している。知識は深くなく、妖眚などについても無知。しかし妖眚を出産した萬祥が、宮廷を追放になる際には引き止めて共に滅ぶことを許容し、子供に名前を付ける約束も交わした。

王霊孝 (おうれいこう)

漢の時代、軍から一時的に脱走した軍人の男性。脱走中に狐姿のままの阿紫と出会い、恋仲になった。それ以来、頭部に狐の耳、尻からは狐の尻尾が生えている。阿紫の彼氏兼護衛として、冥府でも生きたまま共に行動している。

帝(現代) (みかど)

現代の帝で、阿紫が取り入っている。非常に高齢ながら、阿紫の妖気の恩恵を受けて健康に過ごせているといわれている。阿紫が望むまま行動しており、傀儡となっている。そのため国民を顧みない政策やお触れを出すことも多々あり、恨みを買って秩堅など暗殺を企んでいる者も多く存在する。

丁初 (ちょうしょ)

過去のとある時代、呉郡の上湖に堤防の番人として務めていた男性。非常に臆病な性格ながら勤勉で、大雨の日には化物が出ると噂される堤防まで様子を見に行った。獺の美貌に一度は騙されて親切にするが、獺の頭部からカワウソの耳が出るのを目撃して、妖怪だと認識した。その直後、獺から逃げようとしたところを、廣天に助けられた。

(しょう)

現代、咸陽県の役人をしていた王臣という男性の母親。初老の女性だが、新入りの召し使いとして働く廣天を男性と思い込み、数十年ぶりに恋心を覚えていた。重税や戦乱から逃れてきた農民や流民を分け隔てなく雇い入れるなど、優しい心の持ち主で、魂を宿した台所道具たちにも非常に気に入られている。

(はく)

現代、詐欺師を生業としている男性。赤毛と黒髪が混ざった長い髪を、後頭部で雑にまとめている。幽霊を見て会話し、触れることもできる能力を持っている。そのため、伯自ら幽霊を自称して霊に近づくことが多い。幽霊の持っている生前の恨みなどを利用し、復讐と称して悪徳商法を繰り返す詐欺師に近付き、その財産を奪っている。

医者 (いしゃ)

現代、伯が贔屓にしている医者。頭から布をかぶっている上に覆面をしているため、性別不明。非常に腕のいい医者らしいが、ふつうの病気に興味がなく、珍しい病気を罹患した者しか診察しない。好んで幽霊にかかわっている伯のことを「お節介」もしくは「お人好し」と評している。

秩堅 (ちっけん)

現代、阿紫が取り入っている帝(現代)の暗殺計画の首謀者を務める男性。華表が「炭片」となった事件でもある妖狩りにおいて、父親がオシャレすぎるという理由から妖怪とまちがわれ、処刑された。似た経緯で帝(現代)を恨んでいる者たちと、帝(現代)暗殺の機会を探っている。

(よう)

春秋時代、炎の後宮に務めていた宮女で、廣天の母親でもある。黙っていると冷たい印象を与えるが、唇の右下側にほくろを持った中性的な女性で、顔立ちが廣天と非常に似ている。間延びした語尾で話し、俔が話すのを見てもいっさい動じないほど、非常に肝が据わっている。しかし、炎の前で披露した舞が珍妙すぎて宮殿に雷を落としたり、厨房の雑用になると下手すぎて料理人に殺されかけたりするなど、逸話が多い。現在は庭の植木から落ちる露を数えるのが主な仕事になっている。

知永 (ちえい)

春秋時代、陽と共に後宮で宮女として務めていた少女。後宮の案内係として阿紫を出迎えた。肩までの髪を、一部のみ側頭部でお団子にしている。眠っているときに首が胴から離れて飛び回る体質を持つ、落頭民という部族の出身で、首の飛ばない部族の文化を勉強するために後宮で働いている。

(えん)

春秋時代、陽が宮女として仕えた小国の君主で、廣天の父親でもある。中年男性だが目の下にはつねにクマが浮いており、やつれている。諸侯であることから、部下や宮女たちからは「公」と呼ばれている。以前の正妃が亡くなっており、妃妾を多数抱えているが跡継ぎに恵まれていない。病気がちで権威がないため、臣下にも敬意を示す。

子火 (しか)

春秋時代、炎を君主とする朝廷で宰相を務めていた青年で、炎の甥にあたる。頭の回転が速く、なんでもそつなくこなすため、非常に冷酷に見えてしまう。また、烽白眉からはその聡明さを疎まれている。血縁者を大切にする一方で他人には冷徹なところがある。そのため、烽白眉と泥熒の企みを察知した際には、陽に「なにかあれば命をなげうって子供を守れ」と言い放った。

烽白眉 (ほうはくび)

春秋時代、炎を君主とする朝廷で上卿を務めていた男性。かねてより他国と通じて賄賂を受け取っているという噂があり、子火からは敵視されている。炎の朝廷の存続を願うあまり、手荒い手段を講じることも多い。その結果、泥熒と組んで暗躍し、妖眚である廣天と、廣天を産んだ陽を暗殺しようとしている。

泥熒 (でいけい)

春秋時代、炎を君主とする朝廷で大卜(たいぼく)を務めていた老齢男性。自らが占う卜(ぼく)を信じきっており、国に災いをもたらす存在を排除しようと考えていた。その結果、烽白眉と組んで暗躍し、妖眚である廣天と、廣天を産んだ陽を暗殺しようとしている。

燭以 (しょくい)

春秋時代、炎を君主とする朝廷で閹人(えんじん)を務めていた中性的な男性。炎からの信頼が厚く、毒味や文章の受け渡しも担当しており、側近としても力を発揮している。しかし、炎の体調がどんどん悪化していることを内密にしているなど、怪しい点も見受けられる。

宋無忌 (そうむき)

春秋時代、炎の護衛を務めた武人の男性。要人の暗殺を企てる者をことごとく捩殺(れいさつ)したという逸話を持った屈強な男性で、噂ばかりの伝説と思われていた。長い黒髪をポニーテールにしており、顔立ちが非常に宋大賢に似ている。

炰尼 (ほうじ)

春秋時代、子火の近臣を務めていた青年。戦場での武勲も多く、巨大な狐の妖怪に手傷を負わせて追い払ったこともある。子火からの指示で、典医について後宮に入り、怪しい動きがないか探っていた。その際に陽と阿紫をナンパし、衛兵に連行されている。

その他キーワード

妖眚 (ようせい)

王朝の滅亡を示す赤ん坊。両親ともに人間でありながら、人間とはまったく違う見た目と、産まれ方で出産される。出産例として萬祥のように男性が妊娠したり、陽のように3か月で口から産まれるなどの例が挙げられる。また外見は角の生えた兎や人の形をした草などさまざまで、廣天も妖眚として産まれた。

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