君は月夜に光り輝く

君は月夜に光り輝く

佐野徹夜の小説『君は月夜に光り輝く』のコミカライズ作品。姉を亡くした高校生の岡田卓也が不治の難病を患った渡良瀬まみずと出会い、彼女の代わりにさまざまな願いを実行していく姿と、恋愛模様を描いたヒューマンドラマ。「ダ・ヴィンチ」2018年9月号から2019年8月号にかけて掲載された作品。2019年3月に原作小説版が実写映画化。

正式名称
君は月夜に光り輝く
ふりがな
きみはつきよにひかりかがやく
原作者
佐野 徹夜
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

代行体験

姉の岡田鳴子の死から、どこか投げやりな人生を送っていた岡田卓也は高校に入学し、中学生の時から縁のある香山彰と同じクラスになった。卓也たちのクラスには、不治の難病である「発光病」を患う渡良瀬まみずがいたが、彰以外は長らく入院している彼女のことをよく知らなかった。まみずの発光病は、細胞の異常によって月の光を浴びると皮膚が発光し、その光が強まるたびに死が近づくという、謎の多い奇病だった。クラスメートの寄せ書きを、まみずに届ける役に名乗りを上げた彰だったが、次の日にはカゼを引いてしまったことで卓也に代理を依頼する。彰に借りがある卓也は断ることができず、彼の代わりにまみずの見舞いに行くことになる。まみずの病室に向かった卓也は、噂どおりの美少女である彼女に見惚れると同時に、難病以外はふつうの女子高校生だという印象を抱く。卓也を歓迎するまみずは、病院から外出が許されない自分に代わって、死ぬまでに叶えておきたいさまざまな願いを実行し、その感想を伝えて欲しいと卓也にお願いする。そんな中、いつものようにまみずの見舞いに来た卓也は、まみずの大切にしていたスノードームを壊したことで、彼女の頼みを断りづらくなってしまう。こうして卓也はまみずの願いを叶えるために「代行体験」をすることになり、死期がせまる彼女との奇妙な交流と、これまでとは違った日常が始まるのだった。当初は彰から頼まれたということもあってなんとなくまみずと交流をしていた卓也だったが、まみずの境遇を知るうちに、自分の意思で彼女のさまざまな頼みを聞き入れるようになっていた。そんな卓也は、死んだ鳴子のことを思い出しながら、彼女の死から止まっていた自分の時間が動き出したことを感じていた。一方、卓也の代行体験を通して人生の楽しさを感じるまみずだったが、彼との距離を縮めていくにつれ、二人のあいだには避けることができない死への恐怖が忍び寄る。

一条の光

岡田卓也は、不治の病を患う渡良瀬まみずの願いを叶える「代行体験」の日々にすっかりなじんでいた。しかし、まみずの病状が改善する様子はなく、卓也は彼女にもう残された時間が少ないことを感じ取っていた。そんな中、まみずから検査の結果がよくなかったという報せを受ける。以前、まみずに告白して断られたことに落ち込みながらも、まみずのもとへ向かおうとした卓也だったが、訳あって見舞いを避けていた香山彰も、まみずに会いに行こうとしていた。彰との中学生時代の過去を思い返しながらまみずの病室に向かう卓也だったが、彼女は個室の病室に移っていた。まみずに言われたとおり、文化祭の演劇でジュリエット役を引き受けていた卓也は、次の彼女の願いとして静澤聰という小説家の墓参りを依頼される。聰の代表作を図書館で読んだ卓也は翌日、社会科見学をサボろうと提案する彰と共に、県境の山奥にある聰の墓に向かうこととなる。その途中で彰は、入学前からまみずに片思いをしていたことや、卓也に彼女の見舞いを頼んでいた本当の理由を語り、女性関係を清算したのでまみずに思いを告げたいと胸中を吐露する。卓也は二人でまみずの見舞いに行こうと提案し、病院に到着した卓也はまみずと二人きりになった彰のことを待つが、出て来た彰は暗い顔をしたまま病院を後にする。彰の背中を見送りながらまみずと話した卓也は、まみずには好きな人がいることを知る。再び医者に余命宣告されたと、寂しそうに語るまみずの残された時間が刻一刻と過ぎていく中、卓也が彼女の代わりにジュリエット役を務める文化祭の日がせまっていた。

関連作品

小説

本作『君は月夜に光り輝く』は、佐野徹夜の小説『君は月夜に光り輝く』を原作としている。原作小説版はKADOKAWA メディアワークス文庫から刊行され、イラストはloundrawが担当している。

メディアミックス

実写映画

2019年3月15日から、本作『君は月夜に光り輝く』の原作小説版『君は月夜に光り輝く』をもとにした実写劇場版『君は月夜に光り輝く』が公開された。監督は月川翔が務めている。キャストは、岡田卓也を北村匠海、渡良瀬まみずを永野芽郁が演じている。

登場人物・キャラクター

岡田 卓也 (おかだ たくや)

高校1年生の男子。姉の岡田鳴子を亡くしたトラウマを抱えており、生きることに嫌気が差している。このため、物事を諦観しているようなクールで冷淡な少年に見えるが、意外と明るいところもある。過去の経験からあまりコミュニケーションを取ることは好きではないが、表面上は社交性があり、誰とでも一線を引いた無難な関係を築いている。慕っていた鳴子の死を引きずっている様子が時おり見られるため、家族をはじめ周囲から心配されている。ある日、中学生時代から付き合いのある香山彰に頼まれ、同じクラスの渡良瀬まみずの見舞いを任されることとなった。まみずのことをよく知らぬままで見舞いに向かったところ、彼女に歓迎される一方で、不自由な入院生活を続けている彼女の代わりにさまざまな体験をして感想を伝えるという「代行体験」を依頼される。それからは、遊園地に行ったりメイド喫茶でアルバイトをしたりと、彼女がやりたいことを代行および体験し、やり遂げるたびにその感想を伝えている。当初は彰に頼まれたことや、まみずが大切にしているスノードームを壊してしまったことに負い目を感じたために彼女の願いに従っていたが、次第に負い目や同情ではなく自分の意思で交流を重ねるようになっていく。また、まみずが死ぬ直前の鳴子に似ていると感じており、彼女に接することで鳴子の死について理解できるのではないかと考えている。これらの交流を通してまみずに思いを寄せるようになるが、彼女の病気が改善していないことも悟っており、鳴子が死んだ時のように大切な人を亡くして、人の死に慣れてしまうことを恐れて一定の距離を置いている。中学生時代、クラスメートをかばったことで不良生徒からいじめに遭っていたが、その時に彰が助けてくれたおかげでいじめは自然となくなった。このため彰には大きな借りがあり、心のどこかで負い目も感じているため、多少無理なことでも彼の頼みはなかなか断れずにいる。

渡良瀬 まみず (わたらせ まみず)

高校1年生の女子。岡田卓也と香山彰のクラスメート。発光病という不治の病に侵されており、病院生活を余儀なくされている。もともと卓也とは面識がなかったが、学校で噂になるほどの美少女。彰に頼まれて見舞いにやって来た卓也には、難病であること以外はふつうの女子高校生で、明るい少女という印象を抱かれた。病人とは思えぬほど無邪気で、笑顔を見せることも多く天真爛漫に見えるが、どこか達観しているようなところがある。外出はもちろんあらゆることが制限されており、不自由で窮屈な生活を送っている。発光病が未知の難病であることから正確な余命がわかっておらず、過去には余命あと半年と告げられたこともある。今も病状がよくなっている様子はなく、病院内の売店を少し回っただけでも体調を崩すことがある。そう遠くない将来に死が訪れることを覚悟しており、メモ帳に死ぬまでにやっておきたいことをリスト化している。見舞いに訪れた卓也を歓迎し、外出できない自分の代わりにさまざまなことを体験してその感想を伝えてもらう「代行体験」を卓也に依頼する。この代行体験を通して今まで自分がやりたかったことを少しずつ叶えていくが、これはいつか死ぬとわかっている自分の未練を少しずつ消していくことで、生への執着を断ち切りたいという目的もある。しかし、卓也との交流を続けるうちに逆に生への未練を捨てることができなくなり、本音では卓也に恋心を寄せているが、彼の告白を断っている。両親はすでに離婚しており、父親の深見真とは長らく会っておらず、連絡先も知らない。離婚の原因は両親の不仲だと思っていたが、真に会いに行った卓也から本当の理由を聞き、自分の病気が両親の離婚につながったことを知り、自分を責めている。かつて真にもらったスノードームを大切に病室にも置いているが、卓也がそれを壊してしまった際は、大切な物でもいつかは壊れると割り切り、咎(とが)めることはなかった。入院する前から読書好きで、高校に入学してからは図書館で本を読むことが多かった。好きな作家は静澤聰で、代行体験の一つとして、聰の墓参りを卓也に依頼している。卓也からは、姉の岡田鳴子に似ていると思われている。

香山 彰 (かやま あきら)

高校1年生の男子。岡田卓也と渡良瀬まみずのクラスメート。飄々(ひょうひょう)とした爽やかなイケメンで、女子から人気がある。卓也とは中学生時代からの友人で、卓也がいじめに遭っている時に助けたことがある。まみずの見舞い役に立候補するも、当日になってカゼを理由に卓也に代理を頼んだ。まみずとは前から知り合いだが詳細は語らぬまま、その後も卓也に彼女の見舞いに行って欲しいと依頼している。のちに複雑化していた女性関係を清算するようになり、そのうちの一人だった芳江先生のことも、代わりに待ち合わせ場所に行ってもらった卓也を通して関係を断っている。中学生時代は卓也と同じクラスで、いじめに遭っていた彼がベランダから飛び降りるよう指示されていたところを助けた。この際、彼の代わりにベランダから飛び降りて両足を負傷し、当時所属していたバスケットボール部を退部した過去を持つ。実は高校入学前、受験時に出会ったまみずに一目惚れしている。試験前に熱を出した自分を気遣ってくれたまみずには天使の印象を抱き、懸命に勉強して試験を乗り越えられたのも、入学して彼女に再会したいがためだった。入学後は、別のクラスになったまみずとの交流の機会をうかがっていたが、彼女が学校を休みがちになったことで会うのが難しくなった。付き合っていた複数の女性を次々とふっていったのも、まみずと交流するには複雑な女性関係のままではいけないと思ったためである。また、まみずに会いに行く決心がつくまでのつなぎとして、卓也に彼女の見舞いに行くよう依頼した。のちに卓也にこれらの事情を打ち明けた上でまみずに告白すると決め、彼と共に見舞いに行った際に彼女に告白するが、ほかに好きな人がいると断られてしまう。実は、かつて岡田鳴子の恋人だった兄がいたが、兄は鳴子よりも先に亡くなっている。

岡田 鳴子 (おかだ めいこ)

岡田卓也の姉。15歳の時に交通事故で亡くなった。生前にアルバイトをしており、初めてのバイト代で卓也にヘッドホンをプレゼントしたことがある。明るい性格だったが、恋人である香山彰の兄を亡くしてからは、そのショックをずっと抱えていた。のちに後を追って首を吊ろうとしていたところを卓也に目撃されたことがあり、誰にも言わないよう口止めもしていた。何を考えているかわからないミステリアスを雰囲気を漂わせており、卓也からも不思議に思われることが多かった。遺品の一つである国語の教科書には、中原中也の「春日狂想」の詩の一部に赤線が引かれていた。

卓也の母 (たくやのはは)

岡田卓也と岡田鳴子の母親。鳴子が唐突に亡くなったことを引きずっており、卓也まで亡くなってしまうのを恐れ、死を連想させるどんな些細(ささい)なことにも過剰に反応するようになった。鳴子が交通事故で亡くなった際は、その死に落ち込んでいた卓也に、カウンセリングを受けさせたこともある。卓也が高校生になったあとも、彼が一人で出かけるたびに心配している。

芳江先生 (よしえせんせい)

岡田卓也が通う高校の女性教師。卓也たちのクラス担任も務めている。明るく生徒思いな美人先生として、生徒からも慕われている。渡良瀬まみずのためにクラスで寄せ書きを用意するなど、入院生活を送る彼女を気遣っている。実は香山彰と付き合っていたが、彰の依頼で待ち合わせ場所に来た卓也を通して、彰にふられてしまう。

深見 真 (ふかみ まこと)

渡良瀬まみずの父親で、渡良瀬律の元夫。ワイルドな風貌ながら、誠実で家族思いな中年男性。小さな部品メーカーを経営していたが、律との離婚後はまみずを彼女に任せ、愛生市にある実家で暮らしている。しかしすでに会社は倒産しており、まみずの入院費を支払うために自己破産する前に離婚した。まみずからは、両親の不仲での離婚だったと思われていたが、本当は余計な心配をまみずにかけたくない思いから彼女に連絡先を教えていなかった。現在は実家の手伝いで肉体労働をしながら、入院費を送金している。まみずの依頼で愛生市を訪れた岡田卓也と対面し、離婚の本当の理由を彼に打ち明けた。卓也からまみずと会うよう言われているが、余計な心配をかけたくないという理由で断り、条件付きでメールアドレスだけを卓也に教えた。冬が訪れた頃にはまみずが作った手編みのマフラーを卓也を通して受け取っており、代わりにスノードームの作り方が書かれた本を彼に手渡した。

渡良瀬 律 (わたらせ りつ)

渡良瀬まみずの母親。神経質で厳格な性格ながら、まみずの体調や心情をつねに心配している。気丈に振る舞っているが、まみずの闘病生活の付き添いを長く続けたことで少々疲弊しており、刺々(とげとげ)しい態度を取ることもある。当初は見舞いにやって来た岡田卓也を歓迎していたが、売店に行ったまみずが体調を崩した際に彼にもう見舞いに来て欲しくないと告げるなど、二人が親しくなっていくことに複雑な思いを抱いている。元夫の深見真とは不仲で離婚したと思われていたが、実はまみずのために真と相談して決めたことだった。

平林 リコ (ひらばやし りこ)

岡田卓也がアルバイトをしているメイド喫茶で、ウエイトレスとして働いている女性。職場では卓也の先輩で年齢は一つ年上。面倒見のいいお姉さん気質で、卓也のことをちょっと変わった少年と思いつつも気に入っており、何かと気にかけている。明るく快活な性格で、理屈よりは直感で行動するタイプ。アルバイト以外でも時おり卓也と行動を共にし、彼が渡良瀬まみずの代行体験のためにクラブに行こうとした際は、案内も兼ねて同行して、こなれたダンスを披露した。

静澤 聰 (しずさわ そう)

戦前の作家である男性。渡良瀬まみずがもっとも愛読している作家でもある。代表作は「一条の光」で、発光病に冒された主人公の儚(はかな)い生涯を描いている。静澤聰自身も発光病を患っており、若い時に亡くなっている。県境の山奥に小さな墓があり、その墓石には「無」の文字が刻まれている。

その他キーワード

発光病 (はっこうびょう)

渡良瀬まみずが発症している不治の難病。細胞の異常によって皮膚が発光する奇病で、原因も治療法も見つかっておらず、成人するまで生存した者はいない。名前のとおり、皮膚が月の光で発光するという独特の症状が起こる。また、死が近づくにつれて光が強くなっていき、些細なことで体調不良を起こしやすくなる。もともと人間をはじめとした生物の体は、肉眼で確認できないほどの小さな光を発しており、発光病はそのバランスが崩れたことで起こる病気とされている。

クレジット

原作

佐野 徹夜

キャラクターデザイン

loundraw

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