概要・あらすじ
高卒でつくし信用金庫に勤務している青年吉野太郎は、クマタジムに所属するプロボクサーでもあった。彼は、不世出の天才ボクサー花形青児の押しかけ弟子であったが、自分の不注意のせいで花形を交通事故で死なせてしまったという負い目を持っていた。太郎は自分に出世しか求めない家族と決別し、花形の意志を継いで、「世界一の男になる」ことを決意する。
類を見ない動体視力と、優秀な観察力と判断力で、目的に向かって突き進む太郎だが、バブル崩壊後の金融界にあって、つくし信用金庫の業務は常に彼の足を引っ張り続ける。太郎の父を仇として憎む外国人ボクサーガルシア・ロメロとの因縁や、森崎みほや若林あゆとの複雑な恋愛関係もからみ、困難な道程は続く。
しかし太郎は様々な弱点を克服しながら、夢の実現に向けて一歩一歩進んでいくのだった。
登場人物・キャラクター
吉野 太郎 (よしの たろう)
高卒でつくし信用金庫杉名町支店に勤務しながら、クマタジムに所属するバンタム級のプロボクサーとして世界を目指す青年。中学生の頃天才ボクサー花形 青児の押しかけ弟子になり、花形のスタイルをコピーしている上、非常に優秀な動体視力を持っている。花形の事故死に責任を感じ、クマタジムの会長に直訴して、ボクサーへの道を歩むことにする。 商社マンである父親の行動に疑問を感じ、それに反発したせいでもある。バブル崩壊後の厳しい信用金庫の仕事と、次から次へとライバルが現れるボクシングの試合との板挟みに苦しむ。森崎みほや若林あゆとの複雑な恋愛関係にも悩む。 しかし、優秀な観察力と判断力と常に前に向かう姿勢で問題をクリアし、様々な弱点を克服しながら、世界一へ向かって突き進んでいく。
森崎 みほ (もりさき みほ)
吉野太郎のつくし信用金庫における先輩の女子職員で、信用金庫内のマドンナ的存在。太郎がプロボクサーをやっていることを、つくし信用金庫で一番最初に知るが、内緒にするよう頼まれる。当初は姉のように太郎を見守っていたが、次第に感情が変化していく。高校まで水泳を、大学では陸上競技を経験している。 婚約者がいたが、自己実現のため解消。太郎との関係を含め、紆余曲折を経てつくし信用金庫を辞め、次の段階に移行する。
花形 青児 (はながた せいじ)
重く強いパンチを持った不世出の天才ボクサーだったが、世界に挑もうとする直前に交通事故で死去してしまう。クマタジム所属。太郎は彼の死を、自分の不注意のためと責任を感じている。
熊田 (くまた)
クマタジム会長。年齢不明の中年男性。天才ボクサー花形 青児を育てたが、世界戦直前に交通事故で彼を失う。その衝撃に耐え切れずにジムをたたもうとしていたが、花形そっくりのスタイルを持つ吉野太郎に直訴され、太郎を育てる決心をする。天才的なコーチとは言えないが、太郎の「戦闘スタイルの大転換」のアドバイスをしたり、太郎とガルシア・ロペスの決戦の際に太郎が有利になる契約を結んだりと、優秀な人物である。
ジロー・ガルシア・ロペス
Q共和国からやってきたプロボクサーの青年。吉野太郎のデビュー戦の対戦相手で、その時は太郎に勝つ。Q共和国で柴田国広に見出されて来日し、大阪の新世界ボクシングジムに所属する。姉のアンジェリーナを、商社マンでQ共和国に駐在していた太郎の父である吉野ケンに関係する事件で失い、以後ガルシアは太郎を仇として憎んでいる。 ガードが弱いという弱点を、奇抜な戦闘スタイルで克服し、作品後半でさらに大きく変身を遂げる。サンディという、新宿の外国人クラブにいたQ共和国出身の女性と恋に落ちる。
柴田 国広 (しばた くにひろ)
ガルシア・ロペスを見出し、日本に連れてきた男。ガリーのトレーナーとコーチでもある。長身の中年男で、関西弁でしゃべる。昔は将来を有望視されたボクサーだったが、花形青児と戦って負けたとき、左目の網膜剥離により引退する。引退後荒れた生活を送って暴力団とも関係し、拳銃の密輸でQ共和国へ行った際にガルシア・ロペスと出会う。 花形のコピーである吉野太郎を意識するが、しょせんはコピーだと言って、太郎の弱点を指摘する。作品後半では高塚隆の策謀によって、苦しい日々を過ごす。
松本 (まつもと)
つくし信用金庫杉名町支店に吉野太郎と同期で入った新入男性職員。なにかと高卒の太郎を見下して辛く当たり、太郎と森崎みほの関係にも嫉妬していた。太郎の秘密を知ったときにいろいろ画策するが、太郎の真摯な姿勢に次第に態度を改める。
速水 卓 (はやみ たく)
吉野太郎の二人目の対戦相手。ダイナマイトジムのホープで、インターハイの準優勝経験者(アマ戦歴12戦11勝)。サウスポーの特徴を活かして太郎を苦しめるが、それに気づいた太郎に反撃され、結局引き分けに終わる。次に太郎と戦った時は、彼の癖も弱点も研究し特殊なフェイントで追い詰めた。 が、太郎の「戦闘スタイルの大転換」に倒される。
若林 あゆ (わかばやし あゆ)
つくし信用金庫杉名町支店の融資課勤務の女性職員。可愛い小悪魔系女子。不動産業を営む母親に大事に育てられ、自由奔放に生きる(父は、昔に母が捨てている)。肉体関係も奔放で、不倫していた上司を捨て、太郎を誘惑して関係を持つ。最初は遊びのつもりだったが、次第に太郎なしでは精神の均衡を欠いてしまうほどの愛情を向けることになり、太郎がボクシングに専念したいと言って彼女と会う間隔を長くすると、徐々に破滅に向かって走りだしてしまう。
田口 (たぐち)
つくし信用金庫杉名町支店の新しい支店長。ヤクザにしか見えない恐ろしい面構えの男。不良債権の蓄積・増大が問題になり、本店の意向でやってくる。太郎を渥美課長との特別チームに配属し、不良債権の処理をやらせる。プロボクサーとしての太郎を支える、意外な人物と友人であることが判明する。
渥美 (あつみ)
つくし信用金庫杉名町支店融資課の課長だが、不良債権処理専門の特別班として吉野太郎と二人で任に当たる。肥満して目つきも性格も悪く、パソコンで森崎みほのアイコラをつくるような困った人物。不良債権処理の知識も経験も豊富だが、時として犯罪になりそうな行為も平気で行う(盗聴器を付けるとか)。「暴力は嫌いです」が口ぐせだが、やたらと相手の頬や腿をつねる。 太郎のやり方がうまくいくこともあり、彼を認めるようになっていく。
高塚 隆 (たかつか りゅう)
アポロフィットネスジムの専務であり、アポロボクシングジムのオーナー。ソウルオリンピック、水泳男子200m自由形の銀メダリスト。アポロフィットネスジムは、森崎みほの転職先だった(水泳のインストラクター)。森崎みほの美貌と仕事の遂行能力に惹かれ、彼女を自分の会社で重く用いていく。 吉野太郎とガルシア・ロペスの決戦に深く関わる。アポログループ総裁の祖父高塚市蔵に育てられ、彼には頭が上がらない。
イワン・ヴァシリエフ
WBCバンタム級世界チャンピオン。ソウルオリンピックのボクシングバンタム級の金メダリスト。ソビエト連邦崩壊で苦しい生活を送ったが、パック・ロジャースというアメリカ人のスカウトに会い、アメリカに帰化し、以後破竹の進撃を続けて世界チャンピオンになる。KO率95%、タイトル防衛成功10回という無敵の男。 背中に鷹の刺青があるので、「ウィングス・オブ・ホーク」の異名がある。日本人ボクサーと防衛戦を戦う際に来日し、アポロボクシングジムの練習用リングで吉野太郎やガルシア・ロペスとスパーリングを行った。太郎を「狼の爪を持つ男」、ガルシア・ロペスを「狼の目を持つ男」と評した。 太郎の最終目標である。
集団・組織
つくし信用金庫 (つくししんようきんこ)
『太郎』の物語の舞台の一つ。主人公吉野太郎が勤務する金融機関。通称「つく信」。太郎はここの検査部に勤めるおじ、椎名清志のつてで就職を決めた。バブル崩壊後の金融業界で、大手都市銀行などに軽んじられて苦闘を続けている。太郎がプロボクサーであることが判明したとき、兼業として辞めさせるのではなく、広告塔とすることを決める。 独身男性用の「七福寮」という寮を所有している。