最悪の暴力団「蟯鳴会」が支配する「影霧街」
本作の舞台である「影霧街(えいむがい)」は、暴力や強姦が日常茶飯事の無法地帯。かつては200人ほどが暮らすふつうの街だったが、同業者も恐れる最悪の暴力団「蟯鳴会(ぎょうめいかい)」が立地を気に入って拠点として利用するようになり、犯罪者たちの吹き溜まりと化してしまった。人身売買が盛んで、女性は商品として管理され、酷い扱いを受けている。違法な薬物の取り引きも横行しており、白昼の路上で薬物を使用する住民の姿も見受けられる。一般人はこの場所の存在すら知るべきではないとされており、インターネットの検索エンジンで調べてもヒットしないようになっている。影霧街に向かう林道には「この先危険立入禁止」と書かれた看板が設置されているのみで、最寄りの沼口交番でも引き返すように助言されるだけ。さらに、携帯電話の使用は禁止されており、使用が発覚すると問答無用で破壊されてしまう。また、影霧街の批判は支配者である「あの人」への冒瀆と同義とされており、決して許されない。
「影霧街」で唯一の安全地帯「ホテルるみえ」
美音と涸沢が訪れる「ホテルるみえ」は、影霧街にある宿泊施設で、街を支配する暴力団「蟯鳴会」の関係者の利用を禁止している。また、屈強な成人男性を瞬時に無力化するほど強力な薬品入りの注射器、刃の付いた刺股などが常備され、暴漢に対する備えも万全となっている。短期アルバイトを自称する青年・宍戸は無数の暴漢を返り討ちにするほどの実力を秘めており、「うちのホテルが一番安心」と自信を覗かせている。ただし、ホテル内での殺人は厳禁とされており、このルールを破ると退去を命じられてしまう。また、部屋に籠っている支配人と会うことが許されているのは世話をしている宍戸だけで、過去に支配人の顔を見てしまった従業員が悲惨な運命を辿ったことが示唆されている。
汚職刑事・涸沢が追う少年「A」という異常者
少年「A」ことアキラは、判明しているだけでも40人もの命を奪った凶悪な殺人鬼である。しかし、少年法が適用される年齢であるため、実名での報道すらされていない。理由は不明だが、アキラは美音の兄である健一に衣食住の面倒を見てもらっており、彼にだけは危害を加えようとはしない。アキラが影霧街に足を踏み入れたのも、社会的に居場所を失ったアキラを警察の手の及ばない場所に逃がそうとする健一の手引きによるものである。こうして影霧街を訪れたアキラは、水を得た魚のように生き生きと殺人を楽しみながら「ホテルるみえ」に辿り着き、涸沢と遭遇することになる。
登場人物・キャラクター
森口 美音 (もりぐち みおん)
七岡東高等学校に通う女子。年齢は17歳。周囲からかわいいと持て囃される美少女だが、男性経験はない。助けを求める者を無視できないお人よしで行動力もあるが、頭が悪くドジで、思っていることが顔に出やすいという弱点がある。イケメンとして評判の森口健一の妹で、悪夢にうなされると兄のベッドに潜り込んでしまうほど兄に懐いている。同級生から「バキバキのブラコン」と揶揄されるほど兄を慕っていたが、兄が行方不明になったことで塞ぎ込み、不登校になってしまった。ある日、兄のパソコンに不可解なメールの送信記録が残されていることに気づき、独自に捜査を開始。成り行きから裏稼業の男たちに協力を求めるが、「影霧街」という言葉を口にしたことで、身柄を拘束されてしまう。その後、男性経験のない美少女という点に希少価値を見いだされ、影霧街に商品として連行されるが、連続殺人鬼の少年「A」と健一の行方を追う涸沢によって救出された。以降は彼に協力するようになったが、拠点として利用していた「ホテルるみえ」で暴力団「蟯鳴会」の構成員とトラブルを起こしてしまう。
涸沢 (からさわ)
無精髭を生やした刑事の男性。黒いコートを身につけ、自動拳銃で武装している。頭髪で隠れているが、ある理由で片耳を欠損している。朝食を取ることなく喫煙で済ませるほどのヘビースモーカー。皮肉屋でひょうひょうとした態度を崩さず、頻繁に軽口を叩く悪癖がある。敵に対しては躊躇なく銃口を向けるが、肝心なときに拳銃を紛失するなど、どこか抜けているところがある。また、威嚇のつもりで撃った弾丸で相手にケガをさせるなど、射撃も得意ではない。かつて、暴力団「蟯鳴会」の構成員・乙咩(おとめ)に捜査情報を流し、その見返りを得るという汚職に手を染めていたことがある。指名手配中の少年「A」と森口健一の殺害を企てており、彼らを追って「影霧街」に足を踏み入れた。健一の行き先を探るため、裏稼業に従事する男たちによって乙咩に売り渡されていた森口美音を保護。その後、彼女を蟯鳴会の手の及ばない「ホテルるみえ」に案内するも、厄介事に巻き込まれて抗争の火蓋を切ることになる。なお、フルネームや現在の階級は不明だが、回想シーンでは「池田警部」「ともくん」と呼ばれていた。
書誌情報
影霧街 4巻 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉
第1巻
(2022-05-19発行、 978-4065277935)
第2巻
(2022-08-19発行、 978-4065287972)
第3巻
(2022-11-18発行、 978-4065297957)
第4巻
(2023-02-20発行、 978-4065307168)