あらすじ
第1巻
自らが店主を務める文具店「しろがね文具堂」もろとも異世界に転移してきた白金マリアは、そこで知り合った魔族の少女、エスタと共に、魔族に文具を売りながら、元の世界に帰る方法を探す旅をしていた。そんなある日、マリアとエスタは冒険者の戦士、ラインハルトに襲い掛かるも、まるで気にも留められず放置されたことで屈辱に震えるゴブリンの姿を目撃する。自分が伝説のゴールデンゴブリンならば、こんな悔しい思いをしなくても済むのにというゴブリンに同情したマリアは、彼にメーカー希望小売価格と同額で、油性ペン「マッキー」の金色を販売。ゴブリンはこれで自らの体を金色に塗って、ラインハルトに再戦を挑む。するとその体色に怯えたラインハルトは逃げ出し、ゴブリンは戦わずして溜飲を下げるのだった。一方、いいことをしたと満足感を覚えつつ旅を続けていたマリアは、エスタに誘われ、彼女のなじみだという一軒の宿を紹介される。そこは魔族、夜の眷属が営む、旅人の疲れを心と体の両面から癒すという、大人の雰囲気漂ういわくありげな宿だった。そこでマリアは、先代の魔王、ゼロフィスが亡くなって以来、夜の眷属が抱えている問題を知ることとなる。(Episode1「夜の眷属と不思議なメモ」。ほか、5エピソード収録)
関連作品
漫画
本作『文具を売るなら異世界で!』の前作に、海産物の『文具を買うなら異世界で!』がある。KADOKAWA 電撃コミックス NEXT刊行。こちらは文具店「しろがね文具堂」を舞台に、店主の白金マリアが冒険者や魔族に文具を販売し、よりよい異世界ライフを提供する姿を描いたファンタジー作品で、前作ながら時系列としては『文具を売るなら異世界で!』の後日譚にあたる。
登場人物・キャラクター
白金 マリア (しろがね まりあ)
文具店「しろがね文具堂」の店主を務める若い女性。ある日突然、現代日本から剣と魔法のファンタジー世界に店ごと転移。右も左もわからない世界で困惑していたところで、魔族の少女、エスタと出会い、彼女の提案で文具を売りながら、元の世界に戻る方法を探る旅に出ることとなった。心優しくおおらかな性格で、困っている相手を見ると放っておくことができない。また、自分が利用されていることを知ったうえでもなお、窮地に陥った自分のことより、その相手のことを心配するほどのお人好し。ただし、ただおっとりしているだけではなく頑固で肝の座ったところもあり、言うべきところでは穏やかな言葉ながらきっぱりと自分の意見を主張する。また、怖い話が大好きで、幽霊でもグールでもなんでもこいという胆力の持ち主ということもあり、非現実的な剣と魔法のファンタジー世界にも、あっという間に適応した。一方で、旅をするうえで強いられる野宿が何よりも嫌いで、ちゃんとした寝床を確保するためであれば、損得を考えないところがある。商売道具である文具に対する愛は強く、その由来や機能の細かい部分に至るまで精通しているほかアイデアも豊富で、便利で変わった使い方も編み出している。ちなみに、同行しているエスタが魔族ということもあり、商売をするのは人間ではなく、もっぱら魔族が相手。のちにエスタの本性を知ってからは、元の世界に戻ることをあきらめ、しろがね文具堂の営業を正式に開始して、白金マリアなりのやり方で、エスタの世界征服の野望に手を貸すようになる。
エスタ
魔族の少女。耳が少々とがっている点以外は、ふつうの人間と変わらない外見をしている。「~するだロ」「~だからサ」と、少々ぶっきらぼうで語尾がカタカナになる特徴的な口調でしゃべる。異世界に転移してきた白金マリアが初めて出会った人物で、元の世界に戻りたがっている彼女に、魔族を相手に文具を売って、情報収集をする旅に出ることを勧めた。以後、道先案内人としてマリアに同行している。その正体は、10年前に人間の勇者に倒され命を落とした魔王、ゼロフィスの娘で、マリアをこの世界に召喚した張本人。勇者が異世界から召喚し、ゼロフィスを倒す際に利用した「文具」の力を逆に利用し、ゼロフィスの悲願であった魔族による世界征服を目論んでいる。マリアに文具を売る旅に出るようにうながしたのも、ゼロフィスの死後、魔族が失いつつある力を文具で補完し、同時に自らの配下として揺るぎない支配関係を再構築するためである。目的のためなら人間はもちろん、ほかの魔族の命も顧みない冷徹な性格をしている一方で、おおらかなマリアに対してはついそのペースに飲まれてしまい、ツンデレな様子を見せることも多い。のちにゼロフィスの真意を知ってからは、マリアと協力してマリアの提唱した平和的な方法で世界征服を実現するため、文具の行商に出るようになる。
ゴブリン
小柄な人型の、魔族のモンスター。ラインハルト率いるパーティに襲い掛かるも、非常に弱いモンスターとして知られていることもあり、まるで相手にしてもらえなかった。姿かたちはゴブリンに似ていながら、その強さはS級とも評される「伝説のゴールデンゴブリン」だったらこんな屈辱は味わわずに済んだのにと嘆いていたところ、白金マリアとエスタに出会い、マリアから油性ペン「マッキー」の金色を購入。これを使って体や鎧を金色に塗り、ラインハルトたちに再度戦いを挑む。
ラインハルト
戦士の青年。駆け出し舞闘家のチェンリー、同じく駆け出し魔術師のサーリィと三人でパーティを組んでいる。かつて魔王を倒した勇者の後輩を自称し、ゴブリン程度ならまったく寄せ付けない程度の実力は持つ。そのため、チェンリーとサーリィに対しては調子に乗って先輩風を吹かせているが、エスタには口だけの三流冒険者と評された。事実、体を金色に塗っただけのゴブリンと、伝説のゴールデンゴブリンとの見分けもつかない。また、窮地においては仲間を見捨てて真っ先に逃げ出す小心者なところがある。
チェンリー
駆け出し舞闘家の少女。同じく駆け出し魔術師のサーリィ、先輩戦士のラインハルトと三人でパーティを組んでいる。「~っス」と語尾に付ける、少々軽めの男口調でしゃべる。かつて魔王を倒した勇者の後輩を自称するラインハルトのことを頼りになる先輩として慕っており、彼の大言壮語も信じ切っている。
サーリィ
駆け出し魔術師の少女。同じく駆け出し舞闘家のチェンリー、先輩戦士のラインハルトと三人でパーティを組んでいる。眼鏡をかけており、敬語でしゃべる。かつて魔王を倒した勇者の後輩を自称するラインハルトのことを頼りになる先輩として慕っており、彼の大言壮語も信じ切っている。
アン・ランドース
魔族、夜の眷属の当主を務める女性。夜の眷属が営む宿「刻夜館」の主でもある。ウェーブがかったゴージャスな金髪ロングヘアで、細身ながら胸と腰回りは豊満なセクシーなスタイルを持つ美女。刻夜館では、「心と体を癒すことこそ最大の癒し」をモットーに、飲み物・食べ物は客の求めるものすべてを提供。さらに部屋では客と二人きりになり、その体を使って心ゆくまで癒している。なお、言い回しは大仰だが、実際はふつうのマッサージである。ちなみに刻夜館では金品での対価を受け取らない代わりに、客には蚊に刺された程度のごく微量の血の提供を求めている。実は夜の眷属は他者の血からその人物の記憶を見ることが可能で、刻夜館の実態は魔王直属の諜報機関である。ただし、先代の魔王、ゼロフィス亡きあとは夜の眷属としての能力が弱まっており、以前なら一晩は保った他者の記憶も、現在はすぐに忘れてしまうようになっている。そのため、夜の眷属全体の情報収集能力が著しく低下しており、アン・ランドース自身も、そのことに頭を悩ませている。
カイ
魔族、竜人族の少年。ガベルの息子。姿かたちは人間とほぼ同様だが、頭に2本の角があり、背中にはコウモリのような翼が生えている。眼鏡をかけたインテリ派で、石の収集を趣味としている。かつて魔族最強の戦士として知られ「戦鬼」と恐れられた竜人族でありながら、狩りにも行かせてもらえないと、父親のガベルの過保護ぶりに反発しており、時々内緒でビッグフットの住む森に足を踏み入れている。運悪くビッグフットに見つかって逃げている最中に白金マリアやエスタと出会い、助けてもらった対価としてその日の寝床を提供するため、マリアたちをガベルと二人暮らししている家へと招いた。先代の魔王、ゼロフィス亡きあと、戦闘能力を大幅に低下させた竜人族の力を取り戻す「竜の雫」という石をずっと探しており、その石をビッグフットが持っていることを突き止めたが、ガベルには信じてもらえずにいる。
ガベル
魔族、竜人族の男性。カイの父親。姿かたちは人間とほぼ同様だが、頭に2本の角があり、背中にはコウモリのような翼が生えている。かつては魔王軍の総将軍を務め、「猛将ガベル」の名で敵味方を問わず恐れられた存在だったが、先代の魔王、ゼロフィス亡きあとはその戦闘能力の大半を失い、息子のカイと共に森に隠れ住んでいた。その能力の劣化は著しく、森に移り住んできたビッグフットに手も足も出ずにおり、食料を調達するのにも苦労している。カイのことは自らの命を賭しても守り抜こうと大切に思っているが、心配が高じて子供扱いし未だに狩りにも連れ出しておらず、カイからは反発されている。カイが、戦闘能力を大幅に低下させた竜人族の力を取り戻す「竜の雫」を見つけたという時もウソだと決めつけて信じずにいたが、カイの決死の行動により竜の雫を手に入れ、往年の力を取り戻してビッグフットを撃退。同時に子供扱いしていたことを詫び、カイのことを一人前の竜人族として認める。
ビッグフット
カイやガベルが暮らす森に移り住んできたモンスター。非常に大型の猿のような外見をしている。そのパワーは絶大で、魔族最強の竜人族とはいえ、戦闘能力の大半を失ったガベルではまるで相手にならないほど。だが、身につけていた「竜の雫」をカイに奪われ、その力を取り込んだガベルの前にあっさりと敗退する。宝石と人間の女性が大好きで、巣に持ち帰ってため込む習性がある。
バルムンク
魔族、魚人族の王の座に就く男性。魚の両脇から手足の生えた姿をしている。全身には無数の傷が刻まれ、鋭い目つきをした一族最強の戦士でもある。人語をあやつることが可能で、語尾に「~ギョ」を付けた特徴的な口調で話す。一方で非常に血の気が多い戦闘種族であり、言葉よりも体で語ることを好む。かつて魚人族は、魔王海軍の主力を担うため、魔王から高い知力を授けられたという経緯があるが、先代の魔王、ゼロフィス亡きあとは知力を失いつつあり、思考能力や記憶力が大幅に低下することとなった。もともと魔力の高かったバルムンクと妻のミステルテインだけは思考能力を保っているものの、ほかの魚人族の知力の低下により一族の運営がままならず、頭を悩ませている。また、記憶力の低下はバルムンクにも影響を及ぼしており、記憶を1日しか維持できない。ちなみに、一族そろって猫が苦手で、猫の形をした縦型ペンケース「プニラボ スタンドペンケース」にすら怯えてしまうという弱点がある。
ミステルテイン
魔族、魚人族の王であるバルムンクの妻。下半身は魚だが、上半身は美しい女性の姿をしている。非常に思慮深く、血の気が多く短慮なバルムンクのよきパートナーとなっている。かつて魚人族は、魔王海軍の主力を担うため、魔王から高い知力を授けられたという経緯があるが、先代の魔王、ゼロフィス亡きあとは知力を失いつつあり、思考能力や記憶力が大幅に低下することとなった。もともと魔力の高かったバルムンクとミステルテインは思考能力を保っているものの、ほかの魚人族の知力の低下により一族の運営がままならず、頭を悩ませている。また、記憶力の低下はバルムンクをも蝕んでいるが、唯一ミステルテインだけはそれも免れている。ちなみに、一族そろって猫を苦手としているが、ミステルテインだけは猫の形をした縦型ペンケース「プニラボ スタンドペンケース」が作りものだということを認識し続けているため、特に怯えることもない。
ケルベロス
夜な夜な不審な影が徘徊するという墓地で、白金マリアやエスタが出会った黒い犬。非常に人懐っこく、マリアに懐いていたが、その正体は三つの頭を持つ冥界の番犬、ケルベロスで、冥界の理を乱す死霊の鎧と、鎧にとらわれた魂を回収するために墓地を訪れていた。先代の魔王、ゼロフィスの娘であるエスタを、ひと睨みで昏睡させるほどの非常に強い力を持つ存在。その立場からさまざまなことに精通しており、レブの魂を死霊の鎧から解放してくれた礼として、マリアにエスタの重大な秘密を告げる。
レブ
モンスター、死霊の鎧に魂を取り込まれた女性。死霊の鎧は死者の魂を取り込んで動く全身甲冑のモンスターで、手に触れたものから生命力を奪い取るという性質がある。また、取り込んだ魂が強ければ強いほど強力とされ、かつてはその部隊が魔王の近衛兵を務めていたこともある。とある墓地に現れ、夜な夜な不審な影が徘徊すると噂になっていたため、その調査をするために訪れた白金マリアやエスタと出会った。本来ならば死霊の鎧は人語をしゃべることも可能なはずだが、レブは生前の生命力が非常に弱かったため、しゃべることができない。そのため、「ふきだしノート」でマリアたちと意思疎通を図ることとなった。その過程で、生前は体が弱く満足に外で遊べなかったこと、花冠を作ってみたかったことを打ち明ける。なお、死者の鎧に捕らわれた魂は、未練が解消されると解放されるものの、冥界への扉は生者が死亡した一瞬しか開かれないため、行き場もなくさまよいそのまま消滅してしまう。
オウガ
魔族、獣人族のワータイガーの長の座に就く男性。人狼族の長、ガロとはライバル関係にあり、互いに自分の方が上だと認めさせるため、何かにつけて競い合っている。獣王族の王になる試練を受けるため獣王塚へと向かっていたが、今回は王候補がオウガにガロと二人いるため、魔族のあいだに名を知られ始めた文具行商人である白金マリアとエスタに、公正な見届け人役を依頼した。力の獣人族として知られるワータイガーならではの、ゴーレムをも破壊する威力を秘めた「狂虎咆哮撃(きょうこほうこうげき)」を得意とする。また、のちに試練の中で窮地に陥った際、マリアのアドバイスを受けて、彼女が使っていたハサミ「フィットカーブカット」を応用したガロとの協力技「虎狼曲斬撃(フィットカーブカット)」を編み出す。
ガロ
魔族、獣人族の、人狼族の長の座に就く男性。ワータイガーの長、オウガとはライバル関係にあり、互いに自分の方が上だと認めさせるため、何かにつけて競い合っている。獣王族の王になる試練を受けるため獣王塚へと向かっていたが、今回は王候補がオウガにガロと二人いるため、魔族のあいだに名を知られ始めた文具行商人である白金マリアとエスタに、公正な見届け人役を依頼した。その速さで知られる人狼族ならではの、まるで分身したかのように見える精密な連続攻撃「群狼一閃突き(ぐんろういっせんづき)」を得意とする。また、のちに試練の中で窮地に陥った際、マリアのアドバイスを受けて、彼女が使っていたハサミ「フィットカーブカット」を応用したオウガとの協力技「虎狼曲斬撃(フィットカーブカット)」を編み出す。
ゼロフィス
エスタの父親。10年前に人間の勇者に敗れて命を落とした先代の魔王で、生前は世界征服を掲げて人間たちとの戦いを繰り広げた。もともとは勇者よりも高い戦闘能力を持っていたが、その差を埋めるため勇者が異世界から呼び出した文具マスターが繰り出す文具の前に、不覚を取った。ゼロフィスが滅んで10年が経過した現在では、魔族はその力を大幅に失いつつあり、体力や知力の大幅な低下など、深刻な被害をもたらしている。生前は毅然とした態度で、娘であるエスタにも厳しくあたっていたが、それは魔王としての責任からくるもので、実際はエスタのことを心から愛していた。致命傷を受け、決着がついたところで文具マスターから手渡された「ツバメノート」に、エスタに向けた自らの思いを綴り、人間に対する厳重な封印を施した宝箱にそのノートを遺した。
文具マスター
人間の勇者に召喚された、眼鏡をかけた謎の青年。勇者と魔王、ゼロフィスの戦いにおいて、文具の力を使って勇者をサポートし、ゼロフィス討伐の大きな役割を果たした。「文具は人を傷つけるものではなく、助けるもの」を持論とし、戦いに文具を用いたのは魔王から人間を守るためだと主張。勇者が致命傷を負ったゼロフィスにとどめを刺そうとするのを制し、ゼロフィスに、娘のエスタへの思いを書き遺すよう「ツバメノート」を手渡した。
勇者
10年前、魔族と人間との戦争が起こった際に、人間側の勢力を率いた青年。自らの戦闘力が魔王、ゼロフィスに及ばないことを自覚し、奥の手として異世界から文具マスターを召喚した。彼の助けを得てみごとにゼロフィス討伐に成功。以来、人間に対する魔族の脅威度は大幅に低下することとなった。
クレジット
- 原作
-
とよだ たつき
- 監修
-
高畑 正幸