自分に足りない「何か」を求めて写真館で働く主人公
五十嵐太一は、幼い頃から写真に没頭し、若くして天才と称されるが、「自分の写真には何かが足りない」と感じていた。そんなある日、太一は、自身がグランプリを取ったコンテストで一枚の写真と出合い、なぜか深い感銘を受ける。それは、写真館を経営する鮫島武治が撮影した、ただのモノクロの人物写真だった。この人なら自分に足りない何かを教えてくれるかも知れない。そう考えた太一は、鮫島の押しかけ弟子になり、寂れた写真館で働き始めた。本作は、人とのコミュニケーションが不得手な太一が、さまざまな出会いを通じて成長していく姿を描く。
写真に込められた「想い」とは
写真を学ぶために鮫島の弟子になった太一だが、肝心の鮫島は何も教えてくれる様子はない。「撮影だけがカメラマンの仕事ではない」と言われた太一は、アシスタントに加え、接客の仕事もするようになる。写真館を訪れるのは、結婚記念日の写真を撮りに来るケンカの多い夫婦や、遺影のために写真館を訪れる、愛妻を亡くした老人などさまざまである。太一は写真館での仕事を通じ、写真に込められた「想い」が人を惹きつけることを知る。そして、撮影された人はもちろん、その人の大事な物や場所といった「想い」をかたちに残すことができる、写真の仕事がますます好きになっていく。
人間ドラマに重点を置いたストーリー
本作は人間ドラマに重点が置かれているのが特徴で、鮫島に弟子入りした新進気鋭のカメラマン・太一の視点から、写真館を訪れる人々のエピソード全五話を、一話完結形式で描いている。一方で、写真館の仕事もリアルに描写されている。撮影技術や機材など専門的な話は多くはないが、第二話では、ケーキの写真をSNSに掲載しようとする洋菓子店の娘が、スマホ撮影のポイントを教わるエピソードがある。
登場人物・キャラクター
五十嵐 太一 (いがらし たいち)
若くして才能を認められたカメラマンの青年。子供の頃、忙しい両親にカメラを与えられ、写真を始める。初めは居心地の悪い家から逃げ出す言い訳だったカメラだが、いつしか「世界を切り取る」行為にはまる。高校時代は写真部に所属していたが、一人で行動することが多かった。フリーのカメラマンになってから3年で、大きなコンテストで優勝。世間に才能を認められる。しかし、自分の写真に満足しておらず、コンテストで佳作だった一枚の写真に魅せられ、その撮影者である鮫島武治に弟子入り。寂れた鮫島写真館で働くことになる。
鮫島 武治 (さめしま たけじ)
鮫島写真館を経営する老人。妻とサラリーマンの息子がいる。温厚な性格で笑顔を絶やさない。突然押しかけてきて弟子になりたいという、五十嵐太一を迎え入れる。太一の撮影技術を認めながら、「撮影だけがカメラマンの仕事ではない」と教えた。