閉鎖された渋谷を舞台にしたサバイバル
本作の舞台となるのは、若者たちで賑わう、現代の東京都・渋谷。3月3日の午後、突如として大量発生した空中を飛ぶ金魚が、人間を食い殺し始める事件が発生する。スマホは圏外になり、渋谷全域で停電が発生。渋谷駅の電車も金魚の群れにより破壊されてしまう。また、金魚鉢のような形状の巨大で分厚いガラスの壁に囲まれ、渋谷は出入り不可能な陸の孤島となっていた。そこへ自衛隊のヘリが現れ、6日の午前5時に救助に来ることがアナウンスされる。主人公の月夜田初、駆け出しアイドルの碓氷アリサたち生存者は、犠牲者を出しながらも、自衛隊の指定場所になんとか辿(たど)り着く。しかし、救助ヘリはひときわ大きな金魚にあっさりと食われてしまう。完全に外界と遮断された極限状況で、頼れるのは己と信頼できる仲間のみ。本作は、渋谷に残された人間たちと、人喰い金魚の生存競争を描いたサバイバルホラーである。
人喰い金魚の生態
突如出現した人喰い金魚たちは、通常よりはるかに巨大で、空を飛ぶ怪物である。また、「もういいかい?」「また明日」など、短い言葉を一方的に発している。ただし、色や形状はリュウキン、デメキン、ランチュウなどと同じで、「視力が弱く、主に匂いと音でエサを探す」「群れを作って泳ぐ」「夜は物陰に入って眠る」といった普通の金魚と同様の習性を持つ。そこで初たちは、その習性を利用し、人間の匂いを消すためにゴミまみれになったり、音を立てずに移動したりする。しかし「スマホのアラームが鳴る」「知らない間に体内に入り込んでいた金魚の稚魚が、体を食い破って大量に発生する」といった不測の事態で、何度も窮地に追い込まれてしまう。
人喰い金魚殲滅計画
人喰い金魚発生から5日後、金魚の群れから下水に逃れた初とアリサは、渋谷最凶のホームレス「渋谷の貂」と出会う。貂は二人を罠(わな)に掛けるが、初の機転とアリサの覚悟を認め、自分の拠点である副都心線の電車車両に案内する。そこには、かなりの生存者が生活しており、人喰い金魚の研究をしている大学の研究者がいた。貂たちは渋谷から逃げるのではなく、渋谷にいる金魚の殲滅(せんめつ)計画を立てていたのだ。彼らによれば、多くの従者を引き連れる姫のような存在「アルビノの土佐錦魚」がおり、その土佐錦魚を調べることが計画の鍵になるという。初たちはアルビノの土佐錦魚の生け捕りを試みることになる。
登場人物・キャラクター
月夜田 初 (つきよだ はじめ)
高校2年生の平凡な男子。趣味は映画鑑賞と映像の撮影・編集。単調で予定調和な日常に飽き、なんとなく渋谷に来たところ、人食い金魚の群れに襲われる。金魚に追い詰められ、道玄坂のホテルから飛び降りるが、空中の金魚がクッションになって一命を取り留める。以後、アイドルの碓氷アリサ、警察官の雪野杏子らに助けられ、行動を共にする。仲間思いの優しい性格をしている。また、一見頼りないが、いざというときは機転をきかせて危機を乗り越える。
渋谷の貂 (しぶやのてん)
渋谷最凶のホームレスとして名高い若い男性。人間らしい心はなく、平気で人を騙したり裏切ったりする。ヤクザと揉めた際、組の幹部を半殺しにし、相当数の組員を潰した狂気じみた男。金魚に対しても圧倒的な強さを示す。自分の「家」ともいえる渋谷で勝手に暴れる金魚に怒っており、ナタやノコギリ、化学薬品などあらゆる武器を使って金魚を虐殺しまくる。
碓氷 アリサ (うすい ありさ)
駆け出しのアイドルの少女。百貨店の5階で倒れていた初を、数人で助けた。以来、初と行動を共にする。ツンデレ気味な性格だが、優れた行動力と覚悟の持ち主。ファンを非常に大切にしており、ファンのために絶対に生きて帰るというアイドル魂を持つ。
書誌情報
渋谷金魚 全11巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスJOKER〉
第1巻
(2017-02-22発行、 978-4757552531)
第11巻
(2021-06-22発行、 978-4757573284)