夜姫さま

夜姫さま

怪奇的な要素をはらむさまざまな姫を主軸にした、10のエピソードを収録したオムニバス作品集。「月刊ホラーM」2005年11月号から2007年1月号にかけて不定期に掲載された。

正式名称
夜姫さま
ふりがな
よるひめさま
作者
ジャンル
ホラー
関連商品
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あらすじ

鷹姫さま

つがいで空を飛んでいた鷹姫は、若い猟をする青年に撃ち落とされてしまう。鷹姫は人間の女性に変身し、撃ち落とした獲物である自身を捕えに来た青年を油断させ、騙し討ちにしようとする。ところが、手当をしてくれた彼の見た目の良さに心を奪われてしまった鷹姫は、彼に付いて行き、結婚して子供を授かる。

泥姫さま

小学生のタカヒロは、パパとママに連れられて、油混じりの汚い海に海水浴にやって来た。とても泳ぐ気になれない汚れた海辺で、タカヒロは泥で出来た亀の像を見つける。崩れていたその亀の形を直してやると、亀は動きだし、お礼にとタカヒロを泥姫の待つ泥宮城に連れて行く。

猫姫さま

少年のは、見世物小屋のアルコール瓶漬けの少女の生首を気に入って通い詰めていた。見世物小屋一座の、猫のような耳と手足を持つ猫姫は僕を気に入り、逢引の手土産として、僕が希望した生首を持って来てくれる。ところが、僕は猫姫を崖から突き落とし、生首だけを持ち帰ってしまう。

闇姫さま

朝帰りしては、食事も作らず暴力を振るう母親と暮らす小学生の闇姫さまは、目を閉じて自分1人だけの闇の王国にこもって価値観を逆転させ、夢想して過ごしていた。その世界では、世間の人々は下賤の者たちとして存在していた。そんなある日、同じクラスの男子の内藤が、闇姫さまに声をかけてくる。彼は食事を奢るから言うことを聞いて欲しいと告げるのだった。

井戸姫さま

少年のはある夏の日、人気のない林の奥の廃井戸の中にいる井戸姫を見つける。上半身が美しい裸の女性、下半身は蛇の姿をした井戸姫に魅入られた「僕」は、家にあった食材やお菓子を彼女に与える。なかでも肉を好む井戸姫の、本当の望みを直感的に知った「僕」は井戸の中に入り、彼女に進んで食される。

夢姫さま

ポニーテールの少女・あたしは火事の夢、墓地の夢、森の中の夢を見る。どの夢も不気味で、必ず、が現れる。夢の半ばまでは、「あたし」は弟の存在を受け入れている。しかし、夢の終わりには必ず、自分には弟がいないことに気付き、これは夢なので早く目覚めなければいけない、と思う点が共通している。そして気付けば、珍しく盛装した母親に連れられて、母親の再婚相手に会いに向かっていた。

夜姫さま

幼く可愛い女の子夜姫さまは、夜の空を身ひとつで飛び、朝になると自身の身体へと帰っていく。夜姫さまの姿は人には見えないが、影響を与えることは可能で、興味の赴くまま、死にきれずにいる自殺志願者の後押しをしたり、戦争で燃える都市を眺めて綺麗と評する惨酷な一面を持つ。ある夜、見かけた仲睦まじい若い男女を放っておけず、浮浪者をそそのかして帰途の女性を刺殺させる。

星姫さま

角髪(みずら)のような個性的な髪型をした女性星姫さまが、おひつじ座から順に読者に向けて星座占いをする。内容は毒毒しいもので、搾取されつくす人生や、嫉妬に狂う人生だとか、良い言葉は1つもない。

沼姫さま

沼で釣りをした青年は、沼地から黒く腐乱した女性を釣り上げてしまった。指に凝った細工の指輪をしていたので、それを奪って、女性の遺体はそのまま沼地に沈めて帰宅する。青年はその後、その指輪を恋人に贈る。だが、喜ぶ恋人の後を、不気味な女の影が追いかけていく。やがて恋人は指輪をつけたところから黒く変身し始める。

口裂け姫さま

年頃の女性であるサキは、これからトモヒロと挙式する直前になって、自分は口裂け女だと打ち明ける。小学生の頃、母親の口紅でふざけて耳まで裂ける大きな口を描いたら、本当に口が大きく裂けたと語る。彼女は人を脅かして遊び、勢いでクラスメイトの飼い犬を食べ、ついでにクラスメイトも食べてしまったと語るのだった。

登場人物・キャラクター

鷹姫 (たかひめ)

エピソード「鷹姫さま」に登場する。本性は鷹で、つがいの傍らを飛んでいた時に、右羽の付け根を猟をする青年に撃たれて落下する。若い女性の姿に変身して難を逃れようとするが、撃った青年に手当されて一目惚れし、街に帰る彼に付いて行き森を離れた。

タカヒロ

エピソード「泥姫さま」に登場する。小学生の男の子。連れて来られた海水浴場が油まみれで汚く、人気のない場所だと分かっていながらも、素直に喜んで遊ぶような大人しい性格。パパとママに連れて来られた海水浴場にあった、砂で出来た崩れかかった亀を直してやった。

(ぼく)

エピソード「猫姫さま」「井戸姫さま」に登場する。制帽をかぶってシャツ、半ズボンを着用した少年。「猫姫さま」では、見世物小屋の出し物である、ガラス瓶にアルコール漬けにされた少女の生首に惚れている。思い込みの激しい性格で、生首に好かれていると信じ、見世物小屋の猫姫を騙して利用し、生首を持ち出させた。エピソード「井戸姫さま」では、夏の暑い日に、人気のない林の奥の廃井戸で井戸姫を見つけ、菓子を与えて井戸姫を飼ったつもりで楽しんでいた。 こちらの僕も、井戸姫に好かれていると思い込んでいる。

闇姫 (やみひめ)

エピソード「闇姫さま」に登場する。小学生の少女で、護身用に常にトンカチを首から下げている。現実の世界では母親から育児放棄され、学校では虐められて過ごしている。それを逆に捉え、自分は高貴な闇姫だと空想して過ごすことで心を慰めている。学校の近くでクラスメイトの少年内藤に出会い、優しくされたために、望みのほうびを与えようとした。

学生のあたし (がくせいのあたし)

エピソード「夢姫さま」に登場する。ポニーテールの少女で、10代の学生。夢の中で、弟と一緒に過ごし、決まって火事に巻き込まれる等の危険にさらされる。その夢の終わりに、自分に弟はいないと気づいて、また別の局面を迎える。夢ごとにまた弟を助けようと振る舞う、思いやりのある性格の持ち主。

幼女のあたし (ようじょのあたし)

エピソード「夜姫さま」に登場する。外国人の幼女で、身ひとつで夜の空を飛び回る。躊躇いなく自殺志願者の後押しをしたり、戦争で街に打ち込まれるミサイルに乗り、燃える街を綺麗だと言ったりと、自己中心的で傲慢な性格。

星姫 (ほしひめ)

エピソード「星姫さま」に登場する。角髪(みずら)のような個性的な髪型をした大人の女性。読者に向けて、星座占いを述べていくが、貴方の未来と前置きして語る内容は、人の気分を害するような毒に満ちたものばかり。

沼姫 (ぬまひめ)

エピソード「沼姫さま」に登場する。真黒で肉の削げた女性の遺体のような存在。指輪をした状態で沼に沈んでいた。沼で釣りをした青年に釣り上げられ、指輪だけを持ち去られてしまう。

サキ

エピソード「口裂け姫さま」に登場する。ウェディングドレスを美しく着こなした、若い女性。結婚式の直前になって、夫となるトモヒロに、小学校時代の思い出話を語る。そのなかで、彼女は家にあった口紅を付けると口裂け女に変身したので、それを面白がって周囲の人を脅かして回ったと語る。そしてクラスメイトの飼い犬に吠えられたため、犬を食べてしまい、その飼い主から告げ口され怒られるのが嫌で、飼い主も食べてしまったことを告げる。 しかも大人を2人食べた経緯までも、平然と微笑んで語るような自己中心的な性格。

猟をする青年 (りょうをするせいねん)

エピソード「鷹姫さま」に登場する。整った顔立ちの青年。森で狩猟中に出会った、肩を負傷した鷹姫を連れて街へと帰った。彼女が鷹の変化であることを知らずに結婚し、子供を授かる。

泥姫 (どろひめ)

エピソード「泥姫さま」に登場する。一見すると若く美しい女性の姿だが、すぐに泥の本性を現して、どろりと顔が溶けてしまった。小学生の男の子タカヒロが崩れた泥の亀を直してやったことの御礼として、泥宮城に招き、舞踊りを披露してタカヒロをもてなした。

猫姫 (ねこひめ)

エピソード「猫姫さま」に登場する。猫に似た手先と足先、猫耳を持つ少女。同じ見世物小屋のガラス瓶詰めの少女の生首に惚れ通いつめている少年、僕に想いを寄せている。一途で裏表のない性質故に、手土産に生首を希望した「僕」から呼び出された先が人気のない森の中でも、疑わずに出かけてしまった。

少女の生首 (しょうじょのなまくび)

エピソード「猫姫さま」に登場する。少女の首がアルコール漬けされたもので、見世物小屋の見世物の1つ。少年の僕が惚れこんで、連日見に通っている相手でもある。同じ見世物小屋にいる猫姫は「僕」に好意を抱き、「僕」の言いつけ通りに、この少女の生首を持ちだして彼に与えてしまう。瓶から出された生首は首のまま大きくなり、少年に自分は妖怪「大首」だと告げる。

内藤 (ないとう)

エピソード「闇姫さま」に登場する。小学生の男の子で、虐めを受けて不登校になった少女闇姫のクラスメイト。自身を周りの人より高貴な存在「闇姫」と空想することにより、辛い現実から逃げている彼女に味方をする。「闇姫」も彼のことだけは、まともな人間だと覚えていた。

井戸姫 (いどひめ)

エピソード「井戸姫さま」に登場する。上半身は妖艶な裸体の女性の姿をし、下半身は蛇の姿をしている。林の奥の廃井戸の底に住んでいて、ある夏の日に、偶然覗いた少年の僕を虜にした。「僕」から色々な菓子を与えられたが、一番好きなのは肉。

(おとうと)

エピソード「夢姫さま」に登場する。まだ10代前半くらいの少年で、学生のあたしの弟。姉の見る夢の中では、火事の中を手を繋いで姉と一緒に逃げる。また別の場面に切り替わった姉の夢の中では、夢遊病持ちで墓場に彷徨い出て、骨壺の中の骨を齧っていた。夢の最初では姉に気遣われているが、夢の終わりに必ず、姉は弟なんかいないと思い出すので、異形の姿に変わってしまう存在。

沼で釣りをした青年 (ぬまでつりをしたせいねん)

エピソード「沼姫さま」に登場する。眼鏡をかけた青年。沼で釣りをしていると、真黒で肉の削げた女性の遺体のようなもの沼姫を釣り上げた。その指に嵌っていた緻密な細工の施された指輪だけを持ち去った。その指輪を、のちに青年は恋人に贈る。

恋人 (こいびと)

エピソード「沼姫さま」に登場する。若く美しい、沼で釣りをした青年の恋人。青年が釣り上げた沼姫から盗んだ指輪を、そうと知らずに贈られた。

トモヒロ

エピソード「口裂け姫さま」に登場する。若い男性で、若い花嫁のサキとこれから挙式を上げようとする直前に、彼女から自分は口裂け女だと告げられた。こんなめでたい場でそんな不気味な話をするな、とやんわりと窘(たしな)める、良識的な常識人。

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