灼熱のニライカナイ

灼熱のニライカナイ

小笠原諸島に左遷された鮫島灼熱が謎の少女、チャコやイルカの刑事、オルフェと出会い、島内で起こる事件を解決していく姿を描いたハードボイルドコメディ。「週刊少年ジャンプ」2020年30号から2021年29号にかけて掲載された作品。

正式名称
灼熱のニライカナイ
ふりがな
しゃくねつのにらいかない
作者
ジャンル
警察官・刑事・検察官
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

イルカとサメ

地球上の生物のうち、陸上に住むのはわずか約1割で、それ以外の900万種以上はすべて海に住む生物だと言われている。さらにはその海の生物のうち、人間に観測されているのはたったの5パーセント程度、つまり95パーセントは未知の海洋生物である。さらに海洋生物の中には、人が知らぬうちに思わぬ進化を遂げて陸上でも行動できる海洋生物も生まれていた。ハードボイルドをこよなく愛する鮫島灼熱は刑事として新宿で働いていたが、ある立てこもり事件での破天荒で無鉄砲な逮捕劇を咎(とが)められ、小笠原諸島にある遥か南の離島「姉ヶ島」の姉ヶ島署に転属となってしまう。そこで灼熱が出会ったのは、巨乳婦警の七瀬宇海と、かつて「神託の巫女(みこ)」として宗教団体「海の教団」に祭り上げられていた少女のチャコ、そしてイルカの姿をした謎の刑事、オルフェをはじめとする一癖も二癖もある変わった面々だった。オルフェの相棒として行動を共にすることになった灼熱は、父親代わりとなったオルフェが面倒を見ているチャコを中心に起こるさまざまな怪事件に巻き込まれるようになり、やがて彼女には海や海洋生物にまつわる不思議な能力があることが判明していく。そんな中、灼熱とオルフェは騒がしく対立しながらも、協力し合って島で発生するさまざまな事件を解決していき、次第にこれらの事件が海人と呼ばれている生物の中でも「海のギャング」として恐れられる者たちによってもたらされている事実を知る。そんな折、旅行者の田中が海辺で人面魚を助けるが、それは美しい女性の姿に変わって「セイラ」を名乗りながら、田中のことを竜宮に誘いたいという。田中から相談を受けてセイラたちのあとを追うことになった灼熱たちだったが、海底散歩のためにはある特殊な技術が必要だという。灼熱たちは、海底散歩に必要なあるアイテムを持つチャコの力を借りながら、未知の「竜宮」が広がる海の底を目指すこととなる。

海のギャング

鮫島灼熱の転属先である姉ヶ島は、海にまつわる異能力を持つチャコの影響で、人の姿に変化した海洋生物「海人」の活動がますます活発になっていた。そんな中、人面魚の女性、セイラを追って海底散歩に赴こうとする灼熱たちのもとに、緊急の連絡が入る。それは海のギャングとして有名な「大鰆(おおさわら)家」に属する海人たちに、不審な動きがあるという内容だった。そして、梶金之助という大鰆一家の若頭たちが現れ、灼熱とオルフェは彼らと対峙(たいじ)することになる。灼熱は戦いの中で海の底に沈められ、泳げない彼はピンチに陥るが追って来たチャコによって救出される。一方、オルフェは「ソードフィッシュ」の別名で知られるバショウカジキの高速遊泳や鋭い剣を武器とする金之助と、1対1の死闘を海中で繰り広げていた。高速で「スティンガー」を放ってくる金之助に対し、オルフェはふだんは手袋で隠している右腕と、爆発的な瞬発力を生み出すエコーリングで対抗する。追い詰められた金之助が逃げた先には、チャコに救出されて陸地に戻っていた灼熱が待ち受けていた。灼熱の一撃を受けた金之助は、かつて大鰆家で起こった出来事と、彼が「お嬢」と呼び慕う親分の娘のことを思い出す。ある日を境に海底の竜宮から消えたお嬢を捜し、オルフェたちの同情と敗北を悔やむ金之助の目の前に現れたのはセイラだった。セイラの正体は大鰆家の一人娘で、彼女が姿を消して陸地に上がっていた理由は婚活のためだった。灼熱たちにいつものような平和な日常が戻ったのも束(つか)の間、姉ヶ島署には今までにないほどに深刻な怪事件が舞い込み、かつてチャコが所属していた宗教団体「海の教団」の暗躍が島の平穏に影を落とし始める。

海洋機動捜査隊

姉ヶ島のあちこちで、人間の片足だけが発見されるという謎めいた怪事件が続発し、鮫島灼熱をはじめとする姉ヶ島署の面々は捜査に追われていた。そんな中、イルカのトレーナーを目指してマリンセンターに通う研修生の奥菜由香理が、様子のおかしいイルカたちによって海底に連れ去られ、彼女の相棒である葉村樹良は救助のために海底へと向かう。ようやく由香理を発見できた樹良だったが、そこへライフセイバーの神室洋介が現れ、由香理は彼のことを「教主様」と呼んでその場を去ってしまう。樹良の目の前に残ったのは、由香理が自ら切り落とした彼女自身の片足だけだった。ショッキングな事件のあとに、警察の事情聴取を受け、目の前で起こった出来事を涙ながらに語る樹良だったが、この事件は公安警察に一任され、公安の刑事は犯人を彼女だと決めつけるだけで、洋介の存在を認めようとはしなかった。公安の理不尽でいい加減な対応、そして樹良の目の前で由香理を連れ去った洋介に強い怒りを覚えた灼熱たちは、由香理が向かった謎の海底遺跡を調査することになる。その海底遺跡には、海の教団も狙っているある伝説級のアイテムが眠っていると言う。そして以前はオルフェの同僚だった神宮寺トメが率いる、海中戦闘のスペシャリストが集う部隊「海洋機動捜査隊」が姉ヶ島に到着し、彼女と対面した灼熱たちは個性あふれる強烈な隊員たちと行動を共にすることとなる。

海底遺跡

新たな名前を与えられた奥菜由香理が、海の教団と共に海底に姿を消した事件を受け、警察は教団の捜査を本格化するために海中戦闘のプロ、海洋機動捜査隊を姉ヶ島に派遣した。鮫島灼熱は隊長の神宮寺トメたちと共に海底遺跡を調べ始めたが、遺跡内で彼らを待ち構えていた神室洋介の手下である海人たちの襲撃を受ける。敵から毒を食らった灼熱は倒れて動けなくなり、朦朧(もうろう)とする彼の前にはさらなる強敵が現れる。さらに洋介たちのそばには、灼熱たちと友人になったはずの大鰆セイラがいた。一方、陸地で灼熱たちの帰りを待っている七瀬宇海チャコのもとには、海の教団の魔の手がせまっていた。大勢の強敵に囲まれ窮地の灼熱と宇海には、それぞれの仲間を守るための決断の時がせまる。激戦の中、以前から海中戦闘術の修行の中で、ある才能を発揮していた灼熱は、海洋機動捜査隊メンバーですら習得できなかった幻の大技「錬水」を繰り出して敵を圧倒する。そして遺跡の最深部には、教主の洋介が手下たちと共に待ち構え、ある野望を抱える彼との決着の時がせまる。一方、チャコたちのピンチに駆けつけたのは、オルフェたちに借りを返す機会をうかがっていた梶金之助だった。一見、警察に囲まれた沖浦芽衣を捕えるチャンスに思われたが、失った片足の代わりに強力な武器を手に入れていた由香理の急襲によって戦況は一気に逆転する。芽衣たちによって連れ去られたチャコを救出すべく、神宮寺トメの部下たちも動き出すが、遺跡に近づいた途端にチャコは不思議な力を覚醒させる。

邂逅の海

姉ヶ島の陸地で七瀬宇海たちを襲撃した沖浦芽衣奥菜由香理によって海底遺跡にチャコが連れて来られ、遺跡の奥にある神殿の最奥の扉が開き、海の教団が以前から求めていた五つ目の海神の断片である巨大な「左腕」がついにその姿を現す。海の教団の最終目的は、海の兵器とも呼べる海神の断片をすべて集め、これらを使って地球上のすべてを沈めて大海に還(かえ)すことであり、それは手始めに姉ヶ島全体が彼らによって海に沈められることを意味していた。新たな海神の断片の力を手に入れチャコを連れ去ろうとする由香理を前に、その強大な力に驚愕(きょうがく)しつつも立ち向かっていくオルフェは、昔から因縁のある相手である神室洋介と再会・対峙する。壮大な野望と恐るべき兵器を前に激突する二人の過去には、チャコの実母である櫛灘八重との出会い、そしてまだ人間であったオルフェが潜入した当時の海の教団で起こった凄惨な出来事があった。一方、洋介との最後の死闘をオルフェに任せ、彼が救出したチャコを託された鮫島灼熱は、彼女を守るために最後の力を振り絞る。だが、オルフェに勝利した洋介は切札である海神の断片の左腕を装着し、姉ヶ島の海流をかき乱すほどの強大な力で、最後の目的を遂げようとする。さまざまな思いと力が交錯する中、人間と海人がぶつかり合う海底の死闘は終結へと向かっていく。

登場人物・キャラクター

鮫島 灼熱 (さめじま ぼいる)

東京の新宿署に勤める警察官の男性。年齢は28歳。黒髪短髪のオールバックで、近眼で眼鏡をかけている。破天荒な荒くれ者だが、根はまじめで正義感が強く、仲間思いの性格をしている。愛称は「サメ」。人間離れした高い身体能力を誇り、ソバットをはじめとするさまざまな体術を得意としており、犯罪者を捕える時などにも活かしている。一方で、コンプライアンスを無視した問題発言と問題行為の常習犯だが、その多くは事件解決や民間人の救助・保護など、警察官としての職務を優先するためのものであり、私欲でこれらの行動に走っているわけではない。しかし、破天荒で無鉄砲な行動がふだんから上司に問題視されていたうえに、新宿で起こった立てこもり事件で犯人に拳銃を突きつけたのを咎められ、新宿署から転属させられ姉ヶ島の姉ヶ島署の巡査となった。そこで宗教団体「海の教団」から保護されたばかりのチャコと、同日に姉ヶ島署へ配属されたオルフェと出会い、相棒となった彼とは二人組で行動することも増える。チャコといっしょにいるうちに、彼女の周りで起こる海のギャング絡みの事件に巻き込まれることが増え、相棒のオルフェや同僚の七瀬宇海たちと協力しながら事件を解決に導いている。警察官として優れた勘を持つほか、逃走車のタイヤだけを的確に狙い撃つなど、拳銃の腕もオルフェを上回る。カナヅチだがダイビングの筋はよく、海底遺跡調査の任務をきっかけに葉村樹良から教わった。さらには神宮寺トメから教わった海中戦闘術でも思わぬ才能を発揮し、海洋機動捜査隊すら習得できなかった「錬水」という大技を、極限状態の時に限り使えるようになった。身長182はセンチ。誕生日は7月21日で、血液型はB型。愛煙家。

チャコ

姉ヶ島で暮らす謎の少女。年齢は5歳前後。無造作にはねた青緑色のセミロングヘアで、後頭部には長めのアホ毛がある。天真爛漫(らんまん)で活発な性格をしており、人懐っこく天然な一面もある。かつては宗教団体「海の教団」で神託の巫女「乙事ノ姫」として祭り上げられていたが、警察に保護されたあとはオルフェに引き取られたため、島民からはイルカに育てられた少女とうわさされていた。オルフェのことを父親として慕うだけでなく、鮫島灼熱にも懐いている。ふつうの人間の少女に見えるが、海の生物と会話できるだけでなく、そばにいるだけで海洋生物の成長や進化をうながす不思議な力を中心に、海にまつわるさまざまな能力を持っている。その力を無意識に発動するうちにさまざまな事件を引き起こし、時には悪い海人を引き寄せたり、能力を巡って海人や海の教団から狙われることもある。小柄な外見に反して大人を超えるほどの怪力と異様な身体能力を発揮し、灼熱とオルフェをまとめて持ち上げて海の上を走ることもできる。短い時間であれば海神の依(よ)り代となることも可能で、彼に憑依(ひょうい)されている時は意識を失って口調と雰囲気が変わる。また、この状態であれば一時的に体を12歳くらいまで成長させて、海神との力を引き出すこともできる。

オルフェ

警部補の男性。鮫島灼熱と同じ日に姉ヶ島署に配属された。イルカのような頭部と背中に背びれが生えた大男の姿をしており、頭頂部には十字型の傷跡がある。制服は背びれ部分が出せるように仕立て直しているため、切込みが入っている。フルネームは「オルフェウス・F・リッパー」。引き取ったチャコを娘として溺愛しており、彼女からも父親として懐かれている。ふだんは姉ヶ島にある一軒家で、チャコと二人で暮らしている。警察官としての階級は灼熱より上で、正式には彼の上司に当たるが、相棒としてコンビを組むことになり、共に任務をこなしている。灼熱とはチームワークを発揮し連携することが多い一方、チャコが彼になついていると感じた途端に嫉妬したり、些細(ささい)なことでケンカをすることも多い。灼熱と同様に身体能力はもちろん警察官としての能力も高く、特に海中での戦闘で本領発揮する。海に潜りながらでも戦闘ができるのはもちろん、衣服を脱ぐことで完全なイルカにの姿になって高速で泳ぐことも可能で、エコーロケーションや音波ビームなどのイルカならではの能力も強化した状態で使える。さらには、手袋を外した右手には、触れることで、海人の力を無力化させる力もある。この能力により過去に何人もの海のギャングを逮捕してきたため、彼らの一部からは恨みを抱かれている。海人たちのあいだでは伝説のイルカ刑事「地獄のオルフェ」の異名で知られ、「海を鎮める右腕」として恐れられる特殊な右腕を持ち、ふだんは手袋で隠している。もとはふつうの人間の警察官であり、本名は「南風原」。公安警察に所属していた当時は同僚の神室洋介(室伏)と共に、宗教団体「海の教団」に入り込んで潜入捜査をしていたこともある。しかし、いくつかの出来事をきっかけに室伏とは敵対するようになり、浅からぬ因縁を持つ関係となっている。特技は楽器演奏で、ウクレレで弾き語りもできる。

七瀬 宇海 (ななせ うみ)

警察官の若い女性。姉ヶ島派出所の巡査を務める。年齢は24歳。黒髪のポニーテールで、敬礼した時などに勢いで制服の胸ボタンが外れるほどの巨乳の持ち主。正義感が強く、面倒見のいい性格をしている。スタイル抜群の愛らしい容姿から、島民の男性からの人気を集めている。姉ヶ島署に転属となった鮫島灼熱の先輩として彼を迎え、その後も任務のために灼熱と共に行動することも多い。海が大好きでダイビングショップに勤めていた母親は、幼少期に海の事故で亡くなっており、現在は村長を務めている父親の七瀬源、祖父と共に暮らしている。村長の家でもある実家には、猿などの動物のほかに、近所の島民がよく出入りしているため顔が広く、島民の大半と知り合いや友人になっている。好物はかんも炒(いた)め。身長は155センチ。誕生日は4月3日で、血液型はO型。

深作 (みつくり)

姉ヶ島署に勤務する警察官の男性。鮫島灼熱たちの同僚で、年齢は25歳、小太りな体型のオタク。いわゆる中二病を患っており、急に中二病発言をしたり、アニメや漫画で得た知識を披露することがある。目が悪いわけではないが、右目には黒い眼帯を付けている。

七瀬 源 (ななせ げん)

姉ヶ島の住人で、七瀬宇海の父親。村の村長を務めている。昔は海洋考古学者をしていた。黒の長髪で口ヒゲを生やした中年男性で、細かいことは気にしない豪快で天然な性格をしている。猫を助けて崖から落ちそうになっていたところを、鮫島灼熱とオルフェたちに助けられたことで知り合った。

山本 大紀 (やまもと だいき)

姉ヶ島の住人で、姉ヶ島高校1年生の男子。リーゼントヘアで顔にそばかすがある。七瀬宇海のことを慕っている。同じ学校に通う友人の岡村勘助と共に行動していることが多い。当初は宇海と親しげに接する鮫島灼熱のことを一方的に敵視していたが、七瀬源が崖から落ちそうになっていたところを助けようとした出来事をきっかけに打ち解ける。

岡村 勘助 (おかむら かんすけ)

姉ヶ島の住人で、姉ヶ島高校1年生の男子。スポーツ刈りと短めの眉毛が特徴。七瀬宇海のことを慕っている。同じ学校に通う友人の山本大紀と共に行動していることが多い。当初は宇海と親しげに接する鮫島灼熱のことを一方的に敵視していたが、七瀬源が崖から落ちそうになっていたところを助けようとした出来事をきっかけに打ち解ける。

大鰆 セイラ (おおさわら せいら)

人面魚の女性で、リュウグウノツカイの海人。日曜朝の女児向けアニメのヒロインのような容姿を持つ。陸にやって来た理由は婚活で、そのターゲットには鮫島灼熱も含まれていた。海辺で悪童にいじめられていたところを旅行客の田中に救われ、お礼として彼を竜宮に誘おうとする。強力かつ凶悪な海のギャングにも造詣が深い。当初は単に「セイラ」とだけ名乗っていたが、その正体は海底の「深新宿町」を縄張りとする海のギャング「大鰆家」の一人娘であり、ギャングランクは19位。実は宗教団体「海の教団」から陸地に潜り込んだスパイで、陸地で得た警察などの情報をひそかに神室洋介たちに提供していた。教団に取り入ったのは病に倒れた父親を助けるためだったが、洋介に提供された薬で父親の病状が悪化してからは彼を恨んで復讐(ふくしゅう)の機会を狙うようになり、海底遺跡で灼熱たちと再会した直後に教団を裏切る。

五十山 秋生 (いそやま あきお)

姉ヶ島に住む老齢の独身男性。20年前に姉ヶ島に移住してからは、サツマイモ農家を営んでいる。七瀬宇海の家にはよく出入りしている。元・レスリング57キロ級チャンピオンの経歴を持つため、細身でか弱そうな見た目に反して海人にも負けないほどの戦闘力を持ち、自信満々で「この島にモブはいない」などと豪語するほど。好きな女性のタイプはぽっちゃり系の未亡人。

梶 金之助 (かじ きんのすけ)

海のギャング「大鰆家」の若頭で、バショウカジキから進化した海人の青年。ウニのような形状の黒髪短髪で、顔に傷痕がある。前科を持つ海のギャングでもあり、オルフェとは因縁がある。カジキが得意とする高速遊泳と剣のような形状に発達した上顎であらゆる物を穿(うが)つ技を得意としており、必殺技は片腕を鋭利な剣に変化させる「スティンガー」。陸地に行きたがっている大鰆セイラのためにチャコを捜していたが、その矢先に事件を起こしてオルフェに逮捕されたために彼を逆恨みしており、出所する頃には尊敬する親分が病に倒れていた。ある日を境に竜宮から消え去ったセイラを捜して舎弟の寒間と共に陸上に現れ、鮫島灼熱、オルフェと対峙する。

葉村 樹良 (はむら じゅら)

イルカのトレーナーを目指して姉ヶ島のマリンセンターに通っている研修生の少女。同期の奥菜由香理とはバディを組んでいる相棒で、親友同士でもある。色黒肌でロングヘアをツインテールにまとめており、前髪の一部にメッシュを入れている。気が強く、大人にも物怖(ものお)じしない、実直な性格をしている。和歌山県出身で、関西弁で話す。崖から落ちた由香理を追ってオルフェと共に海底に向かうも、彼女が片足を切り落として神室洋介と共に海底遺跡に消えたため、救出することはできなかった。教官が逮捕され、ほかのトレーナーが本土へ帰ってしまう中でその後も姉ヶ島に残り、鮫島灼熱たちの助けを借りながら、消えてしまった由香理のことを捜し続けている。海底遺跡調査の前に、泳ぎが苦手な灼熱にダイビングを教えた。

奥菜 由香理 (おきな ゆかり)

イルカのトレーナーを目指して姉ヶ島のマリンセンターに通っている研修生の少女。同期の葉村樹良とはバディを組んでいる相棒で、親友同士でもある。真ん中分けのロングヘアで、スレンダーな体型の美少女。暴走したイルカたちに連れ去られて行方不明となり、神室洋介に救出されるも、樹良のことを含め過去の記憶を失っていた。のちに崖から転落して救出に来た樹良と海底で再会するも、自らの右足を切り落として洋介と共に海底遺跡へと消え去った。マリンセンターの教官を務める和田崎とは恋人同士で、宗教団体「海の教団」を巡る痴情のもつれで彼に突き落とされたと思われていたが、もとから教団の信徒の家系であり、教団内では彼よりも格上の熱烈な信徒でもあった。崖から転落したのも、教団を恐れて共に逃げようと言った和田崎の提案を断り、怒りと恐怖心で逆上した彼に突き飛ばされたためである。海底に消えたあとは洋介を崇(あが)める教団の信徒に戻り、切り落とした右足には、代わりに洋介から与えられた「海神の断片」を装着するようになった。教団では神話に登場する運命の女神「ラケシス」の名で呼ばれていることが多い。好きなイルカはベルーガ。

神宮寺 トメ (じんぐうじ とめ)

警察官の女性。公安警察の特殊捜査機関である外事七課に所属し、海中戦闘を主とする部隊「海洋機動捜査隊」の隊長を務める。膝裏まであるロングヘアをツインテールにまとめている。見た目はかなり若く美人だが、年齢は不明。小柄で童顔なため、少女に間違えられることもある。ミステリアスで謎多き人物だが、警察官としての実力も戦闘力も高く、上司や部下からの信頼は厚い。オルフェとはかつての同僚かつ同期であり、彼が姉ヶ島に配属された現在も時おり連絡を取っていた。海中戦闘術を習得しており、並程度の海人であればすぐに打ち倒すことができる。警察が宗教団体「海の教団」の捜査に本腰を入れたあとに、海洋機動捜査隊の部下たちを引き連れて姉ヶ島に渡ってオルフェと再会し、彼や鮫島灼熱たちと共に海底遺跡の調査を始める。組織の枠にはまらない灼熱に目を付け、海人や教団に対抗するための協力者として彼を姉ヶ島に送った張本人でもある。海底遺跡調査開始前に、灼熱には海中戦闘術の基礎を叩(たた)き込んだ。

神室 洋介 (かむろ ようすけ)

姉ヶ島でライフセイバーをしている謎の男性。金髪の短髪で、飄々(ひょうひょう)としたさわやかな童顔のイケメン。いつも女性のお尻ばかり見ており、時には涼しい顔をしてセクハラ行為に走るため、よく後輩の沖浦芽衣からツッコミや制裁を食らっている。その正体は宗教団体「海の教団」の教主であり、表向きはライフセイバーの先輩・後輩として接している芽衣も、教団における直属の部下である。教団の信徒たちからは「教主様(せんせい)」と呼ばれている。元警察官であり、公安警察に所属していた当時は同僚のオルフェ(南風原)と共に、海の教団へ潜入捜査をしていたこともある。しかし、いくつかの出来事をきっかけに南風原とは敵対し、自らは教団の新たな教祖となり、彼がイルカの姿になったあとも浅からぬ因縁を持つ関係となっている。真の目的は集めた海神の断片の力で「大絶滅」を起こして陸地を海に沈め、すべてを海に還すこと。本名は「室伏」。

沖浦 芽衣 (おきうら めい)

神室洋介の直属の部下の女性。ロングヘアを首後ろで一つに縛っている。しょっちゅうセクハラ行為に走る洋介にツッコミを入れたり、時には厳しい制裁を下している。表向きはライフセイバーをしている洋介の後輩として行動しているが、その裏では宗教団体「海の教団」の幹部として姉ヶ島のあちこちで暗躍している。教団では「クロト」の名で呼ばれていることが多く、科学班主任として海神の断片の研究もしている。洋介の指示のもと、奥菜由香理と行動を共にするようになり、陸地で姉ヶ島署の警察官たちを襲撃し、チャコを海底遺跡へと連れ去る。

櫛灘 八重 (くしなだ やえ)

宗教団体「海の教団」に所属する女性。櫛灘神社の娘で、現在は海の教団と共に行方不明となっている。島根県出身。チャコによく似た容姿を持つ美人で、明るく天真爛漫で天然な性格をしている。数年前、海の教団に潜入捜査に来た神室洋介(室伏)とオルフェ(南風原)に出会い、親しい友人となったが、彼らの正体が公安警察であることは知らなかった。南風原たちが解脱して幹部に昇格する頃には多額の寄付で幹部になるも様子がおかしくなっていき、教団を危険視して脱走を決意した彼らの尻尾をつかむためのエサとして、当時の教祖に利用されてしまう。これをきっかけに捕まった南風原の命を守るために、教団での地位を上げていく室伏とは親密な関係になり、やがて彼との子供であるチャコを身籠る。

集団・組織

海の教団 (うみのきょうだん)

海を崇める謎の新興宗教団体。教祖は邇来愜(にらいかない)。小さなイルカの「オルフェウス」をマスコットキャラクターとしている。神託の巫女「乙事ノ姫」が、ジュゴンやイルカと話している姿がメディアに取り上げられてカルト的な注目を集めると共に、公安警察からはマークされている。幹部・信者含む27名が行方不明となる集団失踪事件が起こり、「海の教団事件」とも呼ばれている。行方不明になっていた一人である神託の巫女は、鮫島灼熱が姉ヶ島署に配属となる3日前にイルカの背に乗せられて姉ヶ島に漂着し、チャコという名前を付けられた。これらの海の教団絡みの事件を解決するため、姉ヶ島署が人員を要請したことが、灼熱が姉ヶ島に転属となった本当の理由となっている。

場所

姉ヶ島 (あねがしま)

小笠原諸島に浮かぶ小さな島。鮫島灼熱の転属先。かなりの田舎(いなか)で人口が1800人程度と少ないため、島民の大半は知り合いや友人同士となっている。コンビニがなく携帯電話などの電波事情の悪い日本最南端の離島だが、海水浴場やマリンセンターといった海にまつわる施設や観光名所が多い。灼熱たちが勤める姉ヶ島署は、日本一職員が少ない警察署としても知られる。名産品はかんも(サツマイモ)。灼熱が来る少し前から海人による海洋犯罪が増えつつあり、警察から特殊警戒区域に指定されている。

その他キーワード

海中戦闘術 (いんみあくんすと)

海中戦闘のスペシャリストが集まる部隊「海洋機動捜査隊」が持つ戦闘術。習得すれば上下運動が激しい水中戦闘においても、水圧の影響を大場に軽減させて戦うことが可能。大気に比べて密度が800倍もあるとされる、海中ではね上がる抵抗を限りなく効率化させることもできる。このうち「呼吸(アギト)」は、鍛錬で強化された肺で一時的に海水から酸素を取り込むことができるが、専用スーツの補助が必要あり、長時間維持するのも困難。

海神の断片 (ぽせいとらこん)

海底のどこかに眠っている伝説の神器。海を統べる厄災とも言える脅威の存在。宗教団体「海の教団」が探し続けている強力な武器でもあり、使いこなせば海と陸地に大きな影響をもたらす兵器にもなりうるほどの力を秘めている。海人たちの祖先である海神(ポセイドン)の体のパーツにわかれる形で複数存在し、このうち右腕部分はオルフェの体に封印されている。強力だが決して誰にでも使えるというわけではなく、使いこなすにはそれぞれのパーツに適合する者が体に装着する必要がある。すでに教団が保有していた右脚部分は奥菜由香理に与えられ、左腕部分は姉ヶ島の島民から「おみさきさま」と恐れられる海難事故が多発する海域にある海底遺跡に眠っている。

海人 (まーまん)

人間の姿に進化した海洋生物の通称。自らを人間より優れた存在と名乗る者が多く、海底にある「竜宮」などを中心に、人間と同様の町を作って社会生活を営んでいる。ふだんは海に潜っているため紫外線は苦手だが、一定時間以内であれば陸上でも活動ができる。海に戻れば本来の海洋生物の姿に戻ることも可能で、特に海中における戦闘力は人間を圧倒する。かつては500以上ものギャングファミリーが抗争を繰り返していたが、オルフェの尽力によりファミリーの長たちのあいだで休戦協定が結ばれた。しかし現在でも時おり海人が海上や陸地に上がって海洋犯罪を犯すことがあり、それらの犯罪者は「海のギャング」とも呼ばれている。宗教団体「海の教団」からは、海に住む古代人の生き残りとされている。

SHARE
EC
Amazon
logo