あらすじ
第1巻
ある日、帰宅中だった新米刑事の東竜希は、靴屋の店先で出会った美少年の店員から、唐突に「不細工」と言われてショックを受ける。驚いた竜希が少年に真意を問いただすと、竜希ではなく竜希の足跡が不細工なのだと少年は力説する。竜希を店に招き入れた少年は西原秀と名乗り、竜希の靴選びのまちがいを指摘。彼女の足にフィットする靴を売りつけるのだった。翌日、新しい靴で姿勢がよくなった竜希は、高級ネイルサロンのオーナーである加賀美玲子が転落死した事故現場へと駆り出される。玲子と思しき謎の女性を死亡時刻以降に偶然目撃していた竜希は、さっそくそのことを上司に報告する。しかし上司からは、玲子が飛び降りたオーナー室には彼女の下足痕しかなかったことを指摘され、本件に事件性はないと断言されてしまう。納得できなかった竜希は、足に詳しい秀のもとを訪れ、アドバイスを求める。オーナー室の靴跡を見た秀は、同じ靴をはいた人物がオーナー室に二人いたことを瞬時に看破し、竜希はこれが殺人事件であると確信する。その後、件の女が秀の店を訪れていたのを見た竜希は、秀と共に彼女を追跡する。竜希に問い詰められても犯行を否定する謎の女ことネイルサロン店員の宮根美里に対し、秀はその巧みな観察眼をもって美里の証言を覆すのだった。(FILE 01「夜9時半の女」。ほか、3エピソード収録)
第2巻
会社員の矢代智也が、ホテル・エトワールから転落死した。当初は単なる自殺として処理されたが、事故の直前にホテルの向かいにあるビルの屋上で踊っている悪魔のようなシルエットを目撃していた東竜希は、智也の死にその「踊る悪魔」がかかわっていることを確信する。下足痕の鑑定結果から、屋上にいたのは男女二人と判明。西原秀と共にビルの屋上で調査を進めていた竜希は、高所の屋上で恐怖を感じるであろうにもかかわらず、手すりに指紋が残っていなかったことに着目。屋上にいた人物が、手が使える状況になかったことを推測する。すべてを悟った竜希は、智也の娘である矢代里依沙のもとを訪れ、彼女が交際中の男と共謀し、自らを人質として偽装することで智也を自殺へと追いやったことを指摘。最後までシラを切り、遂には男の単独の犯行にしようとした里依沙に対し、秀は彼女の足跡からその証言を覆すのだった。(FILE 05「悪魔は踊る2」。ほか、3エピソード収録)
登場人物・キャラクター
東 竜希 (あずま たつき)
警視庁捜査一課に所属する新米刑事の若い女性。ポニーテールの髪型で、眼鏡を掛けている。年齢は24歳で、美少年萌え。毎日リクルートスーツを身につけ、就活生っぽい姿で働いていることから、先輩刑事には「リクルート」というあだ名で呼ばれている。経験が浅くまだ未熟ながら、正義感が強く、複数の視点から物事をとらえて思考を巡らすことができる。直感にも優れており、状況証拠から意外な事件の顚末を導き出すこともある。刑事になってからは、腰痛や胃痛に悩まされていたが、偶然出会った靴屋の美少年の西原秀から自分にフィットする靴を見立ててもらって以来、健康になった。足跡から多くのことを推察する秀のことを超一流の鑑識官並みの能力を持つ人物として信頼し、さまざまな難事件についてアドバイスを受けていた。仕事では頼りになり、美少年でもある秀のことを憎からず思っているが、いざ彼を前にすると気後れしてしまうため、二人の仲は色恋沙汰にまでは発展していない。
西原 秀 (さいばら しゅう)
「靴屋の北見沢」の店員で、ブラウンの髪に白い肌をした眉目秀麗な少年。お客の足に合った靴を選ぶシューフィッターとして働いている。ぶっきらぼうな口調で、相手が客であってもタメ口を貫く自由人。足に関することになると目が輝き出す変態的な足フェチ。店の前で偶然見かけた東竜希の足の「不細工さ」に驚愕し、強引に彼女を店に招き入れたうえで、足にフィットする靴を薦めていた。正しい靴をはいた竜希の足を非常に気に入っている。足や靴に対する知識量はすさまじく、いつも足のことばかりを考えているため、常人には到底わからない下足痕をたやすく見抜く異能の持ち主。また、足跡の状態からその人物の歩き方や性別、心理や健康状態までも看破してしまう。竜希からは超一流の鑑識官並みの能力を持つ人材として頼りにされていた。
宮根 美里 (みやね みさと)
高級ネイルサロン「KAGAMI」の事務員として働いている女性。陰気な雰囲気を漂わせている。「KAGAMI」のオーナーである加賀美玲子にあこがれており、髪型からファッション、顔までを玲子に近づけようと努力を重ねていた。そのために所持している服飾品は、地味な風貌に似つかわしくないド派手なものばかり。
加賀美 玲子 (かがみ れいこ)
高級ネイルサロン「KAGAMI」のオーナーを務める女性。優れたファッションセンスを持つ煌びやかな美女で、年齢は38歳。店が入っているビルのオーナー室の窓から転落死した。デスクの上に遺書が残されており、自殺の方向で警察の捜査が進んでいたが、新米刑事の東竜希はその死に対して強い疑問を抱いている。
荒木 柳一 (あらき りゅういち)
警視庁捜査一課に所属する刑事の男性。クールな言動と博識さで、周囲から尊敬を集めている。東竜希にとってもあこがれの先輩。半年前に妻の荒木琳子が行方不明になっている。鳩目山で遺棄された若い女性の遺体の身元が琳子であると判明してからは、彼の心理状態を考慮して捜査から外された。
佐村 遵 (さむら じゅん)
無職の男性で、年齢は31歳。子供が相手でも当たり屋まがいの犯罪を平気で行う質の悪いチンピラ。半年前に荒木琳子を拉致し、凌辱したうえで殺害している。鳩目山に遺体を埋めたが、遺体の状況を確認するために一度だけ現場に戻ったところを、何者かが仕掛けた隠しカメラによって足元だけ撮影された。
佐村 琳子 (さむら りんこ)
若く美しい女性で、荒木柳一の妻。半年前に柳一とショッピングしている最中に突如として失踪した。鳩目山の地中から、白骨化した遺体が発見されるが、近くに木に仕掛けられていた隠しカメラで遺体の様子を撮影されていた。
大原 久三 (おおはら きゅうぞう)
ラブホテルとパチンコ店を多数経営している男性。年齢は50歳。正妻は大原菜月で、愛人の加藤アカネを囲っている。女性を暴力で束縛するタイプで、菜月やアカネが無気力になった原因となっている。通勤中に何者かによって刺殺された。目撃者は多かったが、その証言のほとんどが曖昧で当てにならないものだった。しかし、現場にいた盲目の老人、神楽坂が聞いた靴音の証言で、犯人像が浮かび上がる。
右崎 真彩 (うざき まあや)
色気のある若い女性で、警視庁捜査一課の主任を務める。口が少々悪く、男性上司に露骨に媚びたりするなど、素行に問題がある。しかし博識で聡明なため、仕事面では頼りにされている。実際に、彼女の一言で事件の捜査が進展することも多い。名前をもじって「ウザイ奴」扱いされるのを嫌っている。
大原 菜月 (おおはら なつき)
大原久三の妻で、気だるい雰囲気を漂わせている。年齢は39歳。元はブティックの敏腕経営者だったが、自分のブティックを久三に潰され、強引に妻にさせられた過去を持つ。久三に束縛され、交友関係も絶たれていることから、すっかり無気力になっている。そのうえ、日常的に暴力を振るわれていたことから、久三が殺害された事件における有力な容疑者として浮かび上がる。
加藤 アカネ (かとう あかね)
気が強い女性で、大原久三の愛人。年齢は40歳。一人娘の加藤アキとゴミ屋敷となったアパートの一室で暮らしている。お弁当屋で働いていた2年前に久三に見初められ、愛人となった。昔は何事にも一生懸命だったが、久三の愛人になってから、男に寄生することだけを考える無気力な女になり果ててしまう。久三が殺害された事件における有力な容疑者となる。
加藤 アキ (かとう あき)
今どきの女子高校生で、加藤アカネの娘。母親が大原久三の愛人になってから、別人のように荒み切ってしまったことで悩んでいる。高校では陸上部に所属しており、面倒見がいいことから、部員全員に信頼されている。
北見沢 玄一 (きたみざわ げんいち)
「靴の北見沢」の店主で、白髪をした老齢の男性。西原秀の祖父の親友で、祖父母が殺害されたために天涯孤独の身となった秀を引き取って育てた。口数は少ないが、優秀な靴職人で、秀との仲も非常にいい。
神楽坂 (かぐらざか)
大原久三が殺害された現場に偶然居合わせた盲目の男性。東竜希に対して自分が聞いた靴音に関する貴重な証言を提供した。北見沢玄一とは旧知の仲で、竜希のことを「素敵な刑事」であると玄一に報告していた。
矢代 智也 (やしろ ともや)
ごくふつうの中年男性。宿泊していたホテル・エトワールの一室から遺書を残して飛び降りた。単なる自殺として処理されようとしていたが、向かいのビルで踊っていた謎のシルエットを目撃した東竜希が、他殺を疑って捜査を開始する。
矢代 里依沙 (やしろ りいさ)
矢代智也の娘。父親とは疎遠になっており、母親と二人で暮らしている。恋人と組んで自分を暴漢に捕われた人質に偽装したうえで、智也を投身自殺へと追い込み、生命保険をせしめようとしていた。すべてが露見した収監後に一連の事件が春日部夜子の入れ知恵であったことを警察に明かす。
岡部 明奈 (おかべ あきな)
フリーランスでライター業をしている女性。年齢は27歳。半年前まで夫とインドで暮らしていたが、帰国後にハンマーで頭部を滅多打ちにされて殺害される。遺体からは左足の人差し指が切り取られていた。気が強い性格をしており、交友関係が派手なため、生前は夫との喧嘩を繰り返していた。
野々村 誠也 (ののむら せいや)
ハンドメイド工房を経営している男性。年齢は36歳。非常に気の弱い性格で、岡部明奈の取材を受けた際に、コラムで酷評されて眠れないほどショックを受けた過去を持つ。そのため、明奈殺害の容疑者としてリストアップされる。
鳥居 正幸 (とりい まさゆき)
釣具店を経営している男性。年齢は31歳。岡部明奈とは幼なじみで、学生時代から長く交際していたが、突然捨てられて結婚されてしまった過去を持つ。そのため、明奈殺害の容疑者としてリストアップされる。
春日部 夜子 (かすかべ よるこ)
謎めいた雰囲気を漂わせる黒髪の美女。9年前まで資産家である西原秀の祖父母の屋敷で使用人として働いていたが、祖父母が何者かによって殺害されたあとに遺言状に従って莫大な遺産を受け取った。そのため、祖父母殺人の犯人として長らく捜査線上に浮かんでいたが、決定的証拠が出なかったことから逮捕には至らなかった。「間宮朝美」という偽名を使い、矢代里依沙に父親の殺害方法を教授した張本人。ここ最近は長野県の高級別荘地で暮らしていたが、東竜希たちが捜査のために現地に乗り込んだ際に、ため池で水死体となって発見される。
東 龍臣 (あずま たつおみ)
元警視庁の刑事で、東竜希の父親。故人。西原秀の祖父母の殺害容疑で春日部夜子を捜査していた際に、階段から足をすべらせる事故で殉職してしまった。竜希は事故ではなく他殺で、犯人は夜子だと思っている。
冬野 恭弥 (ふゆの きょうや)
小説家の男性で、春日部夜子の恋人。酷薄な性格をしている。小説家だが実質夜子のヒモで、夜子が殺害されたあとも、ほとんど悲しむことはなく、遺産の相続先が誰であるかだけを気にしていた。
会田 元子 (あいだ もとこ)
春日部夜子の屋敷で働いている使用人の女性。明るい性格で、つねにハキハキとしゃべる。使用人に対しても優しく接してくれた夜子が殺害されたことに、大きなショックを受けていた。
時任 真緒 (ときとう まお)
春日部夜子の屋敷で働いている使用人の女性。おとなしい性格の目立たないタイプで、眼鏡を掛けている。やや口下手なところがある。使用人に対しても優しく接してくれた夜子が殺害されたことに、大きなショックを受けていた。
その他キーワード
下足痕 (げそこん)
警察の捜査用語で、事件現場に残された足跡を指した言葉。犯人を特定するための貴重な情報源となる。西原秀は常人には見ることができない、下足痕を見つけられる特殊能力を持っている。
クレジット
- 原作
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花林 ソラ