あらすじ
出会い編
東孝美は、クラスの中で最底辺に位置する立花ヒナコを庇うというスタンスで、パシリなどのいじめから逃がれていた。しかし孝美は、クラスで頂点に立つ斉藤美奈から、ヒナコと共に幽霊が集まるとされる廃墟への肝試しを強要される。証拠写真を撮影することも命じられた二人は、大量の幽霊から身を隠しながらなんとか写真を撮ろうとスマホを構えていると、美奈の友人から冷やかしの電話がかかってきて、幽霊たちに発見されてしまう。幽霊たちから逃げる中でヒナコに崖から突き落とされ、おとりにされた孝美は幽霊の一人から首を絞められ、殺されかける。しかし、かつて母親に殺されかけたことを回想した孝美の涙に触れた幽霊は人の姿となり「いつき」と名乗る。いつきは孝美のおかげで自我を取り戻し、さらに孝美に依存した存在となっているらしいことを語り、孝美を守ることを約束する。
病院編
廃墟から無事に帰宅した東孝美は、いつきに取り憑かれることになる。ニュースでは幽霊たちに殺された斉藤美奈たちのことが話題になっており、孝美は身近な人間が死んだことに衝撃を受ける。一方、幽霊たちから逃げ延びたものの入院している立花ヒナコのもとに、美奈から電話がかかってくる。美奈が死んだことを知らないヒナコは、美奈もまた入院していると思い込んで呼び出しに応じ、美奈と再会する。しかし美奈の半身は焼けただれ、ヒナコを道連れにしようと襲いかかる。間一髪のところで助けに入った孝美といつきだったが、ヒナコは孝美もまた幽霊だとカンちがいして、そのまま逃げ出してしまう。しかし逃げ出した先に現れたのは、幽霊となった美奈を食らって同化した、ミタケヨージだった。
薔薇編
姫王子学園で行われた全校集会をきっかけに、東孝美は聖教科「オールドミッション」で聖女と呼ばれている北村深華に声をかけられるようになる。いつきの姿も見えているらしい深華に不信感を抱く孝美だったが、彼女の呼び出しに応じ、薔薇園の奥にある旧礼拝堂に出向く。孝美がいつきに取り憑かれていることを理解している深華は、孝美にその悩みを告白してほしいと話している最中、薔薇園の地縛霊である薔薇といつきの戦いが始まる。問答無用でいつきを火葬しようとしていた薔薇を発見した深華は彼を強く叱責し、いつか薔薇を成仏させてやると約束するのだった。数日後、母親の見舞いのために病院を訪れた孝美は、姫王子学園で神父をしている古城戸選悟と対面する。病院での様子から複雑な環境にあることを察した選悟から、家庭の悩みを聞くと言われた孝美だったが、選悟は除霊を専門とするエクソシストだった。
登場人物・キャラクター
東 孝美 (あずま たかみ)
姫王子学園のグローバルクラスに通う女子高校生。横の髪だけ長い黒髪のショートヘアにしている。母親が精神崩壊で入院しており、祖母の家で暮らしているが、叔父からは目の敵にされている。クラスで中心的な存在の斉藤美奈に、立花ヒナコと共に肝試しを命じられて赴いた廃墟で、自殺した女性たちの幽霊に襲われる。その際、自我のないいつきに殺されかけたが、母親を思って流した涙でいつきが正気に戻り、ほかの幽霊たちから救われる。それ以来いつきに取り憑かれた状態となり、行動を共にしている。いつきとは離ればなれで行動できるが、離れすぎると貧血のような状態となり、倒れてしまう。いつきとは互いの意思を維持したまま憑依体となるパラスティック・ポゼッショナーで、いつきが孝美の肉体を借りているあいだも会話ができる。
いつき
東孝美に取り憑いている幽霊の少女。頭頂部だけ黒く、足首まで伸びた金髪をツイストさせており、毛先だけ首吊り縄のように結んでいる。自殺したあとに自殺した女性の幽霊たちの群れに捕らわれ、自我のないまま回遊魚のように心霊スポットを漂い続けていた。しかし、孝美の首を絞めた時に生前の感覚がよみがえり、孝美の涙をきっかけに完全に自我を取り戻した。現在のいつきは、孝美に依存した存在であると語っており、孝美がほかの幽霊たちに連れて行かれないように見守っている。死因は首吊り自殺で、自分が自殺した際に使用したロープを自由に手の平から出すことができる。孝美とは互いの意思を維持したまま憑依体となるパラスティック・ポゼッショナーであり、いつきが孝美の肉体を借りているあいだも会話ができる。
北村 深華 (きたむら しんか)
姫王子学園のグローバルクラスに通う3年生の女子高校生。オールドミッションの学生寮で寮長を務めている。左の前髪だけが白い黒髪をロングボブヘアにしており、顔の左半分がケロイド状になっている。小学生の頃、家族でクリスマスミサに向かう途中で交通事故に遭い、炎上する車内から一人だけ助け出された。この事故に遭って以来、左目で幽霊を見るようになった。薔薇を成仏させてやりたいと考えているが、成仏させる方法をよく知らない。信仰心に篤い模範生で、「聖女」とあだ名されている。
薔薇 (そうび)
姫王子学園の薔薇園にいる地縛霊の男性。腰まである長い赤髪を特殊な日本髪に結い、はだけた女物の着物を身につけている。姫王子学園の七不思議の一つ「薔薇の園にたたずむ遊女の亡霊」として知られている。北村深華と仲がいいが、よく叱られている。死因は焼身自殺で、炎を自在にあやつることができる。薔薇自身が成仏できないため、成仏することにあこがれており、周囲の幽霊をむやみやたらに火葬して成仏させようとする悪癖がある。生前の本名は「蒼馬」。
古城戸 選悟 (ふるきど せんご)
姫王子学園で神父を務めている初老の男性。左側の前髪だけ長い白髪のショートヘアで、前髪は毛先でまとめている。除霊を専門とするエクソシストでもあり、聖別された銀が使用されたヨーヨーを用いて幽霊を祓う。薔薇を祓う目的で姫王子学園に派遣された。
立花 ヒナコ (たちばな ひなこ)
姫王子学園のグローバルクラスに通う女子高校生で、東孝美のクラスメート。黒髪のロングヘアをうなじでまとめている。クラスで中心的な存在の斉藤美奈に、孝美と共に肝試しを命じられて赴いた廃墟で、自殺した女性たちの幽霊に襲われた。孝美といっしょに逃げていたが、逃げ道を失った際に孝美をおとりにして逃げ延びた。無事に生還したあと、入院中に幽霊となった美奈に襲われ、救助に現れた孝美を幽霊だと思い込んで半狂乱となる。
斉藤 美奈 (さいとう みな)
姫王子学園のグローバルクラスに通う女子高校生で、東孝美のクラスメート。茶髪のロングヘアにしている。クラスの頂点に立っており、立花ヒナコや孝美を都合よく扱っていた。幽霊が集まるという廃墟での肝試しも本気にはしていなかった。しかし幽霊たちに襲われ、ミタケヨージの運転する車で逃亡中に事故を起こして死亡した。その後、幽霊となって孝美、ヒナコを道連れにしようと襲いかかる。
ミタケ ヨージ
斉藤美奈の彼氏の男性。金髪のベリーショートヘアにしている。美奈からの要請を受けて、東孝美や立花ヒナコを幽霊が集まるとされる廃墟まで送り、美奈やその友人たちと共に廃墟付近で待機していた。しかし幽霊たちに襲われ、ミタケヨージの運転する車で逃亡中に事故を起こして亡くなる。自分が死亡する原因をつくった美奈たちに強い怒りと憎悪を抱き、孝美やヒナコだけでなく、幽霊となった美奈にも襲いかかる。
場所
姫王子学園 (ひめおうじがくえん)
聖教系の女子学校。聖教科の「オールドミッション」と、普通科の「グローバルクラス」に分かれており、制服もセーラー服の襟の色で区別されている。オールドミッションにはお嬢様育ちが多く、学歴重視のグローバルクラスの生徒たちとはあまり仲がよくない。
薔薇園 (ばらえん)
姫王子学園の中にある薔薇園。十人以上が犠牲になった「油問屋・廣松一家惨殺及び放火事件」の舞台となった場所であることから、戦前から忌み地として放置されていた。幽霊となった薔薇が焼け跡に現れ、薔薇園に立ち入った人間を無差別に焼き殺している。
その他キーワード
パラスティック・ポゼッショナー
一つの肉体を二つの意識が平和的に共有している状態になれる者のこと。本来の憑依は幽霊による肉体の乗っ取り行為が前提となっている。肉体の持ち主の意識を抑圧し、幽霊の意識が主導権を握り、場合によっては完全に持ち主の意識を消去し、成り済ますこともある。本来、どちらか一方の意識しか表層に現れないが、パラスティック・ポゼッショナーは意識を自在に交代できるほか、完全に魂をシンクロさせて行動することもできる。
クレジット
- 原作
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都月 景
書誌情報
百姫夜会 -傷痕契ル乙女達- 3巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスJOKER〉
第2巻
(2022-06-22発行、 978-4757579781)
第3巻
(2022-12-21発行、 978-4757583160)