予想外の展開を見せる人間ドラマ
本作の第1章は、清武榛花母娘を描いた物語。第1話「真綿の檻~榛花~ sideA」では、榛花の弟、その妻、母の宮崎泰枝のモノローグで、亭主関白な夫と彼に奴隷のように尽くす榛花の様子が語られる。しかし、その後視点が主人公の榛花、夫の一広に変わると、予想外の夫婦の姿が明らかになる。第2話「真綿の檻~榛花~ sideB」は、母の泰枝が主人公。娘に対するこれまでの感情が吐露され、その後新たな母娘の関係が生まれる様子が描かれる。複数の視点で構成され導かれる結末は、まるでミステリーのどんでん返しのようでもある。
祈里の家庭に潜む闇が明らかになっていく
第2章は、高鍋祈里母娘の物語「真綿の檻~祈里~」。地元の地方都市で、祈里と日向隆裕が偶然再会したことから物語は始まる。二人は高校時代に交際しており、ともに東京の大学を目指していた。だが横暴で暴力を振るう父と、認知症の進んだ義父の面倒を見ている母を一人残しておけず、祈里は東京行きを断念する。日向の上京後、彼とは音信不通だったが、約6年ぶりの再会でお互いに連絡していたことがわかる。何者かが祈里のケータイに細工をし、手紙も握り潰していたのだ。さらに盗聴アプリで祈里の行動が監視されていたことも判明する。祈里と日向は、何者かに仲を引き裂かれたのだ。日向の出現をきっかけに、祈里の家族の本当の姿が次第に明らかになっていく。
登場人物・キャラクター
清武 榛花 (きよたけ はるか)
「真綿の檻~榛花~ sideA」の主人公。ショートカットが特徴の気が弱そうな女性。男尊女卑の風潮が残る家に生まれる。溺愛される弟・宮崎聖司と異なり、小さい頃から母・宮崎泰枝に厳しくしつけられ、家事の手伝いなどで奉仕する。トップクラスの国立大学工学部に進学して家を出た後、27歳の時に大学で知り合った清武一広と結婚した。
宮崎 泰枝 (みやざき やすえ)
「真綿の檻~榛花~ sideB」の主人公。清武榛花の母親。年齢は50代後半。教職に就いていた夫と見合い結婚し、田舎町で商店を営む義父母と同居。一男一女をもうける。6人分の家族の世話に追われる毎日に苛立ちをつのらせ、家事の手伝いをする榛花につらくあたっていた。
高鍋 祈里 (たかなべ いのり)
「真綿の檻~祈里~」の主人公。地元の企業で働く24歳のOLで、ショートカットが特徴。暴力を振るう父、認知症が進んだほぼ寝たきりの祖父、美しく従順な母と暮らす。高校時代に日向隆裕と交際。世界を広げてくれるような日向の存在に惹(ひ)かれ、ともに東京の大学を目指す。しかし、過酷な家庭環境に母一人を残しておけずに東京行きを断念。日向を心の頼りにしていたが、日向は上京後音信不通に。大学時代は日向を引きずり彼氏ができず、社会人になって初めてまともに付き合った彼氏が既婚者だったという不幸な目に遭う。相談に行った弁護士事務所で日向に再会。音信不通の原因が、祈里のケータイに施された細工だったと判明し、再び日向に想いを寄せる。
祈里の母 (いのりのはは)
「真綿の檻~祈里~」の登場人物。高鍋祈里の美しい母親。夫に従順で優しく落ち着いた雰囲気の女性で、認知症の進んだ義父を一人で世話している。祈里に暴力を振るう夫を身体を張って制止するなど、祈里をこよなく愛している。
日向 隆裕 (ひゅうが たかひろ)
「真綿の檻~祈里~」の登場人物。東京の大学を出て、地元の法律事務所にUターン就職した24歳の男性。高鍋祈里とは高校時代のクラスメイトで交際していた。一緒に東京の大学へ行く約束をするが、家庭の事情で祈里が断念し、一人で上京する。その後音信不通になっていたが、じつは連絡を取ろうとしていたことが判明。原因が、祈里のケータイに施された細工だったことがわかり、祈里の母親を疑う。
書誌情報
真綿の檻 4巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2022-09-08発行、 978-4098717958)
第2巻
(2022-12-09発行、 978-4098718153)
第3巻
(2023-10-10発行、 978-4098720286)
第4巻
(2024-04-10発行、 978-4098726103)