概要・あらすじ
学校創立100周年を迎えた年、七嶋裕之の所属する樫野高校野球部は甲子園出場を賭けた地方選の決勝で惜しくも敗退してしまう。大会後、七嶋裕之は主将に就任するが、予算を出していた樫野高校OB達は意気消沈し、後援を打ち切ってしまう。また野球部のメンバー達にも覇気は無く、甲子園出場など夢のまた夢。
七嶋裕之もそんな空気に押され、やる気を失っていた。そんな折、樫野高校野球部を30年間応援してきた老人、トクさんが現金1000万円を携え、七嶋裕之に甲子園のために使ってくれと申し出てくる。悩む七嶋裕之だったが、偶然出会った高校野球のプロ観戦者、滝本らに甲子園の様々な知識を教わり、甲子園優勝の決意を固める。
登場人物・キャラクター
七嶋 裕之 (ななしま ひろゆき)
樫野高校野球部の秋から年度いっぱいまでの主将を任された。背番号4番、両投右打の投手兼遊撃手。180cm76kg。最速150km/hのストレート、キレのいいスライダーを武器とし、コントロールが良く走者への牽制も上手い。スタミナや度胸等の身体、精神面いずれも抜群。落ち目なチームの雰囲気を感じ、そこそこ頑張ればいいと考えていたが、トクさんや滝本、小林らと出会ったことにより、本気で甲子園優勝を目指すようになる。
トクさん
本名不詳の樫野高校近くに住んでいる老人。30年来の樫野高校野球部ファンで、毎日のように飼い犬のタローを連れて練習の見学に来ている。地方選の決勝敗退後、甲子園出場の資金として七嶋裕之に1000万円を託す。
後藤 久佳 (ごとう ひさよし)
樫野高校野球部部員。背番号6番、右投右打の捕手。176㎝78㎏。キャッチングが下手、打撃は穴が多いうえに鈍足、窮地に陥るとリードが出来なくなる等、能力はあまり高くない。七嶋裕之からは他に捕手がいないからコイツを鍛えるしかない、と半ば投げ遣りに思われているが、大会に出場する中で徐々に成長していく。
鈴木 康貴 (すずき やすたか)
樫野高校野球部部員。背番号5番、右投左打の一塁手。172㎝64㎏。無口。偉人の名言や諺が好きで、学校の成績は常に上位5位以内と優秀だが、打撃の成績はイマイチ。守備はチーム内では出来る方。練習試合では代打2塁打を打ち、打撃センスを監督に褒められたことがある。
郡 健太郎 (こおり けんたろう)
樫野高校野球部部員。背番号3番、右打左投の三塁手。176㎝69㎏。シニア出身で、野球のセンスはあるが、それゆえ練習は手を抜いている。試合中は身の丈以上のプレーをしようとする等、軽率な行動が目立つ。先輩の中村優樹に憧れ、慶応大学へ推薦入学することを目標にしている。
藤原 大樹 (ふじわら だいき)
樫野高校野球部部員。背番号2番、左投左打の右翼手。174㎝67㎏。足は速いが、何故かベースランニングは遅い。包茎手術を受けるか真剣に悩んでおり、夏休みを経て解決した模様。
黄川田 寛永 (きかわだ ひろなが)
樫野高校野球部部員。背番号7番、右投右打の左翼手。173㎝64㎏。他に出来るものが無いので止むを得ずそれをしているという、「でもしかレフト」の立ち位置。実家は厳念寺という寺で、あだ名はそこから付けられている。特技は般若心経。
稲山 準弥 (いなやま じゅんや)
樫野高校野球部部員。背番号8番、右投右打の遊撃手。168㎝61㎏。打球の処理は並程度に行えるが、悪送球が多い。霊感があるからと言い、部室で着替えたがらず、外で着替えをしている。
清水 優希 (しみず ゆうき)
樫野高校野球部部員。背番号9番、右投右打の2塁手。162㎝52㎏。練習は熱心に行うが、体力不足や守備でのタイムリーエラーが多い等、チームの足を引っ張ってしまう。だが、真面目な性格と、役に立ちたいと想う気持ちで、粘り強く打撃を行う。
志熊 遼平 (しぐま りょうへい)
樫野高校野球部部員。背番号1番、右投右打の中堅手。167㎝62㎏。七嶋裕之が珍しくチーム内で評価している、俊足強肩の外野手。彼が出塁し七嶋裕之が返す、というのが樫野高校野球部の数少ない得点パターンの1つとなっている。
小泉 洋嗣 (こいずみ ひろつぐ)
樫野高校野球部部員。右投右打の捕手。172㎝65㎏。試合経験が少なく、監督の曽我部公俊の気まぐれで後藤久佳に代わり出場する程度。緊張からまともな守備が出来ず、キャッチングやインサイドワークにも難有り。かろうじて、打撃は非力ながらバットコントロールは良い。チーム内のほぼ全員にあだ名がある中で、珍しくあだ名は無い。
加藤 機一郎 (かとう きいちろう)
樫野高校野球部部員。168㎝54㎏。1年生の頃に肩を故障し、それ以降はデータ収集や分析の役割をしている。七嶋裕之からのアドバイスで、ベンチでは学帽を被ってスコアラーを務めている。
曽我部 公俊 (そかべ きみとし)
年齢は56歳。樫野高校野球部監督にして最大の問題点。県立校野球部の監督として計3回の甲子園出場経験があり、「埼玉の名伯楽」と評されるが、その実は運が良かっただけ。当人の能力はなく、決まりきった采配、リスクを負うことを嫌う性質、果ては対戦チームの監督と張り合い意味不明の行動を取るなど、チームを混乱させる要因を作っている。 また、七嶋裕之が賞賛されると不機嫌になる等、性格面も酷く大人げない。
小沢 智弘 (おざわ ともひろ)
樫野高校野球部部長。OB会や後援会、監督の曽我部公俊と波風を立てずに上手くやっていこうと苦心している人物。曽我部公俊のことを心底嫌っており、その反面で、七嶋裕之の試合に対する姿勢に賛同、何かと協力してくれる良き理解者である。
遠藤 蘭 (えんどう らん)
樫野高校野球部マネージャー。七嶋裕之とは幼稚園からの幼馴染で、気が有る模様。実家はお好み焼き屋を経営している。父親が大の野球ファンであり、名前は「ヒットエンドラン」にちなんで名付けた。
荒川 千晶 (あらかわ ちあき)
樫野高校野球部マネージャー。七嶋裕之に気が有り、積極的にアプローチをかけるが軽くいなされている。父親は整形外科医で、七嶋和子の勤務する県立病院に勤めている。
唐木 慎介 (からき しんすけ)
樫野高校吹奏楽部部長。七嶋裕之とは中学時代からの友人。七嶋裕之から樫野高校野球部の作曲を依頼され、最初は面倒くさがり断るが、提案を持ちかけられ、応じることになる。
七嶋 和子 (ななしま かずこ)
樫野高校野球部父母会の会長で、七嶋裕之の母親。母子家庭なので、一人で息子を育てるために県立病院の看護師として日勤と夜勤をこなしている。主将に向いていない性格をしている息子のことを心配している。
中村 優樹 (なかむら まさき)
樫野高校野球部のエース投手で4番打者だった、チームの先輩。周囲からの重圧を1人で背負う、責任感の強い性格をしている。樫野高校野球部監督、曽我部公俊の軽率な判断で、甲子園出場を賭けた地方選の決勝に至るまでの道程を1人だけで投げ抜いた結果、決勝戦で肉体、精神共に崩壊し、勝利を逃してしまう。 卒業後は慶応大学へ推薦入学した。
山田 一男 (やまだ かずお)
山田一男と公に名乗ってはいるものの、彼を知るプロ野球のスカウト達からは、あからさまな偽名を使っている、と言われる正体不明の人物。しかし、あだ名の通りそのノック能力は神業の一言。加えて守備全般にも精通しており、練習の指導方法も独特。樫野高校野球部のコーチをしてくれることになるのだが、コーチ料は1ヶ月100万円と高額。 相手が高校生であろうとビジネスライクの性格は崩さない。
滝本 (たきもと)
七嶋裕之が甲子園観戦に来た際に出会った老人。10歳の息子を亡くし、意気消沈していた時に甲子園と出会い、30年間観戦を続けている大ベテラン。本人曰く、下手な監督よりも甲子園を知っているため、どういうチームが勝つかを分析し尽しており、樫野高校野球部主将である七嶋裕之に甲子園で勝つチームの知識を教える。 いつも観戦仲間の小林、トシエ、金田と共に4人で野球観戦をしている。
小林 (こばやし)
滝本の観戦仲間。高級石材店の社長をしており、仕事があまり無いのを良いことに、春夏秋と全国の高校野球を観戦して回っている。プロ野球の世界にも顔が利き、七嶋裕之が主将を務める樫野高校野球部には優秀なコーチや有益な情報を教えてくれる。
集団・組織
樫野高校 (かしのこうこう)
『砂の栄冠』に登場する学校。埼玉の県立高校で進学校。スポーツには別段力を注いでいる訳ではないので、地方選の決勝戦まで勝ち上がった3年生達は、創立100年の記念の年に特別に編成された野球チームである。そのため、七嶋裕之が主将を務めることになった現在の戦力は、並程度まで落ち込んでしまっている。
浦和秀学高校 (うわらしゅうがくこうこう)
『砂の栄冠』に登場する学校。通称「ウラシュウ」。埼玉にある、男女共学生徒数1400名のマンモス校。スポーツはどれも強豪で、特に野球部は春6回、夏9回の甲子園出場経験を持つ。勝負所でのリスク覚悟の采配に定評のある、森内が監督を務め、部員には中学時代に全日本シニアでの優勝経験を持つ榎戸投手、本塁打通算31本のスラッガー・郷原等が所属している。 名前の由来は浦和学院高校。
東横浜高校 (ひがしよこはまこうこう)
『砂の栄冠』に登場する学校。通称トーヨコ。神奈川の私立男子校。野球部は全国トップレベル。春2回、夏3回の全国優勝を果たしている。優秀な人材を集め、37年間東横浜で指揮を執る名監督、大渡と、育成能力等に定評のある米倉がエリート教育を行っている。部員には、東横浜歴代4番の中でも5本の指に入る実力者、瀬良や、全日本シニア優勝経験を持つ、蝶野投手等が所属している。 名前の由来は横浜高校。
大阪杏蔭高校 (おおさかきょういんこうこう)
『砂の栄冠』に登場する学校。大阪の強豪校。春4回、夏6回の甲子園出場経験を持ち、春1回、夏2回の全国優勝を果たしている。強豪校の中でも、実力と選手層の厚さで知名度は抜群。4番エースの「オレサマ選手」ばかりで構成されるチームの鼻を寺門監督がへし折り、和を作っていくというのが通例となっている。部員には、才能溢れる巨漢の1年生、権上等が所属している。 名前の由来は、大阪桐蔭高校。
帝城高校 (ていじょうこうこう)
『砂の栄冠』に登場する学校。春2回、夏2回の全国制覇を果たしている、東京の強豪校。部員達は毎食3合の米を食しており、体格が良い。奇策を多用することで知られる、前川が監督を務める。部員には1年の頃から150km/hを超える速球を投げていた武藤等が所属している。名前の由来は帝京高校。
兼六学館高校 (けんろくがっかんこうこう)
春夏合計6回の甲子園出場経験を持つ、石川の私立校。しかしそれは30年以上も昔のことで、最近になって少数精鋭主義を導入、久しぶりに甲子園に出場する。我の強い、一匹狼の部員でチームが構成されており、監督の釘谷は部員達の方針にはあえて口出ししない。反面、主将の風谷はチームの和を作ろうと1人熱心に場を盛り上げており、浮いた存在になっている。
苫大駒小牧高校 (とまだいこまこまいこうこう)
『砂の栄冠』に登場する学校。甲子園出場経験は春3回、夏6回。スローガンは、細部への徹底したこだわり。特に走塁とカバーリングに関しては一級で、寒冷地を利用した指導法でメンタル強化も怠らない。監督の香野は北海道に初の甲子園優勝をもたらした人物で、球場の空気の恐ろしさを知っている。また吹奏楽部の迫力も魅力の1つである。 名前の由来は駒大苫小牧高校。