人の「怨」を結びて「縁」を切る
本作の主人公である女神の蛇は、異性を呪いたいと願う人々の望みを叶える力を持つ。神使のクビツリが依頼者を蛇のもとへ導き、蛇はその依頼に応じて対象者を消滅させることができる。しかし、呪いを成就させるためには、依頼人が呪いたい相手と性行為を行って「怨を結ぶ」という厳しいルールがある。さらに、呪いが成就した際には、依頼人は「生涯誰とも縁が結ばれない」という大きな代償を背負うことになる。また、蛇の呪いを受けた証として、左手首には縄が食い込んだような赤いあざが刻まれる。復讐心から蛇に頼る者もいれば、倒錯した愛の形としてこの呪いに頼る者も存在する。
「呪い返し」と繰り返しの代償
蛇の呪いを求めた依頼人が途中で心変わりし、対象者を消し去る意志を完全に失った場合、「呪い返し」が発生し、呪いは依頼人の体から離れ、蛇の体に戻っていく。この呪い返しは蛇にとって耐え難い苦痛であり、内側から肉体を激しく蝕み、吐血を引き起こすほどの影響を及ぼす。一方、呪いを繰り返し、複数の人間を消し去った依頼人には、さらに深刻な破滅が待ち受けている。最初に課せられる「生涯誰とも縁を結べない」という代償に加え、依頼人自身が親しい友人や知人からも認識されなくなり、まるで存在しなかったかのように、「世界そのものとの縁」までが断たれてしまうことが確認されている。
蛇とクビツリを追う二つの組織
蛇とクビツリは、二つの組織から追われる立場にある。一つは、呪いを使ったことを後悔し、蛇たちを憎む元依頼者たちで構成された「被害者の会」で、ここには誤解から従兄を消してしまった千緒子が所属している。もう一つは、怨結びによる失踪者を追い、事件の謎を解明することを目的に新設された警察組織「少年八課」で、ここにはかつて片思いの幼なじみを消してしまった過去を持つ刑事の櫻が所属している。この二つの組織と蛇、クビツリとのあいだで繰り広げられる、まるで鬼ごっこのような追跡劇が物語にスリルと複雑な人間関係をもたらしている。
登場人物・キャラクター
蛇 (くちなわ)
神社に祀られている女神。長い黒髪をポニーテールにまとめ、白い着物を身にまとい、その体には赤いしめ縄が巻きついている。一人称は「妾(わらわ)」。その正体は、かつて男女の縁を結ぶ「赤縄(せきじょう)」という道具が朽ち果て、変質した存在。現在は蛇自身を神社に縛り付ける封印によって、善悪の区別や人間の心の機微を理解する能力を失っている。この封印を解くために、異性に恨みを抱く依頼人をクビツリに集めさせ、彼らに封印の呪いを肩代わりさせようとしている。必要に応じて、クビツリの肉体に自らの意識を憑依させることもできる。クビツリを「失った良心の代わり」と見なし、本来の赤縄であった自分を取り戻す日まで、自らが犯す罪を彼に記憶として刻み続けて欲しいと願っている。
クビツリ
蛇が祀られている神社で首を吊って命を絶った男性。三白眼で目つきが悪く、首には赤いしめ縄が巻かれている。自殺の際に、蛇の本体の一部であるしめ縄を使用したため、蛇への供物と見なされ、不本意ながら彼女の神使となってしまう。生前の記憶はまったくなく、なぜ自殺したのか、どのようにこの神社にたどり着いたのかも覚えていない。見た目はふつうの人間と変わらず、誰からも認識されて会話も可能だが、実際には食事も睡眠も不要な「動く死体」である。当初は、蛇が少女たちの切実な願いを自身の封印解除のために利用していることに強い憤りを感じ、蛇を消滅させるために彼女との性行為の機会をうかがっていたが、蛇にかかわるうちに次第に情が芽生え始める。また、過去に左腕を失っている。
書誌情報
神さまの怨結び 全12巻 秋田書店〈チャンピオンREDコミックス〉
第1巻
(2014-11-20発行、978-4253235709)
第12巻
(2021-11-18発行、978-4253236317)







