女性特有の生きづらさを抱える主人公
本作の主なテーマは「フェミニズム」である。単行本2巻巻末の「高野ひと深×ヤマシタトモコ スペシャル対談」によると、執筆のきっかけは『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』というエッセイ。それを読んだことで、自分が傷ついていたという事実に気がつき、その憤りが募っていき本作の執筆につながったという。作者が感じた「女の生きづらさ」「女性の不当な扱い」は、取材相手からのセクハラや、女性が捨てたゴミを持ち去る変質者など、本作の主人公の諫早依知が日々感じる絶望として表現されている。
救えなかった親友・繪堂恵波を探す依知
ある日、依知の元にやってきたのは、「運命の相手」を名乗る中学の同級生、正木蒔人だった。二人が通っていた秀光館学園には、全生徒の遺伝子の相性をチェックして、「運命の相手」である男女ペアを作る「ジーンブライド」という行事があった。遺伝子チェックのための唾液採取の1時間前から飲食を禁止されていたにも関わらず、依知と蒔人はチョコを食べてしまったことから、強制的に1日カップルになったという。依知はそのことを覚えていなかったが、蒔人の出現により親友の繪堂恵波のことを思い出す。恵波は、ジーンブライドにまつわるある事件の後、行方不明になっていた。依知は蒔人の協力を得て、当時救えなかった親友、恵波の行方を探し始める。
優秀な遺伝子にこだわる秀光館学園の謎
秀光館学園は全寮制で、学園で生まれ育った内部生と、中等部から入学した外部生(女子のみ)に分かれている。学園の教えでは、内部生は無菌の空間で生まれ、徹底した健康管理をされていることから、外部生よりも健康であらゆる疾病への免疫を持つという。また、成績でも内部生のほうが優れていると教えられている。学園が生産しようとしているのは「国を担う優秀な人材」か「健康で優秀な子どもを産む女性」という二通りしかない。生徒たちの遺伝子をチェックしたり相性を調べたりするのも、そんな学園の方針に則(のっと)っているものと思われる。ある日、依知は一人の少女と出会う。それは自分と同じ顔、同じ名前を持つ、秀光館学園の生徒、諫早壱だった。二人の「いさはやいち」との出会いや秀光館学園の優生思想的な計画が語られ、物語は近未来SFサスペンス的な展開を見せる。
登場人物・キャラクター
諫早 依知 (いさはや いち)
エンタメ系情報媒体のライターで、30歳の女性。右手の甲に傷がある。取材対象の男性からのセクハラや、ジョギングコースで遭遇する変質者など、女としての「生きづらさ」に辟易とした日々を送る。秀光館学園秀光館中学校のOG。学生時代のあだ名は「いっちゃん」。学園を中途退学しているが、表向きは親の仕事の都合で転校したことになっている。同級生・正木蒔人との再会をきっかけに、中学時代の親友で性犯罪の被害者になった繪堂恵波の行方を追う。その途中、秀光館中学校の生徒で自分と同じ顔、同じ名前を持つ諫早壱と出会う。
諫早 壱 (いさはや いち)
秀光館学園秀光館中学校の生徒で、14歳の女性。あだ名は「わんちゃん」。外界から中等部に入学した「外部生」ではなく、学園内で生まれ育った「内部生」で、出生後は徹底した健康管理をされている。「合同交流会」という学校の行事に向かう際、飛行機が濃霧で欠航。空港を抜け出して行った初めての映画館で、自分と同じ顔、同じ名前を持つ諫早依知と出会う。
正木 蒔人 (まさき まくひと)
諫早依知の中学時代の同級生の男子。自閉スペクトラム症の傾向があり、イレギュラーなことがあるとパニックに陥ってしまう。大学時代からの友人でアプリ開発をしている武智という男性と一緒に住んでいる。秀光館学園の「ジーンブライド」という行事で助けられたことから、15年前のお礼をしたいと、依知の前に現れる。
書誌情報
ジーンブライド 3巻 祥伝社〈FCswing〉
第1巻
(2021-11-08発行、 978-4396768447)
第2巻
(2022-08-08発行、 978-4396768638)
第3巻
(2024-02-08発行、 978-4396750404)