「子供を殺してください」という親たち

「子供を殺してください」という親たち

押川剛の同名小説のコミカライズ作品。(株)トキワ精神保健事務所には、精神科医療とのつながりを必要としながら、適切な対応がとられていない、さまざまな状態の子供を持つ保護者が日々依頼にやって来る。そんな家族と向き合い、問題を抱える当事者と押川剛の交流を描いたノンフィクション。この作品は、原作者である押川剛が経験した事実に基づいて描かれているが、個人情報に配慮して登場人物の名前はすべて仮名となっているほか、ディテールの変更や時系列の入れ替えがなされている。「月刊コミック@バンチ」で2017年4月から連載の作品。

正式名称
「子供を殺してください」という親たち
ふりがな
こどもをころしてくださいというおやたち
原作者
押川 剛
漫画
ジャンル
社会問題
レーベル
バンチコミックス(新潮社)
巻数
既刊16巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第1巻

殺人事件摘発数のうち、被疑者と被害者の関係が親族間である割合は全体の55%に達し、家族を被害者とする殺人事件の数自体も増加傾向にあった。重度の統合失調症やうつ病、長期引きこもりや性犯罪など、さまざまな問題を抱え、精神科医療とのつながりを必要としながら病識がなく、適切な対応を取られていない子供を持つ親からの依頼で、対象者を説得して医療につなげる事が、(株)トキワ精神保健事務所の業務だった。この日、所長を務める押川剛のもとに、統合失調症である荒井慎介の母親、荒井が依頼に訪れた。慎介は弁護士の両親のもと育てられ、将来有望な成績優秀者だったが、大学受験失敗をきっかけに豹変。全裸で庭に出て金属バットを振ったり、飼い猫をバットで殴り殺したりと、彼の奇行は次第にエスカレートしていった。そんな息子の異常行動に手を焼いた母親は、限界を感じて押川に助けを求めに来たのだ。一通り話を聞いた押川は、視察調査を開始。慎介本人を説得して病院へ移送するため、動き始める。(#01「【ケース1】精神障害者か犯罪者か」。ほか、3エピソード収録)

第2巻

ある日、(株)トキワ精神保健事務所押川剛実吉あかねは、グループホームで共同生活を送る田辺卓也のもとを訪れた。現在の彼は落ち着いた面持ちで、仲間との穏やかな日常を過ごしているようだった。しかし、遡る事6年前。うつ病を患っていた卓也は、田辺の母に対して異常なまでの執着を見せ、さまざまな暴力行為に及んでいた。うつ病を治そうともせず、通院や投薬を中断。ただ引きこもり、自分の思い通りにならなければ苛立って暴力を振るう。そんな卓也との生活に限界を感じた母親は、押川のもとを訪れて息子を入院させたいと、病院への移送を依頼した。しかし卓也の主治医の縦山は、入院を希望する家族に対して入院治療を拒絶。真剣に悩んでいる家族に心無い言葉を浴びせ、患者家族を簡単に見限った。そんな縦山の態度を目の当たりにした押川は、無理心中を考えるほどに追い詰められた母親の立場に立ち、主治医変更を提案。腰の重い保健所を説得して別の病院を紹介してもらい、何とか卓也の入院へとこぎつける。(#07~#09「【ケース4】親を許さない子供たち」。ほか、2エピソード収録)

第3巻

ある日、(株)トキワ精神保健事務所押川剛実吉あかねのもとを訪れた沢入の母は、統合失調症やアスペルガー症候群、パーソナリティ障害など多数の病名が付いた息子、沢入真の扱いに限界を感じていた。幼少期から問題行動の多い真の尻拭いをし、火消しを続けて来た母親は、息子の起こしたトラブルにまつわる慰謝料や修繕費、真自身が作った借金の返済で、つねにお金が出ていく状態が続いている事を嘆き、押川に依頼するにはいくらかかるのかと、しきりに金銭の心配をしていた。ほかにも地位や世間体の事ばかりを気にかけ、真を思う様子など微塵も見せない。そんな姿を見た押川は、母親に対して多額の金が必要であると偽り、今住んでいるタワーマンションを売っても払えるかどうかわからないと要求をちらつかせる。すると母親は押川に対し、そんな多額の金が必要ならば、息子を安楽死させてくれるような病院を紹介してほしいと口走る。(#10「【ケース5】依頼にならなかった家族たち」。ほか、4エピソード収録)

第4巻

クリスマスの日、(株)トキワ精神保健事務所押川剛にとある依頼が舞い込んで来た。黒澤の父黒澤の母は、知り合いの知り合いであるという実吉あかねを頼り、娘の黒澤美佐子について助けを求めて来た。美佐子は10年前、反応性低血糖という病を発症した事がきっかけで激太りし、婚約者と破局。さらに仕事も失う事となった。これにより生活が崩壊していった美佐子は、心のバランスを崩して引きこもるようになった。その頃から、すでに精神の病を患っていたと考えられたが、それから10年を経て、一度も精神科を受診する事のないまま、両親に放置される形で現在に至ってしまう。娘の事を公にして事を荒立てるのを嫌った両親は、なんとかしてひっそりと娘を病院に運んでもらい、すべてを解決しようと考えていた。しかし、放っておいた10年という期間は、事を重くするには十分すぎる期間だった。年の瀬も差し迫るある日、押川は準備を整えると、美佐子の住むマンションへと向かう。そこで押川は想像をはるかに超えた、史上最悪の状況を目の当たりにする事になる。(#17~#19「【ケース9】史上最悪のメリークリスマス」。ほか、2エピソード収録)

関連作品

本作『「子供を殺してください」という親たち』は、2015年6月に新潮文庫より刊行された、押川剛の同名小説が原作となっている。その後、2017年3月には、続編にあたる『子供の死を祈る親たち』が刊行された。

登場人物・キャラクター

押川 剛 (おしかわ たけし)

(株)トキワ精神保健事務所の所長を務める男性。以前、警備業を営んでいた頃、統合失調症を発症した従業員が親元へと戻って行ったが、もてあました両親によって抵抗する彼を無理矢理精神科病院へ連れて行かれたという話を聞き、自分が付き添ってやればよかったと、後悔と自責の念に苛まれた。それがきっかけとなり、精神科医療とのつながりを必要としながら、適切な対応がとられていない、さまざまな状態の子供を持つ保護者からの依頼を受け、対象者を説得し、医療につなげる役割を果たす事務所を作った。基本的には、相談料を取って依頼主から直接話を聞き、なにが必要かを模索したのち、実際に足を運んで調査を行うなどしてから、本人との接触を図り、移送を行っている。スタッフは自分のほかには実吉あかねのみで対応を行っている。最近では、荒井慎介の退院を機に一軒家を借り、彼と境遇の似た若者をほかに二人を受け入れ、共同生活を送る場を用意。彼らが社会復帰を目指す手助けを始めた。依頼にやって来る保護者を観る目は鋭く的確で、特に患者である当事者には、突き放す事なく、親身になって対応している。外見が強面な事から、ヤクザのような印象を与えがちだが、暖かい人間性を持っている。馬好きで、競馬を趣味としている。本作の原作者である♯押川剛本人。

実吉 あかね (さねよし あかね)

(株)トキワ精神保健事務所のスタッフの女性。所長である押川剛をサポートしている。ふだんは事務所にかかってくる相談の電話に対応している。行き場のない思いを抱えた家族からの電話には親身に対応し、ヒアリング表を作成している。対象者の病気の事だけでなく、成育歴や親子関係、親の夫婦関係などの踏み込んだ質問にまで及び、その書類は多くの場合、A4用紙にして20枚から30枚ほどの量になる。電話対応のほかにも、直接現地へ足を運んで探偵のように調査を行ったり、話を聞いたりと、その仕事はさまざまで、押川と共に保健所に足を運び、依頼主のサポートを行う事も主な仕事のひとつ。

荒井 慎介 (あらい しんすけ)

エリート一家に生まれ育った男性。年齢は21歳。両親共に弁護士で、父親は業界屈指の法律事務所を営んでおり、必然的に将来は弁護士になると決められていた。高校時代、成績はつねに上位であり、法学部入学も確実視されていたが、大学入試を直前に控え、急激に成績が下がり始め、そのまま法学部への道は絶たれた状態となった。その後、大学の他学部へ入学したものの、学校を休みがちになり、異常行動が始まった。診療内科では統合失調症と診断され、薬が処方されたが、彼の言動は日を追うごとに不安定になっていった。主な行動としては、突然歌手になりたいと頭髪を金髪に染め、写真を何百枚も撮ったり、飼い猫をバットで殴り殺したり、全裸で庭に出て金属バットを振っている。限界を感じた荒井の母から依頼を受けた(株)トキワ精神保健事務所の押川剛に、説得されて病院へ移送、入院する事となる。しかしその後3か月ほどで、医者からの要請により半強制的に退院となり、その後は押川が用意した家で共同生活を送る事になる。

荒井の母 (あらいのはは)

荒井慎介の母親。夫婦共に弁護士で、夫は業界屈指の法律事務所を営んでいるというエリート一家。慎介は弁護士になるようにと、将来を定めて育てて来たが、大学受験直前に挫折。他学部に入学したあとから、様子がおかしくなった息子の異常行動が手に負えなくなり、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとに相談に訪れた。慎介が入院して退院する事が決まった際、自分達が殺されてしまうと身の危険を訴えたうえで、費用がいくらかかってもいいからと、押川に息子の今後を任せる形ですべてを託し、親である事を放棄した。

木村 則夫 (きむら のりお)

子供の頃から昆虫をいたぶり殺すくせがある男性。年齢は39歳。小学生の頃には野良猫を殺したり、飼い犬をいじめたりする事があった。以前は建築会社の営業を務めていたが、酒の席でのトラブルが原因で退職し、職を転々とするようになった。酒を飲むと決まって車を運転したがり、どんなに止めてもそれを繰り返した。20代後半に、車を大破する大事故を起こした事がきっかけで、アルコール依存症の治療を受けるため入院した。3か月後には退院して状況も改善がみられたものの、1本のビールがきっかけで元に戻ってしまう。それから10年が経過し、酒量は増加。飲みながら失禁や脱糞をするようになり、家中の物を壊して家族には暴力を振るうようになる。ある日、木村の父に包丁で斬りかかった際に両親と押し問答となった結果、足を滑らせて後頭部を強打。頭を何針も縫う大ケガを負い、入院する事となった。しかし入院先から退院を促されており、心配した両親が依頼した(株)トキワ精神保健事務所の押川剛によってアルコール依存症の治療を受けるため、転院する事になる。

木村の父 (きむらのちち)

木村則夫の父親。妻である木村(母)と共に、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れ、アルコール依存症の息子について相談し、治療を受ける施設への移送を依頼した。息子については、一度も名前を呼ぼうとせず、つねに「あいつ」や「やつ」と呼んでは息子の不出来を嘆く言葉が多く聞かれる。則夫の飲酒を制止しようとした際、逆上した息子によって包丁で斬りかかられ、右腕の肘から下を大きく負傷した。息子が親を怨むようになった原因はすべて木村の父にあり、彼は妻に対して暴力を振るう凶暴性を隠し持っている。しかし、地元の有名企業で重役にまで上り詰めた自負があり、自分こそが正しいと思い込んでいる。

木村の母 (きむらのはは)

木村則夫の母親。夫である木村の父と共に、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れ、アルコール依存症の息子について相談、治療を受ける施設への移送を依頼した。実は夫から暴力を受け続けており、意見する事も許されずに、夫には逆らえない状況が続いている。

和田 朋子 (わだ ともこ)

(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れた女性。年齢は38歳。姉の和田晴美と共に実家にいるはずの和田の母と連絡が取れない事を心配している。姉からは幼い頃から叩かれたり、髪を引っ張られたり、閉じ込められたりと、理不尽な虐待を受け続けて来た。日に日にエスカレートする姉の様子に、このままでは殺されると感じ、16歳で実家を出た。独立後も姉には内緒にする形で母親と連絡を取り続けていたが、実家にはそれ以降一切近寄っておらず、姉にも会っていない。現在は結婚して、夫と二人の子供と共に暮らしている。

和田 晴美 (わだ はるみ)

和田朋子の姉。幼い頃から妹を叩いたり、髪を引っ張ったり、閉じ込めたりと、理由なく虐待を続けていた。妹が家を出たあと、和田の母と二人での生活を続けたが、大学受験に失敗して家に引きこもるようになった。それ以降生活はどんどん荒れていき、隣人である田中から覗かれている、盗聴されていると、ありもしない被害を訴えるようになり、食事には毒が盛られているなど被害妄想が深刻化し、20年以上が経過している。自宅には外から人が入れないように玄関のドアノブも壊されており、窓もすべて新聞紙で塞いだ状態になっている。

和田の母 (わだのはは)

和田朋子と和田晴美の母親。若い頃に夫を亡くし、夫の遺した多額の遺産で生活している。晴美の攻撃的な性格を知っており、朋子を救うためにも16歳で実家を出る事を許した。その後も晴美に内緒で朋子と連絡だけは取りあっていたが、ここ半年ほど、まったく連絡が取れない状態が続いている。自宅は外から人が入れないように玄関のドアノブが壊されており、窓もすべて新聞紙で塞いだ状態になっている。

田中 (たなか)

和田晴美が母親の和田と住む家のとなりに住んでいる夫婦。15年以上前から風呂を覗かれたり、盗聴器を仕掛けられたなど、晴美から身に覚えのない難癖をつけられるようになった。昼夜問わず隣家から身を乗り出して怒鳴り続けられたり、玄関前に生ごみがばら撒かれていたりと、嫌がらせはエスカレートする一方で、警察が出動する事態になった事も数知れない。引っ越したいと思ってはいるが、まだローンが残っているため、身動きが取れない状態にある。

田辺 卓也 (たなべ たくや)

10年来の引きこもりの男性。年齢は35歳。うつ病を患ってからというもの、異常なまでの警戒心を抱いて攻撃的になった。特に田辺の母に対する執着心は強く、自分の思うようにならないと、その矛先はすべて母親に向けられ、威圧的な態度を取るほか、至近距離からエアガンを母親の顔に向けて撃ち込むなどの暴力行為に及んでいる。病院での治療については、縦山のもとに通院していたものの、のちに通院も投薬もすべて拒絶してしまう。そのため、悪化の一途を辿る息子を心配した母親によって(株)トキワ精神保健事務所の押川剛に病院への移送を依頼され、結果的には「いるか野病院」の鹿野のもとで入院する事になる。しかし、入院先で落ち着いている事を理由に、家族に対する威圧的な態度は変わる事がないまま退院を余儀なくされる。

田辺の母 (たなべのはは)

田辺卓也の母親。家庭内の事に無関心な夫に代わり、厳しい子育てを貫いて来た。しかし、うつ病を患った息子の様子が次第に悪化していく事に限界を感じ、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れた。卓也からは、日々威圧的な態度を取られ続けており、顔に向けて至近距離からエアガンを撃ち込まれる被害に遭っている。病院での治療を受けようとしない息子からの暴力に怯える日々を過ごす事に心底思い悩み、無理心中を考えるほどに追い詰められている状態にある。

縦山 (たてやま)

田辺卓也の主治医を務める男性。卓也が住む地域では非常に高名な医師として認められており、保健所との関係を密にしているが、その人間性は血も涙もない。入院を希望して来院した押川剛と田辺の母に対して、入院治療を拒絶した。自分の保身に走るあまり、治療途中の患者である卓也と、真剣に悩んでいる家族を簡単に見限った。

鹿野 (かの)

田辺卓也を新たに受け入れる事にした医師の男性。「いるか野病院」の院長を務めており、卓也の状態を聞いて保健所と警察官の立ち合いを条件に、入院受け入れを承諾した。しかし、もともと半年は入院が必要だと語っていたにもかかわらず、病院内での問題行動がない事を理由に、たった1か月で退院を指示した。あとは卓也個人と田辺の母との個人的関係の問題であると、医者としての役割を放棄して無責任な言葉で家族を突き放す。

沢入 真 (さわいり まこと)

幼い頃から落ち着きがなく、頻繁にトラブルを起こしていた男性。年齢は25歳。小学校時代はいじめの対象となり、逆に家では毎日のように弟を陰湿にいじめ続けた。思春期に入ると、沢入の母に暴力を振るうようになるが、同時にお尻を触るなど、母親を性的な対象として見る事もあった。金銭感覚はなく、あればあるだけ使ってしまうほか、一方的に好意を抱いた女性をつけまわしたあげく不法侵入し、警察沙汰になった事もある。物に対しても人に対しても攻撃性が強く、精神科病院への入院歴は3回あるが、いずれも1~2か月で退院となっており、現在も入院中だが、近々退院を予定している。母親が(株)トキワ精神保健事務所の押川剛に依頼した3か月ほどあとに、自宅マンションで父親を刺殺して現行犯逮捕される事になる。これまでについた病名は、統合失調症をはじめアスペルガー症候群、パーソナリティ障害など多数に及ぶ。

沢入の母 (さわいりのはは)

沢入真の母親。東京都中央区のタワーマンション「ダイヤモンドタワー」の25階に住んでいる。幼い頃からトラブルの多い息子の様子に、発達の遅れを疑って児童精神科を受診した事もあるが、特に異常はないとされた。しかし息子が思春期に入ると、暴力を振るわれるようになり、そして同時にお尻を触られるなど、性的な対象として見られた事もあった。忙しい夫に代わり、ずっと真の尻拭いをし続けて来たが、入退院を繰り返す息子が起こしたトラブルや、それにまつわる慰謝料や修繕費、真自身が作った借金の返済で、つねにお金が出ていく状態が続いている事が悩み。近々真が退院する予定のため、このままでは限界であると、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れた。基本的にかかるお金の事、地位や世間体の事で頭がいっぱいだが、最終的にはお金に糸目はつけないから、息子を殺してほしいと押川に要求する。

宝田 由伸 (たからだ よしのぶ)

ゼミの後輩である川野えりかと、春から交際している男子大学生。年齢は23歳。8か月程度で一方的に別れを切り出され、破局した。その後、話し合おうとするものの、えりかの態度に納得がいかずにケガを負わせてしまう。それ以降大学へも行かなくなり、引きこもるようになった。夜になるとふらふらと出かけ、彼女に付きまとうようになり、嫌がらせをするなどストーカー行為に及んだ。挙句の果てにはえりかに刃物を向け、殺人未遂容疑で逮捕となったが、拘留中に彼女との示談が成立して罰金刑での釈放となった。もともとおとなしい性格で、女性に対して奥手で、明るく優しい人柄だった。しかし彼女とのトラブルにより、自殺願望や他殺願望に捕らわれるようになり、彼女を殺して自分も死ぬつもりでいる。

川野 えりか (かわの えりか)

ゼミの先輩である宝田由伸と、春から交際している女子大学生。年齢は21歳。男性からの人気が高く、つねに複数の男性に囲まれた日々を送っており、有名芸人と肉体関係を持った事を自慢するなど「ヤリマン」だったと噂されている。由伸と付き合っていた際、「別れるくらいならいっしょに死のう」という言葉のやり取りをした事があり、それが原因となって、別れたあとに由伸から刃物を向けられる事になる。しかし、その発言により自分にも後ろ暗いところがあった事を自覚し、由伸とは示談を成立させた。

友人 (ゆうじん)

宝田由伸の友達で、同じ大学に通う男子大学生。日ごろの由伸の様子が知りたいと、押川剛に呼び出されて情報提供に応じた。友達として、由伸が川野えりかと別れてから様子がおかしくなった事を本気で心配しており、最近も様子を見るために家を訪れた。みんなが由伸に戻って来てほしいと思っている事を由伸本人に伝えてほしいと、押川に依頼した。

宝田の父 (たからだのちち)

宝田由伸の父親。妻である宝田の母と共に、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れ、恋人との別れによって精神を病んでしまった息子を病院へ移送してほしいと依頼した。元交際相手である川野えりかに刃物を向け、殺人未遂の罪で捕まってしまった息子が、示談になってもなおストーカー行為を止めないため、自分の息子が人を傷つけるくらいなら、自らの手で息子を殺した方がいいのではないかと考えている。

宝田の母 (たからだのはは)

宝田由伸の母親。夫である宝田の父と共に、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れ、恋人との別れによって精神を病んでしまった息子を病院へ移送してほしいと依頼した。元交際相手である川野えりかに刃物を向け、殺人未遂の罪で捕まってしまった息子が、示談になってもなおストーカー行為をやめないため、いつかまた人を傷つけてしまうのではないかと心底心配している。息子との話し合いの場では本気で取り組み、全身全霊で体当たりする事で、自分の気持ちを伝えようと努力する。

吉原 清 (よしはら きよし)

昔からお金に不自由しない暮らしをして来た男性。年齢は52歳。どこかお坊ちゃんのような雰囲気を漂わせ、なぜかおネエのような口調やしぐさをする事が多い。20代の頃、バブル全盛期に自営業をしていて羽振りのよかった両親から、莫大な小遣いをもらって豪遊する日々を送っていた。しかし、大麻に手を出した事がきっかけで、さまざまな薬物を乱用。その結果、精神が不安定となり、躁うつ病を発症した。実際は薬物依存症によるものだが、障害年金を受給するために、薬物依存については伏せたまま、躁うつ病として治療を受け続けており、それから20年以上、精神科への入退院を繰り返している。10度目の入院をしている現在も、薬物乱用の後遺症によって手先は震え、未だにお金と家族への異常なまでの執着は残ったままになっている。

吉原の弟妹 (よしはらのていまい)

吉原清の弟と妹。薬物乱用により、20年以上精神科への入退院を繰り返している兄の今後について相談するため、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れた。狂気を帯びた兄が、家族や金に対する異常なまでの執着をみせ続けたため、兄の存在自体に怯えながら生活を送っている。特に金の無心がひどく、バブルがはじけて父親の会社が倒産したあとからは、その矛先が弟妹へと向かうようになった。現在入院中の兄が、退院を促されているが、兄が出て来たら再びトラブルになる事は明らかなので、心の底では死んでくれたらいいのにと考えている。

鶴山 知記 (つるやま ともき)

幼い頃から成績優秀な男性。年齢は33歳。大学卒業後は国家公務員として県庁に勤めていた。その後、キャリアアップを目的に県庁を辞めたものの、資格試験も転職活動もうまく行かず、次第に神経過敏気味になっていった。その結果潔癖になり、1日に何度も入浴し、繰り返し手を洗うため、水道代は月に5万を超えるようになった。両親に対しては暴言を吐き、攻撃的な態度になっていく。

鶴山の父 (つるやまのちち)

鶴山知記の父親。何事にも優秀だったはずの息子が、精神を病んで自分達に対して攻撃的になったため、取るものもとりあえず、妻である鶴山の母と共に東北の実家へ避難した。世間体を気にしているため、息子の異変について口にする事はないままに世話になった実家をあとにすると、その後はしばらくのあいだ車の中で生活していた。しかしそんな生活にも限界を感じ、息子を病院に連れて行ってもらおうと、自分で調べた(株)トキワ精神保健事務所を訪れ、押川剛に助けを求めた。しかし、いつまでも息子の就職にばかりこだわっていたため、押川からはまだ息子を追い込むつもりかと問われた。それに腹を立てて、後日押川に連絡。一方的に怒鳴り散らして相談料を返せとまくし立て、依頼をなかった事にした。いつもイライラしており、妻に対してもつねに高圧的で、上から目線の物言いをする。息子が病んでしまっている事も、妻の性格に似たからだと考えている。

鶴山の母 (つるやまのはは)

鶴山知記の母親。何事にも優秀だったはずの息子が、精神を病んで自分達に対して攻撃的になったため、取るものもとりあえず、夫である鶴山の父と共に東北にある夫の実家へ避難した。世間体を気にしているため、息子の異変について口にする事はないままに世話になった実家をあとにすると、その後はしばらくのあいだ車の中で生活していた。しかしそんな生活にも限界を感じ、息子を病院に連れて行ってもらおうと、(株)トキワ精神保健事務所を訪れ、押川剛に助けを求めた。しかし、いつまでも息子に向き合おうとせず、就職にばかりこだわっているところがあり、息子の健康よりも、きちんとした職業に就く事に執着している。基本的にくよくよと悩むタイプで、すぐ泣いてしまう。そのため、夫に強く言われると言い返せない。

黒澤 美佐子 (くろさわ みさこ)

10年前に反応性低血糖を発症して太ってしまった女性。年齢は37歳。10年前は清楚な美女だった。婚約者と破局して以来精神を病み、初めて自宅に引きこもるようになる。また大学卒業後から予備校で講師を務めていたが、その仕事も次第に休みがちになり、解雇される事となった。そしてこの頃から、近隣住人からいじめを受けたと話すなど、次第に様子がおかしくなっていったが、精神科などの病院に受診した事は一度もなく、10年が経過している。現在もファミリー向けの大きな分譲マンションで一人暮らしを続けており、黒澤の母が週に一度様子を見に来るほかは、外部との接点は一切ない状態。

黒澤の父 (くろさわのちち)

黒澤美佐子の父親。教師を務めていたが、現在は退職している。いかにも厳格そうな雰囲気を醸し出しており、政治家のような印象を与える。激変してしまった娘を心配しているようでいて、どこか煙たがっている感じが見受けられ、事を大きくするのを嫌がり、ひっそりと解決したいと考えている。病んでしまった娘を一度も病院に連れて行く事なく、妻に任せっぱなしにして10年間放置した。手に負えなくなったと見るや、知り合いの知り合いである実吉あかねを頼って、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛に、助けを求めた。

黒澤の母 (くろさわのはは)

黒澤美佐子の母親。つねに疲れ切った表情を浮かべている。10年前から精神疾患の疑いがありながら、娘を一度も精神科に連れて行く事なく、週に一度マンションに様子を見に行く事で対処して来た。しかし実際は、4年ほど前からマンションの玄関まで行き、部屋の中には入らず、きちんと様子を見る事もしないままに、生活必需品だけをドアの隙間から入れるという作業を繰り返していた。夫である黒澤の父と共に、(株)トキワ精神保健事務所の押川剛のもとを訪れたが、娘の問題を公にし、他人が介入する事に気が進んでいない。そのため、押川だけではなく、保健所への相談でさえも嫌がり、大げさにして事を荒立てたくないと主張する。

保健師 (ほけんし)

保健所に勤務する保健師の女性。相談に訪れた黒澤の母に対して、黒澤美佐子の調査や移送については家族でやるようにと突き放した対応をしたが、押川剛からの説得でしぶしぶ訪問調査に応じる事にした。しかし、マンションのインターフォンを押して美佐子からの応答がないだけで、不在だからと帰ろうとしたり、強引な調査はできないと、二言目には調査の中止を口にする。

場所

(株)トキワ精神保健事務所 (ときわせいしんほけんじむしょ)

押川剛が所長を務める民間企業。重度の統合失調症やうつ病、脅迫症やパニック症といった精神疾患や、不登校や無就労などの長期引きこもり、薬物やアルコールなどの物質使用障害、ギャンブル、インターネット、ゲームなどへの嗜癖、ストーカー、DV、性犯罪に至るまで、精神科医療とのつながりを必要としながら、適切な対応がとられていない、さまざまな状態の子供を持つ保護者からの依頼で対象者を説得して、医療につなげる役割を果たしている。新宿に事務所を構え、訪れる保護者の相談に耳を傾けたのち、実際に現場を訪れ、視察調査を行って対処する。その際には、今後の治療や人間関係の構築など、あらゆる状況に備えて、対象者とその一部始終のやりとりを録画や記録する事を徹底している。主にそのサポート役は、スタッフである実吉あかねが務めている。

クレジット

原作

押川 剛

書誌情報

「子供を殺してください」という親たち 16巻 新潮社〈バンチコミックス〉

第2巻

(2018-01-09発行、 978-4107720382)

第12巻

(2022-11-09発行、 978-4107725431)

第13巻

(2023-05-09発行、 978-4107725998)

第14巻

(2023-11-09発行、 978-4107726650)

第15巻

(2024-05-09発行、 978-4107727152)

第16巻

(2024-11-09発行、 978-4107727657)

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