社会問題を背景にしたヒューマンストーリー
本作の主人公、山田刑事は、ある日、違法な性的サービスを行うJKリフレ店のガサ入れをする。未成年の少女の中で、特に山田の目を引いたのは、亡くなった娘のこずえにそっくりな詩織だった。その後、詩織のことが気になって仕方がない山田は、彼女のことを調べ、母親からの虐待や、SNSを通じて男性の家を転々としていることを知る。実家はもちろん、児童相談所でも詩織を救うことができない現状を知った山田は、違法と知りつつ、彼女を保護し一緒に暮らし始めた。本作の背景には、貧困女子や家出少女といった社会問題があり、作者によれば、鈴木大介の『家のない少女たち10代家出少女18人の壮絶な性と生』(宝島社)というルポルタージュが、本作誕生のきっかけだという。
家出少女×中年刑事の擬似親子生活
詩織の父は、彼女が生まれる前に姿を消しており、母の冴子が女手一つで詩織を育てた。売れない画家だった冴子は、絵を諦め、食べるものも節約しながらパートで働くが、リストラにあい、うつ病を患う。ある日、自分の昔の絵に、幼い詩織がラクガキしている姿を見て、冴子はブチギレ、詩織に手を上げてしまう。それ以来虐待が続き、詩織は家出をしては、JKリフレやSNSで知り合った男の家を転々とするようになった。山田は、6年前の夏、海水浴で一人娘のこずえを亡くしている。妻が風邪のため二人きりで出かけたが、日頃の疲れから山田は浜辺で眠ってしまう。その間にこずえは溺死してしまったのだ。娘の死が原因で妻とも離婚した山田は、現在でも当時のことを後悔している。本作は、自分の居場所も愛され方もわからない詩織と、亡くなった娘と詩織を重ね合わせる山田の、かりそめの家族生活を描いたドラマである。
美術との出会いと初めての友だち
山田の家から高校に通うようになった詩織は、ある日山田と衝突し、家を飛び出してしまう。そして、中年男性に連れて行かれそうになっていたところを、イラストレーターの中川リコに救われる。リコの家で、絵の才能を見出された詩織は、高校の美術部に入部することになった。そこは、お調子者の岡部空夫と、漫画を描いているオタク女子たちという、変わった美術部だった。しかし、「ビッチ」「ヤリマン」など、悪い噂を囁かれていた詩織のことを詮索することもなく、「ここは、絵を描くことが好きな人間の聖域だ」と、詩織を受け入れる。初めて友達を得た詩織は、絵に邁進(まいしん)し「高校生全国美術展」への応募を決意する。
登場人物・キャラクター
海野 詩織 (うみの しおり)
16歳の少女。母親からの虐待を受けて家出少女となる。SNSで連絡をとりあう「泊め男」やJKリフレ店などを転々としていた。JKリフレのガサ入れで、刑事の山田と出会う。同じ野良猫の世話をしていたことがきっかけで、山田に少し心を開き、やがて親子のように暮らし始める。母親から厳しく禁じられていたが、絵を描くことが大好き。あるイラストレーターとの出会いをきっかけに、高校の美術部に入部する。
山田 肇 (やまだ はじめ)
45歳の中年男性。白髪とメガネが特徴。生活安全課の刑事で、役職は警部補。6年前に一人娘を亡くしており、それがきっかけで離婚した。JKリフレ店のガサ入れで、娘によく似た詩織と出会う。管轄外だったが、どうしても放っておけず、罪に問われることを覚悟で、詩織を保護して暮らすようになる。
岡部 空夫 (おかべ そらお)
詩織と同じ高校に通う、そばかすの男子。あだ名は「そらっち」。美術部に所属しており、現代美術だというよくわからない絵ばかり描いている。部室を訪ねた詩織を強引に入部させる。不良たちのパシリで、いじめに近い仕打ちを受けているが、生きていくためにお調子者を演じている。口は悪いが根は優しく、詩織と友だちになる。