獣の国の厳格なカースト制度
本作の舞台は、人と獣の特徴を併せ持つ獣人たちが暮らす「獣の国」で、この国には厳格なカースト制度が存在する。個体数が少なく希少な「ケモノ型」は、その強靭さから貴族階級として国を支配している。一方で、人の特徴が強く現れ、個体数が多い「ヒト型」は、平民以下の階級に分類され、虐げられる存在となっている。また、ヒト型の中でも動物の種類によって細かな階級が分かれており、兎や鼠など繁殖力が強く数が多い種族は、ヒト型の中でも最下層として扱われている。下層階級に属する者たちの生活は非常に厳しく、まともな仕事に就くことすら困難で、人さらいに売られて奴隷になる者も少なくない。
鼠の少女と狐の男性の出会い
下民の少女、彩葉は鼠のヒト型種族で、獣の国では最下層として虐げられる日々を送っていた。そんなある日、彩葉は人さらいに捕まってしまう。必死に脱出を試みるものの、非力な彼女は強靭な獣の追手から逃げきれず、すぐに捕まって絶体絶命の窮地に陥る。その時、偶然通りかかった高級宿屋「狐牢館(ころうかん)」の主人、八雲に助けられるが、彩葉は奴隷として彼に買い取られてしまう。さらに八雲は尊大な態度で、彩葉を自分の「花嫁」にすると一方的に宣言する。突然の出来事に戸惑いながらも、彩葉は持ち前の負けん気を発揮し、八雲から何度も逃げ出そうと試みる。しかし、彩葉の試みはことごとく失敗に終わり、八雲にからかわれながら屈辱と反発の日々を送ることになるのだった。
狐牢館の謎と花嫁の意味
彩葉は理不尽な花嫁という境遇に戸惑いながらも、狐牢館での日々の中で、不器用ながらも時おり優しさを見せる八雲に次第に心を開き始める。しかし、コックの戒李からの忠告や、八雲を陰であやつる謎の男、右月の怪しげな存在が、彩葉の中に「花嫁」という言葉への疑念を抱かせる。彩葉は、花嫁とは貴族であるケモノ型が、その本能を満たすための食材であり、「狐牢館」が食人屋敷であることを知る。一方、八雲もまた右月に弱みを握られ、逆らうことができずにいたが、実は密かに花嫁たちを偽物の肉とすり替え、彼女たちを逃がし続けていた。八雲は彩葉も同様に逃がそうとするが、彩葉はその申し出を拒否する。この非道な行いを許せず、彩葉は自らの危険を顧みず、狐牢館に渦巻く陰謀を白日の下に晒すことを決意する。本作では、ケモノ型とヒト型の絶対的な身分の壁が存在し、その壁に翻弄されながらも、彩葉と八雲がその立場を乗り越え、心を通わせていく軌跡が丁寧に描かれている。
登場人物・キャラクター
彩葉 (いろは)
下民の少女。「ヒト型」と呼ばれる種族に属し、人間の特徴が色濃く表れた小柄な身体に白い髪、そして鼠の耳を持つ。鼠の種族はヒト型の中でも最下層に位置し、ほかの種族から虐げられる厳しい環境に置かれている。ひたむきな性格で、どんな逆境にも屈しない強い意志を持つ。かつて薬師のハクリと共に暮らしていたため、薬草への造詣が深い。ある日、人さらいに捕まり、都で奴隷として売られてしまうが、脱走した際に八雲の目に留まり、彼に買われることになる。八雲からは「花嫁」として扱われるが、当初は彼を強く警戒し、つねに逃げ出す機会をうかがっていた。彩葉の現在の姿は「鼠変わりの薬」によって作られたもので、実はケモノ型をも凌ぐ超稀少種族「イノセント」であり、本来は黒い髪を持つ完全なヒト型の少女。八雲に対して徐々に心を開き始めた矢先、狐牢館で行われる「花嫁」の儀式の残酷な真実を知ることになる。理不尽な悪事を許せず、自らの危険を顧みずにその悪事を暴き出すが、その代償として自身の正体も明らかになってしまう。結果として、狐牢館を裏であやつる謎の男、右月から付け狙われることになる。
八雲 (やくも)
都一番と名高い高級宿屋「狐牢館」の主人を務める男性。獣の特徴が色濃く表れた「ケモノ型」と呼ばれる種族で、毛並みの美しいキツネの姿で二足歩行する。成人男性をも見下ろすほどの長身と堂々たる体軀を誇る。ケモノ型は希少なため、貴族階級に属している。人さらいから逃げてきた彩葉を偶然見つけ、奴隷として買い上げ、一方的に「自分の花嫁にする」と宣言した。彩葉に対しては、彼女の意向を無視した強引な言動が目立つが、根は実直であり、宿屋の主人としてのプロ意識は非常に高い。ケモノ型の多くが平民を見下す中、八雲は従業員一人ひとりの事情に配慮し、仕事を的確に割り振るため、部下からも慕われている。実は、幼い頃に天涯孤独の身であり、ケモノ型でありながら後ろ盾がないために下民として虐げられていた。のちに右月に拾われて現在の地位を得るものの、彼から呪いのような毒を刻まれ、右月に逆らうことができない。表向きは右月の命令に従い、「花嫁」と称する生贄を集めるための隠れ蓑として狐牢館を経営している。しかし、実際には花嫁を調理したと偽って偽物の肉とすり替え、密かに花嫁を逃がしていた。彩葉も同様に逃がそうと試みるが、理不尽な運命に屈せず立ち向かう彼女の姿に心を動かされる。そして、彩葉と共に右月が行ってきた非道な行為を白日の下に晒そうとするものの、八雲自身も彩葉と共に追われる身となる。
戒李 (かいり)
高級宿屋「狐牢館」でコックとして働く青年。整った顔立ちをしたヒト型で、黒い毛並みの犬のような耳と尻尾を持つ。出会った当初から彩葉のことを気にかけており、彼女に早く狐牢館から出ていくよう忠告している。調理担当という立場から、狐牢館が食人屋敷であることに薄々気づいているものの、深入りすることを恐れ、あえて見て見ぬふりを続けている。それでも、彩葉を見捨てることができず、彼女が危機に陥ると、戒李自身の安全を確保した上で陰ながら手助けをしている。ただし、戒李が彩葉に示す親切や協力の裏には多くの謎が隠されており、右月とは別の目的で彩葉の特異性に注目している様子がうかがえる。
書誌情報
窮鼠の契り-偽りのΩ- 6巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2020-09-25発行、978-4098711383)
第2巻
(2020-09-25発行、978-4098711390)
第3巻
(2021-02-25発行、978-4098712243)
第4巻
(2021-05-26発行、978-4098713332)
第5巻
(2021-09-24発行、978-4098714520)
第6巻
(2021-12-24発行、978-4098715459)







