「魔女の力」とも呼ばれる「祝福」
本作の舞台となるミュトス王国は、かつて他国から魔女として追い立てられた人々が行き着いた地とされており、時おり魔法とは違った「祝福(ギフト)」という超常的な能力を持った者が生まれる。祝福とは「人知を超えた特殊な能力」の総称であり、その効果は一定のものではなく、原理も不明。祝福の力は互いに相殺される効果があり、祝福を持つ相手には、祝福の力が効果を発揮しづらいという特徴がある。ちなみに祝福を持つ者は、ほとんどが女性である。そして10年に一度、ミュトス王国では二人を国の代表である「神子」として選抜する試験が行われる。その二人とは、強い祝福を持つ者、そしてその者を強力にサポートできる者のコンビで選ばれる場合が多い。つまり神子になるには、必ずしも祝福を持つ必要はなく、祝福を持つ者と相性がいい者が選ばれる場合もある。神子は国家の中心となって政治にかかわることとなり、絶大な権力を得ることから、試験には多くの有力者の思惑が複雑に絡み合う。また神子は神秘的な力を使い、美女であることが多いため「聖女」と呼ばれることもある。
2年前に起きた「神子」選抜試験中の事件
今から2年前、「神子」選抜試験が行われた。神子候補は、神官見習いのモニク、子爵令嬢のサロメ、伯爵令嬢のゾエ、公爵令嬢のヴィオレット、そしてビルツ伯爵家所縁のチーロの五人。しかし試験の最中、チーロが護衛騎士と離れて一人でいるところを殺害されるという事件が発生。場所は大教会の裏庭・聖獣の森で、凶器はクロスボウだった。大教会は大きな外壁に囲まれているため外からは狙撃できず、チーロが神子の有力候補だったこともあり、ほかの神子候補、またはその息のかかった内部関係者が容疑者として挙げられたが、結局証拠がつかめずに試験は中断。それから2年が経ち、改めて試験が再開されることとなった。チーロと所縁(ゆかり)のあるエラルドは、この機に乗じてチーロ殺害事件の真相にせまるため、その能力を見込んだクロエを神子候補者としてねじ込み、共に今回の試験に挑むことになる。
金で結ばれたギャンブラーと聖騎士のバディ
神官見習いのクロエは、その卓越したギャンブルの腕から「豪運の聖女」と呼ばれているが、あくまで実力によるものであり、「祝福」の超常的な力を持っているわけではない。だが、チーロ殺害事件の謎を追うエラルドはクロエの力を見込み、彼女を大金で懐柔。そしてクロエを神子にするためではなく、あくまで事件を解明するために、金の力で裏から手を回してクロエを神子候補としてねじ込んで、共に大教会へと乗り込む。その後、二人は事件に関係すると思われる神子候補者と接触を図り、クロエの記憶力と観察力、そしてエラルドの金と家柄に物を言わせ、少しずつ事件の真相にせまっていく。だがその調査中に、彼らの前に新たな謎が浮上してくる。
登場人物・キャラクター
クロエ
ミュトス王国の辺境の教会で、神官見習いとして働く女性。ボリュームのある赤毛をセミロングヘアにしている。お金に異常に執着しており、幼い頃から叩き込まれたギャンブルの才能を活かし、夜な夜な町に出てギャンブルで荒稼ぎをしている。その圧倒的な強さから「祝福」を持つ者だと噂され、「豪運の聖女」の名で知られている。ただし、それはあくまでクロエ自身の卓越した記憶力や観察力によるもので、イカサマなど国内の法に触れることはしておらず、実際には祝福も持っていない。その記憶力や観察力を聖騎士のエラルドに見込まれ、多額の報酬につられて「神子」選抜試験への参加を承諾。以降、淑女教育を叩きこまれ、護衛騎士を務めるエラルドと共に大教会へと乗り込み、事件の真相を探っていく。
エラルド
ミュトス王国のビルツ伯爵家に名を連ねる、聖騎士の青年。聖騎士の証(あかし)である蔦の留め具の付いた白い外套を身につけている。本名は「エラルド=ビルツ」だが、これは極端に長いミドルネームを省略したもの。黒髪のショートヘアで、穏やかな性格の持ち主。優しい顔立ちながら実は用意周到で、つねに余裕のある態度を崩さない底の知れない人物。目的のためには手段を選ばず、「成金伯」とも揶揄される自らの家の財産を惜しみなくつぎ込む。2年前の「神子」選抜試験における殺人事件の被害者、チーロがビルツ家所縁の者だったこともあり、その事件の真相を暴くため、改めて開催されることとなった神子選抜試験にクロエを送り込む。エラルド自身はクロエの護衛騎士として、共に神子選抜試験が行われる大教会に潜入し、クロエと協力しながら事件の真相を探っていく。
クレジット
- 原作
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日向 夏
- キャラクター原案
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しんいち 智歩
書誌情報
聖女に嘘は通じない 4巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2023-09-25発行、 978-4065328125)
第2巻
(2024-03-19発行、 978-4065339985)
第3巻
(2024-08-16発行、 978-4065360910)
第4巻
(2025-02-17発行、 978-4065377819)