あらすじ
第1巻
黒い森の奥で一人で暮らしていた黒魔女のルーナは、3か月に一度だけ森の外にある街に出向き、作った薬を売ることで生計を立てていた。歩いた場所に毒キノコが生えてしまう黒魔女のルーナに対する街の人々の視線は冷たく、薬屋の主人と本屋の主人以外には相手にされない状態が何年も続いていた。しかし、自分の作った薬とは知らずに喜んで使ってくれる街の人々の笑顔を見てルーナは心を癒し、明日への活力としていた。そんなある日、街中で仲睦まじいカップルの姿を見て羨ましく思ったルーナは、帰宅後にカップルの少年の姿を思い起こし、彼の絵を描く。精巧に描かれた少年の絵には魂が宿り、ルーナは夜な夜な夢の中で少年とダンスを踊り、楽しい日々を過ごす。数か月後、再びルーナが街を訪問すると、絵のモデルとなった少年、アンリはすっかりやつれ、彼女からも相手にされなくなっていた。自分の描いた絵が現実のアンリの魂に悪影響を与えたことを悔いたルーナは、少年に魂を返して失意のまま帰宅する。数か月後、街を訪れたルーナは、彼女との夜な夜なの逢瀬(おうせ)を記憶していたアンリから話しかけられる。好意的なアンリの態度に最初は戸惑っていたルーナだったが、やがて純粋で優しいアンリに心を奪われてしまう。しかし、アンリは黒魔女と対立する白魔女の血統だったため、ルーナは旧知の使い魔のクロードに厳しく注意され、アンリと二度と会わないことを約束させられる。しかし、どうしてもアンリに会いたくなってしまったルーナは、紙にアンリの姿を描き、以前のように夜ごとの逢瀬を繰り返していたが、クロードによってアンリが死の寸前まで衰弱していることを知らされる。それを知ったルーナは、アンリに魂を返し、アンリとの楽しかった記憶のすべて消すことを決意する。
登場人物・キャラクター
ルーナ
黒い森に住んでいる黒魔女。いつも頭巾をかぶっている。見た目はごくふつうの人間の少女だが、人間より遥(はる)かに長い時を生きている。無口でおとなしい性格で、綺麗なものが大好き。黒い森の奥にある毒キノコの家に住み、日々薬を作って暮らしている。周囲の邪気を吸収して、毒キノコを生成できる特異体質の持ち主。3か月に一度近くの街を訪れ、薬屋の主人に作った薬を卸して生計を立てている。街の邪気を吸収し、歩いたあとに大量の毒キノコを生やすことで街を浄化しているが、それを知らない住民からは「シャンピニオンの魔女」というあだ名を付けられて忌み嫌われ、体から毒ガスを出しているなどの陰口を叩かれている。薬屋の主人と本屋の主人以外、街でまともに話せる人はいないが、ルーナ自身が作った薬が人々の役に立っていることに大きな喜びを感じている。街で見かけたカップルの少年、アンリの美しい容姿に惹かれ、彼の姿を描いたところ魂が宿り、夜な夜な絵のアンリとの逢瀬を楽しむようになった。それが縁となり、実物のアンリともなかよくなるが、彼が白魔女の家系であることを理由に、大魔導士の使い魔であるクロードより、アンリと会うことを禁止されてしまう。
アンリ
街に住んでいる、白魔女の家系の少年。容姿端麗で頭もいい街の人気者。街にやって来たルーナに会った際、その容姿に見ほれたルーナによって絵に描かれた。魂を持って動き出した絵のアンリは、夜な夜な夢の中でルーナとの逢瀬を楽しみ、その記憶を実物のアンリも共有することになる。代償としてアンリは魅力が吸い取られ、すっかりやつれてしまうが、ルーナがアンリに魂を返したことで元のアンリへと戻った。夢の記憶を共有していたことからルーナに興味を抱き、なかよくなろうとするも、ルーナがクロードによってアンリと会うことを禁止されたため、その願いが叶うことはなかった。
薬屋の主人
街で薬屋を営んでいる中年の男性。黒魔女に対する知識が豊富で、ルーナのことを拒絶しない数少ない人物。ルーナの作る薬の効力を認めており、ルーナが作った薬を仕入れ、彼女が作ったものであることを明らかにしないまま、店で販売している。ほかの人間ほどは黒魔女に対する偏見を持っていないが、ルーナと話す時はつねにマスクをしている。
本屋の主人
街で本屋を営んでいる若い男性。端正な顔立ちをしている。妖精と人間のハーフの子孫。いつもは人間の姿をしているが、本来の姿は妖精。ルーナには妖精の姿が、人間の姿に重なって見えている。出自の関係から黒魔女および黒魔術に関する造詣が深く、ルーナのことを恐れない数少ない人物。ルーナが生み出す毒キノコが、街の住民の悪意や邪気を吸収して発生することも知っている。
クロード
とある大魔導士の使い魔。口元を黒い布で隠している男性。ぶっきらぼうで粗暴な性格で、少々口が悪い。非常に高い身体能力を誇る。ルーナの行動を陰から見守っており、彼女がトラブルに巻き込まれないようにつねに注視している。白魔女の血統であるアンリとなかよくなろうとしたルーナの一連の行動を厳しく咎(とが)めていた。
その他キーワード
白魔女 (しろまじょ)
王家に従う魔女たちを総称した言葉。魔術を駆使して王国を近隣諸国の脅威から守る役割を担っている。代々の王は有力な白魔女を王妃として迎えるしきたりになっている。そのため、白魔女の血統につらなる者は王国内で強大な権勢を振るっている。
黒魔女 (くろまじょ)
強い力を持つ孤立主義の魔女たちを総称した言葉。国や王家に従わず、在野で思い思いに活動をしている魔女。それゆえに白魔女からは忌み嫌われており、度々いわれのない罪を着せられ、殺害される「魔女狩り」の対象となっている。
書誌情報
シャンピニオンの魔女 5巻 白泉社〈花とゆめコミックススペシャル〉
第4巻
(2022-08-19発行、 978-4592228691)
第5巻
(2023-07-20発行、 978-4592228929)