概要・あらすじ
教会暦526年。舞台は魔術を用いる魔女が存在し、教会によって迫害を受けている世界。「獣堕ち」と呼ばれる半人半獣の姿をした傭兵である「俺」は、森で自分の首を狙う魔女に追われていた。そこで偶然に出会ったゼロと名乗る若い魔女に命を助けられた「俺」こと傭兵は、ゼロから「ゼロの書」と呼ばれる魔法の書のことを聞かされる。
ゼロの書は才能のある者が読めば、魔女じゃなくても、魔術のような超越した力を使えるという。だが、その書が何者かに盗まれた。書の行方を追うゼロに気に入られた傭兵は、肝心の書を取り戻したら、自分を人間に戻してもらえることを約束し、彼女の護衛として旅を再開した。
登場人物・キャラクター
ゼロ 主人公
高位の魔女。低級の魔女に追われていた獣の傭兵を助けた。銀色の髪に青紫の瞳の、美しい少女だが、体型はかなりスレンダー。ゼロと呼ばれているが、本名は不明。長いこと穴ぐらと呼ばれる弓月の森の鍾乳洞に暮らして... 関連ページ:ゼロ
獣の傭兵 (けもののようへい)
生まれながらにして半人半獣の傭兵。「獣堕ち」と呼ばれる。傭兵としての仕事を求めてウェニアス王国の首都に向かう途中、自分の首を魔術の贄として狙う魔女に襲われる。その逃亡中に出会った魔女のゼロが、追手から自分を助けてくれたのをきっかけに、彼女と一緒に旅をする。見た目はネコ科の猛獣のようであり、鼻面には横一文字の傷がある。 2mを超える筋骨たくましい体つきで、全身は白地に黒い縞模様の毛皮に覆われている。傭兵としてはかなりの実力者であるが、首目当てで低級の魔女や盗賊に狙われやすい。そのため、魔女全般に対して嫌悪感と不信感と偏見がある。だが、ゼロの探しているゼロの書が戻ったら人間に戻してやる、と彼女に言われ、彼女の護衛としての契約を結んだ。 そして、彼女との旅を続けるにつれて、魔女も全てが邪悪ではないと理解するようになった。普段はゼロと憎まれ口ばかりたたき合ってるが、彼女が危機に陥ると全力で救おうとする。やがてはゼロに対して、友情以上の感情も抱くようになった。実は料理が得意で、彼の作るスープはゼロの大好物。見た目に反して女性経験は少なく、物語の開始時点では、まだキスもしていなかった。
アルバス
魔女の少女。魔術の贄にするため、獣堕ちである獣の傭兵の首を狙っていた。男のような言葉遣いで、見てくれも少年のようだったため、当初は男だと思われていた。ゼロに魔法で捕らえられてからは行動を共にする。「ゼロの魔術師団」という組織の一員。ゼロがゼロの書の作者だと知ると、彼女を自分たちの拠点へと招くが、そこで十三番に捕まる。 そして十三番への協力を拒んだため、火あぶりにされかけた。長らくゼロの魔術師団に心酔していたが、組織を統率するあの方が敵対する十三番だと知ると、団に戻ることを止め、独自の道で王国と魔女の対立を解決しようとする。その正体はウェニアス王国を代表する魔女「詠月の魔女」ことソーレナの孫娘。 魔術の儀式には、いちいち獣堕ちの首を使うしかない未熟な腕前。それでもゼロの書の魔法のうち、守護の章だけは高位の魔法も使える。ウェニアス王国の国土全体に封印の魔法陣を張って、ゼロの書に書かれている魔法を無効化し、人と魔術師の争いを鎮めるという計画を立案し、ゼロたちと協力してこれを成功された。
ソーレナ
「詠月の系統」の代表的な魔女。人間と接し、その願いを聞くことをなりわいとする。「詠月の魔女」とも呼ばれる偉大な魔女であった。住民たちが病になると薬を処方するなど、人間との関係は悪くなかったが、はぐれ魔術師たちが疫病を流行らせたとき、その病気を静めたにもかかわらず、疫病の犯人だという汚名を着せられて、火あぶりにされてしまう。 この事件をきっかけに、ウェニアス王国で魔女と人間の戦いが繰り広げられるようになった。孫娘がいるが、見た目は肉感的な美女。その美しさは、彼女を護る獣堕ちとなった女好きの元騎士ホルデムも見とれるほどだった。
ホルデム
狼の獣堕ち。ウェニアス王国の商業都市・フォーミカムの宿屋で、ゼロと獣の傭兵が出会った。宿屋で、魔女と称する複数の女性を侍らせていた自堕落な女たらし。それを不快に感じたゼロの魔法によって、全身の毛を失う。それを逆恨みして、一度は傭兵を殺そうとしたが、戦いの最中にはぐれ魔女に狙われて腹に傷を負う。 傭兵が魔女を追い払って傷の手当もすると、態度がころりと変わり、それからは彼のことを「兄貴」と慕うようになった。元々は貴族の三男で、城に勤めるウェニアスの正規騎士だった。人妻に手を出したことがきっかけで、決闘騒ぎを起こして城を出る。放浪していたところを、魔女ソーレナに拾われ、獣降ろしの儀式によって狼の獣堕ちとなった。 獣堕ちとなってからは、護衛としてソーレナや孫娘のアルバスと仲良く暮らしていた。ソーレナが火あぶりになったのを知ったアルバスが、人間への復讐のため家を飛び出してしまい、彼もそれを追うことになる。ちなみに最初侍らせていた女たちは、人探しの副産物として差し出されたもので、いつかは逃がすつもりだった、とホルデム本人は語っている。 ゼロたちがウェニアス全土からゼロの書の魔術を消す作戦を実行したときは、傭兵と共に魔女たちの護衛を務める。後日、そのお礼として体毛を取り戻すことができた。
古着屋の店主 (ふるぎやのてんしゅ)
ゼロと獣の傭兵が最初に訪れたフォーミカムの町にある古着屋の店主。ハゲ、デブ、ヒゲのおっさんで、女にはもてたことがない。店で服を買ったゼロの美しさに魅入られ、彼女がそれまで着ていたボロボロのローブを受け取って家宝にする。その後、プラスタの塔に閉じ込められたゼロを探すため、傭兵たちはローブを憑代(よりしろ)に探索の占いをすることになったが、店主はローブを差し出すことに断固として抵抗。 結局、ローブの代わりに、目の前でゼロが靴下を脱いで、それをもらえるということを条件にローブを差し出した。
十三番 (じゅうさんばん)
男性の魔術師。弓月の森にある穴ぐらで魔術を学んでいた。「ゼロの魔術師団」を結成した「あの方」の正体でもある。陰鬱な雰囲気で、ゼロいわく「陰険で陰湿で、いかにも悪の魔術師でござい」という風体をしている。噓はつかないが、事実だけで相手の猜疑心を煽り、自分の思う方向に人心操作ができる。ゼロが著したゼロの書が盗まれたときは、書を取り戻すと言って外に出たが、それ以降、行方知らずとなっていた。 実は彼こそがゼロの書を盗んだ張本人で、盗んだときに、ゼロ以外の魔術師たちを皆殺しにしていた。ウェニアス王国では最初、ゼロの書の魔法を、不特定多数の魔女や魔術師に教え、はぐれ魔術師と呼ばれる不逞の輩が暴れる状況を、わざと作る。 その後、彼が正体を隠して結成した「ゼロの魔術師団」が、正義の名の下にはぐれ魔術師を滅ぼす。これによって魔女=悪という偏見を消し、人間との対立をなくそうと計画していた。しかし、人間たちが魔女・ソーレナを火あぶりにし、ゼロの魔術師団が報復に出たため計画は破綻した。その後、自分の計画の誤りを認め、ゼロやアルバスとともにウェニアス王国からゼロの書の魔法を封印する。 実はゼロの実兄である。
集団・組織
ゼロの魔術師団 (ぜろのまじゅつしだん)
魔女や魔術師の組織。ゼロの書を盗み去った十三番が、10年前にウェニアス王国で結成した。団員は聖典であるゼロの書の力をもとにした魔法を使い、全員が魔女の血判状で誓いを立てている。組織は規律でガチガチに固められており、たまりかねて団を抜けた者は、はぐれ魔女となった。当初、団の創設者は正体不明で、団員たちはあの方と呼んでいた。 正式に入団すると、「あの方」への忠誠の証として、宝珠を飾った首輪がもらえる。この宝珠は十三番の杖にある宝珠から分けたもので、十三番は宝珠を帯びている者の動向を監視できていた。魔女・ソーレナが火あぶりにされた復讐として、村を一つ全滅させてしまい、それ以降は同情的だった人間も、魔女と敵対するようになった。
場所
ウェニアス王国
物語の舞台となる国。首都はプラスタで、王宮もここにある。魔女の詠月の系統が生まれた地であり、高名な魔女が数多く住んでいる。ゼロたちがゼロの書の魔法を封印するまで、人間と魔女の間で血で血を洗う抗争が起きていた。森林や湖も多く、街と街をつなぐ道は、とてつもなくくねり曲がっている。
フォーミカム
ゼロと獣の傭兵、そしてアルバスが最初に訪れたウェニアス王国の都市。周りを堅牢な市壁に囲まれたこの国の商業の中心。首都・プラスタに入る際、フォーミカムに入ったかどうかを確認されるため、プラスタへ向かう旅人は必ず立ち寄る。ちなみに通行の際、奴隷一人につき税金がかかる。
穴ぐら (あなぐら)
ゼロと十三番の出身地。弓月の森にある広大な鍾乳洞。ゼロいわく、蛇と蜘蛛がたくさんいるとのこと。ゼロたち以外にも、魔女や魔術師たちが暮らしていたが、誰もが内に引きこもっていた。ゼロが十三番を追って外に出た際、魔法の力で出入り口を岩でふさがれた。
その他キーワード
魔術 (まじゅつ)
奇跡のような現象を引き起こす学問。魔女や魔術師が魔法陣と呪文、生贄を用いて悪魔を召喚し、これと契約することによる儀式にして学問。強力な悪魔であればあるほど、儀式のための時間や手間が必要となる。また、悪... 関連ページ:魔術
魔法 (まほう)
魔術に替わるものとして、ゼロが新しく編み出した技術体系もしくは悪魔の力を用いる技術。「悪魔の契約法則」の略語でもある。魔法では悪魔を召喚するためのわずらわしい手順は省かれる。しかも呼び出した悪魔に襲わ... 関連ページ:魔法
魔女 (まじょ)
魔術や魔法を用いる者。女性は魔女、男性は魔術師と呼ばれることが多い。魔術の研究分野や行動の指針の違いによって、泥闇(どろやみ)や詠月(よみつき)といったいくつかの系統に分かれる。教会からは異端とされて... 関連ページ:魔女
はぐれ魔術師 (はぐれまじゅつし)
人間に仇なす魔女や魔術師たち。ウェニアス王国に跋扈する。十三番からゼロの書の魔法を習った者、または規律の厳しさからゼロの魔術師団を辞めた者が、そう呼ばれる。魔法を使って人に仇なすものが多く、彼らの存在がウェニアス王国における人と魔女の対立を深刻化させた。ゼロやアルバスたちによって、ウェニアス王国からゼロの書の魔法が封印されると、その力を失った。
悪魔 (あくま)
魔術や魔法における、人にあらざる者の総称。地獄に住む。小さな妖精から精霊、神に至るまで、特別な力を秘めた人間以外の存在は、みな悪魔とされる。教会も、神と悪魔の差は信仰の違いでしかないと言っている。上位... 関連ページ:悪魔
獣堕ち (けものおち)
獣の特徴を備えた半人半獣の人間を指す呼び方。その多くは、普通の人間より強靱な力を秘めている。魔女たちはソーレナがホルデムに施したように、獣降ろしと呼ばれる魔術で人間に獣の魂を降ろし、獣堕ちにすることができる。その一方、獣の傭兵のように、生まれたときから半人半獣の獣堕ちもいる。これは獣堕ちが死んだとき、すでに獣降ろしを行使した魔女も死んでいると、宿っていた獣の魂が行き場を失い、魔女に最も近い存在に戻ってしまうからである。 これは「呪術返り」と呼ばれており、その結果、魔女の血を受け継ぐ家系では、獣の傭兵のような、生まれついての獣堕ちが現われることもある。教会からは、前世の因縁で悪魔が宿ったものと忌み嫌われている。 また、獣堕ちの首は、獣降ろしのできない未熟な魔女や魔術に手を染めた人間からは、魔術に使うためのアイテムとして人気で、しばしば獣堕ちたちは、首狙いの者たちに命を狙われる。
ゼロの書
ゼロが著した魔法の書。最上級の香を焚き染めた羊皮紙に、決して色褪せないインクで書かれている魔術書。装丁は顔が映るほどに磨いた黒檀で、蝶番は金。この上なく繊細な装丁を施してあり、一目見れば誰でもわかる。魔法の基礎理論、そして契約する複数の悪魔の名前や能力、呪文に必要な対価などが書き記されている。書は「狩猟」「捕縛」「収穫」「守護」という4つの章に分けられていて、魔術師によって魔法の適性が異なる。 死をつかさどる悪魔に働きかける魔法の「死霊の章」も存在するが、ゼロはこれを禁章として封じている。
クレジット
- 原作
-
虎走 かける
- キャラクターデザイン
-
しずま よしのり
関連
魔法使い黎明期 (まほうつかいれいめいき)
虎走かけるの小説『魔法使い黎明期』のコミカライズ作品。魔法学校の生徒であるセービルは、学校始まって以来の成績の悪さから学長のアルバスに特別実習を言い渡されることとなった。落ちこぼれ魔法使い見習いが、無... 関連ページ:魔法使い黎明期