ギャグ漫画家の闘病生活
本作は沖縄出身の漫画家志望の女性、島袋全優が主人公を務める。一万人に一人の難病「潰瘍性大腸炎」と診断された全優の闘病生活をコミカルに描いたギャグコミックエッセイ。病気がもたらす痛みや精神的苦痛など、実体験に基づいた闘病生活は暗くなりがちだが、全優のギャグセンスと絶妙な絵柄のお陰で、深刻にならずに読むことができる。また、最初にかかった医師が潰瘍性大腸炎を単なる腸炎と誤診して病状を悪化させるなど、実際には決して笑い話にできないほどの被害を被っているが、その過程が面白おかしくデフォルメされているため、ギャグ漫画としても闘病記としても楽しむことができる。
全優を取り巻く怪しげな関係者
まだ学生だった全優はマンガ家となり、いずれはタワマンに住んで印税生活を目指していたが、19歳の時に「潰瘍性大腸炎」が発病する。全優の体験談をもとにした闘病生活がギャグタッチで描かれ、登場人物には一癖も二癖もある人物が多い。中でも、最初に全優を診察した医者は、そのとんちんかんな言動から存在そのものがギャグとして成立するほどで、全優はセカンドオピニオンのドクターSと出会うまで、彼の的外れな診断に翻弄され続ける。一方で、全優の両親や兄姉も個性的ながらも全優を心から心配しており、大仰ながらも家族のやり取りが心温まる。なお、登場人物の詳しいプロフィールは、コミックスのおまけページ「腸よ鼻よキャラクターファイル」で確認することができる。
大腸に対するこだわりを描く
本作は難病「潰瘍性大腸炎」を患う全優がバーに出向き、マスターや客に大腸を摘出していることを告白し、闘病生活の回想を語る形で進行する。そのシーンの全優の容姿は本編と違ってリアルなタッチで描かれている。また、バーでヤクルトを飲んだり、シマチョウを頼んだりと、大腸を切除した現在も大腸に対する思い入れが強いことがうかがえる。さらに、作中では「腸に優しい料理メニュー」が紹介されており、潰瘍性大腸炎で苦難を乗り越えた全優だからこそのこだわりも数多く見られる。
登場人物・キャラクター
島袋 全優 (しまぶくろ ぜんゆう)
漫画家志望の少女。沖縄県のイラスト系専門学校に通っている。2011年時点で年齢は19歳。ピンク色の髪を2本の三つ編みにしている。那覇で家族と共に暮らしているが、学校に通いながらアルバイトを三つ掛け持ちする生活を続けている。つねにお腹の調子が悪く、病院では腸炎と診断されるものの、のちに難病特定疾患「潰瘍性大腸炎」と診断される。最初の担当医が藪(やぶ)医者だったため治療が遅れたが、セカンドオピニオン先で出会ったドクターSの計らいで転院し、治療に専念することとなる。バナナをはじめ果物全般が嫌いで、脂質の多い洋菓子を好んでいたこともあり、ドクターSや研修医の山田から叱責されている。そんな中、学校に出張編集部がやって来た際、最初の担当編集者のMと連絡先を交換した。その後、月齢賞の奨励賞を経て連載を勝ち取り、漫画家デビューを果たす。本作の作者で実在の人物、島袋全優がモデル。
ドクターS (どくたーえす)
島袋全優の2番目の担当医を務める男性。オールバックにした白髪に髭(ひげ)を蓄え、右目に眼帯、額に迷彩柄のバンダナを巻いている。消化器内科の専門医で、難病特定疾患「潰瘍性大腸炎」の患者を多く診ており、全優のセカンドオピニオンに選ばれる。本来なら転院まで1か月かかるとされていたが、全優の症状を見るや、即座に転院を受け入れている。また、まるで野戦病院のような過酷な勤務状態ながら、東日本大震災後は救護活動にも赴いている。熱心な白米信者でもあり、潰瘍性大腸炎患者に必要な高カロリー食として米を食べることを推奨している。