概要・あらすじ
漫画家に行き詰まり、川原の石を売る石屋になった無能の人、助川助三。知人である古書店の山井二郎に借りた「漂泊の俳人井月全集」をきっかけに、俳人・井月の人生を知り、その生きざまを山井や自分と重ねていく。『石を売る』『無能の人』『探石行』『鳥師』『カメラを売る』と同じく、助川を主人公にした連作のひとつ。
登場人物・キャラクター
助川 助三 (すかがわ すけぞう)
口ひげを生やした中年男。売れない漫画家。カメラ、古物といろんな商売に手を出すが挫折し、川原の石を売る石屋になるが、それも本気で売れるとは考えていない。古書店の知人、山井二郎に「漂泊の俳人井月全集」を押し付けられる。
山井 二郎 (やまい じろう)
古書店店主。いつも寝てばかりでたまに散歩に行くときも杖をついていて病弱そうに見えるが実は元気だという。伊那の高遠出身で、古本の背取りに通ううちに、山井書店の死んだ亭主の後釜に座った。山井二郎というのも本名ではなく、山井書店の元主人、山井一郎の表札に横棒を一本足したもの。 郷里の伊那にも世帯があるのではないかという噂があり、助川助三は蒸発してきたのではないかと疑う。郷里の誇りだからという理由で、助川に「漂泊の俳人井月全集」を貸す。
井月 (せいげつ)
『蒸発』で山井二郎が助川助三に渡した古書に登場する人物。幕末から明治にかけての俳人。本名は井上克三で、忽然と伊那谷に現れた30代半ばの浪人風の男。禿げ頭、薄い眉、切れ長でヤブニラミの眼をしており、間の抜けた風貌。超インテリで「先生」ともてはやされ、俳句を詠む生活を続け、30年も伊那谷に住み着いた。 一所に落ち着かず風来坊の生活を続けるうち、シラミがたかり皮膚病を患う。年月が経つにつれ疎んじられ、ついにはのたれ死ぬ。実在の人物井上井月がモデル。
山井の妻
山井二郎の妻。山井書店の元主人、山井一郎を酒酔い運転で亡くし、困っていたところ山井二郎と出会い結婚する。山井二郎がひどく怠け者なのに失望するが、山井の性格が温厚で居候のような立ち居振る舞いをするため、大きなトラブルもなくともに過ごす。