あらすじ
タンバルン王国の首都近郊で、薬剤師を生業としていた白雪は、とても珍しい赤髪を持つこと以外は至って普通の少女。だが、その見事な赤髪ゆえにタンバルン王国の第一王子ラジ・シェナザードに見初められ、愛妾にされかける。「自分の行く末を他人に決められたくない」という思いから、ラジ・シェナザードの手の届かない隣国クラリネス王国に移り住もうと、白雪は住み慣れた我が家を後にした。
そしてその道中、彼女は森の中の空き家でゼン・ウィスタリアという名の若者と運命的な出会いを果たす。子供っぽい無邪気さを残す彼は、クラリネス王国の第二王子だったが、白雪は彼の地位に怯むどころか、窮地を救ってくれた彼のために今度は自分の力を役立てたいと考えるようになる。
そして生業を活かし、クラリネス王国の宮廷薬剤師の資格を得て、王城に勤めるようになるのだった。お互いの身分を気にかけることなく、同年代の良き友人として始まった二人の関係は、友誼が深まるにつれ、やがて恋心へと変化していく。だが、身分違いの恋は簡単には成就せず、白雪の髪の色やそれぞれの職務など、様々な要因から困難が発生。
二人はそれらの難題を、お互いへの強い想いによって、深く信頼する仲間たちの力を借りながら、ひとつずつ乗り越えていくのだった。
登場人物・キャラクター
白雪 (しらゆき)
タンバルン王国出身の稀有で美しい赤髪を持つ18歳の少女。当初は、首都近郊で薬屋を営んでいたが、赤髪を物珍しく思ったタンバルン王国の第一王子ラジ・シェナザードに無理矢理愛妾にされかけたことから出奔する。その道中で、ゼン・ウィスタリアやミツヒデ・ルーエン、木々・セイランと出会い、彼らと友誼を深めていくことに。 性格は明るく、他人への気遣いを忘れない優しい娘。また、意志が強く前向きな思考の持ち主でもあり、「なんの頼みもない時があっても、自分が出来るところまでは、何度でも絶対頑張れる」という祖父母の教えをしっかりと守っているせいか、他人の力をあてにせず、自力で対応しようとする傾向が極めて強い。 本人の機智のおかげもあって大抵は上手く行くが、時々それが裏目に出て友人たちから叱られることも。そうした意志の強さは、大胆さと行動力にもつながっており、身分の違いを意識せず、自分の意見をはっきりと述べられる。かといって、礼儀知らずというわけではなく、彼我の立場を十分にわきまえたうえでの言動。さらにゼンやその側近たちなど、親しい人々に迷惑が掛からないようにする思慮も併せ持つ。 そうしたひととなりは、ゼン・ウィスタリアたちに好意的に受け入れられることは言うに及ばず、ゼンとの関係を快く思わない人々にも、ある程度彼女を認めさせる効果があり、少しずつ王宮内での地位を確立しつつある。
ゼン・ウィスタリア (ぜんうぃすたりあ)
クラリネス王国の第二王子で、物語開始時は19歳。御忍びで森を散策中に白雪と出会い、そのときのやりとりから彼女に好感を抱き、親しくなる。その好意は白雪を知るごとに募り、やがて彼女を妃にと望むようになった。身近な者にかしずかれるのが嫌いで、側近のミツヒデ・ルーエンや木々・セイラン、それに白雪にも自分のことを呼び捨てにさせている。 また、机に向かうよりも身体を動かす方が好きな性質であることや、自分の眼で城の外を見ることを大切にしていることから、何かと理由を付けて城外へ出かけたがる。一方で、第二王子としての地位の重みや責務も十分に心得ており、公務を蔑ろにしたり、公的な場で節度を踏み外したりすることはない。 歳の離れた兄である第一王子イザナ・ウィスタリアに心酔しており、やがて王になる兄の隣に立ち、兄の最大の支援者として王国を守っていくことが夢である。
ミツヒデ・ルーエン (みつひでるーえん)
ゼン・ウィスタリアの最も古参の側近となる23歳の男性で、13歳の頃から従っている。かつてはセレグ騎士団に所属する一介の騎士だったが、第一王子のイザナに抜擢され、ゼンの側仕えとなった。最初はゼンとなかなか打ち解けられなかったが、ある事件をきっかけに全幅の信頼を獲得。 もともと真面目が服を着て歩いているような人物で、ゼンに対しても最初から高い忠誠心を持っていたが、仕えているうちにゼンに対して親愛の情を抱くようになっていった。そのため、ゼンの命令ならばなんでも聞くというただの走狗ではなく、自ら考え判断し、積極的に意見や助言をする。また、ゼンもそれを理解しているため、ミツヒデの言には素直に耳を傾けるという理想的な主従関係になっている。
木々・セイラン (きき・せいらん)
ゼン・ウィスタリアの側近を務める20歳の女性騎士で、セイラン伯爵家の後継者でもある。クールかつ淡泊な性格と合理的な思考の持ち主で、必要以上のことはなかなか口にせず、声を荒らげることもない(ただし言葉は鋭い)。だが内心ではゼンと白雪、そして彼らを取り巻くミツヒデ・ルーエンやオビのことを深く信頼しており、ゼンと白雪が目指す未来を全力で守りたいと考えている。 ゼンに仕えるようになったのは彼が14歳、セイランが15歳のときで、最初は5年間の期限付きだったが、彼らの行く末を見届けるために延長した。また、ミツヒが自分に好意を抱いていることは承知しており、自身も彼を好ましく思っているが、それを表面に出すことはほぼ皆無。 ただ、いずれ時期が来たらミツヒデに求婚するつもりである様子を見せる。
オビ
ゼン・ウィスタリアの側近の一人で、第二王子付き伝令役。後に直属騎士となった。かつては非合法な依頼を請け負う便利屋稼業を営んでいたが、あるときハルカ侯爵に雇われ、白雪を脅して王城から追い出す依頼を請けたことで、ゼンや白雪と接点ができる。その後、ゼンを勝手に主人と定めて仕えるようになり、しばらくしてゼンもそれを認めて正式な配下に加えた。 間者としての腕前は確かで、神出鬼没の身のこなし、高い格闘能力と観察力、そして洞察力を兼ね備える。マイペースかつひょうきんで軽口もよく叩く男だが、相手の心理を把握し、一線を越えない分別を持ち合わせている。側近の中では最も身軽な立場なので、自由に動けないゼンの代わりに白雪の護衛的役割を担うことが多い。 そのことが彼に白雪への恋心を抱かせる要因にもなるのだが、ゼンのことも非常に気に入っているため、二人の恋路を邪魔するつもりは今のところないようだ。
リュウ
白雪が勤めることになったウィスタル城薬室の薬剤師。薬室長ガラク・ガゼルドの口利きにより、わずか10歳で宮廷薬剤師として王城入りした天才少年(物語での登場時は12歳)で、宮廷薬剤師見習いとして薬室に入った白雪の上司となる。賢い少年ゆえに、自分が周囲に奇異の目で見られていることを理解しており、内向的な性格と相まって師匠であるガラク以外との接触をできるだけ避けようとする傾向があった。 だが、白雪やオビと出会ったことで少しずつ変化していく。極めて高い集中力の持ち主で、没頭しているときは声を掛けられてもなかなか気づかない。
イザナ・ウィスタリア (いざなうぃすたりあ)
ゼン・ウィスタリアの年の離れた兄で、クラリネス王国の第一王子。後に国王に即位する。状況の分析力や判断力、人物の選定眼と人事の妙、欲にとらわれない公平な裁定など、為政者として極めてハイレベルな資質を備えており、ゼンにとっては尊敬の的。だが同時に、絶対に逆らえない相手としての苦手意識も抱かれている。
ガラク・ガゼルド (がらくがぜるど)
白雪が勤めているウィスタリア城薬室の女性薬室長。クラリネス王国の薬剤師界隈で知らない者は居ないほどの有名人であり、彼女の薬学に関する豊富な見識は、第一王子からも厚い信頼を寄せられている。普段は気さくで快活な人物だが、仕事が溜まると豹変。冷たい威圧感を湛えた表情で、誰彼かまわず仕事に巻き込もうとする。 美味しいお茶を飲むと元に戻るようだ。
ラジ・シェナザード (らじしぇなざーど)
タンバルン王国の第一王子で、年の離れた双子の妹弟がいる。幼少の頃より我儘放題を許されたため、出来の悪い王子の手本のような人物に育っており、民衆や周辺国での評判は最低。ラジ・シェナザードが白雪の赤髪を珍しがって愛妾にしようとしたことが物語の始まりとなる。のちに白雪とクラリネス王国で再会したときに、「故郷の王子があなたで良かったと思えるくらいの方になってください」と言われたことから、次第に王子としての自覚を抱くようになっていった。
ハルカ侯爵 (はるかこうしゃく)
クラリネス王国の貴族の一人。階級に応じた秩序を重んじることから、白雪とゼン・ウィスタリアの関係を快く思っておらず、オビを雇って白雪を遠ざけようとする。ただ私心からではなく、あくまでゼンのためを思っての行為であり、ゼンもそれを理解していたため不問に付された。 白雪がタンバルン王国の夜会に招待された際には、彼女に貴族の作法を仕込む役を務めることに。
書誌情報
赤髪の白雪姫 26巻 白泉社〈花とゆめコミックス〉
第1巻
(2007-12-05発行、 978-4592183730)
第2巻
(2008-08-05発行、 978-4592183747)
第13巻
(2015-04-03発行、 978-4592194439)
第18巻
(2017-11-02発行、 978-4592194484)
第19巻
(2018-06-05発行、 978-4592194491)
第26巻
(2023-07-05発行、 978-4592220169)