実際のイギリス史にフィクションを交えた歴史ドラマ
本作のモチーフとなっているのは、16世紀のイングランド王国。その内容は、イングランド王のヘンリー8世の晩年から、エリザベス1世の即位までの史実をもとに、オリジナル要素を加えたフィクションである。なお、ゼントレン国をはじめ、国名・地名は架空のものだが、ロバートやジョンといった影武者以外の登場人物名は、ほぼ実名が用いられている。史実に沿った大枠のストーリーと、その陰で暗躍する架空の人物やフィクションがうまくミックスされたサスペンスに満ちた作品で、歴史に興味がなくても楽しめるのが特徴である。
影武者制度の噓と真実
ゼントレン国には残酷なしきたりがある。それは、王位継承権第3位内の王族には、影武者をあてがうという慣習だった。影武者は交換条件を提示され、否応なしに宮廷に入り、命を賭けることになる。なお、影武者による下剋上(げこくじょう)や脱走、密告を防ぐため、表向きは宮廷の馬屋番であるウォルシンガム家が、密かに監視を続けている。また、役目を終えた影武者は年金を与えられ、田舎でのんびり暮らすと言われているが、噓である。実際は、毒殺された後、誰も知らない墓地で名前のない墓石の下で眠るのだ。影武者の処遇は新国王にしか知らされないため、ロバートはもちろん、エリザベスもまたその事実を知らずにいる。
国王が亡くなり、陰謀と欲望が渦巻く王宮
ヘンリー8世が亡くなり、幼いエドワード王が即位すると、王宮内は様々な人間の思惑が動き出す。新国王の伯父で摂政となったエドワード・シーモアは、王太后の愛人である弟、トマス・シーモアが、自分に取って代わろうとしているのではないかと疑い、複数の罪状を理由に彼を処刑した。また、エドワード王の影武者のジョンは、父をヘンリー8世に殺された恨みを持っている。そこで、第4王位継承者のジェイン・グレイを国王に擁立しようと企む、叔父のダドリー公爵と共謀。エドワード王に少しずつ毒を盛り、ジェインを次期国王にするという遺書を書かせるように仕向けた。本作は、そんな陰謀と欲望が渦巻く王宮で、エリザベスを守り、策謀や駆け引きで彼女を王位につけようとする、ロバートや側近のウィリアム・セシルの姿を描く。
登場人物・キャラクター
ロバート
場末の芝居小屋で女役を演じていた少年。初登場時は13歳。第3王位継承者のエリザベス王女とそっくりだったことから、病気の弟の介護と生活の保証を条件に、王女の影武者になる。以降、表向きはエリザベスの話し相手として王宮で生活する。仕方なく引き受けた影武者だったが、エリザベスを補佐するセシルとともに、王女を守るために尽力するようになる。
エリザベス
ヘンリー8世と2番目の王妃の間に生まれた娘。初登場時は13歳。異母弟のエドワードと仲が良い。心優しくて芯が強い性格。国をよりよい方向へ導きたいという、まっすぐな気持ちを持っている。第3王位継承権を持つため、セシルが探してきたロバートを影武者にする。話し相手という名目でロバートを側に置くようになり、やがて彼に信頼を置くようになる。同名の実在人物をモチーフにしている。
ウィリアム・セシル
王室衣装担当のリチャード・セシルの息子。大学を首席で卒業した優秀な青年で、エリザベス王女の義母、キャサリン王妃の提案で、エリザベスの影武者探しの任務にあたる。約2年間、国中を探し回った後、ある場末の芝居小屋で、エリザベスに瓜二つの少年、ロバートを見つけて、影武者にする。以来、ロバートとともに、エリザベスの側に仕える。同名の実在人物をモチーフにしている。
フランシス・ウォルシンガム
宮廷の馬屋番として王宮敷地の片隅で暮らす、ウォルシンガム一族の若き家長。初登場時は15歳。その正体は、影武者の監視や後始末を担う、王家の影として動く存在。影武者は用済みになれば、人知れず毒殺される。その事実を新国王に伝え、影武者の処遇を承認するサインをもらう役目も持つ。同名の実在人物をモチーフにしている。