概要・あらすじ
10年間ユーラシア大陸を旅していた蜂須賀は日本に帰国し、旅で出会った久保田庸介が住むボロアパート月光荘の便所部屋に家賃3000円で暮らしていた。中産階級が飼い殺しされる管理社会をあちら側と唾棄する蜂須賀は、境界線上を行くボーダーとして、同じアパートに住む久保田、木村健吾を巻き込み、徹底的に破天荒な日々を送っていく。
登場人物・キャラクター
蜂須賀 (はちすか)
10年間ユーラシア大陸を旅していた男。40歳。ボロアパート月光荘の家賃3000円の便所部屋に住む。女好きで自由気まま、取り繕うことのない直球ストレートな性分だが意外と情に厚いところがある。ボクシングの心得があり腕っぷしは相当強く、時折哲学的な名言を吐く。ブルース、ロック、レゲエを愛し、ドラムを演奏する。 蜂須賀は洗脳された中産階級が住まう管理社会をあちら側と呼んで毛嫌いし、その境界線を行く者ボーダーを自称。ルーズでハードな破天荒な日々を送り続ける。月光荘の住人久保田庸介、木村健吾と非合法の金10億円を強奪したこともあったが、東京ドームでウェイラーズを再結成し、彼らをバックに歌うことで自分の取り分を使い果たした。 その時のアーティスト名はアンチェイン蜂須賀。30歳から32歳の3年間で計7冊の小説を書いたが、天啓を与えてくれたボブ・マーレイの死去により筆を置き、放浪の旅に出ている。
久保田 庸介 (くぼた ようすけ)
28歳。ユーラアシア大陸を旅していた時に蜂須賀と出会い、以来彼の事をセンパイと呼んでいる。面倒見のいい性格でルックスもよく女にもてる。ギターもうまくイラストを描かせてもプロ級。オートバイや車にも強く、洒落た交友関係やコネクションにも恵まれた都会派の遊び上手。そんな自分に嫌気がさし放浪の旅に出た末、オンボロアパート月光荘で貧乏暮らしを楽しんでいる。 表ざたになっていない強奪された10億円の情報を握っており、酔っ払って蜂須賀と木村にそのことを漏らした。
木村 健吾
オンボロアパート月光荘の住人。岩手県出身。初登場時は浪人生だったが、二浪の末東京大学に合格した。学部は農学部。眼鏡をかけた冴えない容貌で優柔不断なところがあり、何かと蜂須賀に振り回される。しかし時折常識はずれのパワーを発揮する。蜂須賀たちと結成したバンドではベースを担当した。 岩手県の実家からは常に米と酒が送られてくる。
神野 アキラ
新宿のロック喫茶の元オーナー。昔、蜂須賀にサブカルチャーの手ほどきをした。酒やドラッグの影響で無気力に支配され浮浪者となっていたが、工事現場で頭を打ったことで酩酊状態から抜け出し、実家に戻り実業家となった。実家は神野財閥であり、復帰したことで数社の会社の社長となったが、その後も時折蜂須賀に会いにやって来た。 若く美しい嫁と政略結婚したが醒めた関係を自覚し、蜂須賀のもとに通っていた醜女の中年女三浦とめ子を愛人とする。
三浦 とめ子
50歳をこえた美人とは言い難い中年女性。月光荘の近所のコンビニエンスストアの店員。蜂須賀の愛人だったが、肉体関係を解消してからも蜂須賀が飢え死にしないよう食料を差し入れしていた。その話を聞いた神野アキラに見そめられ、その愛人となった。
八雲食堂の親父さん
蜂須賀たちの行きつけの定食屋八雲食堂の老主人。蜂須賀たちの事を気に入っており、ツケで食事をさせてくれている。元は興行の世界でヤクザな世渡りをしており、背中一面に彫り物がある。取材に来たグルメ評論家の物言いが気に食わず乱闘騒ぎを起こしたこともある。
八雲食堂のおかみさん
蜂須賀たちの行きつけの定食屋八雲食堂の老妻。ミーハーなところがあって、グルメ評論家のTV取材の際には、丸髷&和服の演歌歌手的厚化粧で応対した。蜂須賀のことを妙に気に入っており、ツケで食事をさせるだけでなく、将来は養子にして店を譲ってもよいと考えている。
鳥居 ナミ子
木村健吾が入学した東京大学農学部の同級生。眼鏡をかけた清楚な女の子で木村のあこがれの存在。物事の本質を直感的に見抜く聡明な感覚の持ち主。蜂須賀がアンチェイン蜂須賀として東京ドームでコンサートを行った際、「もしかして無料コンサートになるかもしれない」との一文をポスターに入れて全国のロック・スポットや学校に送り、アリーナ席をほぼ満席にした。
後関
あらゆる事を実現させるマジカル・アドバイザー。巨大イベント、近未来商戦のイメージ操作、アラスカ最大のヘラジカの射程距離に依頼者を置くことなどを行う。ホテルですれ違った瞬間、蜂須賀に「お互いが屠り合うしかない」存在であることを意識させたくせ者。薬を使って蜂須賀から「ボブ・マーレイの女房リタにウェイラーズを再結成させて歌う」という夢を聞き出し、5億円の代金でそれを実現させる。
リタ・マーレイ (りたまーれい)
ボブ・マーレイの未亡人。蜂須賀の夢をかなえるため再結成されたウェイラーズを率いて来日した。東京ドームの大観衆の前で当初気おくれしていた蜂須賀に「自身の解釈でボブ・マーレイと対決し自分を歌いなさい」と魂を通じてアドバイスした。ボブ・マーレイの未亡人であるリタ・マーレイをモデルにした人物。
土田 明美
木村健吾の8歳年上のイトコ。28歳。目が小さく鼻が大きな容貌で田舎で行き遅れていた女性。東京に遊びに来た際、蜂須賀に一目惚れされた。蜂須賀に結婚を申し込まれたことで、明美の両親は興信所に蜂須賀の調査を依頼。しかし、その途中で明美が地元の50過ぎの酒屋の親父と駆け落ちしたことで縁談は破談となる。 その後蜂須賀の事が本当に好きになり、酒屋の親父と別れ、整形手術を受け美女に生まれ変わった。だが、彼女の土俗的な美に惚れていた蜂須賀は美女となった明美を拒絶してしまう。
木村健吾の母
木村健吾の母。岩手に住む。上京した折、蜂須賀の起こす様々な騒動を見せられた事で、当初は蜂須賀の事を息子を惑わす変人として怪しんでいた。その後息子が東京大学に合格できたのは蜂須賀が神通力を授けてくれたお陰と考え、土田明美との結婚を後押しすべく尽力する。
須藤
興信所所員。刑事を定年退職した枯れた老人。土田明美との結婚話が持ち上がった蜂須賀の調査を明美の両親から依頼された。蜂須賀の過去を遡る旅に同行し、最後は依頼の枠を超えて蜂須賀の真の姿に迫ろうとする。肺がんを患っており死が近いことを悟っている。
場所
月光荘
蜂須賀、久保田庸介、木村健吾が暮らすボロアパート。蜂須賀はその中でも便所部屋と呼ばれる家賃3000円の部屋で暮らしている。便所部屋はもともと共同トイレだったが、各部屋にトイレが付いたことで不要の存在となっていたところに蜂須賀が転がり込んだ。月光荘には公衆電話が設置されており、かかってきた電話には主に木村が応対する。 大家は埼玉在住で、大家の娘の女子大生が一瞬だけ月光荘で暮らしていたことがある。