鮫島、最後の十五日

鮫島、最後の十五日

佐藤タカヒロの『バチバチ』『バチバチ BURST』の続編。激しすぎる取組の中で、とうとう慢性外傷性脳症となってしまった力士の鮫島鯉太郎が、死も覚悟して九月場所の十五日間を戦う姿を描いた大相撲巨編。秋田書店「週刊少年チャンピオン」2014年50号から連載されたが、作者急逝につき2018年33号掲載分までの未完で終了した。

正式名称
鮫島、最後の十五日
ふりがな
さめじまさいごのじゅうごにち
作者
ジャンル
相撲
 
友情
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第1巻

五月場所十二日目。空流部屋に所属する力士の鮫島鯉太郎は、かつて「牛鬼」と呼ばれ恐れられた大関の明王山憲昭と対戦することになった。憲昭は現在まで62場所、大関の座に君臨し続ける偉大な力士だが、この五月場所は大関角番で4勝7敗と苦戦していた。このまま負け越しが決まれば、大関から降格する状態にあった。そのため周囲からは引退をささやかれており、憲昭もまた、そこまで勝敗にこだわっていないようだった。そんな憲昭の姿に腹を立てた鯉太郎は、対戦直前、憲昭にケンカを売る。鯉太郎は小柄で太りにくい体質のため、一戦一戦の取組での身体ダメージがすさまじく、自分の力士生命がもうあまり長くないことを理解していた。そのため毎回命がけで戦っており、対戦相手が手を抜くことを絶対許せなかったのである。取組当日、鯉太郎の気迫を感じ取った憲昭は、その真摯な生きざまに感化される。こうして鯉太郎と憲昭の取組は今場所一番の盛り上がりを見せるが、結果鯉太郎の勝利となり、憲昭の降格は決まってしまう。しかし、この取組で憲昭は以前のようなひたむきな気持ちを取り戻す。この取組で空流部屋の女将の奥村椿は、鯉太郎が本当に命を落とす覚悟で相撲を取っていることを悟り、複雑な気持ちとなる。そんな中、空流部屋に鯉太郎の同期の石川大器(飛天翔大器)がやって来る。

第2巻

九月場所初日。鮫島鯉太郎石川大器(飛天翔大器)の取組は鯉太郎の勝利となり、この戦いをもって大器は引退することとなる。大器は慢性外傷性脳症を患っており、これ以上相撲を続けると、命にかかわる状態にあるため、大器は角界を去ること決断する。鯉太郎も大器同様に慢性外傷性脳症を発症していることを知らないが、このまま相撲を続けると命を落とす危険があった。そんな鯉太郎の次の対戦相手は、5年前の因縁の相手、田ノ中部屋の雨宮直也(宝玉光直也)だった。当時、鯉太郎は付け人不足で困っている田ノ中部屋に駆り出され、そこで直也と出会う。しかし付け人不足の原因は、直也の才能にほれ込んだ田ノ中部屋親方の田ノ中稔が直也を甘やかしたことにあり、これによって増長した直也が、ほかの力士を虐げ、部屋を去る力士が絶えないことにあった。さらに直也は、自分の才能に恵まれていることもあり、ろくに稽古もしようとしなかった。直也の横暴さに怒りを覚えた鯉太郎は、ある日とうとう直也にケンカを売る。しかしあっさり敗北し、田ノ中部屋から追い出されてしまう。それから2年が経った3年前のある日、違う部屋の力士がいっしょに稽古する「連合稽古」で、鯉太郎たちは田ノ中部屋の力士たちと稽古することになる。

第3巻

鮫島鯉太郎は、連合稽古でも雨宮直也(宝玉光直也)に敗北してしまう。しかし、この稽古の様子を見かねた高杉剛平(仁王剛平)が割って入る。剛平は2年前の一件から直也に思うところがあり、この連合稽古で直也と決着をつけようと考えたのである。そんな剛平は、ぶちかまし一発で直也に勝利。直也は確かに才能があるものの、それにあぐらをかいて努力を怠っていたことで、実力を大幅に落としていたのだ。こうして連合稽古は終わり、奥村旭は剛平の成長を喜ぶが、この夜に旭は交通事故で亡くなってしまう。そして親方が亡くなったことで、空流部屋は縁の深い新寺部屋に吸収されることとなる。しかし、なんとしてでも空流部屋を維持しようと考える剛平は、旭の跡を継ぐことを決意。即座に髷(まげ)を切って引退し、空流部屋の親方となったことで、剛平と直也の再戦は叶わなくなってしまう。直也はこれを剛平が相撲と自分から逃げ出したと受け取り、改めて田ノ中部屋へ挨拶に来た剛平と鯉太郎に暴言を吐く。しかし、剛平は激怒する鯉太郎を止め、今度は親方として鯉太郎を育て、直也に勝利すると宣言するのだった。

第4巻

鮫島鯉太郎雨宮直也(宝玉光直也)の取組は、しっかりと直也対策をしていた鯉太郎の圧勝に終わった。この取組を見て己の間違いを受け止めた直也の親方の田ノ中稔は、直也を甘やかすだけの自分を変えることを決意。そして、田ノ中部屋を去るつもりだった寺井も、もう一度直也を支える覚悟を決め、二人の思いを受けた直也は、力士として真摯に相撲に取組むことを誓う。こうして空流部屋と田ノ中部屋の因縁は決着し、鯉太郎の次の相手は舞ノ島。この取組は、3週間ほど前に鯉太郎と出会った森田茜も観戦していた。茜は勉強は得意だがスポーツは苦手で、さらに周囲を見下したところがある少年だった。そのため学校では一人浮いてしまっており、3週間ほど前のある日、偶然空流部屋の稽古を見て以来、よく空流部屋に遊びに来るようになっていたのだ。そんな茜は、鯉太郎がなぜこんなにも真剣に相撲に打ち込むのか理解できずにいた。茜の目から見ても、鯉太郎は体格的にほかの力士よりも恵まれておらず、力士に向いているとはとても思えなかったからである。だが茜は、この日の取組を見て鯉太郎の真意を理解する。鯉太郎は、自分に向いているか向いていないかではなく、ただ大好きな相撲に真摯に向き合うことだけを考えていたのである。これを知った茜は、もう周囲の評価に左右されることなく、自分の好きな勉強にもっと真剣に取り組むことを決意する。

第5巻

九月場所四日目の鮫島鯉太郎の対戦相手は、寒河江(さがえ)部屋に所属する超重量級力士の巨桜丸丈治。寒河江部屋は「スマイル」をコンセプトに掲げる相撲部屋で、番付による待遇の違いもなく、部屋の仕事も分担制という、相撲部屋では珍しい環境の部屋だった。そのため力士たちはのびのびと相撲に取り組んでおり、親方の寒河江修二を含めて和気あいあいとした雰囲気だった。しかし、周囲の部屋からは甘すぎるのではないかと指摘されることも多く、修二は矢面に立たされがちだった。そこで丈治は、修二の育成方針が正しいことを証明するため、気弱な性格を押し隠したまま、無理に明るく振る舞って戦っていた。その結果、丈治は気力だけで幕内まで上り詰めるが、すでに精神は限界に達していた。そんな丈治は取組当日、我慢できずにトイレに隠れて弱音を吐いていた。そこで偶然、話し相手になったのが、鯉太郎の弟弟子である丸山大吉だった。丈治と性格が似ている大吉は、話し相手が誰だかもわからぬまま、丈治を叱咤(しった)激励する。これに勇気づけられた丈治は、鯉太郎との取組で体格的にも圧倒的有利な丈治が優勢かに思えた。結果は鯉太郎が経験の差を見せつけて勝利するが、丈治は敗北したものの、初めて明るく振る舞うことをやめて戦ったことで、心の中の迷いを吹っ切ることになる。

第6巻

九月場所五日目、鮫島鯉太郎は岩の藤に勝利し、六日目の対戦相手は同期のバットバートル・モンフバイヤル(蒼希狼巴亞騎)がいる、山ノ上部屋の大山道豊。五日目の取組が終了後、鯉太郎はバットバートルと話しをするが、彼はどこか様子がおかしく、鯉太郎は心配となる。その理由は、バットバートルの故郷、モンゴルで起きた事件にあった。バットバートルはモンゴルの元マンホールチルドレンで、力士になったのも、故郷の仲間たちに仕送りをするためだった。日本に来た当初は周囲となじめず孤立していたが、これを案じた兄弟子の豊が親身に世話を焼いたことと、もっと強くなれば、その分仕送りも増やすことができると諭したことで、バットバートルは豊に心を開き、すさまじい勢いで出世を果たす。こうしてバットバートルはあっという間に大金を稼ぐようになるが、この頃からモンゴルの仲間たちの様子がおかしくなる。バットバートルは自分の稼いだお金を、仲間の一人、サエハンに預け、将来的に仲間たちが住める大きな家と、貧しい子供でも入学できる学校を作るつもりでいた。しかしサエハンは、このお金を中国系の悪質な組織に預けてしまったことで、騙されてお金は奪われ、取り返そうと乗り込んだ仲間たちは返り討ちに遭って死亡。後日、このことを生き残った仲間から知らされたバットバートルは、その日から戦う意欲をなくしてしまう。

第7巻

九月場所六日目、鮫島鯉太郎と山ノ上部屋の大山道豊の取組当日、山ノ上部屋の雰囲気は非常に悪い状態にあった。バットバートル・モンフバイヤル(蒼希狼巴亞騎)はいまだ覇気がなく、前々から彼を快く思っていなかった山ノ上部屋会長に暴言を吐かれるが、バットバートルは言い返さずにいた。これを見かねた豊は、まずは会長に反論し、バットバートルの目を覚まさせると宣言。豊の取組は、ベテラン力士ならではの経験と技術を活かした相撲で、鯉太郎を積極的に攻めていく。その取組の中で、豊は鯉太郎とバットバートルの共通点に気づく。二人はどんなに不利な状態でも相手に真っ向からぶつかっていく姿勢が、よく似ていたのである。豊はそんな鯉太郎の気迫に驚かされながら、次第にふだんとは違う、必死な相撲を取るようになっていく。これを見たバットバートルは、豊が自分を奮起させるために戦っていることを理解。いっしょに取組を見ていた山ノ上大五郎の言葉もあり、相撲に対しての気力を取り戻す。そして、サエハンたち仲間を亡くした事実は消えないが、今後はすべてを背負って生きていくことを決意するのだった。

第8巻

鮫島鯉太郎大山道豊の取組は鯉太郎の勝利となり、七日目の対戦相手はバットバートル・モンフバイヤル(蒼希狼巴亞騎)。二人は同期ながら、バットバートルがスピード出世したため、この対戦は二人が序二段だった頃以来である。そのため、この取組はいつも以上に注目されており、鯉太郎もまた、戦う意欲を取り戻したバットバートルとの取組を楽しみにしていた。こうして始まった取組は、序盤からすさまじい勢いの激しい相撲となる。両者は一歩も引かず、やがて二人はどちらがいつ倒れてもおかしくないほどギリギリの状態の大相撲なるが、最終的にはバットバートル渾身の上手投げに対し、鯉太郎がうまく掬(すく)い投げを合わせたことで、鯉太郎の勝利となる。しかし勝利が決まった瞬間、鯉太郎は倒れて意識を失ってしまう。すぐに意識を取り戻したものの、奥村椿は嫌な予感を感じ、解説席の後藤昇は、その後診療所で身体を休めていた鯉太郎に、もう引退した方がいいと諭すが、鯉太郎は応じることはなかった。そこで昇は、次の取組となる横綱の泡影との圧倒的な力の差を見せつけることで、鯉太郎を引退させようと考える。

第9巻

九月場所七日目、鮫島鯉太郎後藤昇は、泡影の取組を見たあとに泡影とすれ違うが、泡影は鯉太郎には目もくれなかった。そして八日目、鯉太郎の次の取組相手は、泡影と同じ禅定部屋の力士、比嘉ライアン(丈影)。ライアンは鯉太郎とは対照的に、沈着冷静な性格で、落ち着いた相撲を取ることで知られていた。そんなライアンは、高校時代から注目される力士だったが、外国人とのハーフであるがゆえに周囲から好奇の目で見られることが多く、疎外感を感じたまま、禅定部屋に入門したという経緯があった。ライアンは番付を上げることで、日本育ちで日本国籍の自分のアイデンティティを確立しようと考えていたのである。しかしこの禅定部屋で、ライアンはさまざまな国の血が混じっているモンゴル出身の泡影と出会う。そんな泡影を強く意識しながらも彼に強くあこがれるようになり、これまでの無駄な己の感情は捨て、技量を伸ばすことだけに全力を注ぐ力士となっていた。そんなライアンと鯉太郎はこれまで何度か対戦したことがあるが、その相性の悪さから、いつもライアンが勝利していた。そのため鯉太郎は、この取組こそはライアンのペースに呑まれることなく、自分の相撲をしようと挑む。

第10巻

九月場所八日目、鮫島鯉太郎比嘉ライアン(丈影)の取組が始まり、鯉太郎はすさまじい出足を見せたものの、かわされてしまう。しかし鯉太郎は、ライアンが心ここにあらずの状態を感じていた。ライアンは泡影に勝つことだけを目標としており、ほかの力士など眼中にないように振る舞っていたのだ。だが、泡影を神格化するあまり、泡影に勝とうという気持ちはすでに消え失せていた。その結果、ライアンとの取組は鯉太郎にとって何も感じられない、面白味のない対戦となった。そんなライアンもまた鯉太郎との対戦の中で、これを自覚し始めていた。それでもライアンは自分の相撲を肯定するためにふだん以上の実力を発揮するが、次第に鯉太郎の情熱的な相撲に引っ張られ、封印したはずの己の感情をあらわにする。鯉太郎はさらにこの勢いに乗り、自分も実力以上の力を引き出すこととなる。そしてライアンは、鯉太郎のように感情的になる力士を嫌っていたのは自分に似ていたからだと理解する。しかし鯉太郎はかつてのライアンとは違い、対戦相手をしっかり受け止め、力を引き出させる情熱があった。すべての力をかけて鯉太郎とぶつかった結果、ライアンは負けてしまうが、この対戦でまだまだ自分は強くなれると実感するのだった。

第11巻

九月場所九日目、鮫島鯉太郎の次の取組相手は闘海丸。闘海丸は芸能プロダクション社長の細川将太の尽力もあり、タレントとしても人気のある力士だった。特に最近はCM出演によりブレイクし、女性人気も高くなっていた。しかし闘海丸自身は、この現状に違和感を抱いていた。タレント活動は女性にもてたいと思って始めたことだが、いざ人気者となると、ファンにちやほやされることや、好感度を維持するためにかわいらしく振る舞うことが、自分の性には合わないと気づいたのだ。さらに今回の取組は、なかなか叶わずにいた鯉太郎との対戦だった。そこで闘海丸は将太に相談し、今回はタレントとしての自分を封印し、かつて「戦慄のマナティ」と呼ばれるほど恐れられた、本来の自分を開放して鯉太郎と対戦する覚悟を決める。こうして始まった二人の取組だが、常松洋一(松明洋一)は鯉太郎の体調を案じていた。取組前に鯉太郎は、ものをうまくつかめず、思うように手を動かせていない様子だったのだ。鯉太郎は闘海丸に勝利するが、鯉太郎がすでに満身創痍であることに変わりはなかった。

第12巻

九月場所九日目を迎えた白水秀樹は、現役時代の高杉剛平(仁王剛平)とライバル関係にあった天鳳との取組で、なんとしてでも勝つつもりでいた。秀樹は、まだ空流部屋親方になって日が浅い剛平が、その指導法で周囲の部屋から叩かれていることを知っていた。そこで、剛平の指導法が間違っていないことを証明するためにも、絶対に勝ちたいと考えていたのである。そんな秀樹は、勝とうとするあまり取組前から自分を見失っていたが、剛平から指摘されたことで、平常心を取り戻す。そして、たとえ見栄えが悪くとも、自分の相撲を取り切ることを決める。二人の相撲はビデオ審議がされるほどの熱戦となるが、最終的には天鳳の勝利となる。しかし鯉太郎たちは、空流部屋のために必死に戦う秀樹の姿に感銘を受け、気持ちを新たにするのだった。そしてその夜、秀樹は片思い相手である斎藤真琴に告白を決意し、真琴と剛平を呼び出す。これには理由があり、秀樹はいつもケンカばかりしている真琴と剛平を先に会わせて、今日も始めるであろう二人のケンカを自分がうまく仲裁したあとに告白すれば、きっとうまくいくと画策していたのだ。しかし、二人はお互いの本心を打ち明けて交際を始めることになり、秀樹は告白する前にふられてしまうのだった。

第13巻

九月場所十日目、鮫島鯉太郎の取組相手は速川透(毘沙門透)。透は常松洋一(松明洋一)の同期で、かつて相撲教習所で鯉太郎が指導した力士でもあった。そのため、透にとって鯉太郎は当初あこがれの存在だったのだが、次第に透の方が番付も強さも上回っていく。これによって透は、鯉太郎をすっかり見下すようになっていた。そんな透は昔から天才肌で、高校時代は柔道選手として名を馳せていたが、ある日あこがれの選手にあっさり勝ってしまったことで柔道への意欲をなくし、相撲に転向したという過去を持っていた。現在は、目標とする力士を鯉太郎から後藤剣市(王虎剣市)に変えていた。しかし透は、剣市にはまるで相手にされないどころか、剣市がなぜか鯉太郎ばかり評価することに納得がいかずにいた。そこで、今回の取組でどちらが実力が上なのかをはっきりさせようと考えていたのである。こうして始まった取組で、透はいきなり仕切り線から大きく下がる。これは、鯉太郎のぶちかまし対策だったが、鯉太郎はまったく気にすることなくぶちかまし、透は鯉太郎に完敗するのだった。

第14巻

九月場所十日目、常松洋一(松明洋一)と登馬道明(百雲道明)の取組が始まった。道明はかつて、お手本のような相撲を取る、正統派の力士として知られていた。その穏やかな人柄もあり、以前は周囲からの人望も厚く、誰からも愛される力士だった。しかし、泡影との対戦で自分が彼の眼中になかったことを知り、それ以来、別人のような人格となり、泡影に勝つことだけを目標とする荒れた相撲を取るようになっていた。一方の洋一にも、どうしても負けられない理由があった。常松家は洋一だけでなく父親も力士だった。しかし父親はいい成績を残すことなく引退し、その後は家族に暴力を繰り返すようになった末に蒸発するという、洋一にとっては絶対に許すことのできない存在だったのだ。そんな父親が洋一のもとに、お金を無心にやって来る。そこで洋一は、もし父親が九月場所十日目の自分の取組を最後まで観戦したら、お金を貸してもいいと約束したのである。最終的に洋一は負けてしまうが、父親は洋一が「松明」の名にふさわしい相撲を取ったことに感動。そして取組後、改めて会った二人は力士としてぶつかり合う。これを受けた父親は、もう一度真剣に生きると洋一に誓うのだった。

第15巻

九月場所十日目、鮫島鯉太郎の同期である村神凛太郎(天雷凛太郎)と、池川成行(白鯨力)の取組が始まった。鯉太郎と凛太郎は、相撲教習所で出会った頃から仲がよかったが、かつて取組が決まった際、鯉太郎が前日の取組のケガにより、高杉剛平(仁王剛平)の判断もあって休場してしまう。そのため凛太郎は鯉太郎と今場所十一日目に、数年越しに対戦できることを、非常に楽しみにしていたのである。対する成行は、ふだんはおとなしく目立たない力士だった。しかし「ビクトリースター」という変身ヒーローが大好きで、彼になりきって変身ポーズを取ると別人のように力強くなるという、一風変わった力士だった。そんな成行の強烈なパワーとがぶり寄りに凛太郎は驚かされるが、熱戦の末に凛太郎が勝利する。そして、取組後に鯉太郎と凛太郎は、明日は最高の取組をしようと誓い合う。しかし十一日目の朝、鯉太郎が空流部屋で四股を踏もうとすると、鯉太郎は強烈な違和感に襲われる。この四股を見ていた常松洋一(松明洋一)や白水秀樹も、鯉太郎の様子がどこかおかしいことを感じ取っていた。

第16巻

九月場所十一日目、鮫島鯉太郎村神凛太郎(天雷凛太郎)の取組が始まった。鯉太郎はいきなりのぶちかまし四連発で凛太郎の体勢を崩し、この強烈なぶちかましを受けた凛太郎は再戦を喜ぶあまり、すっかり気持ちが緩んでいたことを自覚する。これによって気持ちを新たにした凛太郎は、圧倒的な体重差を活かしてまわしを取ろうとするが、鯉太郎はすんでのところでこれを阻止。またも、石川大器(飛天翔大器)の技を使って応戦する。この対戦中、凛太郎は自分は力士として高い評価を受けているものの、何かが欠けていると自覚していた。それは鯉太郎のように、一つ一つの取組に命を懸ける必死さだった。これに気づいた凛太郎は自分の殻を破り、ありったけの力を振り絞って合掌捻りで鯉太郎をつぶしにかかる。しかし鯉太郎は完璧なタイミングで掬い投げを繰り出し、逆転勝利を収めるのだった。これは、自分の身体が壊れても構わないという覚悟がないと取れない戦法だった。凛太郎は、鯉太郎の勝利への異常な執着に戦慄し、まだ自分にはその領域までたどり着くことはできず、真に鯉太郎と並び立つことはできないと痛感するのだった。こうして二人の取組は終わるが、取組後の鯉太郎を見た大器は、鯉太郎が慢性外傷性脳症が発症したことを確信し、奥村椿に報告する。

第17巻

九月場所十一日目、後藤剣市(王虎剣市)と登馬道明(百雲道明)の取組が始まった。序盤は道明が剣市を圧倒するが、剣市はこれを軽やかにいなす。剣市には道明が勝つために荒れた相撲を取り、相手を傷つけて自らを追い込む姿が、自傷行為にしか見えなかった。そのため、道明がどれだけ必死になっても、安っぽい偽物の相撲を取っているとしか思えなかったのである。これを指摘された道明は怒り狂うが、その一方で自分の本来の相撲を思い出す。その姿は剣市だけでなく、美しい相撲を取っていた頃のファンたちをも喜ばせるが、道明は剣市に敗れてしまう。そして自らの限界を悟った道明は、その場で引退を表明するのだった。その取組後、剣市は明日の鮫島鯉太郎との取組についてインタビューを受けるが、鯉太郎が既に満身創痍で、休場する可能性があることを気にしていた。インタビュー後、偶然鯉太郎に出会った剣市は、これまでどおり不遜な態度で鯉太郎に接し、鯉太郎を奮起させるのだった。しかしその夜、鯉太郎は奥村椿から、休場を勧められる。椿は慢性外傷性脳症のことは口に出さなかったが、昼間、石川大器(飛天翔大器)から聞いた言葉がどうしても気になっていたのである。しかし鯉太郎は、たとえ己の身体が限界に達して、土俵の上で死ぬことがあったとしても、自分は相撲を取ると宣言する。

第18巻

九月場所十二日目、ついに鮫島鯉太郎後藤剣市(王虎剣市)の取組の日となった。二人の対決はこれで4度目となり、最後に戦ったのは、幕下時代の優勝決定戦であった。この時は鯉太郎の勝利となったが、その後再戦はないまま、剣市の方が番付が上になっていた。そのために今日の取組は、二人にとっても、当時優勝決定戦を見たファンにとっても、念願のものだった。そんな二人の取組は、序盤は剣市が圧倒する。このまま剣市の勝利かと思われたが、鯉太郎はなぜか笑顔で、剣市もまたこのままでは終わらないだろうと確信していた。二人は一見険悪な関係に見えるが、お互いに力士として絶対的な信頼を寄せていた。そのため、お互いが本気を出しても、相手は必ず受け止めてくれると思っており、二人ともこの勝負を楽しんでいた。その姿に観客たちは大興奮するが、奥村椿だけは暗い顔をしていた。椿は鯉太郎がこの土俵で全力を使い果たし、そのまま死んでしまうのではないかと心配していたのだ。このまま二人は一瞬も手を抜くことなく全力でぶつかり合い、最終的には寄り切りで鯉太郎の勝利となる。剣市は鯉太郎の身体の限界を察しつつも、今場所は最後まで戦えと、その背中を押す。

第19巻

九月場所十二日目を終え、鮫島鯉太郎奥村椿に自分の身に何が起ころうと相撲を取りたいと、その気持ちを改めて打ち明ける。この言葉で、椿は自分では鯉太郎を止めることはできないと理解し、泣き崩れてしまう。一方その頃、鯉太郎の次の相手である小林哮(猛虎哮)は、練習に励みながら、過去を振り返っていた。哮はもともとは相撲向きの体型ではなく、これと言って取り柄のない地味な少年だった。しかしある日、偶然後藤昇(虎城昇)のインタビューを見たことで相撲に関心を持ち、努力を重ねて力士となったのである。そんな中、地方巡業で当時素人だった鯉太郎と対戦して敗北し、自分にはまだまだ努力が足りないことを痛感させられる。そのため、今度こそ鯉太郎に勝利することで、あこがれの昇へ近づきたいと願っていたのである。そして十三日目、椿と斎藤真琴が空流部屋前で話していると、そこにこれまで姿を見せたことのない鯉太郎の母親がやって来る。真琴は母親の姿を見て怒り、鯉太郎に会わせず追い返すが、椿は鯉太郎の母親のことが気になって、追いかけて話を聞くことにする。そして彼女の話を聞いたうえで、今の鯉太郎を見てもらうために会場へ連れて行く。

第20巻

九月場所十三日目、鮫島鯉太郎小林哮(猛虎哮)の取組が始まった。鯉太郎は完璧なぶちかましを決めるが、なぜか失敗に終わり驚きを隠せない。その後も鯉太郎は哮のスピードと完璧な相撲に翻弄され、思うような相撲が取れなくなっていた。鯉太郎はそれでも攻め続けるが、抜群の安定感を誇る哮はまったく崩れない。その攻防の末、鯉太郎は土俵際に追い詰められてしまうが、あきらめることなく一瞬のスキをついてみごと切り抜ける。そして、自分自身が相撲道であるといえるほどの境地に達し、最後は現役時代に「後藤昇(虎城昇)キラー」と呼ばれた、空流旭(春風旭)の技を放ち哮に勝利するのだった。

登場人物・キャラクター

鮫島 鯉太郎 (さめじま こいたろう)

大海一門空流部屋に所属する力士。番付は東前頭十枚目。四股名は、本名と同じく「鮫島鯉太郎」。亡くなった伝説の力士「鮫島太郎」の息子で、太郎の死後は母親ではなく、太郎の友人「斎藤正一」に引き取られた。そのため斎藤家の息子同然で、斎藤真琴とは義理の姉弟のような関係である。小柄で筋肉質の痩せた体型で、額の真ん中に入った横一本線の傷跡があるほか、全身が傷だらけである。まじめな性格で不器用ながら、何よりも相撲を愛する一本気なところがある。そのため、16歳で力士となってから現在まで、自分の体格が相撲には適していないことを理解しつつも、相撲が好きだという自分の気持ちを大切にして相撲を取り続けている。しかし、その結果非常にケガが多く、休場も多い。自分の力士人生がそう長くないことを自覚しており、一つ一つの取組に命を懸け、いっさい出し惜しみをしない真剣な相撲を取る。また、自分との取組に手を抜きそうな力士に対しては容赦なく、取組前にケンカを売ることもしばしば。つねにトラブルが絶えないものの、相撲に対する真摯な姿勢は周囲に高く評価されており、ファンも多い。また、一度取組んだ相手は鯉太郎となかよくなったり、鯉太郎に影響を受けていい方向に導かれている。度重なるケガにより慢性外傷性脳症となり、その病名を知らぬまま、不調に悩まされながらも相撲を取り続けている。

高杉 剛平 (たかすぎ こうへい)

大海一門空流部屋の親方を務める元力士の男性。四股名は「仁王剛平」で、親方となってからは「空流剛平」を名乗っている。強面(こわもて)の容姿で、つり目でもみあげを長く伸ばしている。下品な下ネタで周囲を困惑させることも多いが、明るく面倒見のよい兄貴分的な存在として、現役時代から弟弟子たちに慕われている。力士時代は、期待の日本人力士として将来を嘱望されていた。だが大関昇進を目前にして、親方の奥村旭が突然の交通事故で亡くなったことで空流部屋を維持するため、唯一親方の資格を持つ高杉剛平自身が跡を継ぐことを決める。そして誰にも告げることなく髷を落とし、親方となった。若くして引退したが今でも力はまったく衰えておらず、空流部屋ではいまだに一番強い。しかし、親方としてはまだ日が浅いため、その指導力に対しては厳しい評価を受けることも多く、鮫島鯉太郎たちはこの評価を覆すためにも、精一杯の相撲を取りたいとの思いが強い。

白水 秀樹 (しらみず ひでき)

大海一門空流部屋に所属する力士。部屋頭を務める。番付は西小結。四股名は、本名と同じく「白水秀樹」。鮫島鯉太郎の兄弟子にあたり、鯉太郎が新弟子の頃から非常に仲がいい。192センチの長身で口ひげとあごひげを生やしており、体格とリーチを活かした押し相撲を得意としている。この容姿から、ファンからは「殿」と呼ばれている。いつも明るい性格のお調子者で、空流部屋のムードメーカー的な存在。土俵でふざけた行動を取ることもあるため批判もされているが、この親しみやすい人柄からファンも多い。プレッシャーに弱いという問題を抱えており、西小結になった現在も克服しきれずにいる。そのため、今一つ自分に自信が持てず、親方の高杉剛平や、すでに引退した「吉田亘孝」と自分を比べがちである。剛平とはいつも喧嘩ばかりしているが、心の底では尊敬している。奥村旭の急逝により、剛平が引退して親方を務めることになってからは、空流部屋の中心となって部屋を盛り上げている。そのために自分が活躍することで、剛平が親方としても優秀であることを証明したいという気持ちが強い。だが、その気持ちは空回りがちで、あっさりと負けてしまうことも多い。斎藤真琴にひそかに思いを寄せているが、まったく気づかれていない。

常松 洋一 (つねまつ よういち)

大海一門空流部屋に所属する力士。番付は東前頭六枚目。四股名は「松明洋一」で、「まつあかり」と読む。これは「松明」を「たいまつ」と読む、元力士の父親の四股名から取ったものである。鮫島鯉太郎と白水秀樹の弟弟子で、丸山大吉とは同期である。大吉からは「常ちゃん」と呼ばれている。まじめで落ち着いた性格で、学生横綱となったのちに入門した相撲エリート。相撲の取組においても、相手のデータをきちんと分析する理論派である。そのため部屋の力士たちからの信頼も厚く、みんなの取組をデータ面から支えている。しかし、損得勘定で物事を考えがちで、サイン一つ書くのにも対価を求めてしまったりと、お金には非常にシビアで倹約家。これは力士の父親が、あまり結果を残せなかった末に多額の借金を作り、経済的に苦しい生活を強いられたことが大きく影響している。そのため、父親には複雑な感情を抱いており、自分は父親とは違うということを証明するために相撲を取っている節がある。父親と同じ「松明」という四股名を名乗っているのも、父親が輝かせることのできなかったこの名前で、成功したいという強い思いからである。そんな今場所の九日目、突如父親がお金の無心に現れ、激しい怒りを抱きつつも、彼と向き合う決心をする。

丸山 大吉 (まるやま だいきち)

大海一門空流部屋に所属する力士。番付は序二段。鮫島鯉太郎と白水秀樹の弟弟子で、常松洋一とは同期である。空流部屋の後援会員である武川の甥で、入門前は高校にも通っていない引きこもりだった。しかし、大柄で力士向きの体型をしていたことや、武川によって無理やり入門させられたことから、嫌々ながらも力士となった。おっとりした性格で、なかなか力士として結果を出せないことに悩んでいる。これによってますます自分に自信をなくし、うまくいかないという悪循環に陥っている。そんな今場所五日目、敗北したことでトイレにこもっていたところ、偶然に巨桜丸丈治と出会う。相手の顔が見えず、話し相手が丈治であることも知らないまま、お互いの境遇に似たものを感じ、弱気になっている丈治を叱咤激励した。

後藤 剣市 (ごとう けんいち)

次元一門虎城部屋に所属する力士。番付は大関。四股名は「王虎剣市」。鮫島鯉太郎とは同期で、新弟子時代に出会って以来のライバル関係にある。また、次元一門虎城部屋親方と日本大相撲協会の理事長を務める後藤昇の息子でもある。そのため、昇のライバルであった「鮫島太郎」の息子である鯉太郎とは、親子二代にわたる因縁がある。クールで不遜な性格で、出会った当初は鯉太郎を見下していた。しかし、幕下時代の優勝決定戦において敗北して以来、鯉太郎の実力を認めており、力士として誰よりも信頼を寄せている。そのため、鯉太郎とは一見険悪な関係に見えるものの、時に誰にも理解できないほどの深い絆を見せることがある。幕下時代の優勝決定戦後は精神的に不安定となり、対戦相手を傷つけることもいとわない醜い戦い方をしていた頃もあった。そのため、今場所十一日目の取組相手の登馬道明には、過去の自分に似たものを感じており、現在の道明は、力士としては偽物であるととらえている。十二日目には鯉太郎と、すべてをかけてぶつかり合うことになる。

石川 大器 (いしかわ だいき)

大海一門新寺部屋に所属する力士。番付は西前頭十二枚目。四股名は「飛天翔大器」。鮫島鯉太郎とは同期で、新弟子時代に相撲教習所で出会って以来の友人である。鯉太郎同様に力士としては小柄で、筋肉質の痩せた体型をしている。鼻の真ん中に、横一本線の大きな傷跡がある。明るくさっぱりとしたヤンキー気質で、相撲を始める前は、神奈川県では知らぬ者はいないといわれるほどの札付きの不良だった。しかし、ある日起こした暴力事件がきっかけで担任教師に勧められ、新寺部屋の見学へ行って力士となった。そのため自分を変えるきっかけとなった相撲と、自分を力士にしてくれた周囲の人々に感謝している。特に鯉太郎に対しては自分と体型が似ており、力士として同じような苦労をしてきたことから、ライバルとしても友人としてもいつも気にかけている。そんなある日、石川大器自身が慢性外傷性脳症を患っていることがわかり、泣く泣く引退を決意。鯉太郎との取組を最後に引退した。その後は友人として鯉太郎を見守っていたが、鯉太郎もまた、慢性外傷性脳症なのではないかと案ずるようになる。村神凛太郎は、鯉太郎と同様に相撲教習所で出会った同期だが、なぜか凛太郎には未だに名前を覚えてもらえず、いつもまったく違う名字で呼ばれている。神奈川県出身で、趣味はパチンコ。女性が大好きながらまったくもてず、いつもふられていることを弟弟子たちにも知られている。

村神 凛太郎 (むらかみ りんたろう)

若竹部屋に所属する力士。番付は東関脇。四股名は「天雷凛太郎」。元力士の「村神裕也」の弟。鮫島鯉太郎とは同期で、新弟子時代に相撲教習所で出会って以来の友人である。穏やかで落ち着いた性格をしている。しかし、入門当初は陰気で近寄りがたい雰囲気を漂わせ、さらに周囲の兄に対する冷たい態度が原因で、人間不信気味になっていた。だが、鯉太郎との取組がきっかけでやる気を取り戻し、兄の引退理由も知ったことで精神的にも安定して、現在の性格に至る。そのため、鯉太郎のことを大切に思っており、鯉太郎の存在なくしては、今の自分はないと考えている。特に今場所は過去に一度再戦が流れてしまったこともあり、十一日目の取組を心待ちにしていた。しかし取組中、鯉太郎の勝利への異常な執着を感じ、真に並び立つ存在にはなれないことを理解し、鯉太郎を孤独にさせてしまったことを申し訳なく思うようになる。石川大器とは、鯉太郎と同様に相撲教習所で出会った同期だが、なぜか名前を覚えようとせず、いつも間違った名前で呼んでいる。

後藤 昇 (ごとう のぼる)

日本大相撲協会の理事長を務める中年男性。次元一門虎城部屋の親方を務める。後藤剣市の父親でもある。現役時代の四股名は「虎城昇」で、名横綱として知られ、優勝25回、殊勲賞3回、敢闘賞3回の輝かしい成績を誇る一代年寄。撫(な)で付け髪にし、たれ目でがっしりとした体型をしている。左耳の上半分が欠けている。かつては目的のためには手段を選ばない陰湿な性格で、現役時代のライバルであった「鮫島太郎」の息子である鮫島鯉太郎にも非常に冷たく接している。しかし、現在は鯉太郎を力士として認めており、また息子の剣市も人間的に成長したこともあり、穏やかな顔つきとなる。現在は日本大相撲協会のさまざまな改革に着手し、解説者としても活動している。鯉太郎に対しては、批判的な態度を取りつつも、あまりにも無茶な相撲をする鯉太郎を諌め、内心は非常に心配している。太郎とは現役時代のライバル関係だったが、お互いに満足のいく相撲を取れなかったことを後悔している。そのため、鯉太郎と剣市の関係に太郎と自分の関係を重ねており、二人にいい相撲を取って欲しいと願っている。奥村旭とは現役時代から相撲の相性が悪く、後藤昇の方が格上であったにもかかわらず、負けてしまうことが多かった。相撲の解説は丁寧でわかりやすいが、なぜか相撲を教えるのは苦手。そのため、擬音語ばかりの漠然とした指導をしがちで、その指導を正確に理解できるのは小林哮だけだった。青森県出身。

奥村 旭 (おくむら あさひ)

元大海一門空流部屋の親方を務めていた50代の男性で、故人。現役時代の最高番付は小結で、四股名は「春風旭」。親方になってからは「空流旭」を名乗っていた。後藤昇とは同期で、彼に対して非常に相性がよく「虎城キラー」と呼ばれていた。坊主頭に無精ひげを生やし、大柄ながっしりとした体型で右目は失明している。明るくおおらかな性格で、弟子思いで面倒見もいい。空流部屋を、かつての鮫島鯉太郎のように社会に馴染(なじ)めない不器用な人間のよりどころでありたいと考えている。そのため、弟子たちからは非常に慕われていたが、3年前の田ノ中部屋との連合稽古後に交通事故で亡くなる。

奥村 椿 (おくむら つばき)

大海一門空流部屋の女将を務める女性。黒髪のショートヘアで、細身の体型をしている。亡くなった元空流部屋親方だった奥村旭の娘。クールで落ち着いた性格ながら気が強く、弟子たちには時に優しく、時に厳しく接する。そのため弟子たちはもちろん、親方の高杉剛平も奥村椿には頭が上がらない。鮫島鯉太郎のことを入門時から見守っており、非常に仲がいい。鯉太郎の激しすぎる取組を案じており、自分の身体をもっと大切にして欲しいという気持ちと、鯉太郎らしい相撲を取って欲しいという気持ちの狭間で苦しんでいる。そんな今場所十一日目に石川大器から、鯉太郎が慢性外傷性脳症となっていることを知らされ、さらに悩むことになる。しかし、自分には鯉太郎の相撲への情熱を止めることはできないことを理解している。

斎藤 真琴 (さいとう まこと)

AKTテレビのアナウンサーを務める女性。「鮫島太郎」が亡くなり、父親の「斎藤正一」が鮫島鯉太郎を引き取ってから、鯉太郎が空流部屋に入門するまではいっしょに暮らしていた。そのため、義理の姉のような存在である。あだ名は「マコ」。肩につくほどのセミロングヘアで、落ち着いた性格をしている。清楚な雰囲気を漂わせているが気が強く、怒ると非常に怖い。そのため、鯉太郎も斎藤真琴には頭が上がらない。鯉太郎が入門してからは空流部屋の人たちとも親しく、特に高杉剛平とは、ケンカばかりしつつもお互い憎からず思っている。その反面、白水秀樹の思いにはまったく気づいていない。また相撲にも詳しく、この知識をアナウンサーになってからも活かしている。

明王山 憲昭 (みょうおうざん のりあき)

五大部屋に所属する力士。番付は大関。年齢は40歳。10年間にわたり62場所ものあいだ、大関の座に君臨している。四股名は「明王山憲昭」。大柄な体型で無精ひげを生やし、額に縦に入った傷が3本ある。現在は温厚な人柄で知られているが、かつては「牛鬼」の異名を持ち、すさまじいぶちかましでほかの力士たちにも恐れられていた。鮫島鯉太郎と対戦した五月場所は、大関角番で負け越した場合、大関から降格する状態にあった。そのため、周囲からも引退をささやかれていたが、明王山自身は、体力の続く限り、のんびり相撲を取るのもいいだろうと考えていた。しかし、一戦一戦に命を懸けている鯉太郎に出会い、その激しく刹那的な生き方に感銘を受ける。そして、自らもかつてのような情熱を持って相撲を取る気持ちを取り戻す。

雨宮 直也 (あめみや なおや)

大海一門田ノ中部屋に所属する力士。番付は西前頭十一枚目。四股名は「宝玉光直也」。非常に背が高く、唇の左側の上下にかけて、高杉剛平に付けられた傷跡がある。田ノ中稔の熱烈なアプローチによって田ノ中部屋に入門した力士で、当初から将来を嘱望されていた。体格、パワー、スピード、判断力のすべてにおいて恵まれている。特に右の腕力が強く、雨宮直也にまわしを取られたら、勝ち目はないとまでいわれている。そのため、入門当初は素直で純朴な人柄だったものの、稔にあまりにも甘やかされすぎたことや、己の才能を自覚して周囲を見下すようになったことで、相撲への意欲をなくす。その結果、飲み歩いてばかりで稽古をサボるようになり、相撲もまじめに取らなくなってしまう。この頃には兄弟子も直也に歯が立たず、さらに稔がいつも直也の肩を持つことから、田ノ中部屋の暴君と化した。これによって部屋を去る力士が絶えず、さらに田ノ中部屋を腐敗させていく。そんなある日、稔が空流部屋に臨時の付け人を頼んだことで、鮫島鯉太郎と出会う。これをきっかけに空流部屋の面々と因縁を持つようになり、剛平が引退した現在も空流部屋を憎んでおり、今場所二日目の鯉太郎との取組においても、無礼な態度を取る。才能があるものの、一度負けると極度に落ち込んでしまうなど、精神的に弱い一面がある。

田ノ中 稔 (たのなか みのる)

大海一門田ノ中部屋の親方を務める老齢な男性。禿げ上がった頭に糸目のたれ目で、痩せた体型をしている。一見穏やかそうに見えるが、指導力に欠ける頼りないところがあり、特に気に入った力士を甘やかしてしまう。雨宮直也の素質を見抜き、口説き落とす形で田ノ中部屋に入門させた。その後、直也に「田の中の光」という意味を持つ「宝玉光」という四股名を与え、直也を大切に思うあまり次第に甘やかすようになり、田ノ中部屋を直也中心の腐った環境にしてしまう。これによって田ノ中部屋を去る力士が絶えず、田ノ中稔自身もこのままではいけないと感じつつも、どうにもできずにいた。しかし今場所二日目、鮫島鯉太郎が直也に勝利したことで、ついに考えを改める。そして、この環境を唯一耐え抜いた寺井と共に、田ノ中部屋を立て直す決意をした。

寺井 (てらい)

大海一門田ノ中部屋所属する力士。番付は三段目。雨宮直也の付け人をしている。鮫島鯉太郎は兄弟子にあたるが、なぜか周囲からは同期であると誤解されている。鯉太郎とは相撲教習所で出会い、当時新弟子だった鯉太郎たちに横柄な態度で接していたが、序二段の時の九月場所では、あっさり負かされてしまう。現在、田ノ中部屋に唯一残った力士で、直也の傍若無人な態度に媚(こ)びへつらうばかりの田ノ中稔に絶望していた。そこで一度は引退を決意するが、今場所二日目に鯉太郎と直也の取組を見て、腐敗した現状を改善しようとせずに文句ばかり言っていた自分にも、問題はあったことを痛感する。そこで引退を撤回し、鯉太郎に負けてすっかり気持ちが折れてしまった直也を、稔と共に叱咤激励し、田ノ中部屋を立て直す決意をする。その後は、なんだかんだで鯉太郎を気にしている直也に付き添い、空流部屋にも時おり顔を出すようになる。

森田 茜 (もりた あかね)

空流部屋の近くにある小学校に通う5年生の男子。七三分けで、眼鏡をかけている。まじめな性格の努力家で、幼い頃に頭がいいと褒められたことで、積極的に勉強するようになった。一言多いタイプのため、頭がいいことを鼻にかけていると思われがちで、クラスでは孤立している。また、自分の才能が正当に評価されていないと感じ、好きで続けていた勉強への意欲もなくす。そんなある日、偶然空流部屋の稽古を見て、頻繁に見学するようになり、鮫島鯉太郎をはじめとする空流部屋の力士と知り合う。鯉太郎にあこがれているが、鯉太郎が体格的に力士に向いていないにもかかわらず、相撲を取っていることを疑問に思っている。その疑問を鯉太郎と奥村椿にぶつけたところ、今場所三日目の鯉太郎と舞ノ島の取組に招待される。この取組で鯉太郎が己の向き不向きではなく、自分の好きな相撲と真摯に向き合っているだけであることを理解する。そして周囲に何を言われても気にせず、勉強に打ち込むことを決意する。

巨桜丸 丈治 (きょおうまる じょうじ)

寒河江(さがえ)部屋に所属するサモア人の力士。番付は西前頭九枚目。四股名は「巨桜丸丈治」。角界最重量の278キロの巨漢で、目が大きくくりっとしてかわいらしい雰囲気を漂わせている。日本語はやや片言だが、日常会話はまったく問題ない。子供の頃から体格に恵まれており、これを買われてアメリカンフットボール選手となった。しかし、巨桜丸自身は気の弱い性格で、大きな体を活かしきれない見かけ倒しであるという意味で「リトルジョージ」と呼ばれてからかわれていた。そのため次第に暗い性格となり、アメリカンフットボールをやめてハワイのオアフ島の自宅に引きこもっていた。そんな中、地元のスターである力士の九陽山が訪れ、相撲に誘われる。そこで、地元から逃げ出したい一心で日本にやって来た際に、寒河江修二と出会い、彼の人柄と寒河江部屋の方針に惹かれて入門した。そのため寒河江部屋に感謝しており、修二や仲間たちのためにも結果を出さなくてはならないという気持ちが非常に強い。しかしその結果、気弱な性格を隠し続けて戦ったために、より自分を追い詰めてしまうという悪循環に陥っていた。そんな今場所四日目、鮫島鯉太郎との取組前に限界に達して、トイレに逃げ込んだ。そこで丸山大吉と出会ったことや、鯉太郎との取組に向き合ったことで、精神的に大きく成長する。

寒河江 修二 (さがえ しゅうじ)

寒河江(さがえ)部屋の親方を務める男性。マッシュルームヘアに無精ひげを生やし、小柄な体型をしている。いつも明るい笑顔を浮かべ、穏やかで冗談好きな心優しい性格の持ち主。力士時代は気が非常に弱く、稽古場や取り組みからしょっちゅう逃げ出していた。そこで、この経験を活かして精神的に弱い力士でも、のびのびと相撲を取れる環境の相撲部屋を作ろうと決意。そして相撲部屋には珍しく、古い悪習をなくした完全分担制の上下関係のない寒河江部屋を作り上げた。そのため、力士たちからは非常に慕われていたが、相撲部屋としてはなかなか結果が出せずにいた。そんなある日、かつての自分のように精神的にもろいところのある巨桜丸丈治と出会う。そこですぐに丈治の抱える問題を見抜き、手を差し伸べた。その後は丈治の活躍により部屋の評価も上がったことを喜んでいたが、丈治が精神的に限界なことを察して悩んでもいた。しかし今場所四日目、丈治が丸山大吉に出会ったことや、鮫島鯉太郎との取組を通じて大きく成長する姿を目撃する。

バットバートル・モンフバイヤル

山ノ上部屋に所属するモンゴル人の力士。番付は西前頭六枚目。四股名は「蒼希狼巴亞騎」。地元でのあだ名は「バーキ」。鮫島鯉太郎とは同期で、新弟子時代に相撲教習所で出会った。極端な釣り目で、額の左側と右頰に縦に通った大きな傷跡がある。新弟子時代は日本語が不得手でほとんど意思疎通ができなかったが、現在は兄弟子の大山道豊のサポートを受けて流暢に話せるようになった。短気な性格で喧嘩っ早く、新弟子時代は周囲とトラブルを起こしてばかりいたが、根は純朴で仲間思いなところがある。力士になる前はウランバートルのマンホールチルドレンで、同世代の仲間のサエハンたちと身を寄せ合って暮らしていた。そんなある日、モンゴル人力士をスカウトするためにやって来た山ノ上部屋親方の山ノ上大五郎に見出されたことで入門する。力士として素晴らしい才能を持っているが、相撲へのモチベーションはすべてお金にある。力士となってからは、賞金は自分ではほとんど使わずにサエハンへ送金し、地元の仲間たちへの資金援助や将来的にモンゴルに学校を開校するための貯金にしていた。しかしある日、サエハンが中国系の悪質な組織にだまされ、お金をだまし取られたうえに、取り返そうと立ち上がった仲間たちが何人も死亡する事件が起きる。これに責任を感じ、現在は相撲への意欲を完全になくしてしまっている。しかし今場所六日目、これを案じた豊が鮫島鯉太郎と必死の取組をしたことで、かつての元気を取り戻す。

大山道 豊 (おおやまどう ゆたか)

山ノ上部屋に所属する力士。番付は西前頭七枚目。四股名は「大山道豊」。たれ目であごひげを生やし、穏やかな性格で人を安心させる雰囲気を漂わせている。以前所属していたモンゴル人力士の影響で、モンゴル語を少しだけ話せる。技巧派のベテラン力士で、つねに堅実な取組をする。その温和な人柄から、山ノ上部屋の兄貴分的な存在。児童養護施設「わかば園」の出身で、力士になって園を去ってからも、園を支えるために送金している。そのため、似た境遇のバットバートル・モンフバイヤルが入門してからは、周囲から孤立しがちなバットバートルに積極的に声をかけた。そして、仲間たちの暮らしを豊かにするため、少しでも早く強くなりたいというバットバートルの希望を叶えるため、技術的な指導はもちろん、日本語を教えたり、さまざまな相撲界の仕組みを教えた。しかしある日、サエハンたちが死亡する事件が起き、以来バットバートルが相撲への意欲をなくしてしまったことを案じている。そのため、今場所六日目にバットバートルに引導を渡すためにも、鮫島鯉太郎との真剣勝負に挑み、この時の取組がバットバートルの相撲への意欲を取り戻すきっかけとなる。

サエハン

モンゴルに住むモンゴル人の男性で、故人。糸目が特徴で、前歯が1本欠けている。バットバートル・モンフバイヤルと同じくマンホールチルドレンで、バットバートルとは仲間の中で、もっとも古い付き合いだった。そのため、バットバートルが力士となり日本に行ってからは、バットバートルが送金してくれるお金を管理する金庫番を務めていた。このお金で元マンホールチルドレン仲間の生活は非常に豊かになり、ある日バットバートルに、将来学校を開校するために貯金して欲しいと頼まれる。しかしこのお金を、ほかの仲間に相談せずに中国系の悪質な組織に預け、だまし取られてしまう。その後、仲間たちと共にお金を取り返しに行くが、組織と争いになって死亡する。

山ノ上 大五郎 (やまのうえ だいごろう)

山ノ上部屋の親方を務める老齢な男性。がっしりとした体型で、頭が禿げ上がっている。不愛想で威圧感があり、力士たちにも非常に厳しい。しかし、力士たちのことを息子同然に思っており、人間として未熟な時期や力士として調子の悪い時期があったとしても、とことん支えて面倒を見ることを信条としている。そのため、バットバートル・モンフバイヤルの不調に対しても正面から向き合って、鮫島鯉太郎と大山道豊の取組をバットバートルといっしょに見守り、彼を叱咤激励した。

比嘉 ライアン (ひが らいあん)

禅定(ぜんじょう)部屋に所属する力士。番付は前頭四枚目。四股名は「丈影」。日本育ちの日本人ながら、父親が外国人のハーフで瞳の色が青いため、外国人と勘違いされることが多い。日本の国技である相撲で認められることで、自分のアイデンティティを確立するために力士を志すようになった。高校時代に日本チャンピオンとなり、期待の新弟子として禅定部屋に入門した。そこでモンゴル人の泡影に出会って強烈なライバル意識を燃やすようになり、泡影よりも早いペースで昇進していく。しかし、禅定部屋親方引退の際、自分ではなく泡影が部屋頭に選ばれたことに異論を唱える。そして、実力で部屋頭の座を奪おうと泡影と勝負したが、完敗する。これ以降は泡影と自分の圧倒的な力の差を痛感し、泡影を信奉するようになる。しかし、将来的に泡影に勝てるのは自分だけだと考えており、泡影に恩返しできる力士になろうと考えている。ほかの力士にはまったく関心がなく、高い実力を持ちながら泡影にあこがれるあまり、勝つ意欲がすでに失せてしまっていることは自覚していない。

闘海丸 (とうかいまる)

鏡川(かがみがわ)部屋部屋に所属する力士。番付は東小結。芸能プロダクション「AGUプロダクション」の所属タレントとしても活動している。四股名は「闘海丸」。細川将太の友人で、高校時代は同じ相撲部に所属していた。つり目で唇が厚く、強面で近寄りがたい雰囲気を漂わせている。その容姿が動物のマナティを連想させるため、「戦慄のマナティ」の異名を持ち、男性から非常に人気がある。しかし、現在はアイスのCMでブレイクしたために女性ファンが増え、女性が敬遠するような激しい相撲は控えていた。しかし今場所九日目、念願の再戦となる鮫島鯉太郎と対戦することとなり、将太に相談。この取組に限って芸能人としての自分を忘れ、かつてのようにがむしゃらな相撲を取ることになる。

細川 将太 (ほそかわ しょうた)

芸能プロダクション「AGUプロダクション」の社長を務める男性。元鏡川(かがみがわ)部屋の力士だった。鏡川部屋の後援会長も務める。小柄な体型で、丸眼鏡をかけて口ひげを生やしている。闘海丸の友人で、高校時代は同じ相撲部に所属していた。一見気が弱そうに見えるが、実際はしっかり者で、やや計算高いところもある。力士としては大成せずに引退したが、商才には優れており「AGUプロダクション」を立ち上げてからは大成功を収めた。元鏡川部屋力士という人脈を生かして、元力士を中心としたアスリートたちを所属タレントとして抱え、闘海丸のプロデュースもしている。現在はCMタレントとしてブレイクした闘海丸を、男性の相撲ファンだけでなく、相撲に興味のない女性たちにもアピールしようと考えている。そして、闘海丸にかわいらしいキャラクターを演じて欲しいと頼んでいたが、これが闘海丸を精神的に追い詰めていることを知る。そこで、今場所九日目の鮫島鯉太郎の取組で、タレントとしての立場を気にせずに相撲を取っていいと伝えた。

速川 透 (はやかわ とおる)

北里部屋部屋に所属する力士。番付は東前頭五枚目。常松洋一と丸山大吉とは同期で、四股名は「毘沙門透」。大きな目のかわいらしい顔立ちながら、がっしりとした体型をしている。間延びした、やや軽薄な口調で話す。自分より実力が上だと判断した相手には素直で、自分より実力が下だと判断した相手は見下した態度を取る。どんなこともそつなくこなす天才肌だが、やる気にむらがあり、飽きっぽい性格をしている。高校時代は柔道選手として活動していたが、ある日目標としていた選手にあっさり勝ってしまったことで意欲をなくし、相撲に転向した経緯がある。鮫島鯉太郎とは、入門当初に相撲教習所で出会い、自分をあっさり負かした鯉太郎を慕うようになる。しかし、すぐに自分の方が番付が上がったために関心がなくなり、それ以降は目標とする力士を鯉太郎から後藤剣市に変えた。だが、剣市は自分を相手にせず、自分より実力が下である鯉太郎ばかり気にすることを理解できずにいる。そんな今場所十日目に鯉太郎と取組むこととなり、剣市に自分を認めさせるためにも、本気の勝負を挑む。

松明 (たいまつ)

元力士の中年男性。四股名は「松明」。常松洋一の父親。番付は三段目止まりで、さらに「ハイエナ芸者」という不名誉なあだ名を付けられていた。みすぼらしくさえない容姿で、自分に自信が持てないために他者に攻撃的な態度を取りがちである。息子の洋一に対しても、自分の息子なのだから大した人間にはなれないと冷たい態度を取っていた。さらに、引退後は職を転々として多額の借金を残し、洋一たち家族に暴力を繰り返した挙げ句に蒸発した。このことで洋一には激しく憎まれていたが、今場所九日目、お金の無心をするために洋一の前に姿を現す。これを洋一が、十日目の「百雲道明」との取組を観戦するという条件で応じたことで、過去の自分と洋一に向き合うことになる。

登馬 道明 (とうま みちあき)

新発田(しばた)部屋に所属する力士。番付は西関脇。四股名は「百雲道明」。元学生横綱の相撲エリートで、現横綱の泡影に最後に勝利した実力者でもある。しかしこの時の勝利により、もともとは爽やかで温かい人柄だったのが、別人のように暗い雰囲気の近寄りがたい人物となってしまった。かつては、教科書のように正統派の相撲を取っており、その人間性も相まって理想的な力士と評されていた。しかしある日、泡影との取組で勝ちはしたものの、泡影はこの相撲でいっさい自分のことを見ておらず、相撲道そのものとの対話に夢中になっていたことを知ってショックを受ける。これに絶望を覚え、次回こそ自分の実力で泡影に勝つために相撲に没頭しようと、6年以上付き合っていた恋人とも別れてしまった。そして、これまでのような模範的な相撲では勝てないと考え、以前とはまったく違う、暴力的で相手のことなど顧みない勝負に徹した相撲を取るようになる。この姿勢にファンは失望し、現在では悪役力士となっている。その相撲は今場所でも変わらず、十日目の常松洋一との取組でも冷酷なものだったが、十一日目の後藤剣市との取組で変化が訪れる。

池川 成行 (いけかわ なりゆき)

尾多留(おたる)部屋に所属する力士。番付は小結。四股名は「白鯨力」。つり目で糸目が特徴の一見冴えない容姿だが、特撮ヒーロー「ビクトリースター」になり切って変身ポーズを取ると、別人のように堂々とした相撲を取ることから、一風変わった力士として知られている。気弱な心優しい性格で、力士になる前は精神的にもろく、追い詰められると暴れて周囲を傷つけてしまう問題を抱えていた。これは幼い頃に両親が離婚し、祖母のもとに預けられて祖母の死後は、親類の家を転々とする日々を送っていたことに要因がある。その親類の一人が尾多留部屋の後援者で、もともとは力士になる気持ちはまったくなかった。しかし精神的な問題を不安視され、尾多留部屋に入門させられることとなった。入門当初は自分の人柄を理解されず、凶暴な一面ばかりが注目されて恐れられていた。しかし「ビクトリースター」の話題がきっかけで、尾多留部屋親方の息子と親しくなったことで、次第に部屋の力士ともなかよくなり、その後はひたむきに努力する姿が認められて部屋に馴染んでいく。

小林 哮 (こばやし たける)

次元一門虎城部屋に所属する力士。番付は大関。四股名は「猛虎哮」。まじめな努力家ながら表情に乏しく、何を考えているのかわかりにくいところがある。そのため、子供の頃はこれが原因でいじめられていた。また、力士になるまでは、身長には恵まれていたものの線が細く、さらに不器用で何をやってもうまくいかず、自分に自信が持てない性格だった。そんなある日、偶然テレビで後藤昇の存在を知り、その言葉に感銘を受けて力士を志した。力士になった当初はなかなか周囲についていけなかったものの、努力を重ねて学生横綱となり、昇にスカウトされて虎城部屋に入門した。自分が凡人であることを理解しており、一つ一つ積み重ねて力を伸ばしてきた努力家。そのため、昇のあいまいな表現が多く、わかりにくい指導も、きちんとメモを取り、語彙の傾向を把握することで完全に理解している。鮫島鯉太郎とは鯉太郎が力士になる前、地方巡業での取組で出会った。当時素人だった鯉太郎に敗北したことで、しばらくのあいだは昇に冷遇され苦しむが、この敗北により、当時天狗になりかけていた自分を改められたと考えている。

泡影 (ほうえい)

禅定(ぜんじょう)部屋に所属する力士。第72代横綱。番付が関脇の頃から29回の連続優勝を誇り、大相撲史上最強と呼ばれるほどの大横綱。四股名は「泡影」。モンゴル出身で、母親が日本人、祖父がロシア人と、さまざまな人種の血が流れている。左右の目の色が違うオッドアイを持つ。冷静沈着な落ち着いた性格で、表情をまった崩すことがないためにどこか謎めいている。親方にスカウトされる形で入門したため、相撲の経験はまったくない。そのため入門してからしばらくのあいだ、才能の片鱗を見せつつも番付は低かった。しかしその後、兄弟子の「輝影」の指導によって実力をめきめきと発揮し始め、一気に横綱まで上り詰めた。現在は、相撲に関しては、ほかの力士には理解し得ないところにまで達しており、最後に負けた登馬道明との取組においても、負けたのは実力ではなく、取組中に相撲道そのものとの対話に夢中となり、道明の存在を忘れていたためであった。

前作

バチバチ

大相撲史上最悪といわれた力士、鮫島 太郎の息子である鮫島 鯉太郎が、一度はあきらめようとした相撲と改めて向き合い、空流部屋の一員として横綱を目指す姿を描いた本格大相撲ストーリー。秋田書店「週刊少年チャ... 関連ページ:バチバチ

バチバチBURST (ばちばちばーすと)

佐藤タカヒロの『バチバチ』の続編。若き幕下力士たちの土俵上での熱い戦いを描いた相撲漫画。個性的な力士たちと熱いストーリー展開、迫力のある取り組みシーンが魅力。秋田書店「週刊少年チャンピオン」2012年... 関連ページ:バチバチBURST

SHARE
EC
Amazon
logo