あらすじ
ヒト族と魔王軍は激しい戦いを繰り広げていたが、ヒト族の大国・ガイシルからの和平の申し込みにより、ガイシルの第二王女・アリシアが魔王のもとに嫁ぐことで、ひとまず双方が矛を収めることとなった。こうして世界にはつかの間の平和が訪れたが、魔王軍の魔王六将軍の第三将・ブラックナイトにとって、この事態は心穏やかならざるものがあった。実はブラックナイトは、かつてアリシアと出会ったことがあり、それ以来彼女に思いを寄せていたのである。魔王軍における貴重なヒト族ということで、魔王から新婚生活についてさまざまな質問を投げかけられたブラックナイトは、なんとか魔王とアリシアの仲を裂こうと、もっともらしい口調でおかしな回答ばかりを返す。一方、魔王軍の参謀である魔王六将軍の第二将・シルバードラゴンは、ガイシルとの同盟を確実なものにするため、魔王とアリシアが夫婦として強く結びつくように願っていた。だが、聞けば魔王は童貞なのだという。しかも彼は、ヒト族の女性の扱い方もわかっていない。ここに至りブラックナイトとシルバードラゴンは、魔王に対し「初夜は性行為をしてはなりません」と、それぞれ別の思惑から同じ言葉を口にする。(第1話「これはただの結婚ではない」)
登場人物・キャラクター
ブラックナイト
魔王六将軍の第三将を担う青年。「黒騎士」と表記される場合もある。魔物ばかりで構成される魔王軍には珍しいヒト族で、黒髪ショートヘアで目つきが鋭く、左頰に大きな傷痕がある。自らもヒト族でありながら、魔王軍の誰よりもヒト族を憎み、殺してきた実績を持つ。また、両手持ちの大剣の腕は確かで、戦場においてはまったく感情を表すことなく、冷静かつ冷徹に敵を倒していく。二万匹の軍勢を任されるほどに魔王からの信頼が厚く、平時においては物静かながら大きな器を見せ、末端の兵たちからも心酔されている魔王軍の中心人物の一人である。実はかつて戦いの最中、ンヌラバの森でアリシアと出会ったことがあり、それ以来彼女に思いを寄せるようになった。そのため、魔王とアリシアが夫婦になることを知った際には大いに動揺したが、その後は性知識にうとい魔王をうまく言いくるめ、なんとかアリシアを寝取ろうと考えている。ただし、ブラックナイト自身も女性の扱いに長けているわけではなく、何かと空回りばかりしている。
魔王
魔王軍を率いる魔物の男性で300年以上生きている。人型だが、大きな二本の角を生やした、凶悪なドラゴンのような顔をしている。その実力は圧倒的で、ブラックナイトですらまったく足元にも及ばないほど。口調も威厳に満ちたものだが、熱いコーヒーを飲めなかったり、叱られることが苦手だったりと、どこか子供っぽいところがあり、またそれを公言することをまったく恥と思っていないマイペースなところがある。ヒト族とは戦争状態にあったが、南の大国であるガイシルから和平交渉を持ち掛けられ、第二王女のアリシアと婚姻を結ぶこととなった。ただし、魔王自身は童貞で女性の扱いに慣れておらず、何よりヒト族のことにも疎いため、新婚生活のさまざまなことについて、ブラックナイトやシルバードラゴンに助言を求めている。シルバードラゴンに夫婦は家事を分担すべきだと助言された際には、朝のゴミ出しをしたりと素直なところもある。ちなみに寝るときは、鹿のようなかわいらしい着ぐるみパジャマを身につける。また、カルーアミルクに口をつけただけですぐに寝てしまったりと、アルコールにも極端に弱い。
アリシア
魔王軍の領地の南に広がるヒト族の大国・ガイシルの第二王女。フルネームは「ガイシル・ルニコルス・ジュ・ヌベーラ・アリシア」。朗らかで清楚な美少女だが、ガイシルと魔王軍の和平交渉が頓挫しそうになった際には、人質として自ら魔王のもとに輿入れすることを提案するなど肝が据わっており、世間からは魔王軍とヒト族の戦争を停止し、世界に平和をもたらした聖女と見られている。だが、アリシア自身はさらにその先を見越し、この平和を確たるものとして、大陸の要衝にあるガイシルをヒト族のみならず魔王軍も含めた物流の中心とし、さらなる国の発展を目指している。そのため、この政略結婚を成功させようという思いが非常に強いが、純情で天然な魔王が相手だとなかなか思いどおりに物事を進められず、頭を悩ませている。ちなみにそのカリスマ性や政治手腕は、魔王軍のシルバードラゴンやクシュナにも高く評価されている。かつて一度ンヌラバの森でブラックナイトと出会ったことがあり、アリシアもそのことを記憶している。
シルバードラゴン
魔王六将軍の第二将を担う魔物の男性。首の長い細身のドラゴンが二足歩行したような姿をしている。落ち着いた性格の頭脳派で、魔王軍の参謀のような役割を果たしており、魔王軍とヒト族の大国・ガイシルとの停戦会議も担当した。魔王からは、アリシアとの新婚生活についての相談を持ち掛けられることも多い。魔王のことを心から尊敬していると同時に、アリシアの高いカリスマ性や卓越した政治手腕を素直に認め、感心している。また、ブラックナイトがアリシアに横恋慕していることを知っている数少ない人物でもある。基本的には常識人で、どこか天然でピントのずれた魔王と、アリシアに横恋慕するあまり暴走しがちなブラックナイトを相手に、何かと気苦労の絶えないポジションにいる。
クシュナ
魔王の身の回りの世話をする魔族の女性。魔王の命令を忠実に遂行する優秀なメイドでもあり、アリシアがやって来てからは、彼女の世話もするようになった。ショートボブでメイド服を身につけた、ヒト族の女性のような姿をしているが、目が横に四つ並んでおり、ふだんは前髪で目を隠している。非常に落ち着いた性格で、自らの命が危険にさらされても、決してうろたえることはない。ふだんのブラックナイトからは考えられない妙な言動から、彼がアリシアに横恋慕していることは薄々察しており、この一点においてのみ、残念な思いを抱いている。だが、部下にも敬意を払う器の大きさや、魔王を守るという一点におけるプロ意識など、不器用ながらも崇高なふだんのブラックナイトに対しては、強い尊敬の念を抱いている。