ウクライナ侵攻下の現実をリアルに描く
本作は、ロシアによるウクライナ侵攻下のさまざまな出来事を、現地のウクライナ兵士や市民の視点から描いている。物語は、兵士の体験をもとにした「シノビ」、戦争犯罪に巻き込まれた一般女性の体験をもとにした「アリョーナ」、ミサイル爆撃を受けた地域で撮影された写真から着想を得た「マーチャ」の三つのエピソードで構成されている。いずれのエピソードも、現地の人々への綿密な取材に基づいており、戦争の残酷さや、それに翻弄されながらも懸命に生きる人々の姿、そして彼らが抱える深い心の傷が、リアルな筆致と丁寧な心理描写によって綴られている。
ヒーローにあこがれる兵士が目の当たりにした過酷な現実
2022年3月、ハルキウ戦線。ウクライナ軍の一員として従軍するボフダンシノビは、通称「シノビ」と呼ばれている。彼は日本の有名な忍者漫画に登場する、困難な状況にある人々のピンチに駆けつけるヒーローのシノビに強いあこがれを抱いていた。民間人の避難所となっていた郵便局に物資を届けた際、シノビは同じ漫画を愛する避難民の少年と出会う。彼は少年にキャラクターグッズを手渡し、束の間の笑顔を取り戻させる。しかし、シノビがその場を離れた直後、郵便局は敵の無慈悲な爆撃を受け、先ほど言葉を交わしたばかりの少年も帰らぬ人となってしまう。大きなショックを受けながらも、シノビは任務のため、ロシア軍から奪還したハルキウ近郊の村へと向かう。そこで、1台の車から聞こえるか細い赤ん坊の泣き声に気づき、救出しようと近づくが、亡くなった母親に抱かれたその赤ん坊の体には、残酷な罠が仕掛けられていた。
家族を愛する女性に訪れた悲劇
ウクライナのある都市でレストランに勤務するアリョーナは、厨房で学んだウクライナ料理のデルニーを得意とする、家族思いで心優しい女性。穏やかな家族団らんのひとときにも、テレビはロシア軍が国境に集結しているという不穏なニュースを伝えていた。そんな中、アリョーナは母親との会話をきっかけに、ロシア系のボーイフレンドであるミーシャとのデートの約束を交わす。しかし、迎えたデート当日。彼女がお洒落をしてまさに家を出ようとした瞬間、街はロシア軍による突然の爆撃に見舞われる。楽しいはずだった一日は一変し、アリョーナは家族と共に避難を余儀なくされる。モーテルに身を潜めるアリョーナは、侵入してきたロシア兵士たちに連れ去られ、愛する家族の命を盾に脅され、複数の兵士から暴行を受けてしまう。
登場人物・キャラクター
ボフダン シノビ
ウクライナ軍に所属する男性兵士。日本の漫画やアニメといったオタク文化を心から愛し、自らの愛銃にお気に入りのアニメキャラクターのステッカーを貼っている。特に、ある忍者アニメの大ファンで、作中の「誰一人見捨てない」という信条を持つ少年、シノビにあこがれを抱き、その影響を受けて仲間や民間人を守るために戦場で奮闘している。しかし、ハルキウ戦線で避難所が爆撃され壊滅する様子を目の当たりにしたり、手榴弾を隠し持っていた捕虜の敵兵に遭遇したりと、過酷な現実を経験する中で、戦争の残酷さと自身の無力さとのあいだで葛藤を深めていく。
アリョーナ
ウクライナのレストランで働く若い女性。赤茶色のロングヘアで、左目の下に二つのホクロがある。家族には両親と幼い妹のヤナがいる。面倒見がよく家庭的な性格で、母親からは「きっと、いいお母さんになるわ」と褒められている。得意料理は、勤務先のレストランで覚えたウクライナ料理のデルニーで、いつか自分の子供に作ってあげることを夢見ている。また、ボーイフレンドのミーシャのことが気になっている。







