重厚な本格派ミリタリーバトル
本作は『BLACK LAGOON』の作者、広江礼威による広大なクラーフェルト大陸の戦争を描いた架空戦記。文明レベルは近代のヨーロッパに近く、戦場では戦車や戦闘機が戦争の花形として活躍している。戦術や戦略の読み合いによる重厚な戦争劇を描いており、英雄譚(たん)で語られるような華やかさは皆無で、死と硝煙の漂う血生臭いリアルな戦闘が特徴となっている。広江礼威は2010年以降、うつ病を患って漫画家として一線から退いていたが、本作を「描きたい時に描く漫画リハビリ」として位置づけて描き始めたため、当初はゆるいストーリーにするつもりだったが、描きたいものを足しているうちに、これまで描いていた作品の作風を色濃く受けた作品になったと語っている。
箱入り娘と過酷な戦場
主人公のエルミナ・ゲネシェスア・シャウマハは、政治的思惑からお飾りの軍人となった公爵令嬢ながら、過去の英雄にあこがれることをよしとせず、お飾りでないことを証明するため自らの意思で最前線に赴く。しかし現場の兵士からすれば、「新人」「英雄願望」「やる気だけはある」という上官は、自分たちが危険にさらされかねない「最悪の上司」で、「お飾り」の方がマシというのが本音だった。そのため、部下からはエルミナも歓迎されざる存在で、エルミナ自身も最前線で理想とは程遠い悲惨な戦場を目の当たりにして、心が折れかけてしまう。だが、ギリギリのところで踏み止まったエルミナは、最前線で仲間たちを率いて戦場を駆け抜けるのだった。
緻密な戦略と想定外の事態
本作は戦車と戦闘機、鉄と硝煙にまみれた血生臭い戦闘シーンが印象的だが、その裏には緻密に練られた戦略が存在する。主人公のエルミナ・ゲネシェスア・シャウマハは軍人としての経験はないものの、軍学校での成績は優秀で、敵の戦略から思惑を正確に読み取り、それに対応して臨機応変に判断する能力に長(た)けている。しかし、その能力を駆使しても想定外の状況になることは日常茶飯事で、エルミナたちが部下を率いて、その状況を打破していく泥臭い姿が描かれている。血と憎悪のうず巻く戦争はエルミナの理想とは程遠いものだが、それは同時に不屈の闘志の物語でもある。
登場人物・キャラクター
エルミナ・ゲネシェスア・シャウマハ
モルダニア帝国陸軍に所属する女性士官。階級は少佐。赤毛のセミロングヘアで、オーダーメイドの二種軍装を身にまとっている。シャウマハ公爵家の令嬢で、政治的思惑から貴族院筆頭の公爵家が率先して娘を軍人として教育し、祖国に貢献するパフォーマンスのため入隊した。本来は安全な帝都の近衛連隊に編入される予定だったが、過去の英雄である「聖アウグスト・マルセル・ソフィア」へのあこがれから、単なる「お飾り」になるのを嫌い、自ら裏から手を回して最前線に配属されるよう画策した。前線基地にサマードレスを身につけて向かうほどの「箱入り娘」で、前線の兵士たちからは「新人」「やる気だけはある」「英雄願望持ち」など、「最悪の上司」と評された。果たして、初戦で実際に戦場の悲惨さを目の当たりにして心折れかけるも、最悪の状況で兵士たちを指揮して戦果を上げ、正式な軍人となる。お嬢様らしく世間知らずなところがあるが、状況把握能力と判断力に優れている。軍学校での成績も優秀なうえに発想力も柔軟で、必要とあれば定石から離れた策戦を立案している。
ジョシュア・バスカンチェロ
モルダニア帝国陸軍に所属する男性士官。階級は伍長。黒髪と日焼けした肌が特徴の少年で、隊の中では若い方だが古参。エルミナ・ゲネシェスア・シャウマハが初めて基地にやって来た際の案内役を任され、それ以降はなんだかんだ長い付き合いとなる。エルミナからは「当番兵くん」のあだ名で呼ばれている。戦場ではベテランだが、高校を卒業していない低学歴であることにコンプレックスを抱いており、一般常識に疎いところがある。最前線では無能な上官に命令されることはそのまま自分たちの死につながるため、当初はエルミナに対してもいい印象を持っていなかった。しかし、最前線で味方陣地が大打撃を受ける最悪の状況に陥った際、そこで奮闘するエルミナの姿に感化され、彼女と共に戦場を駆け抜けて辛うじて生き残った。