「オメガバース」をテーマにした新たなラブバトル
杉山美和子の『Bite Maker ~王様のΩ~』の続編である本作は、前作同様に「オメガバース」をテーマにしている。この世界には、男女に加えて三つの性別が存在する。一般的な「β」、生まれつき優れた容姿や頭脳、能力を持つ「α」、そして繁殖に特化しαを産むことができる「Ω」の三つの性別により、独自の社会が形成されており、中でもΩは非常に希少とされている。物語の舞台は2200年代の日本の独立地区である金沢で、この地では優秀なαたちが平和を保ってきたが、Ωを巡る争いによってその均衡が崩れ始めてしまう。日本にはいくつかの特区が存在し、和風ファンタジーの世界観の中で、若い男女が繰り広げる華やかで豪華なラブバトルが、少女漫画のような美しいタッチで描かれる。また、登場人物の名前や容姿は、歴史的な武将や十二支の動物をモチーフにしている。
独立地区、金沢を舞台に紡がれる運命の物語
時は22XX年、独立地区、金沢に住む紗瑠とその姉であるひつじのもとに、金沢を支配する権力者で聡明な琥珀家康から婚姻状が届く。希少な「Ω」であるひつじは家康にあこがれを抱いていたが、昔からそのことを快く思っていなかった紗瑠は、病弱なひつじになりすまして琥珀邸へ向かい、家康を見極めることを決意する。そこで紗瑠が出会ったのは、家康を支える「相棒(バディ)」の三成と、金沢を守護する「五大老」と呼ばれる五人の「α」たちだった。この日以来、紗瑠は「平和的な権力争い」と称されるα同士の争いと、壮大な運命に巻き込まれていく。
「Ω」を巡る争いと恋の行方
紗瑠は、ひつじのふりをしながらも、家康の相棒である三成に魅力を感じていた。そんな中、五大老の一人に「Ω」でないことが見抜かれそうになった紗瑠は、五大老の目的が金沢の覇権を握ることであることを理解する。そのためにはΩを娶(めと)ることが不可欠であり、ひつじが複数の「α」たちから嫁候補として狙われている事実を知った紗瑠は激怒し、身勝手なαたちからひつじを守ることを決意する。物語は前作のヒロインであり、新宿特区のΩである豆崎のえるや、新宿の絶対王者である蘇芳信長も参戦することで、さらに緊張感が高まっていく。また、Ωの婿を巡る嫁取り戦争の行方や、出会った瞬間から小虎に惹かれる紗瑠の恋愛模様が見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
野々乃 紗瑠 (ののの さる)
ISHIKAWA金沢独立地区に暮らす女子高校生。希少な性別「Ω」として生まれたひつじという双子の姉がおり、病弱な彼女のことを心配している。18歳の誕生日を迎えたひつじのもとに家康から婚姻状が届いたことをきっかけに、紗瑠自身がひつじになりすまし、家康を見極めるために彼のもとへと向かう。本来は茶髪のショートヘアだが、ひつじに変装する時はロングヘアにしている。華奢でか弱いひつじとは対照的に勝気な性格で、本能的な危機回避能力と優れた運動神経を兼ね備え、まるで野猿のように身軽でパワフルな少女。
小虎 三成 (ことら みつなり)
家康の相棒を務める青年。黄金色の猫毛をふんわりとしたショートヘアに整え、左耳には牙のような耳飾りを付けている。ふだんは虎の面を被り、時おり眼鏡をかけることもある。ひつじに扮した紗瑠が何者かの襲撃を受けた際に、彼女と出会う。紗瑠からは「眩しい光のかたまり」と称されるほどの美しい青年で、温厚な性格ながらも気まぐれで、つかみどころのない一面を持つ。
琥珀 家康 (こはく いえやす)
ISHIKAWA金沢独立地区の絶対的な権力者。生まれつき容姿、頭脳、能力に秀でた特別な遺伝子を持つ「α」で、「神の子」との異名を持つ。前髪が長めの黒髪をショートヘアにしており、理知的で聡明な美青年。卓越したカリスマ性と統治能力を駆使して五大老をまとめ上げ、絶えずα同士の争いが繰り広げられている金沢の均衡を保ってきた。つねに冷静で無表情なことから、家康の真意を読み取ることは難しく、五大老からは「冷酷で残忍、非情な男」と評されている。
その他キーワード
相棒 (ばでぃ)
ISHIKAWA金沢独立地区における特別な主従関係。基本的に「α」一人に対して相棒も一人で、一度相棒関係を結ぶと、その関係を変更することはできない。金沢を守護する五人のαである「五大老」に仕える相棒は、「五奉行」と呼ばれている。
前作
Bite Maker ~王様のΩ~ (ばいとめーかー おうさまのおめが)
『4月の君、スピカ。』ほかで知られる杉山美和子によるオメガバースを題材とした作品。男と女とは別に、α、β、Ωという性が存在する事が判明してから、1世紀が経過した近未来のTOKYOが舞台。10万人に一人... 関連ページ:Bite Maker ~王様のΩ~
書誌情報
Bite Maker AK 4巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2024-02-26発行、 978-4098722419)
第2巻
(2024-02-26発行、 978-4098725588)
第3巻
(2024-08-26発行、 978-4098726943)
第4巻
(2025-03-26発行、 978-4098730445)