概要・あらすじ
奴隷として働かされていた少年カイ・アンバーは、繭蠱の少女マユとの出会いをきっかけに、自分たちの境遇を変えるための冒険へと旅立つ。追手の追撃をかわしながら夢幻島へとたどり着いたカイとマユは、そこで楽園ともいえる平和な生活を目にする。しかしカイは奴隷の仲間たちを放置したまま、自分だけが安穏と暮らすわけにはいかないと、島民にマユを預け、再び島を出立する決意をする。
登場人物・キャラクター
カイ・アンバー (かいあんばー)
黒髪で眼鏡をかけた、利発そうな顔つきをしたエナム人の少年。年齢は13歳。身長151センチ、体重41キロ。マリエール・グランが所長を務める養繭施設で奴隷として働いていたが、マユとともに施設を脱走した。咄嗟の機転で追手を欺いたり、繭蠱の性質を理解した戦術を編み出したりと、頭の回転が速い。手先も器用で、仕事で使っていた糸巻きはもちろんのこと、蟲人が訓練したうえでようやく乗りこなせるような飛行機械も、初見で操作してみせた。
マユ
金髪で大きな瞳をした、神秘的な雰囲気を持つ繭蠱の少女。身長は125センチで、体重26キロ。マリエール・グランが所長を務める養繭施設で、カイ・アンバーに世話をされていた。人間のように自分を大切に扱ってくれるカイに懐いており、ともに施設を脱走した。言語能力に乏しく、カイの名前だけ唯一発声することができる。カイがマリエールに重傷を負わされた際には激昂し、一瞬でマリエールを倒すと、カイの傷を治癒するなど特異な能力の片鱗を見せたが、その詳細は不明。
ディー
逆立った黒髪のエナム人の少年で、カイ・アンバーの友人。年齢は13歳。身長151センチ、体重42キロ。マリエール・グランが所長を務める養繭施設で、カイとともに奴隷として働いていたが、周辺諸国との戦争に備えた徴兵によって少年兵となる。専任教官であるブレンの助力によって隊からの脱走を図るも、バルバロッサ・ソド・グランに看破されて失敗。 身代わりとなって出頭したブレンを、その手で射殺することになる。
マリエール・グラン (まりえーるぐらん)
傷を持つ右目を前髪で隠した、長髪のジェダ人の女性軍人。階級は少佐。バルバロッサ・ソド・グランの娘で、キリア・ロッシュ・グランの姉。年齢は22歳。身長172センチ、体重60キロ。養繭施設の所長を務めていたが、カイ・アンバーとマユが脱走したことで、捜索部隊を指揮することになった。キリアのことを妾腹の子として蔑んでいるが、その底知れぬ迫力に押されることもままある。 なお、少佐でありながら養繭施設の所長という閑職に就いていたのは、軍の女性蔑視的な体質によるもの。
キリア・ロッシュ・グラン (きりあろっしゅぐらん)
猫のような瞳と不敵な笑みが特徴のジェダ人の軍人。階級は少佐。バルバロッサ・ソド・グランの妾の息子で、マリエール・グランの腹違いの弟。年齢は16歳。身長159センチ、体重52キロ。蟲を用いた軍事研究を行う特殊歩兵開発室という部署の室長を務めている。本妻の子でありながら女性であるマリエールと、男性でありながら妾の子である自分という関係から性格が屈折しており、嗜虐的な趣味を持つ。
バルバロッサ・ソド・グラン (ばるばろっさそどぐらん)
豊かなひげと左こめかみにある大きな傷跡が特徴のジェダ人の老人。ジェダ国軍の総帥でもある。マリエール・グランとキリア・ロッシュ・グランの父親。「軍神」と評されるほどの実力と厳格さを持った軍人で、長老と同様に対象の記憶を読み取る能力を持っている。幼き日のマリエールが敵国の捕虜を匿った結果、人質として利用されると、マリエールの右目を迷いなく切りつけることで、状況を打開するなど非情な性格の持ち主。
ジーマ・ダルシアン (じーまだるしあん)
頭部に巻いた布と、クールな目元が特徴のエナム人の青年。蟲人の1人であり、笛を使った蟲の使役とスリンガという投擲武器を得意としている。世界各地の蟲を収集する蟲専門の盗賊で、必要とあらば未開の地や軍事施設にも忍び込む。蟲に関する知識が豊富で、カイ・アンバーに血契について教えたり、蟲を用いた特殊な戦術についての手ほどきを行う。
タイガ・ビル (たいがびる)
革ジャンを着たたくましい体格で、太い眉が特徴的なエナム人の青年。「スティール」と「ダイナ」という甲蟲を使役する蟲人の1人であり、それらを武具のように身につけての肉弾戦を得意とする。世界各地の蟲を収集する蟲専門の盗賊で、必要とあらば未開の地や軍事施設にも忍び込む。マリエール・グランが指揮する追手から、マユと一緒に逃げていたカイ・アンバーを助け、夢幻島へついてくるように誘った。
キティ・ビル (きてぃびる)
長い黒髪を1つにまとめ、垂れた眉をしたエナム人の少女で、タイガ・ビルの妹。年齢は15歳。身長は160センチ、体重49キロ。剣術と料理が得意。タイガが連れて来たカイ・アンバーに一目惚れし、アプローチを繰り返すが、カイがマユばかり気にかけているのでやきもきしている。蟲人の1人であり、「ガルダ」という鳥のような蟲と血契を結んでいたが、火災によって先立たれてしまう。
長老
小さな丸眼鏡をかけた、豊かな眉毛とひげが特徴の老人。夢幻島の長老でもある。夢幻島を訪れた人間が、島に住む資格があるかどうか判断する役目を負っている。その判定基準になるのは対象に触れることで記憶を読み取るという特異な能力で、カイ・アンバーが島を訪れた際にはその境遇に理解を示し、島民になることを許可した。
レイア・ガルバッツア (れいあがるばっつあ)
黒髪を二つ結びにして丸眼鏡をかけた女性で、長老の孫娘。高齢の祖父に代わり、島内の実務的な指揮を執っている。定期的に島の防備に関する会議「守護隊会議」を行い、ジーマ・ダルシアンやタイガ・ビルから意見を募っている。
ララ・ペンドント (ららぺんどんと)
夢幻島に住む巫女。妹のロロ・ペンドントとともに島民からは「サルバドラの巫女」と呼ばれている。年齢は12歳。島の中央にある巨大なハープ状の蟲であるサルバドラをロロと一緒に演奏することで、島の運行から見張り、大気調整といった操縦を可能にする。妹のロロに比べてプライドが高く、巫女としての仕事に責任感を持って従事している。 失踪したマユの捜索をカイ・アンバーに依頼された際には、「男であれば泣かせた女の子の1人くらいは自分で探し出すべき」と断った。
ロロ・ペンドント (ろろぺんどんと)
夢幻島に住む巫女。姉のララ・ペンドントとともに島民からは「サルバドラの巫女」と呼ばれている。年齢は12歳。姉に比べると気弱で引っ込み思案だが、噂話や恋愛話には目がない。高圧的な態度を取りがちなララを窘めることもあり、互いに足りない部分を補い合っている。島の運行から見張り、大気調整といった役割の性質上、島民の言動を逐一把握することができるため、それをネタにしてララとはしゃぐことがある。
バンマ・マドゥラ (ばんままどぅら)
派手な化粧を施した老婆で、夢幻島で暮らす蟲人。年齢は78歳。口は悪いが子供には優しく、戦いとなると先陣を切って飛び出す気骨者。島の守護隊の隊長であり、「サウザーペント」という巨大な海蟲を使役している。島に攻め込んで来たジェダの軍艦にも怯まずに突撃したが、部隊を指揮していたキリア・ロッシュ・グランによって返り討ちにされた。
ミラ・ペント (みらぺんと)
額に血契の刺青を持つ、短い黒髪の女性。夢幻島で暮らす蟲人。バンマ・マドゥラが指揮する島の守備隊に所属しており、温和な性格で誰からも好かれている。年齢は21歳。地中で暮らす「シェルマット」という蟲を使役しており、その戦い方は徹底した専守防衛タイプ。「シェルマット」が吐きだす弾性と粘性に優れた泡を用いて、相手の身動きを封じる立ち回りを得意とする。
カウラ・ディータ (かうらでぃーた)
髙い鼻と浮き出た頬骨をした老人。夢幻島を目指して航海中だったカイ・アンバーらが補給のために立ち寄った港町の町長。友好的な態度でカイたちを迎え入れるが、実はキリア・ロッシュ・グランの指示により、蟲人の失われた技術を用いた流行病の実験場として港町を管理していた。港町の住人は町長以外はすでに死亡しており、蟲によってあたかも生きているかのように操られているだけだったが、カイたちの活躍により呪縛から解き放たれた。
ブレン
眼鏡をかけた、目元にほくろがある柔和な青年。ディーが所属する少年兵団第一班の専任教官。訓練中に班員が疲弊すると、軍部には内緒で訓練内容を変更するなど、少年兵に対して優しい態度で接する。軍人ではあるものの、本当は教師になることが夢だったとディーに語り、少年兵らの脱走を手引きした。脱走を聞きつけて尋問してきたバルバロッサ・ソド・グランを欺くことができず、ディーらを逃がすことには失敗するが、脱走の命令を下したのはあくまで自分であるという態度を貫き、命を落とした。
集団・組織
蟲人 (むしびと)
特殊能力を有する蟲を使役する人々。蟲とともに生まれ、ともに生き、ともに戦い、ともに死ぬというという信条を持ち、その多くが夢幻島で暮らしている。血契という術式で蟲を操り、戦闘や探索、暮らしのいたるところで蟲を用いる。契約の性質上、全員がエナム人である。
場所
夢幻島 (みらーじゅあいらんど)
蟲人たちが多く住んでいる海上の孤島。蟲の力を借りることで海流に乗り、常に場所を変えていることや、周囲に蜃気楼を発生させていることからこの名前で呼ばれている。常に気候の安定した海域を探して移動しているため、島内では小麦などの作物を年に3回も収穫できるようになっている。
その他キーワード
蟲 (むし)
特殊な能力を持つ生物の総称で、その形態、生息域に至るまで千差万別。繭蠱のように意思疎通が可能なほど知性があるタイプもいれば、一般的な虫が大きくなっただけのような単純なタイプも存在する。歴史上、エナム人との関りが特に深く、エナム人だけが血契という特殊な使役方法で蟲を操れる。
エナム人 (えなむじん)
繭蠱を用いた養繭や、放牧を文化としている種族。その文化の特性上、他の人種に比べて蟲の扱い方に詳しい。30年前、その養繭が伝染病の原因となるという理由で、ジェダ人に自治区域を襲撃され、戦争状態となったが敗北した。それ以来、ジェダ人から奴隷のような扱いを受けており、カイ・アンバーやディーも奴隷として養繭に携わっていた。
ジェダ人 (じぇだじん)
エナム人やルドナ人を奴隷として従えている国家「ジェダ」を構成する人種。自分たち以外の種族を徹底して見下しており、固有の言語を使用することも禁止した。軍部が強大な権力を握っており、その頂点に立っているのがバルバロッサ・ソド・グランである。
ルドナ人 (るどなじん)
生まれつき強い筋力と骨格を有する運動能力に長けた部族で、南方の少数民族。男子は5歳になると「ルド」と呼ばれる植物の木の実で肌を赤く染める文化がある。現在はエナム人と同様にジェダ人に隷属しているが、かつてはジェダの軍隊を壊滅させたこともあり、一部のジェダ兵からは「赤い悪魔」と呼ばれ恐れられている。
繭蠱 (まゆこ)
触角が生えた人型の種族で、蟲の一種。蚕のように糸を出す「排糸」という習性を持つ。繭蠱の糸で編まれた布は貴金属並みの高値で取引きされるほど美しく、糸を溶かして作られた板は装甲車両に用いられるほどの硬度を誇る。排糸は本来は繭蠱のメスがオスに接触した時に起こる生理現象だが、例外としてエナム人の男子に対しても同様の反応を示すため、その養繭には主にエナム人が従事する。 主食は「クカ」という植物の葉っぱで、1日に体重の約2倍を摂取する。感情が高ぶると防衛本能により凶暴化するため、繭蠱を泣かせることは厳禁とされている。
血契 (けっけい)
エナム人の蟲人だけが蟲たちと結ぶことができる契約。蟲の体液を用いて身体に刺青を入れることで完了し、その蟲との主従関係を結ぶことができる。この契約はどちらかが死ぬまで消えず、血契を結んだ者は「血契者(オーナー)」と呼ばれる。契約を結んだ蟲は自由意志を失い、血契者のためであれば死をもいとわなくなるため、カイ・アンバーはマユと契約を結ぶことを躊躇っている。