あらすじ
第1巻
将来を嘱望された期待の少年監督・野永大将は、草サッカー大会で臨時の指揮を執っていた際、同じ大会にいた、同じ位置からのロングシュートだけで5得点を決めた謎の少年に注目する。後日、監督としての手腕を期待され、羽石高校へと入学した大将は、いとこの星野叶葉から、草サッカーで活躍していたあの少年が同じ学校に入学した事を知らされ、早速コンタクトを取る。しかし、坂道勝歩と名乗るその少年は、近い将来のブラジル行きを夢見ており、サッカー部への入部を固辞。自分の目指すサッカーの完成に、勝歩の個人能力が必要だと感じていた大将は、彼を実戦形式の入部試験に誘い、ブラジル行きを翻意させようと画策する。勝歩は、試合の中で得意のロングシュートと、それをわざと失敗する事で敵の心理を揺さぶる、優れたマリーシアを発揮する。その意図を100%正確に見抜いた大将の眼力に感嘆した勝歩は、ブラジル行きをやめ、サッカー部へ入る事を決意する。自らの眼鏡にかなう多くの有望な部員を集めた大将は、県内屈指のサッカー強豪校である西怜高校と練習試合を組み、現在のチームの実力を計ろうとするのだった。
第2巻
野永大将率いる羽石高校サッカー部は、1年生中心でオーダーを組んだ西怜高校サッカー部との練習試合に挑んだ。しかし、開始早々に失点したうえ、相手のフィジカルにも圧倒され、大苦戦を強いられてしまう。それでも、日々の練習で培った連携と観察眼で徐々に試合の流れを引き寄せた羽石高校は、坂道勝歩の活躍もあり、前半で逆転に成功する。しかし、後半に主力の2年生と3年生を出場させた西怜高校に再逆転を許し、そのまま敗れてしまう。レベルアップの必要性を感じ取った羽石高校一行は、サッカー部をずっと休部していた天才サッカー選手である、2年生の大河原南生の的確なアドバイスを受け、少しずつ成長を遂げていく。一方で、一人ですべてを背負い込もうとする大将は、厳格すぎる態度を南生に咎められた事で指導に迷いが生じ、悩んでしまう。しかし、直後に起こった不良生徒とのいざこざを、自らのまっすぐな姿勢で納め切った大将は、再び自信を取り戻し、監督としての責務を果たそうとする。一つのチームとして大きな成長を遂げた羽石高校サッカー部はインターハイ予選を勝ち進み、全国出場を賭けた西怜高校との決勝戦に臨むのだった。
登場人物・キャラクター
野永 大将 (のなが おおまさ)
羽石高校のサッカー部で監督を務めている、眼光の鋭い男子高校生。中学生の頃から複数の中学校を渡り歩いてサッカー部を指揮し、すべてのチームを全国大会へと導いた天才指導者。その実績を買われ、羽石高校のサッカー部の監督としてスカウトされた。人並み以上に頭が良いうえ、他人の意図を見抜く能力に長けており、試合中はフィールドプレイヤーに的確な指示を出して、ゲームを組み立てることができる才能の持ち主。 草サッカー大会で臨時の指揮を執っている際に見かけた、ロングシュートのみで5得点を挙げるという並外れたセンスを持つ坂道勝歩が、同じ羽石高校に入学した。それを知ると、内側からチームを動かせる「個の力」を獲得するため、ブラジル留学を希望する彼を説得して、サッカー部へと入部させていた。 また、サッカー選手としての技量は高く、さらに格闘技も非常に強いが、内臓に疾患を抱えており、長時間の運動はできない。表面的にはクールな姿勢を貫いている。しかし、中学生の頃に完敗を喫した西怜中学に雪辱を晴らすため、あえて西怜高校と同じ学区にあった羽石高校へと入学するなど、内面はかなりの熱血漢。 星野叶葉からは「ひーくん」というあだ名で呼ばれていた。
坂道 勝歩 (さかみち かっぽ)
羽石高校のサッカー部に所属する男子高校生。左の側頭部にミサンガをつけているのが特徴。自由で楽しいサッカーを標榜する孤高のプレイヤーで、類まれなるセンスの持ち主。足元の技術のみならず、相手の心理をコントロールする能力にも長けている。精度の高いロングシュートで対戦相手の意識を釘付けにしてから、その裏をかいてゴールを決めるなど、プレイの引き出しが多い天才。 反面、組織を無視して自分勝手なプレイをしているように見えてしまうので、どのチームでも孤立無援になる、という大きな悩みを抱えていた。そのため、ブラジルへの留学を夢にしており、羽石高校サッカー部への入部は考えていなかった。ところが、練習試合で自身のプレイの意図を正確に理解してくれた野永大将の才能に感嘆し、彼と一緒に全国を目指すことになった。 実家が貧しく、留学費用を稼ぐために、1ゴール500円で草サッカーチームの助っ人を請け負ったり、商店街でボールを使った大道芸人の真似事をしていたこともあった。
岡 弘丸 (おか ひろまる)
羽石高校のサッカー部に所属する男子高校生。タラコ唇をした少年で、チームでも随一の決定力の高さを誇るエースストライカー。ピッチ上では闘志満々な、かなりの自信家。奔放なプレイを繰り返し、自分よりも目立つ坂道勝歩を最初は疎んでいたが、楽しんでサッカーをやる勝歩の姿勢に、徐々に感化されていく。無類の負けず嫌い。強豪である西怜高校の黒木陸とのマッチアップで、何度散々にやられても、しつこく挑み続けるガッツを見せていた。
柏木 知己 (かしわぎ ともき)
羽石高校のサッカー部に所属する男子高校生。非常におとなしく、サッカーの技術も拙い平凡な選手。練習試合でもマッチアップに負け続け、自身のチームでの存在意義を見失いかけていた。そこへ、坂道勝歩の、楽しんでサッカーをするという姿勢を見て、自分なりの居場所を見つけることになった。サッカーに対する情熱はチームでも一番で、その熱意を野永大将に買われてレギュラー入りを果たす。
安藤 竜太 (あんどう りゅうた)
羽石高校のサッカー部に所属する男子高校生。物静かな雰囲気をした長髪の少年で、中学校時代は「天才パサー」と呼ばれていた有名プレイヤーだった。やたらと自分に陶酔するナルシストな言動が特徴。サッカーの実力は確かで、視野が非常に広く、状況を見極める眼力も優れている。近くに女性がいるとモチベーションが大幅にアップする、根が単純なタイプでもある。
口竹 達男 (くちだけ たつお)
羽石高校のサッカー部に所属する男子高校生。とても口うるさい少年で、他の部員の落ち度を見つけては、ひたすら叱責する厄介なタイプ。そのやかましさは、坂道勝歩が一時チームを離れるきっかけを作ってしまうほど。第一志望校に落ちた腹いせと、友人の不良の依頼を受けたことで、悪意を持ってサッカー部を潰そうと画策していた。しかし、野永大将の、純粋にサッカーを愛する姿勢に心を打たれ、不良に反旗を翻して、サッカー部員としての本分を全うしようとする。
大河原 南生 (おおかわら なお)
羽石高校のサッカー部に所属する男子高校生。もともとは西怜中学の最多得点ホルダーだった天才少年。羽石高校入学後にサッカー部に入部したものの、ずっと休部をしていた。野永大将率いるサッカー部が、西怜高校との練習試合で健闘したのを目の当たりにして、再びサッカー部へと戻ることになる。その際、力を入れすぎるあまり、周りの細かな状況が見えなくなっていた大将に対し、「監督失格だね!!」という辛らつなアドバイスをしていた。 一見すると柔和な優男だが、サッカーの技術は超一流で、身体も非常に強い。
大泉 晴旦 (おおいずみ わたる)
羽石高校に通っている男子高校生。中学時代は喧嘩でならしたボクサー。サッカー部を潰そうとしていた不良の一群を、こともなげに叩きのめすなど、その腕前はかなりのもの。過去に寺島大和に世話になっており、借りを返すために、サッカー部への入学を希望していた。
寺島 大和 (てらしま やまと)
羽石高校に通っている男子高校生。本来はサッカー部のキャプテンで、高い技術力を持つゴールキーパー。過去に厳しい練習を部員に課していたが、西怜高校に敗れて部員が散逸したため、サッカー部を廃部寸前にまで追い込んでしまった。そのことに責任を感じて長らく休部していたが、大河原南生の説得に応じ、サッカー部へと舞い戻る。
星野 叶葉 (ほしの かなは)
羽石高校の新聞部に所属する、ロングヘアの女子高校生。野永大将の従姉妹。大将の影の努力と苦労を知っている唯一の人物。スポーツジャーナリストを志望しており、大将が日本代表になった暁には、自分がその専属記者になることを夢見ている。大将からは、「ひーくん」と呼ぶことを嫌がられていた。
真島 壮心
サッカーの強豪校、西怜高校のサッカー部に所属する男子高校生。西怜中学時代は、不動のキャプテンとしてチームを引っ張ったカリスマ選手。野永大将には、中学時代の全国大会で完勝しており、最近になってマスコミにもてはやされる存在となった大将を快く思っていない。そのため、羽石高校との練習試合が決まった際に大将のもとに出向き、練習試合を取り消すように迫っていた。
サリー
サッカーの強豪校、西怜高校のサッカー部に所属するハーフの男子高校生。鋭い目つきをした大柄な選手で、カッとなりやすい性格。県内最多得点の記録を持つ優れたフォワードだが、一度キレると、相手選手にケガをさせることも厭わないため、「壊し屋」の異名を持つ。チームメイト以外に名前を呼ばれることを嫌悪しており、坂道勝歩から「サリーちゃん」呼ばわりされた時は、一瞬で激怒していた。
黒木 陸 (くろき あつし)
サッカーの強豪校、西怜高校のサッカー部に所属する男子高校生。筋骨隆々のディフェンダーで、戯れに行ったマッチアップで岡弘丸に何度も勝利。彼の自信を失いかけさせたが、坂道勝歩の頭脳プレイの前に出し抜かれ、簡単にゴールを決められてしまう。
その他キーワード
マリーシア
すべてのプレイに意図を持った企みを仕込み、試合の流れすらコントロールする「勝つための知性」。坂道勝歩は、すべてのプレイでマリーシアを駆使し、対戦相手を鮮やかに出し抜いていた。