Heaven?

Heaven?

フレンチレストランで働く伊賀は仕事をそつなくこなすが愛想は悪い。個性的なオーナーやスタッフ、客が起こすちょっとした事件に巻き込まれる伊賀の受難な日々をコミカルに描く。2019年実写ドラマ化。

正式名称
Heaven?
ふりがな
へぶん
作者
ジャンル
ギャグ・コメディ
レーベル
ビッグ コミックス(小学館)
巻数
既刊6巻
関連商品
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あらすじ

ロワン ディシー開店準備

とあるフレンチレストランで働く伊賀観は、仕事をそつなくこなすが愛想が悪いことで、客や上司としょっちゅう揉め事を繰り返していた。笑うことができないという、接客業としては致命的な欠点と数々の接客トラブルにより、とうとうレストランを辞めさせられた観は、転職先で悩んでいた際に黒須仮名子と出会う。仮名子は新たにフレンチレストランの開店を目指しており、その従業員を求めてさまざまな人物をスカウトしていたのだ。後日、観が仮名子に渡された地図どおりに開店前のレストラン「ロワン ディシー」を訪ねてみると、そこには彼女が誘ったスタッフが集まっていたが、シェフの小澤を除いて素人ばかりなうえに、唯一経験者の小澤は勤める店がことごとく潰れてしまったという不吉な伝説の持ち主だった。仮名子はこの場で理想のレストランを作りたいと豪語するが、肝心の店は墓場の中で、葬儀場のやすらぎ会館のとなりにあり、立地のいい場所とはとても思えない、問題ある店だった。オーナーの仮名子も杜撰(ずさん)でいい加減なうえに、サービススタッフの候補者も観以外は未経験者ばかりで不安が募る中、彼らは数日後の開店日に向けて準備を始める。しかし、立地が最悪なうえに必要な食器や食材の準備も不十分で、トイレすらできていない状態で、開店が間に合うとはとても思えない状態だった。観はさまざまな仕事をこなしながら、素人の山縣重臣川合太一に接客指導を始める。課題の数々を乗り越え、なんとか開店の準備を整えられた観たちだったが、当日になって新たな問題が発覚する。

仮名子の賄い作り

食中毒が起こりやすい夏を迎えたロワン ディシーの面々は、ある日の昼下がりに昼食の賄いとしてそうめんを食べていた。しかし、そこへカツ丼を持ってやって来た黒須仮名子が、一流を目指すレストランにしては賄いに変化がなさすぎると不満を漏らす。それを聞いてカチンときた小澤は、そこまで言うならオーナーが作るべきだと、仮名子を挑発する。ものぐさな仮名子に賄いを作れるわけがないと思っていた伊賀観たちの予想とは裏腹に、仮名子は自信満々で賄い作りを引き受ける。こうしてスタッフ八人分の賄いを1週間担当することになった仮名子だったが、観たちはいつもと同様にすぐに投げ出すだろうと考えていた。だが仮名子は意外とマメに、全員の賄いを作り続ける。毎日の豪華なメニューに不思議に思う小澤たちだったが、仮名子は何か月も前から冷凍していたカボチャなど、賞味期限ギリギリの食品を流用していたことが判明。そして5日経ったある日の賄いでは、仮名子が出した刺身らしき料理を食べた従業員たちに、食中毒のような症状が出始める。

仮名子の秘密

ある日、ロワン ディシーに強面(こわもて)の男性二人がやって来る。その二人は黒須仮名子に何かの期限について詰め寄り、明日まで用意しろと無理やり約束をして帰って行った。様子を見ていた堤計太郎は、仮名子が借金取りに追われているのではないかと推測。さらには、金策に困った仮名子が従業員の誰かを解雇するつもりなのではと、計太郎たちは不安を募らせていた。同時に伊賀観川合太一は、仮名子は一体何者なのかと疑問に思い始める。それを知っているのは、ロワン ディシーの開店前から仮名子を知る山縣重臣だけだった。

無償の奉仕

売上げはまだまだながら、ロワン ディシーは順調に営業を続けていた。お客様の要望にはなんでもお応えしたい、お客様を満足させたいという思いを胸に、日々の業務に励む伊賀観たちは、レストランの重大な要素であり本質でもある「ホスピタリティ」にこだわっていた。黒須仮名子の横槍にもめげず、訪れる客のさまざまな要望に応えようと奮闘する観たちだったが、その努力にも次第に限界が見え始める。あらゆる要望に応えようと必死になり、本来の業務がこなせなくなっている本末転倒な従業員たちを見かねた仮名子は、疲弊した彼らにある指摘をする。

レストラン結婚式

ロワン ディシーで、あるカップルが人前式の結婚式を挙げることになった。結婚式の対応が初めてだった伊賀観たちだったが、式は順調に進行し、滞りなく指輪交換まで進める。だが、直前になって肝心の指輪が見つからないというハプニングが発生。なぜか新婦側の指輪だけがなくなっていることに気づいた観たちは必死に指輪を捜し、黒須仮名子が会場に立って時間稼ぎをすることになる。それでもごまかすのが難しくなった観たちは新郎新婦とその両親を呼び、正直に事情を話すが、実はこの結婚式では新郎が後ろ暗い事情を抱えていた。

贅沢な予約

黒須仮名子の自由気ままでわがまま放題な経営のもと、泣く泣く働いていたロワン ディシーの従業員たち。彼らは過酷な状況でレストランとしての本当のサービスを提供しようと、工夫を凝らしながら日々の業務に励んでいた。中でもシェフの小澤は、高価な食材を使いたいという欲望を我慢しつつ、予算の都合で原価率の低いメニューを作り続ける日々を送っていた。そんなある日、大企業のオカノから料理のみの予算で一人当たり5万円という、贅沢な会食の予約が舞い込んでくる。大喜びでメニューを考え始める小澤だったが、不遇時代の長さのためか原価率の高い贅沢なメニューが思い浮かばず、かえっていつも以上に苦戦してしまう。原価率と睨み合う小澤を見た仮名子はまたしても横槍を入れてくるが、彼は珍しく彼女の意見に反発せず、高級食材を贅沢に使ってもいいという解放感でいつもの調子を取り戻していく。

幸せな1日

毎日のようにロワン ディシーに入り浸ってはわがまま言い放題の黒須仮名子が、初めて「明日は店に来ない」と宣言した。単に編集者と打ち合わせを兼ねた外食に行くだけなのだが、仮名子からさんざん迷惑を被って困っていた従業員たちは大喜び。翌日、観たちは開店準備から仮名子に邪魔をされずに済むという精神的な開放感を味わいながら、今日だけの幸せを嚙み締めていた。仮名子不在のため、誰もが彼女に振り回されることなく仕事に集中でき、いつもよりもスムーズに業務をこなしていく。さらには、伊賀観が気になっていた食材が無料で手に入るなど、彼らにとってラッキーな出来事が次々と起こる。一方、食事の約束のために編集者のもとに向かっていた仮名子は、打ち合わせの予定を勘違いしていたことを知らされ、一人で途方に暮れていた。今日は行かないと宣言していた仮名子はロワン ディシーにも行くことができず、一人で牡蠣(かき)とエゾシカ料理を求めて街をさまよう。だが、行く先々で不運な出来事が続いたうえに雨でずぶ濡れになってしまい、不満を募らせる仮名子は次第に不機嫌になっていく。不幸の連続にとうとう耐えられなくなった仮名子はロワン ディシーに行こうとするが、店に向かって複数のタクシーが走っていた。不思議に思った仮名子は、急いでタクシーを追ってロワン ディシーへと向かう。

メディアミックス

TVドラマ

本作『Heaven?』のTVドラマ版『Heaven? ~ご苦楽レストラン~』が、2019年7月9日から9月10日にかけてTBS系「火曜ドラマ」で放送された。脚本は吉田恵里香が務めている。キャストは伊賀観を福士蒼汰、黒須仮名子を石原さとみが演じている。

登場人物・キャラクター

伊賀 観 (いが かん)

ロワン ディシーのシェフドラン(エリア長)を務める青年。眼鏡をかけている。冷静で思いやりもある優しい性格だが感情表現に乏しく、笑うことがができないという、接客業としては致命的な欠点を抱えている。元は別のフレンチレストランに勤めていたが、営業スマイルができず融通も利かない堅物な性格が災いし、接客トラブルを繰り返して辞めさせられてしまった。理不尽な客への毅然とした態度とフレンチ経験を買われ、黒須仮名子からロワン ディシーの従業員にスカウトされる。ロワン ディシーのサービス陣では唯一のフレンチ経験者であるものの、経験はまだ3年程度と浅い。開店前からフレンチ素人の山縣重臣をはじめとするサービススタッフに、接客や用語の指導を行なった。本格的に営業が始まったあとも、仮名子をはじめとするロワン ディシーの個性的な面々の暴走を軌道修正するクッション係やまとめ役を担うなど、苦労が絶えない。笑えないという欠点を除けば勤務態度はまじめで日々の業務も優秀にこなし、スタッフの失敗も的確にフォローできるため、仮名子やほかのスタッフからの信頼も厚い。仮名子に負けず劣らず強引な伊賀の母に振り回された経験から、自分の境遇や可能性を諦観しがちな傾向にある。愛想はよくないが誰に対しても滅多に怒ることはなく、ピンチの時には超人的な感覚を発揮する。昔、大学受験のために上京するも、いっしょに来ていた母親のせいで会場に間に合わなかったことから、試験にトラウマを抱えている。のちに重臣に勧められ、受験のトラウマを乗り越えるために、ソムリエ資格の試験を堤計太郎といっしょに受ける。老齢者、とりわけおじいさんに好かれる傾向にあり、初対面のおじいさんにも気に入られることが多い。幼少期の将来の夢は猛獣使いになること。長崎県出身で、両親は長崎県在住。

黒須 仮名子 (くろす かなこ)

ロワン ディシーのオーナーを務める女性。ロワン ディシーを開店するために伊賀観たちをスカウトした。かなりの美食家で、非常に食い意地が張っている。基本的には他者の追随を許さぬほどのワンマン気質で、素人同然の経営理論と素人離れした謎の自信の持ち主。精神的にも体力的にもかなりの強さを兼ね備えており、迷いがなくつねに前向きでマイペース。わがままな変わり者だが、裏表がなく誰に対しても分け隔てなく接する。たまに物事の本質を突いた発言をするが、大抵はその場の思いつきであるためトラブルを招きやすく周囲を振り回しがちだが、最終的にはそれがいい結果を生むことがある。文芸界に広い交友関係を持っているが、経歴はいっさい謎で詳しい素性は不明。実は三流のミステリー作家でもあり、過去に一作だけヒットしたために小金と文芸界の人脈を持つ。それをもとにレストランオーナーを夢見るようになり、自宅から近く、執筆からの逃避先でもあった場所にロワン ディシーを開いた。自分の店を繁盛させて稼ぎたいというよりは、心ゆくままに酒と豪華な食事を楽しみたいという己の欲求を叶えるためだけに経営を続けている。そのため、厨房で料理のつまみ食いは当たり前で、毎日のように客席に座って客に紛れて自由気ままに食事をしたり、従業員の仕事に横槍を入れたりしている。適当にしゃべっているように見えるが、一つ一つの言葉が裏表のない本心であるため、観たちの心にやけに響くことがある。ピンチの時にはハッタリを強引に押し通して相手を論破するのも得意で、なんだかんだで観たちから頼りにされている。息子を連れ戻しに来た伊賀の母とは観を巡って争ったことがあり仲が悪いが、性格は似た者同士。実は子供嫌いで、客であってもロワン ディシーに来た子供はまったく歓迎しない。

山縣 重臣 (やまがた しげおみ)

ロワン ディシーのソムリエを務める老齢な男性。定年退職した元銀行員で、眼鏡をかけている。多数の資格を持っているが、フレンチの経験はない。おっとりした性格ながら、自分が老人であることを利用して人を丸め込もうとするなど、老獪(ろうかい)かつお茶目なところがある。まだ銀行員をしていた頃に黒須仮名子と職場で出会っており、彼女のミステリー小説のネタとして銀行強盗のアイディアを相談されていた。このためほかの従業員とは異なり、仮名子の正体がミステリー小説家であることを最初から知っていた。当初は仮名子に物申すことができる数少ない従業員として一目置かれていたが、徐々にその役割も伊賀観に取って代わられる。幼少期は神童と褒め称えられるほどに優秀で、東京大学を卒業した超エリート。卒業後に就職した銀行では出世街道をひた走っていたが、趣味の資格取得に没頭するあまり仕事が疎(おろそ)かになり、同僚や上司から嫌われる遠因となっていた。次第に出世から遠のいていき、ついには窓際族に追いやられてしまった過去を持つ。これらの経緯から資格取得の趣味は捨てておらず、ソムリエ資格に必要な飲食店勤務年数を得るためにロワン ディシーに勤務し、毎週日曜日にはさまざまな資格の試験を受けに行っている。フレンチの知識は持たないものの、元は営業畑であったため、嫌味な客をあしらうのが得意。

堤 計太郎 (つつみ けいたろう)

ロワン ディシーの店長と経理を担当する男性。前髪をアップにした短髪で長身。スケールの小さな倹約家で、金の使い方には非常にうるさい。元は牛丼屋の店長を5年務めていたが、賄いの牛丼を食べ続けるのに飽きて転職しようとしていた際に、黒須仮名子にスカウトされる。飲食店の知識は豊富だが、フレンチの経験はいっさいない。物事の換算は牛丼が基準となっており、感覚はもっとも庶民的。優れた企画力や経営力でロワン ディシーの営業を支える縁の下の力持ち的な存在だが、店長らしかぬ肝の小ささで予期せぬトラブルが起こるたびにパニックになり、困った時はいつも伊賀観に頼っている。金勘定と節約と企画は得意だが、その場の思いつきで発言する仮名子に振り回され、店の運営に悪戦苦闘している。このため、仮名子とは経営方針や企画を巡ってしょっちゅう言い争いをしたり、揉め事になったりしている。店長を務めていた牛丼屋の従業員とは現在も仲が良好で、あくまで賄いに飽きていただけで牛丼屋の仕事は気に入っていた。このため一度は、前の同僚たちに誘われて牛丼屋に戻ろうとしたが、なんだかんだでロワン ディシーに戻って店長を続けている。のちに山縣重臣に勧められ、観といっしょにソムリエ資格の試験を受けたが、第一次試験で不合格に終わった。

川合 太一 (かわい たいち)

ロワン ディシーのコミドラン(サービス見習い)を務める青年。少々そそっかしいがいつも明るく屈託のない性格で、無邪気な笑顔で多くの客を和ませている。元は美容師見習いで、フレンチどころか飲食店の勤務経験がいっさいない。美容室でシャンプーをすることに飽きて転職を決意し、明るさと笑顔を買われて黒須仮名子にスカウトされた。天性の無邪気さと甘え上手で、多くの女性客に慕われており、女性ファンからプレゼントやチップをもらっている。いっしょに仕事をしている伊賀観のことを慕っている。サービススタッフの中ではもっとも流行に敏感で愛嬌はあるものの、フレンチ素人なうえに物覚えが非常に悪く仕事もいい加減で、なかなか戦力として認められていない。失敗を悪びれもせずに反省する様子もないが、裏表がなくなぜか憎めないところがあるため、従業員からも客からも天然キャラとして愛されている。かなり子供っぽいところがあり、トレーディングカードを集めては店に隠しているが、どこに隠したかはすぐ忘れてしまう。さらには店先にビワや栗を植えるなど、小動物のような行動を取っている。霊感が強く、店の中をさまよっている幽霊を見つけると、水の入ったコップをお供えしている。ほかにも何度か幽霊を見ているが、実はすべての霊が見えるわけではなく、なんとなく波長の合う霊しか見えていない。遅刻の多さや能力の低さを仮名子たちに問題視され、一度は峰と入れ替わりにクビになりかけたことがある。

小澤 (おざわ)

ロワン ディシーのシェフを務める中年男性。かつて三つ星レストランに勤めていたこともある一流の天才料理人だが、人に言えないある秘密を抱えている。ロワン ディシーの中では数少ないフレンチ経験者で、確かな料理の腕とフレンチ知識も豊富に持っている。だがその一方で、勤めた店が次々と潰れてしまったという悪運の持ち主でもあり、7回も閉店を経験している。このため「潰れる」という言葉がトラウマになっている。盗難被害に遭った店が潰れたために途方に暮れていたところで、豊富な経験と確かな腕を買われて黒須仮名子にスカウトされる。ロワン ディシーの厨房は、いっしょに付いて来た小澤の助手と共に切り盛りしている。おいしい料理を心ゆくまで食べたいという仮名子の願望を叶えるためにスカウトされたシェフでもあるが、いざ営業が始まるとメニューや予算のことで悩むことが多く、思い付きで行動したり勝手につまみ食いをしたりする仮名子とは衝突しがち。心配性なところがあり、弱気になると料理の塩味が薄くなってしまうという悪癖を持つ。また不遇時代を長く経験していたことから、予算の高い豪華な予約が入っても原価率ばかり気にしてしまい、高級食材を贅沢に使えるメニューを考えることができない。

(すずき)

ロワン ディシーの近くにある「鱸石材店」の店主を務める中年男性。眼鏡をかけたワイン好きのおじさんで、初対面の相手にも親切に接する。少々気が弱い性格で、人の頼みを断れないお人好しな一面がある。墓石も扱っていることもあり、やすらぎ会館近くの墓地で仕事をすることも多い。家族は妻と小学生の娘と息子がいる。あらゆるモノを石で作るのが得意で、鱸石材店では珍しい形の庭石・墓石のほか、石の菓子鉢や灰皿まで幅広く扱っている。黒須仮名子にスカウトされた伊賀観たちが初めて訪れた時に、道に迷っていた彼らを店まで案内した。仮名子の発注を受けてロワン ディシーの看板を制作し、オープニングパーティーにも招待された。これ以来、ロワン ディシーの常連客となり、いつも一人で来店しては料理とワインを楽しんでいる。なぜか仮名子のとなりの席になることが多く、彼女のワインの好みもいつしか覚えてしまう。仮名子に振り回されたり話し相手にさせられながらも、懲りることなく毎日のように来店しているが、彼女のとなりに座る時はいつもビクビクしている。場所がわかりづらいロワン ディシーにたどり着けない客を見かけては、よく道案内をしている。

伊賀の母 (いがのはは)

伊賀観の母親。伊賀の父と共に長崎県に住んでいる。息子の観とは正反対にかなり強引な性格の中年女性で、性格は黒須仮名子とよく似ている。昔から自己中心的で遠慮がなく、面倒なことはすべて観や夫に押し付けてきた。観の大学受験では、彼にやんわり断られたにもかかわらずいっしょに上京した。試験当日は観の受験票を気づかずにバッグに入れたままでディズニーランドに行ってしまったため、観が試験会場に間に合わず、受験失敗につながってしまう。これらのトラウマから、観からは避けられており、再び上京して来るのを恐れられている。観がロワン ディシーに勤めるようになってからはしばらく会っていなかったが、彼がいない生活を不便に思うようになり、長崎に連れ戻そうと東京にやって来た。この際に仮名子と観を巡って争いになり、それぞれの都合で観を自分の側に置くために必死になって争奪戦を繰り広げた。その後もたびたび観を巡って、仮名子と言い争いになっている。のちに、夫の転勤の都合でジンバブエに引っ越すことになる。

伊賀の父 (いがのちち)

伊賀の父親。長崎県在住。自己中心的な伊賀の母を上手になだめる技術をもつ。存在感は薄い。

根本 (ねもと)

河音公論の編集者で、黒須担当。見た目はガラの悪いおじさん。黒須が締切を守らないので、いつも振り回されている。

小澤の助手 (おざわのじょしゅ)

小澤と共に「ロワン ディシー」の厨房を担当している二人の助手。二人ともにコック見習いの青年で、あこがれの小澤を慕って、「ロワン ディシー」の従業員となった。どんなに忙しいときでも小澤のことを支えているが、彼といっしょに黒須仮名子のわがままに振り回されることが多い。また、仮名子と衝突しがちな小澤のことをいつもかばい、時には彼の気持ちを代弁している。

中 聖人 (なか まさと)

「ロワン ディシー」の経営コンサルタントとしてやって来た老齢な男性。つねにクールで糸目が特徴。黒須仮名子の自由奔放な経営スタイルに悩まされる税理士から面談を依頼され、食事も兼ねて「ロワン ディシー」に来店する。コンサルタントとしてはベテランで、コンサルタントが憎まれ役になりがちなのをよく理解したうえで、他人に指図されるのを嫌う仮名子の不機嫌な態度にも淡々と対応する。瞬時に「ロワン ディシー「の問題点を解析し、売り込みの対象やなくすべきメニューなど的確なアドバイスをするが、ほとんど仮名子に断られる。それでも冷静に反論するが、仮名子の強引さに言いくるめられてしまい、「ロワン ディシー」がコンサルタントにとって危ない場所だと胸に刻みながら帰って行った。

伊賀の祖父 (いがのそふ)

伊賀観の母方の祖父。佐世保の小さな造船ドッグの会社を経営していた。旧日本軍の軍艦をタンカーに改造する事業を手掛けていたが吸収合併されてしまい、その後は繁栄することないまま亡くなった。黒ぶちの眼鏡を掛けた偏屈な性格で、どこか観と似たところがある。「ロワン ディシー」の周囲で多くの人が花見をしていた金曜日の夜、幽霊となって桜の木の下に現れる。客に仕出しを届けに回っていた観としばらく会話したあと、姿を消した。

和田 英代 (わだ ひでよ)

黒須仮名子の知り合いで、女性エッセイスト。辛口のグルメレポートが人気となっている。仮名子に負けず劣らずの自由人で、時折「ロワン ディシー」に波風を立てている。なかなか客に恵まれない「ロワン ディシー」の注目を集めるべく、仮名子の依頼で全国誌にレポート記事を書いた。

山田 泰三 (やまだ たいぞう)

二人の娘と共に「ロワン ディシー」に来店した客で、黒須仮名子の知り合いの中年男性。妻とはすでに離婚している。大好物はエビで、仮名子からは勝手に「海老蔵」のあだ名を付けられていた。同じ日にほかの客の傘をまちがえて持って帰ってしまったが、酔っていたために気づかなかった。店側は電話番号がわからなくてに連絡を取れずにいたが、数日後には自分の傘を取り戻すために、自ら「ロワン ディシー」を訪れる。もとは「ロワン ディシー」の開店日に仮名子から招待されていた客の一人だったが、仕事で参加できなかった。職業は作家で、電話が大嫌い。締め切り間際になると編集者から逃げることでも知られている。

相田 (あいだ)

やすらぎ会館の管理人を務める老齢な男性。目が細くクールに見えて、仕事熱心でまじめな性格の癒し系。最近やすらぎ会館の利用者が減っていることに悩んでいる。あくまで建物を葬儀会社に貸しているだけで葬儀中は事務室にこもっているが、利用者にはよけいなことに気を取られずに故人を偲んでほしいとの考えから、日々の管理業務に励んでいる。生まじめでまめなところがあり、雑草から卓上の花まで葬儀の邪魔になりそうな物や雰囲気に合わない物がないか、つねに気を配っている。仕事中に脚立から落ちて足をケガして入院するが、入院中もやすらぎ会館のことを心配していた。

(みね)

仙台から上京してきた青年で、仙台の飲食店でホールやキッチンを1年ほど勤めていた。フレンチの勉強をするために「ロワン ディシー」に面接にやって来た。礼儀正しくまじめな性格の持ち主。多くの従業員から優秀な人材と認められ、黒須仮名子にも速攻で気に入られた。同時期に川合太一の勤務態度や能力が問題視されていたため、どちらを採用し続けるかは、仮名子の指示で伊賀観の判断に委ねられることになった。採用される前から店の手伝いをするなど、有能で気配りもできる希少な人材。次の日には、入れ替わりで辞めさせられそうになった太一と観のやり取りを見て不採用になるのを察し、「ロワン ディシー」で働くのをあきらめて帰って行った。

丘野社長 (おかのしゃちょう)

有名な大手アパレルメーカー「オカノ」の社長を務める男性。若者向けの激安服から始めてパリコレにまで進出した優秀な人物で、落ち着いた雰囲気を漂わせている。会社設立30周年を記念したパーティの予約を「ロワン ディシー」に入れた。一人5万円の予算でメニューはシェフにお任せの豪華な予約となり、原価率の低いメニューばかり考えていた小澤を喜ばせるが、同時に原価率の高い贅沢なメニューが思い浮かばず悩ませることになる。10年前に別の店でシェフをしていた小澤と出会っており、キュウリを食べ残したために彼からは「キュウリの人」と呼ばれていた。パーティ当日はキュウリを抜いた料理を出してもらい、小澤と再会を喜び合った。若い頃は一人で若者向けの服を作り、使える材料が限られる中で工夫を凝らしながら、会社を成長させた苦労人でもある。

海浦 (うみうら)

「ロワン ディシー」に来店したワイン好きの老齢な男性で、大洋銀行に勤めていた。黒ぶち眼鏡を掛け、同年代の山縣重臣とよく似ているが、他人。ライバル銀行に勤めていた重臣とは同時期に入行したため、互いに競い合うライバル関係だった。定年退職した重臣がソムリエをしているという噂を聞いて来店し、再会した彼とワイン知識やソムリエ資格のことでしつこく張り合う。ソムリエ協会に入会しており、ワインエキスパートの資格も持っている。

集団・組織

河音公論 (かわねこうろん)

『Heaven?』に登場する出版社。時々、黒須仮名子の原稿を載せている。

場所

ロワン ディシー

黒須仮名子が経営するフレンチレストラン。周囲を牡丹畑と墓地に囲まれたやすらぎ会館の敷地内にあり、窓からも墓が見えるためレストランとしての立地は最悪。元は中華料理店だったため、窓などの一部は中華風になっている。店名の「ロワン ディシー(Loin d'Ici)」はフランス語で「この世の果て」を意味する。深夜営業を売りにしているが、繁華街や駅から遠いため、つねに集客に苦労している。スタッフはオーナーの仮名子を中心に、開店前に彼女がスカウトした伊賀観をはじめとする八人。客のためというよりはオーナーである仮名子自身のための店で、観をはじめとする従業員たちも、彼女に負けず劣らず個性あふれる面々が集まっている。それぞれに大きな欠点や複雑な過去を抱えており、フレンチレストランの戦力としては決して一流とはいえないが、次第にそれぞれの特技を活かした役割を担うようになった。スタッフの大半はフレンチレストランの勤務経験や知識を持たない素人だが、働き続けるうちに居場所とやりがいを見つけ、日々の営業に貢献している。仮名子に翻弄されたり、さまざまなトラブルに巻き込まれたりする従業員たちが一致団結しながら、必死に問題を解決しようと日夜奮闘している。当初は小澤のファンの常連客がいたくらいで閑古鳥が鳴いていることが多かったが、スタッフたちの試行錯誤と奮闘によって次第に来客が増えていき、さまざまな課題にぶつかりながらも順調に客数を伸ばしている。やすらぎ会館の近くにあるため、心霊現象や幽霊の噂が絶えず、霊感のある川合太一が屋根裏部屋などで幽霊を見ている。周囲には多くのカエルが住み、敷地から離れてもやすらぎ会館の前にある蓮池に向かって帰って行くため、道に迷った客の案内役となることが多い。

やすらぎ会館

『Heaven?』に登場する公立の斎場。広大な牡丹畑と墓場に囲まれている。ロワン ディシーはこの斎場の一画に入っている。黒須の自宅の近所にある。

招福堂 (しょうふくどう)

全国に20店舗を展開し、確かな知名度と実績を誇る老舗和菓子店。やすらぎ会館の敷地に新しい喫茶店を出して競合となることを伝え、黒須仮名子との交渉のために何度か「ロワン ディシー」を訪れる。無理やり「ロワン ディシー」を追い出すのではなく、よりフレンチレストランに適した物件を移転先として仮名子たちに紹介した。

書誌情報

Heaven?〔新装版〕 6巻 小学館〈ビッグ コミックス〉

第1巻

(2004-12-24発行、 978-4091875013)

第2巻

(2004-12-24発行、 978-4091875020)

第3巻

(2005-01-28発行、 978-4091875037)

第4巻

(2005-02-28発行、 978-4091875044)

第5巻

(2005-03-30発行、 978-4091875051)

第6巻

(2005-04-26発行、 978-4091875068)

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