あらすじ
第1巻
高校1年生の黒羽ハネルは、同級生の桐島ジュンヤから友人と共にいじめを受け、鬱屈した日々を送っていた。そんなハネルたちの唯一の楽しみは、体操部の練習風景を覗くことだけだったが、それもジュンヤに見つかり、覗き現場を写真に撮られてしまう。写真をばらまかれたくなければ体操部の跳馬を飛んでみろと脅された三人は仕方なく従うが、最初に飛んだ山岡は、失敗してケガをしてしまう。このままでは福地もケガをしてしまうと判断したハネルは、福地を助けるために次は自分が飛ぶことを決意。そしてハネルは着地こそ失敗したものの、名前も知らない高難易度の飛び技であるローチェを決め、ジュンヤを驚かせるのだった。その後、結局写真は拡散され、ハネルたちはさらに弱い立場に追い込まれてしまうが、ハネルの飛ぶ姿を見ていた藤咲光は、彼に強い関心を抱くようになっていた。その後、光から男子体操部に誘われたハネルは、今の現状を変えるために入部を決意する。そして、箱石鼓太郎や深田克也ら部員たちの指導を受けながら、一から体操を学んでいく。しかしジュンヤはハネルにさらなる嫌がらせを画策しており、山岡もまた前向きな姿勢へと変化していくハネルを快く思っていなかった。
第2巻
黒羽ハネルたち呈盟(ていめい)高校体操部は、男女共に強豪の神藝(こうげい)高校と合同試合をすることになった。初めての試合にハネルは緊張し、さらに神藝高校男子体操部の部長の小春からも厳しい言葉を浴びせられ、跳馬に失敗してしまう。しかし、箱石鼓太郎のサポートを受け、再チャレンジを許可される。そして、ドラグレスクという高難易度の技を、そうとは知らずに飛んで注目を集める。こうして合同試合は終了するが、山岡は未だにハネルの部活動に否定的だった。さらに厳しい指導で有名な顧問、柳瀬真澄が産休から復帰したことで、部内はピリピリした空気に包まれていた。真澄はそんな部員たちに、次のテストの試技で11点以上取れない選手は、今後サポート役に回すと通達する。これまでそんな高得点を出したことのないハネルは不安を感じ、さらに桐島ジュンヤに先日撮られた裸の写真をばらまかれたことで追い詰められてしまう。それでもハネルはあきらめずに練習を続けていると、テスト前日に真澄はいきなりテストを行うと言い出す。
第3巻
黒羽ハネルは試技テストで11点を獲得し、選手として活動することを許される。しかしその直後、桐島ジュンヤが突如男子体操部にやって来て、入部すると宣言する。ジュンヤは柳瀬真澄の弟で、二人は体操一家で育ったエリートだったが、4年前に起きた出来事がきっかけで、体操から離れていたのである。練習を始めたジュンヤだったが、体操から離れていたブランクは思っていた以上に大きく、ほかの部員たちとの実力差に打ちのめされてしまう。焦ったジュンヤは部員たちに乱暴な態度を取り、とうとう深田克也とけんかになってしまう。こうして部内の雰囲気は最悪なまま、インターハイ予選の団体メンバーが発表されるが、そこにはハネルとジュンヤの名前はなかった。ハネルは単に成績がよくないことが理由だったが、ジュンヤは実力があるにもかかわらず、選考基準に達していなかったのである。そんなジュンヤを不憫に思ったハネルは、真澄に選考試験を依頼する。だが、4年間のブランクがあるジュンヤは体力が落ちており、続けて選考を受けることもままならず、二人は団体メンバーに選ばれることはなかった。
第4巻
黒羽ハネルは部内の試技会で箱石鼓太郎と共に競い合い、部員全員で話し合った結果、二人はインターハイに出場できることになった。さらに山岡がこの試技会を見ていたことで、二人はついに仲直りする。そして藤咲光にも褒められたことで、ハネルは幸せな気分に包まれていた。しかしその直後、なぜかハネルの鞄の中に光の盗撮写真が入っていたことで、ハネルは退部をせまられてしまう。山岡は本心ではハネルを許しておらず、仲直りしたふりをして、こっそり盗撮写真をハネルの鞄に入れていたのである。この一件によってハネルは部活に参加できなくなるが、そこで声を掛けてきたのが桐島ジュンヤだった。ジュンヤにローチェを教えてほしいと言われたハネルは、訳もわからぬままにジュンヤから体操クラブに連れていかれるが、ローチェは失敗に終わったうえにジュンヤとの勝負にも負けてしまう。それでもこのまま体操をあきらめきれないハネルは、柳瀬真澄に最後のチャンスとしてインターハイの予選会に出場させてほしいと直訴。こうして結果を出せなければ退部するという条件で、念願の出場を果たす。そして予選会の当日、ハネルは無心のまま出番を迎えるが、そこへ山岡が姿を現す。
登場人物・キャラクター
黒羽 ハネル (くろばね はねる)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う1年生の男子。男子体操部に所属している。前髪を眉の上で短く切った茶髪で、もじゃもじゃの短髪にしている。身長は160センチほどで小柄。箱石鼓太郎に名前を「バネ太郎」とカンちがいされたまま、そう呼ばれている。明るい性格のお調子者ながら、学校では友人の福地と山岡と共に桐島ジュンヤにいじめられており、鬱屈した日々を送っている。だが過激ないじめにも耐え、その後ジュンヤと親しくするなど、精神的にタフで気持ちの切りかえも早い。幼い頃から跳躍力に優れ、非常に体が柔らかいが、それをスポーツには生かせずにいた。しかしある日、ジュンヤのいじめから福地と山岡を助けるために跳馬を飛んだことがきっかけで、藤咲光にその身体能力を見いだされる。それでも当初は、自分に体操などできるはずがないと考えていたが、考えを改めて男子体操部に入部し、たぐいまれなる素質を生かして、基礎から体操を学ぶことになる。体操の知識はまったくないが、技の名前も知らずに大技を繰り出すことがある。光に思いを寄せており、男子体操部に入部する前は福地や山岡と女子体操部の覗きばかりしていた。
藤咲 光 (ふじさき ひかり)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う1年生の女子。女子体操部に所属している。前髪を眉の上で切りそろえ、肩につくほどの黒髪をストレートセミロングヘアにしている。才色兼備の女子体操部のエースで、明るく穏やかな性格から人望も厚い。その一方で、かなり天然気味なところがあり、特に性に関する知識はまったくない。そのため、知らない性的な単語の意味を誰彼なしに尋ねるなど、周囲を困惑させることがある。また人の悪意に疎く、妬まれたり、嫌がらせを受けたりしても気づかない。そんなある日、黒羽ハネルや福地、山岡から練習風景を覗かれていたことを知るが、それが自分たちのレオタード姿が目当てであることには気づかず、三人が体操に関心があるのだとカンちがいする。さらにその直後、ハネルが跳馬を飛んだだけでなく、ローチェという高難易度の高い大技を繰り出した場面を目撃して驚愕する。そしてハネルを男子体操部に勧誘し、積極的にサポートしつつ、時には厳しく指導している。深田克也に思いを寄せられているが、まったく気づいていない。体操選手として、小春にあこがれている。かつて呈盟高校女子体操部に所属していた姉がいる。
桐島 ジュンヤ (きりしま じゅんや)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う1年生の男子で、柳瀬真澄の弟。前髪を上げて額を全開にした、ツーブロックヘアにしている。祖母は元体操選手で、母親は元全日本トップの実力を誇る体操選手、父親もまた元体操選手で、今は高校の体操部のコーチをしているという体操一家に生まれる。桐島ジュンヤ自身も2歳の頃から体操を始めるが、天才肌の真澄にはまったく敵わず、つねに比較されて悔しい思いをし続けながら育つ。そんな小学6年生の時、全国体操小学生大会でついに1位を獲得するが、同じ日に真澄がオリンピック代表に選ばれたことで両親にはまったく相手にされず、体操への意欲をなくしてしまう。そして高校生になってからは、黒羽ハネルや福地、山岡に過激ないじめをすることで憂さを晴らす日々を送っていた。しかしある日、ハネルたちに無理やり跳馬を飛ばせようとしたところ、ハネルが着地こそ失敗するものの大技を繰り出したことで、さらにハネルに嫌がらせをするようになる。ハネルが何をしてもめげないことから、自分も男子体操部に入部して部活で嫌がらせをしようと考えるが、その際に4年間のブランクを痛感し、当初の目的も忘れて練習に打ち込むようになる。そして、これをきっかけにハネルとの関係も改善されていく。成績は非常によく、学年5位である。
箱石 鼓太郎 (はこいし こたろう)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う3年生の男子。男子体操部の部長を務めている。金髪のスポーツ刈りで、背が高く筋肉質な体型をしている。容姿はいかついが、明るくおおらかな性格の持ち主。非常に器用で、しなやかな美しい演技をする。しかしそれ故に何をしても満足できず、高校1年生になるまでは、さまざまなことを始めてはすぐにコツをつかみ、飽きてしまってやめるのを繰り返していた。そんなある日、中学時代からの友人である佐ノ内鉄平の勧めで体操部の練習を見学し、当時女子体操部に所属していた藤咲光の姉に恋をしたことで入部を決意する。そのため体操を始めたのは遅いが、それでも強豪校と知られる呈盟高校でレギュラー選手として活躍した。また、高校卒業までに金メダルを取るという意思表示のために髪型を変え、金髪にした。ちなみに、高校の大会にはメダルがないことは当時知らなかった。黒羽ハネルとは、高校3年生の時にハネルが藤咲光の勧めで男子体操部に入部したのがきっかけで知り合い、関心を持つようになる。しかし、自分には指導する才能がないことを自覚し、深田克也をハネルの教育係に任命して一歩離れた立場でハネルを見守るようになる。成績は非常によく、学年1位である。実家は箱石整形外科を営んでおり、両親からは卒業後は学業に専念するように言われている。好みのタイプは幼い少女。
深田 克也 (ふかだ かつや)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う1年生の男子。男子体操部に所属している。前髪を目の上で切った、ふんわりとした短髪で、まつげが長く、中性的な雰囲気を漂わせている。クールな毒舌家で、体操に強い情熱を注いでいるために自分にも他人にも厳しい。小学6年生の時から体操を始めており、桐島ジュンヤと同じ大会に出場したこともある。また、同時期に藤咲光に出会って以来ずっと光に思いを寄せている。黒羽ハネルとは、彼が男子体操部に入部したのをきっかけに知り合うが、練習量が重要な体操において、高校から体操を始めたハネルが大成することは難しいと考えていた。また、ハネルが光目当てで入部したと誤解し、体操に取り組む姿勢に問題があると、当初は冷たい態度を取っていた。箱石鼓太郎から、自分に従わなければ光に思いを寄せていることをばらすと脅され、仕方なくハネルの教育係を務めるようになる。しかし、なんだかんだで面倒見がよく、ハネルといっしょに活動するうちに彼の実力を認めるようになっていく。
佐ノ内 鉄平 (さのうち てっぺい)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う3年生の男子で、箱石鼓太郎の友人。前髪を額が見えるほどの短髪にしている。あだ名は「サノッチ」。非常に小柄な体型で、実年齢よりも若く見られることが多い。体操では小柄な体型が有利であることを理解しており、自分の体型を生かせる体操に強い情熱を注いでいる。ふだんは穏やかな性格ながら、怒ると非常に怖い。何をしても熱中できずにいる鼓太郎に体操を勧めた人物で、彼が才能を開花させて選手として成長していく姿を見て喜んでいた。しかし高校2年生のある日、鼓太郎が部活中に膝半月板を損傷したにもかかわらず、無理してインターハイに出場しようとしていることを心配していた。成績は非常によく、学年6位である。好みのタイプは背の高い女性。
小春 (こはる)
神藝(こうげい)高校に通う3年生の男子。男子体操部の部長を務めている。前髪を真ん中で分けた、短髪にしている。カタカナ語を多用して話す。日本トップクラスの体操選手で、高校2年生のインターハイで合計84点台をマークして、個人で全国2位の成績をおさめた。体操においては独特の美意識を持つ変わり者で、ほかの選手たちの体型をつねにチェックし、ライバル選手の動向を探っている。黒羽ハネルとは、高校3年生の春に行われた呈盟(ていめい)高校体操部との合同試合で知り合った。しかし、ハネルの才能は高く評価しつつも、雑な演技を見て失望して冷たい言葉を浴びせた。
福地 (ふくち)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う1年生の男子で、黒羽ハネルの友人。前髪を眉の上で短く切った短髪で、たれ目で目が細いため、いつも目を閉じているように見える。あだ名は「フクちゃん」。穏やかな心優しい性格で、病気の母親をアルバイトしながら支えている苦労人。将来の夢は医者になることで、母親の病気を自分で治すために日夜勉強に励んでいる。しかし学校での立場は弱く、ハネルや山岡と同様に桐島ジュンヤにいじめられているが、それでもめげることはない。ある日、ジュンヤの命令で跳馬を飛んだことがきっかけで、ハネルが男子体操部に入部する。それからは前向きな姿勢へと変化していくハネルと、そんなハネルを受け入れることができない山岡のあいだで悩むようになる。
山岡 (やまおか)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に通う1年生の男子で、黒羽ハネルの友人。前髪を顎の高さまで伸ばして真ん中で分けたボブヘアで、眼鏡を掛けている。あだ名は「ヤマ」。卑屈なひねくれた性格で、学校ではハネルや福地と同様に桐島ジュンヤにいじめられているが、その境遇を受け入れていた。しかしある日、ジュンヤの命令で跳馬を飛んだことがきっかけで、ハネルが男子体操部に入部する。この日を境にハネルが前向きな姿勢へと変化していくことを受け入れられず、否定的な言葉を浴びせるようになる。そこで一度は疎遠になるものの、ハネルを陥れようと画策して仲直りしたふりをして、以前撮影した藤咲光の盗撮写真をハネルの鞄に入れた。しかしこのことでハネルが退部させられそうなことを知って反省し、インターハイ予選の当日、部員たちに真相を打ち明ける。
柳瀬 真澄 (やなせ ますみ)
千葉県の呈盟(ていめい)高校に勤める女性教師。男子体操部と女子体操部の顧問を兼任している。年齢は24歳。旧姓は「桐島」で、桐島ジュンヤの姉でもある。前髪を真ん中で分け、顎の高さまで伸ばしたボブヘアにしている。息子の柳瀬真太郎の受けがいいため、さほど目は悪くないが真太郎の前では眼鏡を掛けている。男性のような口調で話す。祖母は元体操選手、母親は元全日本トップの体操選手、父親も元体操選手で今は高校の体操部のコーチをしているという体操一家に生まれ、柳瀬真澄自身も2歳の時から体操を始めた。物心ついた頃には大会で優秀な成績をおさめ、天才選手としてその名を轟かせてオリンピック選手にも選ばれた。その後は呈盟高校体操部の顧問となり、結婚して真太郎をもうけた。黒羽ハネルが入部した時は、産休を取っていたために不在だった。