小説、漫画に描かれ続ける伝説の不良
本作の主人公・井口達也は実在人物であり、お笑い芸人の品川ヒロシによる青春小説『ドロップ』の主要人物である。同作が漫画や映画に展開される中、井口は「井口達也ブログ」を開設した。このブログ内で発表した自伝小説『CHIKIN』は、2009年10月、『チキン』のタイトルで出版され、その後コミカライズ。秋田書店「月刊少年チャンピオン」2010年9月号より『チキン 「ドロップ」前夜の物語』(漫画:歳脇将幸)として連載されている。小説や漫画などで伝説の不良として知られるようになった井口は、大洋図書「実話ナックルズ」にてコラム『実録暴走回顧録 -OUT-』を執筆。これを原作としてコミカライズしたのが、本作『OUT』である。
「喧嘩をすれば一発アウト」の更生生活
本作での井口達也は17歳。「東京狛江愚連隊」の特攻隊長として暴れまくっていた達也は警察に捕まり少年院に。それから約半年を経て、少年院から出院するところから物語は始まる。地元狛江以外での再出発が条件だったため、達也は西千葉で焼肉店を経営する叔母夫婦に引き取られることになる。達也はまだ保護委託中で保護司の石戸の監視下にある。もしまた問題を起こせば、一発「アウト」の状況である。どうしようもない自分を引き受けてくれた叔母夫婦に、迷惑をかけたくない。そんな思いで焼肉店で真面目に働く達也だったが、暴走族「斬人」の副総長、安倍要との出会いをきっかけに、刺激的な更生生活が幕を開けることになる。
西千葉の4強と裏利権をめぐる抗争
西千葉近郊には「斬人」「愚狼」「死怒(SID)」「阿修羅」という四つの伝統的な暴走族があり、4強と称されている。その昔、4チーム入り乱れての大抗争が勃発。数人の死者を出す大惨事となったことから、被害を食い止めるために不戦協定を締結したという。しかし、代が替わるにつれ徐々に協定の効力が薄れ、西千葉にも多少の緊張感が出てきている。そんな中、流山の中堅規模の暴走族「爆羅漢」が、「斬人」の壊滅をもくろむ。4強入りを足がかりに西千葉を統一し、裏利権を牛耳ろうと画策していたのだ。友達(ダチ)の安倍や総長の丹沢敦司との出会いで「斬人」との関係を深めていた達也は「爆羅漢」との抗争に巻き込まれていく。
登場人物・キャラクター
井口 達也 (いぐち たつや)
17歳の少年。長野での少年院生活を経て「地元の悪友との隔離」を条件に、保護委託という形で出院することとなった。保護委託中は西千葉にある母方の叔母夫婦が経営する焼肉屋「三塁」で働き、店の裏手にある離れに居を構えている。保護委託中の1年間は1か月に一度、保護司の石戸に会って、生活状況を報告することが義務付けられている。 靴紐もまともに結べないほどに不器用ということもあり、少年院では折鶴をひたすら折らされるという罰を心底怖れており、少年院には絶対に戻りたくないと思っている。地元の狛江では「狛江愚連隊」という暴走族で特攻隊長を務め、「狂犬」と呼ばれて恐れられていた。出院後は染髪もせず、見た目は普通の少年。しかし、ナメられたまま生きて行くことができない性質で、元来の気の短さも相まって何かとモメ事に発展しがち。 出院初日に安倍要に遭遇し、ちょっとしたことからタイマン勝負をすることとなった。その後は和解して良き友人となる。筋トレが趣味で、安倍や今井啓二と、自宅の縁側でよく一緒に鍛えている。安倍とは筋肉を見せ合って褒め合っているが、今井からは、その姿を「気持ちワリィ」と言われている。 鍛えているため喧嘩は強く、数人程度なら1人で倒せるほど。それ以上に、暴走族「斬人」に囲まれている状況で「この中の1人は確実に目か耳をもらう」と宣言したり、下原賢三との勝負では、決着が着いたにも関わらず殺そうとしたりと、一度キレると自分では制御不能になってしまう。 暴走族「爆羅漢」と「斬人」の抗争後は、萩原の説教もあって更生に対して前向きに考えるようになり、「キモ悪(キレない、モメない、悪さしない)」をモットーに生きるようになる。動物が好きで、野良犬を餌付けして「肉丸」と名付けて可愛がっている他、庭には黒猫も居ついている。のちに丹沢敦司が拾ってきた猫も飼うことになる。 少年院生活が長かったせいで、女性を見る目が衰えており、どんなブスでも性の対象としてナンパするが、今のところ成果は出ていない。同居している叔母や丹沢からは「たっちゃん」と呼ばれている。原作者である井口達也がモデル。
安倍 要 (あべ かなめ)
暴走族「斬人」の副総長を務めている大男。筋骨隆々な身体をしている。三十路は超えていそうな顔をしているが、実は17歳。現場作業に従事していて、作業着姿でいることが多い。少年院を出院した当日の井口達也とタイマンを張って敗北。その後、井口の職場である焼肉屋「三塁」で再会し、友人となる。井口に「不良のクセに真面目」と評されるほど律儀で義理堅く、「三塁」に来る時には単車の爆音を気にして、少し離れたところに停めて来るほど。 基本的に大人な対応をするため、井口や今井啓二ら、「斬人」メンバーの抑え役を担うことが多い。副総長に相応しい実力を持ち、中学時代から丹沢敦司とコンビで名を馳せていた。持ち前の義理堅さや筋を通す性格から上の世代にも顔が効く。 「斬人」内での人望も非常に厚く、総長である丹沢の代わりに外交役を務めることもある。「斬人」内では武藤将吾の実力を買って側近に置いており、敵対チームにゲリラ戦を仕掛けられた時にも、全幅の信頼のもと背中を預けている。押しかけ舎弟の今井啓二に対しては、彼のキレやすさに手を焼きながらもかわいがって、よく行動をともにしている。
今井 啓二 (いまい けいじ)
短髪で小柄な16歳の少年。中学時代から安倍要を慕っており、暴走族「斬人」のメンバーではないが、よく安倍や井口達也らと行動をともにしている。西千葉の不良に詳しく、他所者である井口によくレクチャーしている。地元ではキレやすいことで有名で、特に安倍を馬鹿にした発言などを耳にすると、相手が複数であっても喧嘩を売ってしまう。 安倍や井口からは「優しすぎて凶暴になったタイプ」と言われている。安倍にもらった指輪を大切にしている。一度喧嘩の末にその指輪を奪われてしまった際、井口に取り返してもらったため、井口のことも安倍と同様に慕うようになる。ちなみに、その指輪はもともと安倍がゴミ捨て場で拾ったものであり、大した価値もないが、今井啓二には黙っている。 「斬人」内で安倍の側近である武藤将吾とは昔から仲が悪く、下原賢三に奇襲をかけられた時に、武藤が安倍を守りきれなかったので、より一層仲が悪くなった。喧嘩では武器でも何でも使うタイプなうえに、喧嘩慣れしていることもあり、一般的な不良より強い。行動が制限された井口や安倍をサウナに連れて行き、自分が悪者になってでも彼らにストレス発散をさせたりと、兄貴分想いな一面もある。
丹沢 敦司 (たんざわ あつし)
暴走族「斬人」7代目総長を務める少年。両手にバンテージを巻いており、棒付きの飴を舐めていることが多い。金色の長髪で、女性に間違われるほどキレイな顔立ちをしており、男女問わずもてる。安倍要には「恋愛裕福層」と評されている。17歳にして100人近くの人数をまとめるカリスマ性を持ち、小柄で細身ながら喧嘩の実力は非常に高く、「チートスペック」といわれるほど。 普段はノリが軽くふざけているが、チームの内と外を完全に切り分けており、チーム外の人間に対しては非情なまでの制裁を加える。頭が非常に切れ、相手を責める際には、その本人が一番嫌なことを躊躇なく実行する。一方で暴走族でありながら単車に乗るのが苦手で、メンバーからはよく馬鹿にされている。 丹沢敦司本人は、自分の細身な外見も気にしている。7代目として「斬人」を乗っ取る際、6代目の先輩たちをハメて少年院送りにし、残った6代目メンバーも立ち直れないほどに追い詰めたため、上の世代からは快く思われていない。狂命戦争で死んだ「斬人」5代目総長の皆川状介を慕っており、殺した犯人が6代目総長の弦巻良樹だと確信している。 「斬人」幹部をはじめ同年代からは、親しみを込めて「あっちゃん」と呼ばれている。
長嶋 圭吾 (ながしま けいご)
7代目「斬人」特攻隊長を務める17歳の少年。身長180cmを超える長身で、眼鏡をかけている。非常に無口で、しゃべることはほぼない。物心つく前から剣道をやっており、木刀一本持って敵チームに特攻し、8人を一瞬で倒すなど実力は折り紙つき。「斬人」でも一番の戦闘中毒者(バトルジャンキー)で、仲間が喧嘩をしていると聞きつけるや、いの一番に駆けつける。 そのため、喧嘩で長嶋圭吾の世話になっていない「斬人」メンバーはいないと言われるほどで、安倍要と同様にメンバーからの信頼が厚く、慕われている。戦闘衝動が高まった時には、気を紛らわせるために折鶴を折る癖があり、丹沢敦司や井口達也からはドン引きされている。どんな状況にあっても退くことが許されない特攻隊長という立場であるため、腹を刺されて重体という最悪の状況の中、暴走族「爆羅漢」と「斬人」の解散を賭けた代表戦に参加。 攻撃を見切るのが非常に上手く、そんな状態にあっても、下原孝二に一方的に打たれているように見えて、一撃もクリーンヒットはもらわなかった。なお、木刀を使うのは敵が複数の場合のみと決めており、タイマンは素手で戦う。 ちなみに特攻隊No.2の山口俊男に友情以上の感情を抱かれているが、長嶋圭吾本人は気付いていない。
田口 勝 (たぐち まさる)
7代目「斬人」遊撃隊長を務める17歳の少年。チームNo.1の巨漢で、先輩たちや後輩から陰で「ブタ」と呼ばれている。柔道をやっていた経験を活かし、投げからのマウントを取る喧嘩のスタイルを得意とする。力が非常に強く、また巨体に見合わない動きの速さを持ち、必要とあれば武器も使う。加えて、相手を油断させるためなら噓泣きもするし、詫びも入れ、勝つためであればプライドなど一切気にしない。 遊撃隊の後輩である沢村良にも、「武器でも何でも使って勝て」と指導をしている。短気で金にだらしなく、トラブルメーカーとしてお荷物扱いされているが、「斬人」や丹沢敦司に対する熱い想いは、チームでも一番である。目黒修也とは保育園からの友人で、トラブルを起こしてはよく説教されている。 中学時代は目黒と近隣の中学校を制圧して回っていたが、14校目にして丹沢と安倍要のコンビに遭遇し、連覇が止まることとなった。生来のわがままな性格と身体の大きさのため、周りからまともに相手をされてこなかった。そこへ丹沢に正面から向き合ってもらい、丹沢を敬愛するようになる。母親が売春をしていてグレた過去を持つが、現在は母親が蒸発したため祖母と2人で暮らしている。 「斬人」を引退した後も不良を辞めるつもりはなく、「悪党一直線」が信条。暴走族「爆羅漢」との代表戦で、井口達也が「斬人」メンバー、特に沢村をはじめ遊撃隊の仲間たちに認められたことが気に食わず、荒れて仲間に手を出すようになった。そのことが原因で丹沢に「斬人」をクビにされる。 丹沢に切り捨てられた後は一度街を出たが、恨みを持つ不良たちに、同居していた祖母まで報復の対象とされたため、チーム「狂乱鬼」を頼り、「斬人」の情報を流すようになる。
目黒 修也 (めぐろ しゅうや)
7代目「斬人」親衛隊長を務める17歳の少年。「斬人」メンバーの3分の1もの人数を有する親衛隊を束ねる。長めの金髪をオールバックにして常にサングラスをしており、畏まった時しか外さない。田口勝とは保育園からの友人で、短気な田口とは対象的に、常に冷静で周囲をよく見ている。中学時代は、田口と2人で近隣の中学校を制圧して回っていた。 丹沢敦司や安倍要をして、「目黒とやり合ったら負けないまでも勝てるかわからない」と言わせるほどの実力者で、トラブルメーカーである田口を上から力で押さえつけることができるのは、総長である丹沢か目黒修也のみと言われているほど。根が真面目で、井口達也に田口が庇われた際には、改めて礼を言いに訪れるほど律儀な性格。 しかし酔うと口が悪く、田口の家庭環境と性格をボロボロに扱(こ)き下ろす一面もある。「仲間は絶対に見捨てない」という丹沢のポリシーに賛同していたが、のちに田口を裏切った丹沢に見切りをつけ、「斬人」を抜ける。実は先輩から使いパシリにされたことが一度もないという、不良業界では珍しい経歴を持つ。
武藤 将吾 (むとう しょうご)
暴走族「斬人」のメンバーで16歳の少年。ツーブロックの黒髪を後ろで束ねている。総合格闘技の心得があり、「斬人」内では安倍要の側近をしている。暴走族「爆羅漢」との抗争で、下原賢三に奇襲をかけられた際に安倍を車で轢かれ、武藤将吾自身も肩を外されたが、安倍を拉致しようとする賢三らに対して体を張って阻止した。 しかし、安倍を守りきれなかったことを、安倍の舎弟である今井啓二に激しく責められることとなった。昔から今井と仲が悪かったが、この件を切っ掛けにさらに仲が悪くなる。同世代の沢村良と仲が良く、よく愚痴を聞いたり相談を受けたりしている。身体能力が高く、総合格闘技のジムのトレーナーにも、暴走族を辞めてリングに上がるよう勧められている。 その身体能力や格闘技を活かした素手喧嘩が得意で、攻防の駆け引きが非常に上手い。一方で命をやり取りする気迫に乏しいところがあったが、「爆羅漢」との代表戦で井口達也と賢三の殺し合いのようなタイマンを見て、それを自覚。のちに春川剣一郎と戦った時には格上の相手に一歩も引かず、圧倒的なパワーに押されながらも技術で勝利し、実力を見せつけた。
沢村 良 (さわむら りょう)
7代目「斬人」遊撃隊に所属する16歳の少年。ツーブロックで金色の前髪をサイドに流しているヘアスタイルが特徴。遊撃隊隊長である田口勝の直接の後輩であり、「勝つためには手段を選ぶな」と指導されている。身体能力も高くなく身体が大きい訳でもないため、素手喧嘩は一般的な不良と同レベル。しかし、大島良介と戦った際には、頭を狙って金属バットをフルスイングしたり、頭に注意を引きつけて足を折ったりと狂気を演出。 機動力を奪った後は遊撃隊仕込みのハッタリで失禁させ、辛くも勝利を収める。暴走族「爆羅漢」との抗争後、井口達也を認めるようになり、それが気に入らない田口に前歯まで折られるほど詰められていた。そんな中、風間美鈴にそそのかされ、田口に恨みを感じている遊撃隊メンバーで闇討ちを決行するが、返り討ちに遭う。 その後、田口とは和解するが、この件が丹沢敦司の耳に入り、田口が「斬人」をクビになる原因となった。チーム「狂乱鬼」との抗争の最中ということもあり、田口の復帰を望んでいる。
萩原 (はぎわら)
西千葉県警生活安全課少年係に勤める男性。石戸が警察にいた頃の後輩にあたる。職務に忠実で、井口達也や暴走族「斬人」が動くと、すぐに首を突っ込んでくる。丹沢敦司に抗争を迅速に収めないとチームを潰すと脅し、暴走族「爆羅漢」と「斬人」の抗争が「代表戦」という形をとるきっかけを作った人物。とにかく「不良」というものに詳しく、「やったことの責任は取らなければいけない」という考えの持ち主。 一方で、井口を任意同行した際には説教と尋問はするが、気さくに会話する一面もあり、若者に対して一定の理解は示している。「爆羅漢」と「斬人」の抗争後、井口に自分の経験談を語って、人は人をいつでも殺してしまう可能性を持つことを説き、井口の更生の一助となる。
下原 一雅 (しもはら かずまさ)
ゲバラ三兄弟の長男。8代目「爆羅漢」総長を務める。黒髪の長髪で年齢は19歳。常に爽やかな笑みを浮かべている優男風だが、自分の女にレディースチームを作らせて売春させたり、チームを使って薬を売ったりと、周囲からの評価は「最悪」の一言に尽きる。下原一雅により、「爆羅漢」は走りが中心の暴走族から凶悪な愚連隊へと変化した。 次男である下原孝二とは父母が同じだが、三男の下原賢三とは異母兄弟である。ゆくゆくは実家が営む建設会社を継ぐことになっており、会社関係の人間には人当たりが良い。2人の弟たちに過剰に折檻していた過去を持ち、孝二には恐れられているが賢三からは殺意を向けられている。不良社会における金・薬・女といった裏利権をよく理解しており、流山だけでなく、より大きい西千葉の裏利権も手中にしようと、暴走族「斬人」に抗争を仕掛けた。 犯罪的な仕事をこなし、将来的にはヤクザになる訳でなく、かといって一般人でもないグレーな存在として生きる、という不良としてのビジョンを持っている。そのための組織作りに躍起になっており、ミスを犯した部下への制裁は凄まじい。 喧嘩の実力もかなりのもので、「爆羅漢」とモメた北松戸最大規模のチームの頭を圧倒的な強さで降した。しかし、周囲からは強さ以上に、潰したチームの頭を拉致し、二度と歯向かわないように徹底的に追い詰めるといった冷酷さを危険視されている。
下原 孝二 (しもはら こうじ)
ゲバラ三兄弟の次男。暴走族「爆羅漢」のNo.2。年齢は18歳。身長が2m近くある巨漢で、戦闘中毒者(バトルジャンキー)。過去に長男の下原一雅に口をハサミで切られる仕打ちを受けており、その傷を隠すために常に口にバンダナを巻いている。巨体を活かしたパワー型の喧嘩スタイルで、相手をガードの上からでもぶっ飛ばすほどの怪力を誇る。 周りの不良からは、ゲバラ三兄弟で一番喧嘩が強いと評されている。過去に受けた折檻から一雅に恐怖心を抱いており、一雅に脅されると、足を折られていても相手に向かっていく気合いを見せる。
下原 賢三 (しもはら けんぞう)
ゲバラ三兄弟の三男。暴走族「爆羅漢」のNo.3。年齢は17歳。常にマスクをしており、金髪を逆立てた髪型をしている。下原一雅や下原孝二とは異母兄弟で、母親が幼い頃に亡くなったため、現在の下原家に引き取られた。幼少期より下原家に対する殺意があったが、日常的に孝二に肉体的暴力、一雅に精神的暴力を受け、その結果、一雅を「絶頂の時に追い落として殺す」という、後ろ暗い人生の目的を持つようになる。 一雅に必要以上に制裁を加えられた仲間のフォローをする反面、安倍要を倒すため仲間もろとも車で轢くような一面を見せるなど、優しさと恐怖心という飴と鞭を使い分け、「爆羅漢」では一雅以上の求心力を持つ。単独行動はせず、自分の部隊をいつも引き連れていて、テンションは異様に低い。 「喧嘩は苦手」と自称しているが、「爆羅漢」の解散を賭けた代表戦では、井口達也と殺し合いのようなタイマンを見せている。顔色一つ変えずに人を車で轢いたり、喧嘩をすれば殺し合いに発展したりと狂気的な面が目立ち、丹沢敦司にも「爆羅漢で一番ヤバい」と言われている。主武器は、巨大なスパナをチェーンでヌンチャクのように繋げたもの。 「爆羅漢」解散後はチーム「名無死」を立ち上げ、暴走族「斬人」とチーム「狂乱鬼」の抗争の裏で暗躍している。「爆羅漢」や「名無死」の年長メンバーからは「賢坊」と呼ばれている。
弦巻 良樹 (つるまき よしき)
6代目「斬人」総長。現在は初代「狂乱鬼」総長を務める18歳の少年。誰からも愛されるカリスマ性を持ち、気さくな性格で、格下相手に無駄に拳を振るうことはない。「ブスな女というモノを見たことがない」と言い切るほど女性のストライクゾーンが広く、同じくブスな女をナンパした井口達也と意気投合。さらに、少年院から出てきたばかりという共通点を持つことでも盛り上がり、井口を「狂乱鬼」のメンバーに紹介した。 仲間からの信頼は絶大で、弦巻良樹本人も、期待に応えるためなら何でもやる覚悟を持っている。身体能力が非常に高く、それを喧嘩に使うことを否定しない精神構造を持つため、リミッターがなく反則的な強さを誇る。丹沢敦司にハメられて少年院送りにされた過去があり、「斬人」を自分たちの手に取り戻すために「狂乱鬼」総長に就任した。 喧嘩の実力は丹沢に匹敵すると言われており、「狂乱鬼」の決起集会では、傘下チームの猛者たちをタイマンで20人抜きするという荒業をやってのけた。その集会中に良樹自らの生爪を剥いでプレゼントした春川剣一郎に心酔され、以後は「良くん」と呼ばれるようになる。
楽崎 海 (らくざき かい)
6代目「斬人」のメンバー。現在はチーム「狂乱鬼」に所属している18歳の少年。パーマをあてた黒髪で眼鏡をかけている。体型も小柄で、とても暴走族とつるんでいるようには見えない外見をしている。6代目「斬人」幹部連が丹沢敦司にハメられて少年院送りになってからは、1人で虎視眈々と「斬人」を取り戻す計画を進めていた。 7代目「斬人」にスパイとして潜り込んで情報を集めたり、暴走族「阿修羅」の副総長である三浦佑也を引き抜いたりと、「狂乱鬼」結成の一番の立役者である。頭脳労働専門で、「狂乱鬼」の決起集会兼弦巻良樹の総長就任式では、演出や構成に能力を発揮。寄せ集めの連合体だった「狂乱鬼」を、持ち前の人心掌握術で一枚岩にすることに成功する。 非常に頭が切れ、「狂乱鬼」の影の指導者という立場にあるため、丹沢からは弦巻と同等に危険視されて狙われている。ただ、喧嘩の方はからっきしで、代表戦などではカメラ係として喧嘩を撮る役回り。そのため、角田瑛二によくイジられている。交渉事には、自衛のために雇っているチーム「名無死」を引き連れて話にあたる。 自分をボコった相手を必要以上に殴打し続けたり、春川剣一郎に制裁を加える時に金属バットでひたすら殴ったりと、狂気的な一面を見せることもある。特に春川に制裁を加える際には、瑛二に「見てるこっちがウンザリ」と言わせるほど執拗に殴り続け、最後に飴を与えるという洗脳に近いやり方をとっている。
角田 一輝 (かくた いっき)
6代目「斬人」幹部。現在はチーム「狂乱鬼」親衛隊長を務める18歳の少年。身長211cm、体重90kg。細身ながら西千葉で一番の長身で、左眼の横にトライバルのタトゥーを入れている。幼少の頃より双子の弟である角田瑛二の盾となって守ってきたので、現在はヒロイックな自己犠牲を原点としたドMの損傷中毒者(ダメージジャンキー)に成長した。 打たれ強さを活かした喧嘩をし、攻撃に緩急を付けて相手の感覚を狂わせてから、100kg近い握力で上から捕まえて強烈な一撃を叩き込む、という戦法を得意とする。ちなみに、「オウ」しか発言しないが、仲間には何を言っているかわかる模様。周りからは「イッカク」と呼ばれ、「斬人」時代から名が通っている。
角田 瑛二 (かくた えいじ)
6代目「斬人」幹部。現在はチーム「狂乱鬼」特攻隊長を務める18歳の少年。左眼の横にトライバルのタトゥーを入れている。幼少期から双子の兄である角田一輝に守ってもらっていたので、彼に憧れを抱き、兄のように大きくなりたいと、小学生の頃から筋トレにハマっていた。筋トレは少年院に入ってからも毎日欠かさず行っており、出院後は腕周りの筋肉が4cmも太くなった。 しかし、風間美鈴には「もともと太すぎてわからない」と言われている。腕が長いものの身長が低く、筋肉質なので横に太い印象だが、体脂肪率は一桁をキープしている。喧嘩が弱い楽崎海をよくイジっているが、彼の人心掌握術は認めている。楽崎には「狂乱鬼で一番残虐非道な男」と評されており、初対面で角田瑛二に喧嘩を売って来た下原賢三との関係を心配されている。 喧嘩の実力も相当なもので、格上と目されていた春川剣一郎を一撃で倒すなど、少年院に入る前と後では戦闘力がけた違いに向上している。仲間からは兄の「イッカク」に対し、「ニカク」と呼ばれている。
風間 美鈴 (かざま みすず)
6代目「斬人」幹部。現在はチーム「狂乱鬼」遊撃隊長を務める18歳の少年。綺麗な顔立ちをしており、キャミソールにレギンスといった服装を好む。胸元に太陽、左腕に日章旗のタトゥーを入れている。中に何かを仕込んでいる猫のヌイグルミ「ゴルバッキー」を主武器とし、尻尾部分を持って振り回して使う。その威力は鉄棒のガードレールを曲げるほどで、まともに喰らえばひとたまりもない。 武器喧嘩が非常に上手く、「ゴルバッキー」の威力を囮にし、本命は素手の突きといったトリッキーな喧嘩スタイルで長嶋圭吾を圧倒した。語尾に「にゃん」と付けてしゃべり、「フーリン」という通称で呼ばれている。姉の営むスナックを、営業時間外に風間が借りて、そこに「狂乱鬼」幹部たちが集まることがある。
三浦 佑也 (みうら ゆうや)
暴走族「阿修羅」元副総長。現在はチーム「狂乱鬼」副総長を務める18歳の少年。ツーブロックにパーマをかけた髪を後ろで束ねている。タイマンなら西千葉で五指に入るといわれる実力の持ち主。「阿修羅」を抜ける際には、側近が17人も一緒に辞めるなど、仲間からの人望も厚い。素直で真面目な性格で、冗談を本気で受け取るので、すぐ騙されるという癖を持っている。 加えて、結果が事前情報と違った時は、結果の善し悪しに関わらず自分で勝手に騙されたと思い、自己嫌悪に陥って落ち込む癖もある。角田瑛二が楽崎海をイジるのを諫めたり、結果的に噓ではあったが、風間美鈴に初潮がきたと知って祝ったりと、基本的には仲間想い。6代目「斬人」とは友好関係にあったため、後輩たちにハメられて少年院送りにされた弦巻良樹らに対し、手を貸すことを決意する。
春川 剣一郎 (はるかわ けんいちろう)
「ワンパンのハルケン」の通り名を持つ18歳の少年。「西千葉の不良でハルケンを知らない奴はモグリ」といわれるほどのビッグネームで、一般的には「ハルケン」と呼ばれている。中堅規模の暴走族だった「爆神蜘」の頭で、チームの規模を大幅に拡大させた実績を持つ。怪力を活かした喧嘩のスタイルで、相手にマウントを取られた状態からでも強力なパンチを繰り出す。 身体が大きく、7分丈まで和彫が入っていて、金髪オールバックにしている。シメた相手の生爪を剥いでコレクションするのが趣味という異常性を持ち、仲間からも生爪を剥ごうとするので人望は皆無。そのため、チーム「狂乱鬼」との代表戦で負けた時にも、「爆神蜘」メンバー全員に見捨てられて置き去りにされた。 そのため、三浦佑也からは、「狂乱鬼」の仲間として迎え入れることに難色を示されていた。打倒「斬人」の決起集会で、弦巻良樹が自ら生爪を剥いでプレゼントしてくれたことに感激。以降は弦巻に心酔し、彼のために全力で働くようになる。
大島 良介 (おおしま りょうすけ)
暴走族「爆神蜘」の副総長を務める男性。1年前に傷害で高校を退学になるまで、アマチュアボクシングミドル級で県のチャンピオンだった。身長は180cm近くあり、ロングの金髪を後ろで束ねている。ボクサーでも当てるのが困難なほどのスピードを活かした喧嘩スタイルで、相手が素手だろうと武器を持っていようと、攻撃をかわすのが上手い。チーム「狂乱鬼」との代表戦で、「フェアにいこうや」と言いながらバンテージの中に鉄芯を握り込み、さらに立会人をも買収するなど、スポーツマンシップとは無縁の立ち回りを見せる。
皆川 千紘 (みながわ ちひろ)
ボウリング場「ヤングボウル」に務める18歳の美女。全フロア主任を任されており、5代目「斬人」総長・皆川状介の妹でもある。狂命戦争で兄が命を落としたヤングボウル内で、モメ事を事前に止めることをライフワークとしている。狂命戦争での最大の被害者の1人でもあり、この場所での喧嘩御法度の象徴的存在として皆に知られている。 皆川千紘本人に何かあった場合は「斬人」が100%動くため、他のチームに何かされる心配はない。肝が座っており、モメ事を止めるためなら、初対面の井口達也の顔も平気で殴り、丹沢敦司を相手に説教もする。安倍要を見舞いに行った際に井口と偶然会い、初対面で殴った時の時の話をするうちに、井口に惹かれるようになる。 のちに女友達2人を連れて井口の目利きをしてもらうために、焼肉屋「三塁」に顔を出す。そこで2人には井口が「元カレに似ている」と評される。
石戸 (いしど)
井口達也の保護司の中年男性。保護委託中は月に一度、井口の生活の報告を受けている。多くの若者を見てきた経験から、井口はまた問題を起こし、少年院に戻ると確信している。生活安全課の萩原の警察時代の先輩でもあり、井口が傷害で任意同行させられた際にも、逮捕までいくと踏んでいた。だが、安倍要の機転により釈放されたので苛立ちを覚えている。
集団・組織
斬人 (きりひと)
西千葉を拠点としたかなりの勢力を誇る暴走族。丹沢敦司が総長を務めている。現在は7代目であり、5代目の時代は狂命戦争の原因であり、中心だった。6代目から7代目に世代交代する際に、不良業界でのタブーを犯しているため、上の世代からは快く思われていない。(有)丹沢解体所を集会場所にしており、7代目現在の構成員は約90名で、親衛隊、特攻隊、遊撃隊、別動隊という部隊編成となっている。 また、各隊長である幹部連や総長、副総長の戦闘力は異常に高い。若手にも中堅クラスの暴走族総長や副総長と渡り合える実力を有する者もおり、猛者ぞろいのチームである。「身内には手を出さない」という7代目独自のルールがあり、これを破った者には丹沢より、本人が一番嫌がることをペナルティとして課せられる。
爆羅漢 (ばくらかん)
流山を拠点とする暴走族。先代までは走りが中心のチームで、暴走族「斬人」とも友好関係にあった。世代交代し、下原一雅が8代目総長になってからは他のチームを潰して吸収し、何でもありの凶悪な愚連隊へと姿を変えた。「ゲバラ三兄弟」と呼ばれてチーム内外から恐れられている一雅、下原浩二、下原賢三の三兄弟を中心とし、西千葉に拠点を作るために「斬人」に抗争を仕掛けていく。
狂乱鬼 (きょうらんき)
6代目「斬人」幹部連を中心に結成されたチーム。弦巻良樹を頭としている。もともと暴走族「阿修羅」でNo.2を務めていた三浦佑也も、現在は「狂乱鬼」で副総長を務めている。7代目である後輩たちから「斬人」を取り戻すことを目的としており、6代目「斬人」幹部連が逮捕された直後から楽崎海が地下に潜って準備を進め、幹部連が少年院を出院後すぐにチーム結成に至った。 千葉に400か所以上あるといわれる違法ヤードの1つを根城にしており、アジトの特定は困難である。他のチームを吸収し、短期間で7代目「斬人」と並ぶまでに成長した。楽崎の集会の開き方やイベントの演出などで、弦巻のカリスマ性が最大限に引き出され、吸収されたチームのメンバーも納得する形で「狂乱鬼」に協力している。
名無死 (ななし)
暴走族「爆羅漢」解散後、下原賢三が立ち上げたチーム。「アウトロー専門の何でも屋」というスタンスで、金さえもらえれば何でも請け負う。喧嘩、武器や単車の調達、情報提供、ボディガードから死体の処理まで、手掛ける仕事は多岐にわたる。現在はチーム「狂乱鬼」に雇われており、抗争の矢面には立たないが、裏で暗躍している。
場所
西千葉 (にしちば)
多くの暴走族が拠点を持つ地域。「斬人」「阿修羅」「愚狼」「SID」という四大チームが幅を利かせ、その下の暴走族として「爆神蜘」などの中堅規模のチームが群雄割拠している。四大チームは「不戦協定」を結んでいるが、世代が進むにつれて協定が守られなくなりつつあり、現在は微妙な勢力バランスとなっている。狂命戦争に代表される悲惨な抗争が過去に多数起こっており、チームや世代を超えた不文律としてのローカルルールがいくつか存在する。 その中の1つとして「ヤングボウルの敷地内でのモメ事禁止」などがあり、地元の不良は当然のこととしてルールを守っているが、他所から来た者には特異なことと見られることもある。四大チームの中では「愚狼」が最大規模で、構成員は250人といわれている。 周辺地域では最大規模の街であるため、近隣の地域から西千葉の薬・金・女といった裏利権を狙って抗争を仕掛けられることもしばしばある。
ヤングボウル
「喧嘩御法度」が絶対ルールのボウリング場。雑多なジャンルの不良たちが集まる場所でありながら、先輩たちから受け継がれてきたこのルールは、地元の者には当然のこととして受け入れられている。狂命戦争で皆川状介が命を落とした場所であり、彼の妹の皆川千紘が全フロア主任を務めている。この場所でモメ事を起こした者は、チーム所属ならチームから、無所属なら全員から「ヤキ入れ」の罰が課せられる。
(有)丹沢解体所 (ゆうたんざわかいたいじょ)
暴走族「斬人」幹部の集会場所となっている工場。(株)丹沢金属の敷地内にある子会社のようなもので、敷地面積は2953㎡の中規模工場。セキュリティも万全で、スクラップ置き場が迷路状になっている。加えて「斬人」メンバーをアルバイトとして雇い、常に数名を警備に当たらせている。丹沢敦司の鉄壁の要塞である。丹沢は抗争中などはここに潜り、作戦の指揮を執ることが多い。 そのため、「斬人」と抗争する際は、この場所から丹沢を引きずり出す必要があるが、その任務は困難を極める。なお、看板には「(有)丹沢解体所」と書かれているが、楽崎海からは「(有)丹沢スクラップ」と称されている。
三塁
井口達也の母方の叔母夫婦が経営する焼肉店。保護委託中の井口は、店の裏手にある離れに居を構えている。暴走族「斬人」は昔から店の常連で、特に安倍要は1人でも食事をしに来るほど顔なじみ。井口の叔父にあたる、いかにも職人という感じの無口な男性が社長を務めている。「斬人」がバーベキューをする時などは、いい肉を安く卸してあげている。
イベント・出来事
狂命戦争 (きょうめいせんそう)
西千葉で勃発した四大暴走族の抗争事件。重軽傷者約80人、死者11人、行方不明者48人、という大きな被害を出した最大最悪の抗争。この大抗争を引き起こした張本人が、皆川千紘の兄であり5代目「斬人」総長の皆川状介。状介がボウリング場「ヤングボウル」にて命を落としたことにより、抗争が集結した。抗争の内容は刃物を使った刺し喧嘩がメインで、奇襲・襲撃・拉致監禁と、何でもありの悲惨なものだった。 誰もが状介を止めなければいけないと考えていた中、それを実行に移したのが6代目「斬人」総長弦巻良樹であり、その火種は世代を超えて未だに燻っている。この事件がもとで四大チームの不戦協定が結ばれ、西千葉での微妙なバランスが成り立つこととなった。
クレジット
- 原作
書誌情報
OUT 26巻 秋田書店〈ヤングチャンピオン・コミックス〉
第1巻
(2012-11-08発行、 978-4253151160)
第23巻
(2022-10-20発行、 978-4253305037)
第24巻
(2023-05-18発行、 978-4253305044)
第25巻
(2023-10-19発行、 978-4253305051)
第26巻
(2024-06-19発行、 978-4253305068)