ロシア革命前夜の帝政ロシアで起きた強盗殺人事件。犯人であるラスコルニコフは、自分を、善悪を超越した天才であると信じていたが、やがて、否定したはずの罪の意識に追い詰められていく。作者の愛読書でもあるドストエフスキーの『罪と罰』を翻案し、子ども向けに書き下ろした大阪時代の最後となった作品。冒頭11ページに渡る同一アングルによる階段のシーンは、カメラの長回しを思わせ、終盤近く、主人公が追い詰められる地下水道は、同年公開のイギリス映画『第三の男』の印象的なシーンであり、全体にきわめて映画的。題材の選定から人物の心理描写まで当時としてはかなり野心的で、若き日の作者の情熱が感じられる作品である。