池袋を舞台に、一匹狼の凄腕鍵師の生き様を描いたヒューマンストーリー。ヤクザやギャングから腐女子まで、雑多な人々と文化が蠢くカオスな街・池袋。主人公・ロックこと六田錠二は、その片隅にある小さな鍵屋「六田ロックサービス」を経営している。ひょんなことから出会った家出娘・マコトと共に店を切り盛りしているが、彼の元にはさまざまな客が駆け込んでくる。ロックの正体は、どんな鍵でも瞬時に開けてしまう「ゴッドハンド」の異名を持つ凄腕鍵師だった。
ロックの元を訪れるのは、池袋を牛耳るヤクザ「日文組」から街金の社長、マル暴担当の女性刑事まで、曰く付きの人物ばかりだ。どんな強固な金庫でも僅かな「蠢動音」を聞き分け、瞬く間に解錠してしまうなど、実力は折り紙付きである。また、彼が開けるのは家や金庫の鍵だけでなく、指紋認証の扉やタッチパネル式の鍵のからくりも瞬時に見抜き、犯罪者を炙り出す能力にも長けている。どんな依頼にも怯まず、時には危険な場所に忍び込んで探偵稼業にも精を出すなど、お人好しな一面も面白い。難度の高い依頼はヤクザであっても法外な金額をふっかける強かさも痛快だ。己の美意識と流儀をもってクールに仕事をこなす彼にマコトも惚れているようだが、彼の方は全く気がないのもまた一興である。
人々の心に巣食う「魔」を封じる「枢(くる)り屋」の活躍を描いた江戸アクション奇譚。時は江戸時代、街を賑わせる足占の美女芸人・お琴(きん)の元に血相を変えた男が現れる。「西田屋の伊兵衛」と名乗る男は、江戸一番の錠前師を求め、その居場所を彼女が知っていると聞いてやってきたのだ。お琴は旧知の錠前師・錠之介を引き合わせる。伊兵衛曰く、留守中に強盗に入られ傷を負った妻が蔵に閉じ込められてしまったとのこと。錠之介は解錠の依頼を引き受けるが、妙な違和感をおぼえていた。
蔵の錠を開けることに成功する錠之介だが、その背後には豹変した伊兵衛がいた。実は蔵に閉じ込められ息絶えていたのは本物の伊兵衛で、男の正体は魔が取り憑いた「百化けの梶六」だったのだ。本性を現した梶六に錠之介は自前の錠前に魔を封印する「枢り」を行い、彼の魂を封じ込める。さらに錠之介は蔵の床下から伊兵衛の妻を救い出し、夫の最後の「情」を知った妻は涙するのであった。その後も錠之介は、江戸中の人々の闇とそれを喰らう魔と対峙し闘ってゆく。本作は、どんな善人であっても一瞬で闇に取り込まれてしまう恐ろしさがリアルに描かれている。また、「錠」を媒介とした人々のさまざまな想いが交錯するヒューマンストーリーとしても読みごたえたっぷりだ。
人の心の奥底に眠る「扉」を開く鍵師を描いたファンタジーホラー。都会の片隅にあるどこか不思議な佇まいの「鍵屋」。そんな鍵屋で昔ながらの方法で鍵作りに精を出す「鍵師」には、家の扉や金庫の扉をはじめ開けられない扉はないという。そんな彼を訪ねて悪友の「悪魔」がやってくるが、「誰かが死ぬにおいがする」と物騒なことを言い出す。その直後に店を訪れたのは、地味な銀行員の女性・柏木裕穂(ゆうほ)だった。裕穂は鍵師に「心の扉」の鍵を所望する。
裕穂は少し前まで男性との交際経験がないような地味な女性であった。お見合いパーティーで偶然出会ったモデルの大学生・藤木克海に告白され付き合うことになるが、彼の言動に不信感を抱いていた。鍵師は、藤木の本心を知りたいとの裕穂の依頼を引き受けるが、本心を隠していたのは彼女の方であった。手荒な方法で裕穂の心の鍵を開いたところ、思わぬ本音が零れ悲劇的な結末に。彼女の魂は、悪魔の餌となるのであった。本作は、歪んだ友情にからめとられる女子高生や、ダイエットで美貌を保つも過去のコンプレックスに悩むモテ女、売れないミュージシャンに貢ぐ女子など、さまざまな「寂しさ」を抱えた女性が多数登場する。鍵師に心を丸裸にされたそのさまは醜くもあり、人間の闇を垣間見たような気分にさせられる作品だ。
渋谷の街を舞台に、天才高校生鍵師がさまざまな事件に巻き込まれるアクションコメディ。主人公・サルこと猿丸耶太郎(やたろう)はスケベなのがたまにキズの、やんちゃな高校生だ。不在がちな両親に代わって鍵屋「猿丸ロックサービス」の店頭に立つが、暇が祟って悪友・山本健児とエロ話で盛り上がる毎日である。そんなサルの元に、とある解錠依頼が舞い込む。2009年にテレビドラマ化、2010年に実写映画化。続編に『猿ロック REBOOT』がある。
サルを呼び出したのは、コワモテのヤクザであった。ヤクザの交際相手の部屋の鍵をサルは持ち前のピッキング技術で開錠し、無事に依頼を遂行するが男の目的は別のところにあった。ある日、サルと山本がヤクザに再び呼び出されると、目の前に現れたのは憧れのアイドル・ユッキーこと福音由紀子だった。元カレがAV会社に売りつけた自分のAVのマスターテープを取り戻して欲しいとの依頼にショックを受けるも、褒美はユッキーの身体と言われたサルたちは、嬉々として潜入捜査に乗り出す。「オレに開けられないもんはない」と豪語する彼を頼るのは、ヤクザやチーマー集団から地元の警察官までクセ者だらけだ。腕は確かだが、お人よしゆえに危険な事件に巻き込まれるサルを通して「渋谷のリアル」を窺い知ることができるだろう。
マンモス団地を舞台に、少年と魔女が織りなす「おねショタ」コメディ。主人公・尾崎はる太は団地に住む鍵屋の息子だ。副業が多忙な父親に代わり家業を手伝っているが、ピッキングの腕は父よりも優っている。この日もはる太は仕事でとある団地の一室を訪れるが、出てきたのはエプロン姿の女性だった。招かれるままに部屋に入るが、そこは足の踏み場もないほど荒れ果てていた。怯む彼を前に、女性は突然布団叩きで部屋の壁を叩き割る。
女性が壁を破壊すると、「非常口」と書かれた扉が現れる。はる太は扉のシリンダー錠を難なく解錠し中に入るが、そこは巨大ムカデのような魔物が巣食う異空間であった。女性はおもむろに自らのスカートをたくし上げ、南京錠がぶら下がる股間を見せつける。彼がその鍵を開けると、なんと女性は魔女に変身し魔物を撃退するのであった。その後、はる太の元に不在がちな父の代わりに住み込みの家政婦・丸井るみねがやってくるが、るみねは団地で出会った魔女だった。偶然か必然か分からない再開に、はる太は恐れおののくのであった。本作は、るみねとの同居生活で振り回されるはる太が面白い。思春期男子特有の女難と苦悩が甘酸っぱく描かれており、ぶっ飛んだストーリーも痛快だ。