3年前に母が他界し、あまりの悲しみで引きこもってしまった父を持つ主人公の元に、中年男性の姿をした母が戻ってきたことで巻き起こる騒動を描くホームコメディ。中学3年生の山下トモは、父・吾郎、祖父・タロスケと一緒に暮らしている。母・多恵子は3年前に他界し、悲しみに暮れた吾郎は引きこもったままになっていた。このままではいけないと、ある雨の降る日にトモは吾郎に出てくるように促すが、吾郎は多恵子の元へ行くと不穏な言葉を漏らしていた。焦るトモの前に、雨に濡れ小太りで生え際も後退した中年男性が現れる。
亡くなった人が何らかの形で帰ってくるという話はよくあるが、大体は子どもや動物など、新しく生まれた命に宿るという形が多い。多恵子は何の因果なのか、おっさんの姿で帰ってきた。紛れもなくおっさんである。頭髪は薄く、皮膚は張りがなく脂ぎっており、皺だらけ。暑くもないのにうっすら汗をかき、腹回りはたるんでいる。どこからどう見ても立派な中年男性なのだが、中身は可憐な人妻である。多恵子は可愛らしい言動をとるうえ、吾郎とはラブラブな夫婦だった。自然と甘いやり取りが多くなるのだが、視覚的には2人とも中年男性なので、最初はトモだけでなく読者も引き気味になることであろう。しかし、多恵子の精神が外見に表れるのか、リアル中年男性が徐々にマスコットのように可愛らしくなってしまうのだ。吾郎はおっさんの姿をした多恵子を深い愛で受け入れ、見慣れた外見を可愛いと感じるようになっていく。外見がすべてではない。重要なのはやはり中身なのだ。
幼少期の反動からカワイイものが大好きになってしまった40歳の主人公が、会社の部下や同居中の甥に隠れながら趣味を満喫していく日常コメディ。40歳の小路三貴(おじみつたか)は、幼少期に男らしくあれと育てられた反動から、可愛らしいキャラクターが大好き。しかし、グッズを持っていることをからかわれた経験から、誰にも言わずひた隠しにしてきた。趣味を隠していたことがきっかけで妻と離婚し、一人暮らしでカワイイものに囲まれる生活を謳歌していた三貴だったが、大学生の甥との同居が始まり再び趣味を隠す日々が始まってしまう。
キャラクターはカワイイものである。大きな瞳に二頭身のボディ。何らかの動物を模していることもあるが、丸かったりむっちりとしていたりと、独特の愛らしさがある。キャラクター大国の日本において、キャラクターに触れずにいることの方が難しいだろう。それゆえに、中年になって突然どハマりすることだって、ないとは言い切れない。三貴は幼少期から生粋のカワイイキャラ好きだが、趣味を揶揄された経験から誰にも言えないでいる。確かに、大人の男性とカワイイものは近しいとは言えないし、男のくせにダサいという考えもある。誰しも自身の好きなものを否定されるのは辛い。誰にも言えなくなってしまったというのは、無理からぬことかもしれない。しかし、カワイイものはカワイイのだ。ひた隠しにし、離婚までしてしまった三貴だが、日々は十分充実しているように見える。彼が誰の目も気にせず、思う存分趣味を堪能できる日が来ることを、願わずにはいられない。
暴力団の若手組員3人が、失敗を取り戻すために性転換と全身整形をして地下アイドルになり、本人たちの想像以上に人気者になっていってしまう極道アイドルコメディ。暴力団、犬金(いぬがね)組の若手組員の山本健太郎、立花リョウ、杉原和彦は大きな失敗をしてしまい、命の危機を迎えていた。組長、犬金鬼万次郎(いぬがねきまんじろう)に呼び出された3人は、アイドルは儲かるという発想から、足や臓器を失くすか性転換してアイドルになるか、究極の選択を迫られてしまう。2018年テレビアニメ化、2019年にテレビドラマ化および実写映画化。
美しい男性というのは、現実に存在する。存在はするものの、体つきが細かったり、顔立ちが女性的だったりというタイプが多いだろう。だが犬金組の3人は、骨格はがっしりしているし、顔も角ばっているので、女性らしい線の柔らかさは一切感じられない。それが手術で可憐なアイドルになってしまうのだから、執刀医は相当腕が良かったのだろう。もはや男だったころの面影は、舞台裏での言動に残るのみだ。アイドルは儲かる、という発想から若手3人組が餌食になってしまったが、3人を指揮しているのは、組長だ。お金目当てで始めたことだが、組長自身がアイドルプロデュースにハマっていってしまう。臓器を売る、手足を切ると散々脅しをかけていたにもかかわらず、アイドルらしいキラキラした歌詞を書いているのかと思うとギャップが酷い。実は組長自身もアイドルのキラキラした世界に憧れを抱いていたのでは、と思わされてしまう。夢のステージは、非道極まる男たちの中にだって存在するものなのだ。
とあるバーの片隅で、カワイイものが大好きなおっさんたち4人が集まり、周囲の目を気にしながらも趣味を謳歌していく秘密コメディ。路地裏にひっそりと佇むバーに、夜な夜な4人の男が集まっていた。店の女性店員が酔客に絡まれていたところを、男たちが半ば脅しながら助ける。彼らの言動は不穏だが、実はカワイイものが大好きな集まりだった。渋いバーテン、真面目な医師、極悪レスラー、強面の極道と、カワイイとは対極にある4人だったが、周囲の目を気にしながらも、ぬいぐるみや甘いお菓子等にテンションが上がるのだった。
固定されたイメージ─ステレオタイプ─は、人を苦しめることがある。例えば女子は生クリームと苺、ピンクが好きとか。枠から外れた人間は、どことなく窮屈な思いをするしかない。性別問わずそういった経験をしている人は多そうだが、特にカワイイものや甘いものが好きという男性は、趣味嗜好を口にできないことも多いだろう。そんな男性たちの極みともいえる4人のおっさんたちは、窮屈な思いに共感しカワイイ趣味を共有するために、夜な夜なバーに集まってくる。渋いバーテン紺野に、クール系の医師白澤。悪役プロレスラーだという黒崎に、極道の紫村(しむら)は職業柄絶対に口にはできないはずだ。彼らは趣味を共有するとともに、助け合ってもいる。紺野は自由にスイーツを食べに行けない仲間のためにパフェを作り、白澤はぬいぐるみの縫合をしてあげている。互いに口に出せないという環境がわかるからこそ、助け合うことができるのだろう。カワイイもの好きが集まる男子会、目を輝かせる姿に心がほっこりとしてくる。
マシュマロを愛する温厚な中年会社員と、彼に恋する同僚女性社員の日常を描くほのぼのラブコメディ。日下幅広(ひげはばひろ)はマシュマロが大好きな中年サラリーマン。ぽっこりとしたお腹のメタボ体型で、口髭を生やしていることから「ヒゲさん」と呼ばれている。ヒゲさんには年下のクールな同僚、若林伊織(わかばやしいおり)がいた。彼女はヒゲさんに想いを寄せており、マシュマロを使ってヒゲさんの気を引こうとする。しかし、仲良くはなるものの恋心は伝わらないのだった。2016年1月にテレビアニメ化。
ヒゲさんはマシュマロ大好きおじさんである。温厚な性格で、お腹がぽよっとしたメタボ体型。マシュマロが好きなせいなのか、性格も体型もマシュマロのように柔らかい。そんなヒゲさんに想いを寄せている伊織。そんな彼女がヒゲさんの気を引くための手段が、好物のマシュマロである。ヒゲさんが部下となった社長の弟の扱いにモヤモヤしているとき、ストレスの度合いを判別する方法として使用したのが、マシュマロだった。マシュマロの食べ方に違いが出るのかと驚かされるが、そこは好意からくる観察眼があるからこそわかるのだろう。ただ、ヒゲさんのマシュマロの食べ方は、大型動物めいていてちょっと可愛らしい。何かと理由を付けて、口にマシュマロを放り込む気持ちも理解できてしまう。温厚で優しいヒゲさんは、会社でも慕われる存在だ。外見も相まって、マスコットキャラクターのように見える。会社に一人いてほしい癒し系。これぞカワイイおじさんと言える存在だ。