『おおきく振りかぶって』が2018年9月に舞台化！21 Pt.

「スポ根」要素ゼロの高校野球漫画が2度目の舞台化！そこで、多くの漫画賞を受賞した「おお振り」の作者・ひぐちアサのコミックスをまとめてお届け！ 舞台「おおきく振りかぶって 夏の大会編」は2018年9月公演。

『おおきく振りかぶって』で特筆すべきは、主人公・三橋廉の「弱気で卑屈な性格」だろう。投手への執着が人一倍強い「マウンドを譲れないヘボピッチャー」。誰も自分の球を受けてくれない暗黒の中学時代に自主練で獲得した9分割の制球力は、西浦高校の女監督・百枝まりあと、捕手・阿部の目に止まる。阿部もまた、自分勝手な投手に振り回されて心に傷を負った過去を持つ。少し歪な三橋と阿部のバッテリーを軸にスタートをきった西浦高校野球部は、甲子園を目指して走っていく。
高校球児の日常生活や練習、試合すべての心理描写が非常に細かいため、ストーリーのテンポはゆるやか。特に、試合では一球ごとの読み合いが丁寧に描写されるなど、読み応えは抜群。

また、コミックス3巻には、中学時代に阿部とバッテリーを組んでいた「自分勝手な投手」こと榛名元希を描いた『基本のキホン！』が収録されている。才能を持つものと持たざる者、それぞれの苦悩と成長が細やかに描き出された作品。

兄の徹は17歳。妹の恵は16歳。義理の父親になったばかりのケンジは、26歳の小学校教師。とても父親とは思えない歳の近い男性との暮らしに、兄妹が戸惑うのは当たり前のこと。それでも妹の恵はケンジと仲良くしたいと、自然体で接するよう努める。家では明るく朗らかに振る舞うケンジと次第に打ち解けていく恵の姿を見て、徹は焦燥感を募らせていく。そして、立派な大人になるまで恵を養わなければならないという思いと、ケンジの世話になりたくないという気持ちが混ざり、高校を辞めようとまで思い詰めてしまう。徹の張りつめた気持ちが限界に達した時、母という軸を亡くした家族は初めて本音をぶつけ合う───。

マジメに取り組む人がいると嬉しい、と自分を肯定してくれた弥恵に惹かれた弘隆は、奔放な言動に振り回されながらも彼女を受け止めようと精一杯足掻き、その中で自分を見つめなおしていく。しかし作品が評価されない状況が続いた弥恵は、次第に鋭い言葉の刃で弘隆の心を抉るようになっていく。
テニスしか知らないまま大学に進んだ弘隆の姿は、荒んでいた弥恵の目にとてつもなくピュアに映ったに違いない。そして惹かれ、一時の癒しを得る。けれど、弥恵の心の傷は血を流したまま塞がらない。
「今あんたがいいトコにいるから言えるセリフだよね。目の前暗くなればぶり返すよ。思い出の善し悪しって現状の満足度で決まるからね」
弥恵はこう言い放ち、弘隆はそんな彼女の思い出を良いものに変えたいと願うが―――。
登場人物すべての言葉が、読者の心を容赦なく暴いていく。読むと胸の奥に眠っている、認識したことのないような自分の姿を見つけられるかもしれない。