魔物に取り憑かれている青年と女性が織り成す、現代ダークラブファンタジー。主人公は、幼い頃に憧れを抱いていた雪比古坊ちゃまを慕い続けている使用人の娘・千鶴だ。大学を卒業し、家政婦として屋敷に戻ってくることになる。幼少期から虚弱体質だった雪比古は、屋敷でひとり静かに暮らしていた。彼女の帰還を喜び、部屋を好みのインテリアにしておくなど、雪比古の溺愛ぶりに戸惑いながらも受け入れる千鶴は、病弱な雪比古に魔物が取り憑いていることを知る。
舞台は、山かげの坂の途中にある洋館だ。うっそうと繁る木々に囲まれたそこは、近所の人たちから黒蔦屋敷と呼ばれていた。レンガ造りの瀟洒な洋館で、外からは、中の様子は一切うかがい知れない。屋敷の内部は、タイルや窓枠などの装飾も凝っており、明治頃の洋館を彷彿とさせるような和モダンといった雰囲気がある。絨毯張りらしき階段も見え、洋間が多いが、屋敷の主である雪比古が使用している部屋は和室だ。近所の人からは、「怪しげな声が聞こえてくる」と言われたり、廃墟扱いされたりするなど、得体のしれない場所という認識になっている黒蔦屋敷。美貌の雪比古がひっそりと住む理由はいったい何なのか?屋敷をぐるりと囲む木々や蔦が、怪しげな雰囲気を醸し出すことに一役買っている。
実家がゴミ屋敷になっていたという作者・高嶋あがさの実体験を描いたコミックエッセイ。家がゴミであふれてしまった経緯や、作者一家の過去、姉弟の成育歴が語られている。ゴミ屋敷対処方法といった行政関係の情報も盛り込まれているが、メインは家族ドラマ。ゴミ屋敷の主である母親は、家事や育児を半ば放棄してきた、いわゆる毒親。母親と家族の関係は、竹書房『母を片づけたい〜汚屋敷で育った私の自分育て直し〜』により詳しく描かれているが、本作も、毒親から脱却しようと戦う子どもの実録漫画として読むこともできる。
本作に登場するゴミ屋敷の主は母親だ。どのようなゴミにあふれ、どの程度汚いのかも克明に描写されているが、文字通りとにかく汚い。床がべたつき、ゴミ袋が散乱しているのはもちろんのこと、液状化した野菜や鳥の死骸もそこら辺に放置されている。物が捨てられないどころかゴミを拾ってくるなど、「汚部屋あるある」が全て網羅されている状況だ。そこに平然と住んでいる母親・みつ子が、常識では考えられないことを次々とやらかしていく姿は、ホラー作品のよう。作者をはじめとした家族が、状況を冷静に分析し、ゴミや母親と戦う姿が非常に頼もしく映る。
洋館に閉じ込められた主人公が、脱出を試みていくホラーサスペンス。2014年に饗庭淵が発表した同名フリーゲームが原作で、2014年にはノベライズ版も発表された。屋敷からの脱出や謎解きの要素もあるが、恋愛要素も強い。漫画版の基本的な流れはゲームと同じで、先輩の持つ、黒セーラー服・ロングの黒髪・黒タイツ&美脚というフェティシズムが、全面的に押し出された内容になっている。
好条件の洋館清掃のアルバイトにつられた主人公・怜一が、先輩である美少女と怪しげな洋館に閉じ込められてしまう本作。「黒先輩」と呼ばれる、黒髪ロングの先輩も怪しいが、舞台となる洋館も随分と怪しい。屋敷は、住宅街に突如現れる。門には装飾が施され、広々とした敷地には銅像や噴水が。植え込みや芝生は丁寧に整理されているが、人が生活している空気は薄い。シャンデリアや燭台が照明となっている館内も怪しげな雰囲気たっぷりで、人外の者でも住んでいるのではという想像すらかきたてられる。ライトな性的要素が多く、怜一に対する行動も大胆だが、表情の変化には乏しい黒先輩の持つ妖しげな魅力を、屋敷が一層引き立てていると言えそうだ。
突然38匹の猫と暮らすことになった男のハートフルストーリー。デビュー作が賞を獲得し、数作は順調に書いてきた小説家・タカナシは、スランプで3年間何も書くことができなくなり、焦りを感じていた。そんな時、祖母が亡くなり、彼女が世話していた38匹の猫が住む猫屋敷を相続する。タカナシ家の隣のマンションに引っ越してきた小学生・莉理香や、猫たちと交流を深めていく日常を中心に描かれる本作。高齢者とペットの問題など、社会問題にも触れている。
「猫屋敷」というフレーズには、猫好きにはたまらない魅力が詰まっている。右を見ても左を見ても猫。猫あるあるネタも満載だが、猫が苦手な世話人たるタカナシの心は一向に弾まない。慣れない猫たちの世話に追われ、手はいつも傷だらけだ。彼の祖母が住んでいた家は、純和風でとても広い。襖を開ければ続きになる広い和室に、沓脱石も設置されている日当たりの良い縁側。瓦屋根はどっしりとして存在感があり、縁の下には、猫たちが隠れるスペースが十分にある。庭もほどよくうっそうとしており、まさに昭和の大きな家のイメージそのままだ。縁側でごろりと寝転ぶ猫たちの姿や、猫好きではないと言いながらも、ねこじゃらしを使って全力で遊ぶタカナシの姿にほっこりと心が温められる。
冴えない中年サラリーマンと高校生が、機械の身体を手に入れることから始まるSFヒューマンドラマ。年齢よりも老けて見えるサラリーマン・犬屋敷壱郎は、強靭な身体と治癒力を世のために役立て、正義を成していく。そんな時、地球に巨大な隕石が接近していることが分かる。2017年にテレビアニメ化され、2018年に実写映画が公開された。
タイトルの『いぬやしき』は、主人公・壱郎の名字でもある。ローンを嫌う壱郎は、パート勤めをしている妻と資金をコツコツと貯めて、58歳にしてマイホームを手に入れた。そんな犬屋敷家は、一般的な洋風住宅。フローリングのリビングに対面式キッチン。高校生と中学生の子どもたちには個室が用意されており、一家が住むには何ら不自由を感じさせない。しかし、隣が大豪邸というのが問題で、自分たちの新しい家をみすぼらしく感じてしまう家族たち。自分で建てた家なのに、壱郎の居場所は家庭内にはなく、飼い犬のはな子だけが心のよりどころだ。真新しいのにどこか寒々しい犬屋敷家。宇宙規模のピンチに向き合うことになる壱郎の元に、再び家族らしい温かさが戻ってくる瞬間を見届けたい。