ジャンプの人気漫画家の短編集を読もう！オススメ５選81 Pt.

本作には4作品収録されているが、中でも注目すべきは作者が高校時代に描いたという自由な発想とユーモアの中に研ぎ澄まされたセンスが光る『庭には二羽ニワトリがいた。』だ。人間を好物とする宇宙人に侵略された地球の学校で生き残った男女二人の運命が描かれる。生き残りの地球人のユウトとアミは、「鶏」の被り物を被ることで生きながらえている。しかし、鶏を食べる異色の宇宙人が現れ、人間を救おうとする宇宙人・陽平と共に学校を脱出。逃げている最中にユウトの正体が明かされ、衝撃の展開を迎えることになる。悪魔を宿すデビルハンターが活躍する『チェンソーマン』の生みの親である藤本タツキの才能と勢いは、初期作品を集めた本作の中でも炸裂している。

藤本タツキの読者を惹きつける構成力や展開の巧みさは、初期の読み切り作品においても発揮されている。『人魚ラプソディ』では、少年と人魚による異種族同士の切ない恋愛模様を描いたラブストーリーだ。人魚は人を喰らう恐ろしい生き物だと言われていたが、主人公のトシヒデは、亡くなった人魚の母親についてほとんど記憶がなく、人魚に興味を抱いていた。海には人魚が作ったというピアノがあり、普通の人間より長く海中に留まることができるトシヒデは、時折ピアノを奏でていた。ある日、ツンデレな人魚の少女・シジュと出会い、彼女にピアノを教える内に、互いに心惹かれるようになる。しかし、心を通わせていく最中にとある悲劇が襲い、二人の関係性が変わっていく。

人間と鬼の熾烈な争いを描いた『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴の初期作品を集めた本作には、『鬼滅の刃』のプロトタイプである『過狩り狩り』も収録されている。作者いわく「和風ドラキュラ」をモチーフにした作品だ。作中には珠世と愈史郎（ゆしろう）も登場するが、主人公は片腕を欠損し、視力もない鬼狩り剣士のナガレ。ハンデを背負いながらも鬼を瞬殺する強さは本物だ。他の収録作品においても、虫を扱う特殊な殺し屋兄弟、他人の「心情」が視える心優しい浄化師、訳ありの解術屋など登場人物は不思議な魅力と圧倒的な存在感を放っている。シビアな展開の中でもユーモアや粋な台詞回しのセンスが光り、短編集とはいえ、独特な作者の世界観に引き込まれることだろう。

白井カイウと出水ぽすかの両者が初めてタッグを組んだ作品『ポピィの願い』は、引きこもりの科学者・タカシと彼に作られた人工知能のポピィの心温まる友情物語だ。最初はトースターだったポピィが「人型」になりたいと願った本当の理由や健気さは胸を熱くさせる。『DC3』では狙われやすい少女を護る少年型護衛ロボットのアクションバトルがさく裂し、ホラーテイストの『心霊写真師 鴻野三郎』では、心霊写真専門のカメラマンの鴻野（こうの）が、罪悪感を抱えている少年と霊を救うために活躍する。どの作品も驚きの展開が待ち受けており、雰囲気の異なる様々なテイストの短編が詰め込まれた本作は、まるでおもちゃ箱のようなドキドキ感が楽しめる。

『Dr.STONE』は原作者・稲垣理一郎と共に作り上げたものだが、本作はBoichiのオリジナルのSF短編集だ。『HOTEL -SINCE A.D.2079-』の舞台となるのは、気温上昇により生物が住めなくなった地球。人間以外のDNAを託され、「ホテル」と呼ばれる「塔」の人工知能「ルイ」が語り部だ。彼は人ではないものの、安野博士と、そのパートナーで「ルイ」の名付け親でもあるキラ・ナイトリを両親だと認識し、愛情に近いものを抱いている。リアリティのある綿密な描写も作者の大きな魅力のひとつだが、本作でも表情やしわ、細かな描写により過ぎ行く年月や滲み出る想い、過酷な状況が伝わってくる。作者が紡ぎ出すスケールの大きなSFの世界を堪能して欲しい。