辛島が無口な理由とは
学校で、辛島世津のことをよく知る人は少ない。「とても無口でよく早退する」「話し方に変な癖がある」「授業中、一度もリーディングで当てられない」などの噂話ばかりで、正体がつかめない少年である。じつは、辛島が無口な理由は、彼の特殊な「声」にあった。彼の「声」は、人間にとってすごく気持ちのよい音であり、相手の脳内に麻薬のようなものを作ってしまう。そのため、辛島が命令や願望を口にするだけで、相手に強い暗示をかけてしまうのだ。辛島の「声」は、相手を思いどおりに操ったり、隠し事を白状させたりできるほか、血を花びらに見せる、実際とは違う風景を見せるといったことも可能である。辛島は、そんな特殊能力を使い、警察の特殊部隊に協力している。
辛島と警察の特殊部隊の関係
辛島が特殊部隊に協力するようになったきっかけは、小学校6年生の時に巻き込まれた「アキツ百貨ビル強盗人質事件」である。事件に驚いて発した辛島の言葉で、犯人や人質、駆けつけた警官の多くが意識を失い、警察に「声」のことが知られたのだ。その後、中学生になった辛島は、特殊部隊の要請に応じ、本格的に活動を開始するようになる。そして、「声」のせいで孤独だった辛島は、自分を必要としてくれる特殊警察の仕事にはまっていった。しかし、警察は辛島に協力を求める一方、その能力を危険視しており、特殊部隊の坂本班長の息子・健太郎を、監視役として中学に潜入させている。
胸の奥に咲いた赤い花の正体
辛島の声は危険をはらんでいる。意図しない言葉が他人を傷つけるかも知れないし、感情的になって相手にひどい言葉を吐いてしまうかも知れない。そんな思いから、辛島は特別な存在をつくろうとしなかった。しかし、危険を承知で側にいたいという国府佐和と出会い、自分のことを知ってほしいと思うようになる。一方国府は、辛島の声が胸の奥に赤い花を咲かせたことがきっかけで、彼に興味を持つ。はじめはそれが、辛島の力のせいなのか、自分の本心なのかわからなかった。しかし、辛島と接するうちに、その声が好きなのは「好きな人」の声だからであり、彼への興味は恋なのだと確信するようになる。
登場人物・キャラクター
国府 佐和 (こくぶ さわ)
おとなしい性格だが意外と行動派の少女。初登場時は中学3年生。後に高校に進学する。同級生・辛島世津の笑い声に惹かれて、ひそかに恋心を抱く。辛島の誕生日に告白しようとしたところ、辛島がビルに侵入する姿を目撃。そのあとを追ったところ、辛島が特殊能力の持ち主で、警察に協力していることを知る。以後、彼への思いを募らせていき、危険を承知で辛島に近づく。
辛島 世津 (からしま せつ)
国府佐和の同級生で、銀髪の少年。初登場時は中学3年生。後に高校に進学する。相手に強い暗示をかけることができる特殊な声の持ち主。そのため、普段は無口で、必要なときは鼻を押さえて話すようにしている。ある事件がきっかけで、特殊部隊・0班の川口誠示にいだされ、警察に協力するようになる。犯人逮捕の現場に行くときは狐の面を被っていることから「狐」とも呼ばれる。相手を傷つけることを恐れて、人とは距離を置いているが、国府との出会いをきっかけに、少しずつ心が変化していく。
坂本 健太郎 (さかもと けんたろう)
辛島世津、国府佐和の同級生。初登場時は中学3年生。後に高校に進学する。警察の特殊部隊員・坂本班長の息子で、辛島の監視役兼ボディガードである。中学入学以来、陰で活動していたが卒業間近になったタイミングで、辛島の前に姿を現した。少々嫌みな性格で、辛島には煙たがられている。